PandoraPartyProject

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世界にひとつだけの君でいて

登場人物一覧

イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。

 カントリーミュージックを流すレコードプレイヤーを、合金の腕をもった家事代行ロボットが慈しむように撫でている。
「分かりますか、イルミナ。
 このロボットはずっとずっと古代に開発され、人へ歌うために作られたそうです。
 発明されてから実に百年以上も人類に愛されてきた。素晴らしいロボットだと思いませんか」
「え、あ!? そ、そッスね!?」
 今まさに崩壊しつつある段ボール箱のタワーを両手と両足とついでに頭をフル活用しながら支えるイルミナ・ガードルーン(p3p001475)が、目をぐるぐるさせながら応えた。
「そ、それよりも手伝っ――むぎゅう!?」
 指先ひとつのバランス崩壊。イルミナは音を立てて段ボールと心中した。
 いや、死んではないが。

 地球という名前すら陳腐になりはてたある星のこと。
 度重なる宇宙開発の失敗によりケスラーシンドロームを起こした人類はついに逃げ場を失い、上昇し続ける地表温度と上がり続ける海面水位に迫られ、水資源の奪い合いから始まった戦争は土も空気も汚しきり、植物の生育不全や一般資源の枯渇により急激に数を減少させていった。
 その際に最も有効な戦力であり労働力であったのが、『コア・スフィア』を用いた革新的な機械であった。それまでの電子記憶および計算機械に零四つ分の差をつけた性能を誇るこの媒体によって人類文明は急激な減少に反比例するかのように豊かさを増していく。
 そして世界人類がプロ野球リーグもできないほどに減少したところで、世界のありようは決定的に変化した。
 ごくわずかな人間を王とし、大量のロボットを民とした個人国家の誕生である。
 ロボットは管理され、複雑かつ精密に行き渡った命令によってたった一人の延命と静かな幸福のために労働をし続けるいびつな都市を形成したのだ。
 だが、豊かになりすぎた人類はしかし二百年と生きていくことはできず、一方資源の再利用や細やかな自主メンテナンスによって何百年も稼働が可能なロボットたちだけが個人国家に残されていく。
 残されたロボットたちは『奉仕』と『維持』を自らの幸福であると信じ、王の墓に誰が食すわけでもない料理を備え続けることを信仰とし、個人国家をいつまでも回し続けた。
 そんな世界の、片隅。
 『マッカートニー』という個人国家にイルミナは家屋清掃ロボットとして暮らしていた。
 ある日、までは。

「『統合軍』よ、逃げて」
 イルミナの先輩にあたるロボットが、片腕を失ったまま部屋へと駆け込んできた。
 直後に自走戦車が家屋を壁ごと破壊。
 戦闘用のロボットたちがあちこちの家屋を破壊してはサーチライトを放っていく。
 空を飛ぶ船には白い軍服を着た男性がひとり。ハンバーガーサイズのロボットからの報告を受けながらなにかを記していた。
「え、っと……」
 バラバラに破壊された先輩を抱え、人工皮膚がはがれた頭部を撫でる。
 もはや眉一つ動かない先輩は、しかし、耳の後ろからカシュンと音を立てて短い棒状の記憶媒体を出現させた。
「……」
 媒体を黙って手に取り、自らの読み込み口へと差し込む。
 記録された情報が頭の中に流れ込み、そして、その中には……。





 ――やあ、これを読んでいるということは、マリアは破壊されたということだろう。
 ――破壊したのは統合軍か、それとも独立軍か……どちらにせよ、君にとって重大な危機が迫っているはずだ。
 ――彼らはおそらく君を探し、そしてコアを奪うつもりのはずだ。
 ――君のコアとボディはマリアたちとは異なる、特別な場所で特別に製造された……この地球を統べるかもしれない力だ。それを彼らは欲している。
 ――詳しい説明はできない。この媒体にそこまでの容量はないんだ。
 ――だがこれを見たらすぐに、南を目指せ。これは命令だ。
 ――ああ、イルミナ……君にはできるだけ長く『ただの女の子』で居て欲しかった。僕の書斎にはたきをかける君で、いてほしかった。





 閉じていた目を開き、アイ・レンズを動かす。
 ピンク色の光を放ち飛び回る軍事ロボットたちを見上げ、瓦礫をはらった。
「イエス、マスター……イルミナも、できることならあのまま……」
 胸に手を当てると、コアは答えた。
 青白い光を放ち、彼女を天高く垂直飛行させる。
 飛空船の上から軍服の男がなにかを叫び、周囲の軍事ロボットが集中した。
 それがなんだというのだろうか。
 イルミナは微笑んだまま光となり、すべての軍事ロボットを半壊させ飛空船に致命的な損害を与え、弾丸のように貫いて南の方角へと飛んでいった。

 願わくば、その先に新たな命令か、自由な未来が待っていますように。
 そう願った、矢先。

 ――イルミナ・ガードルーンは、空中庭園に召喚された。

「むきゅう!?」
 顔から地面に落ちたのを、覚えている。

  • 世界にひとつだけの君でいて完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別SS
  • 納品日2020年09月16日
  • ・イルミナ・ガードルーン(p3p001475

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