PandoraPartyProject

SS詳細

後には笑顔が残るから。
後には笑顔が残るから。

登場人物一覧

ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼

 町外れに現れた魔物は、楕円形の体の表面をどろどろと絶えず流動させ、そこから百を越えそうなほど多数の細長い管のようなものを生やしていた。
 暗闇で作ったような体に目などはなかったが、ずるりと二人の方に這ったことから察するに、なんらかの方法で感知しているのだろう。
「さてと。準備はいいかな、ポー」
「もちろん。行こう、ルーク!」
 地を蹴ったノースポールの背に雪のように白い翼が広がる。縦二メートルを越える魔物より高く飛び、急降下した。
「はぁぁっ!」
 数多の管がノースポールの攻撃を防ごうと、射出の勢いで放たれる。ノースポールは回避しない。
 その必要がないと、知っている。
「ポーの邪魔はさせないよ」
 ルチアーノが折り畳み式のナイフを軽く放る。くるりと空中で回転したそれは、彼の手に再び握られたとき、マスケット銃に変わっていた。
 放たれた弾丸が管をまとめて引きちぎる。魔物の体表の小波が勢いを増した。
「つめた……っ!?」
 楕円形の本体にナイフを突き立てたノースポールに、漆黒の飛沫がかかる。初夏の熱を忘れるほどの冷たさに思わず声を上げた。
「あまり距離を詰めない方がいいかもね」
「うんっ」
 冷静なルチアーノの提案に応じつつ、ノースポールはナイフを拳銃に変化させた。ちらりとルチアーノの様子を確認する。
 魔物から伸びた管がルチアーノに殺到していた。片手に拳銃を、逆の手にナイフを持つ彼は踊るようにそれを回避し、隙を突いて撃ち抜き、切り裂く。
 決してノースポールの焦燥が湧かないわけではない。助けたいと思う。だが、それ以上に信頼している。
 まだ大丈夫だ。
「私の相手は、こっち」
 一度翼を畳んで地に下り、駆ける。追いすがる管を置き去りにするように再び飛翔、狙いを定めた。
 放たれる弾丸は白く眩く、描かれる軌跡は流星のように美しい。
「――」
 一瞬だけ、銃弾を受けた魔物の体内が見えた。深淵のように真っ黒で冷たそうな体の中に、なにかがあった。
「あった!」
 恐らくあれが弱点だ。
 小さく息をついたルチアーノは左手のナイフを畳み、その手を高く上げる。抵抗を諦めたように見える彼に、全方位から管が襲いかかった。
 だがそれが届くより早く、その体が高く舞い上がる。獲物を失った管が地面を砕いた。
 彼の手をとって空を飛ぶノースポールは、ここまで迫ろうとした管を撃つ。
「体の真ん中に、石みたいなのがあったよ」
「情報にあった核かな」
「たぶん!」
 高くまで管を伸ばすのは難しいのか、地上よりも攻撃を受ける頻度は低い。
 焦れたように彼女の背後から白雪のような翼を砕こうとした管に、ルチアーノは一発多めに銃弾を叩きこんでから、今や大波を立てている楕円形の本体に黒夢を直撃させた。
 体表に穴が開くと、確かに黒鉄色の石のようなものが見える。穴はすぐに閉ざされ、石は見えなくなった。
「ポー」
「……うん」
 反対の方がいいんじゃないかな。
 言いかけた言葉をのみこんだのは、ルチアーノが繋いだ手に力をこめたからだ。ノースポールも彼の手を一度、ぎゅっと握って、離す。
「僕が相手だよ!」
 落下しながらルチアーノは拳銃をマスケット銃に変え、音を立てて走ってくる管を紙一重で破砕していく。地面が近づくにつれ、管の量が増えて勢いも増していた。
 恐怖がないわけではない。だがそれ以上に勝利を確信している。
 彼女がいるなら、負けない。
 彼が敵の気を引いている間に、ノースポールは本体に発砲する。
「やった……!」
 一発目は楕円形の体に丸い弾道を穿ち、二発目は石を砕いた。ルチアーノが怪我をする前に終わる、と喜んだのも束の間。
 魔物の体が何事もなかったように閉じる。
「なっ!?」
 反撃するように伸びてきた管を危うく回避し、さらに一発。
 石が元に戻っていることを、確認した。
「……っ」
 焦燥が冷たく背を走る。消した端から新たに生えてくる管をそれでも消滅させて、ルチアーノを見て、覚悟を決めた。
「ルーク、なにかあったらお願い!」
「い……っ、分かったよ!」
 拒否を喉の奥に無理やり押しこんで、ルチアーノはどこか痛むように顔をゆがめて、それでも引き受ける。
 ぱっと笑んだノースポールは、地に足をつけると同時に走った。表情はもう、戦場に相応しい真剣なものに変わっている。
「砕けないなら、引き剥がすだけ!」
 管はぎりぎりでかわしていく。頬を、腕を、冷たく鋭利な先端が裂くが、気にしない。
 拳銃で穴を開ける。間髪いれず、逆の手を突っこんだ。指先が石に触れる、握る。
「こ、の……っ!」
 精一杯の力で引っ張ると、石が動いた。魔物が身をよじるようにぶよぶよと動く。あと少し。
 どぷん、と顔から真冬の水源に入るような感覚があった。視界の暗さに、のまれたのだとノースポールは直感する。
 でも――平気だ。石を掴んでいること、できるだけ引き寄せること。それだけでいい。
 
