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月曜九時の眠り姫

登場人物一覧

レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)
蒼剣
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子

●続きのWebです
 もし、この瞬間を振り返る事があったとしても。
 ドラマはきっと後悔出来ないのだろうと――そう思う。
 いいや、違う。もし『この三年に満たない時間』を無かった事にしてくれるって神様が言ってくれたとしても。
 ドラマはその優し過ぎる『好意』を自らの手ですげなく払い除けてしまうのだ。
 麗らかな微睡に満ちた眠り姫の世界は最早無く、触れる望みがどれ程に儚いものだったとしても――

 ――シャイネン・ナハト、付き合って下さいよ。

 ――俺が『いい』なら構わないよ。

 ――……いちいち言わせないで欲しいんですけど。

 ――男も女も聞きたがるモンだろう? いちいちそういう顔する相手なら尚更さ。

 ――別にいいですけど、……面白い事言いませんよ?

 ――謹んで拝聴しよう。

 ――聖夜に男の人を誘う理由なんて他にありません。レオン君が好きだからです。デートして下さい!

 微温湯のようなやり取りの中でならレオンは何時でも優しかった。
 
 距離を詰めようとしても逃げ水のように上手くかわして、口ではあれこれ言う割に傷付く程には踏み込ませない。憧れのような恋をふわふわと続けるにはこれ程『安全な相手』はきっと居なかっただろう。
 でも、もし――そんな彼の『安全装置』を壊す一言があったとしたならば、恐らくはこれしかない。
「――本気になってよ」
 胸の奥から溜まりに溜まった澱を吐き出すように。
 ドラマは気付けば脳裏に描いた目の前のレオンと似たような台詞を呟いていた。
 違う事と言えば彼は何時でも皮肉に余裕たっぷりに、彼女の方は震える唇で青息吐息に。
 両手を彼の首に回し、背伸びをしてまるでキスを強請るかのように顔を寄せた彼女は、実際の所、今夜初めて
「本気に、なってよ――」
 もう一度繰り返せば、胸が詰まってもう涙が零れそうになった。
 白い息が目の前で弾け、掠れた声が解ければ――僅かばかりに驚きの色を見せた彼の唇が微かに動く。
(――嗚呼、ああ。聞きたくない。聞きたくない!)
 そう、聞きたくて、聞きたくない言葉はすぐそこだった。
 ドラマは自分でも信じられない位に『努力』して、この一年彼の近くに居た心算だった。彼の浮ついた言動は知れたものだったけれど、『ドラマだからこそ垣間見るもの』は当然の姿より彼女を強く刺していた。
 例えば執務室で居眠りをする彼に毛布を掛けた時。(何もないけど)遊び半分でベッドに引きずり込まれた時。
 騙すなら綺麗に騙してくれたら良かったのに、ひどい男はたまにその如才無さを呪いたくなる程の隙を見せてくれたものだ――
(ステラちゃんはいいけど。どうして、どうして……)

 ――そこで、その名前ざんげさんが零れるの?

 ――どうして利己的なレオン君が世界を救おうなんて考えたりしたの?

 ――特異運命座標ですらないのに。

 ――主役になれるはずがないのに。

 ――あなたにできることなんてひとつもないのに!

 間近の距離で息遣いが微かに香った。
 ドラマの知らない――知らなかった『おとなのおとこのひと』の空気が不安を強く掻き立てた。
 急深の海に足を取られ、聖夜にきっと溺れていた。ドラマは零れそうになる涙にぎゅっと目を閉じる――
「本気、ねぇ」
 低いバリトンが何とも言えない色を帯びてドラマの耳をくすぐった。
 パブロフの犬のように彼の声に反応するようになってしまった長いそれがピクピクと動く。
 何時かからかわれた時は必死に「違う!」と主張したが、今となってはとっくに語るに落ちている。
「本気になれ、か。じゃ、
 何時も聞くそれよりは温度が低いようにも感じられた。
 凍える聖夜と同じように、冷え冷えとしたレオンの声は、成る程、ドラマも聞いた事がないものだ。
 怒ってる? 怒らせた――そう考えれば身が竦む気はしたが、怯まない。否、怯めない。
「……………ちがいますか?」
 目を開けた途端にレオンの顔が飛び込んできた。
 涙がボロボロ零れたが、抗議めいたドラマは気にしない。
「ちがいますか? 何時もからかってばかりで、何時もほんきじゃなくて。
 
 酷い顔をしている自覚はあったが、女の子を泣かす方が悪いのだ――本にもそう書いてあったのだし。
 ……理由も分からぬ罪悪感で内心言い訳めいたドラマにレオンは苦笑する。
「オマエの中の俺はどうなってやがる」
「わるいひと」
「否定はしねぇが
 ……いや、実際の所。俺、何回か言ったよな?」

 ――本気にさせてよ――

「ありゃあ、掛け値なしの本気なんだよ。
 
 我ながらの他力本願だが、
 ただ、何て言うか……やっぱり上手くいかないね」
 持って回った何時もの言い回しにドラマは小さく小首を傾げた。ぐすぐす泣きながら目を真っ赤にした酸欠状態の彼女に持ち前の聡明さを期待するのは余りに酷というものであろう。
「……分かった。もうちょっとシンプルにいこう。
 俺が誰かを好きたいのは本当で、それがオマエであっても他の