「ポー!」
 悲鳴じみた声で彼女の名を呼ぶ。
 絶え間なく襲ってきていた管が急に動きをとめ、痙攣を始めた。チャンスだ、と思う余裕などない。
「しっかりするんだ! この……っ、ポーを離せ!」
 引きずりこまれていく彼女の腕を掴み、持ったままだったナイフでのたうつように身をよじる魔物を刺す。撃たなかったのは、ノースポールにあたる可能性があるためだ。
「そっちに行っちゃだめだ……!」
 黒い水は冷たく、飛沫が手にかかっただけでもぞっとする。この中にノースポールはいるのだ。
 一刻も早く助けなくては。
 ナイフすら仕舞い、ルチアーノは両手でノースポールを引っ張った。
「――」
 息絶えるように魔物が体から力を抜く。
 
 ずるりと黒い水から引き抜かれたノースポールが咳きこむ。その手にあった黒い石は、陽の光を浴びると灰になった。
「無茶をするよね、本当……」
 呼吸を整えるノースポールを抱き締め、背を撫でるルチアーノの胸に勝利の喜びはあまりなかった。自分があの役をするべきだった、という苦みが口の中に広がる。
「ルークだって、無茶してたよ。ごめんね、私がそっちをやればよかった」
 顔を上げたノースポールは、ルチアーノが瞠目していることに何度か瞬いてから、吹き出した。
「もしかして、同じこと考えてたのかな?」
「そうみたいだね」
「はー。大変だったねぇ」
「難易度の設定、間違えてるよね」
 眉根を寄せるルチアーノに明るく笑い、ノースポールは立ち上がる。
「帰ってルークの手当てしないと」
「先にポーの手当てだよ。僕より重傷だからね」
「そんなことないと思うけど」
「ある。手当と診察、しっかり受けてよ」
「じゃあルークも一緒に受けて、そのあとパフェ食べに行こう!」
 日差しはノースポールの背の方から、きらきらと射す。
 差し伸べられた白い手に、ルチアーノは降参するような笑みを淡く浮かべる。
 互いに深手は負っていない。ローレットに戻れば問題なく治療され、傷跡も残らないだろう。分かっていても、彼女が怪我をした、という現実の不味さは消えない。
 よくあること、ではすませられないのだ。
 それでもノースポールは笑っていて、この後の予定を楽し気に語ってくれる。救い、といえば大げさになるのかもしれないが、ルチアーノの心が軽くなるのは事実だった。
「そうだね。早く終わらせて、デートしようか」
「うん!」
 ほんの少し頬を赤くして満面の笑みを浮かべるノースポールの手を、ルチアーノはそっととった。

  • 後には笑顔が残るから。完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別SS
  • 難易度
  • 冒険終了日時2019年06月27日 22時20分
  • 登場人物2人

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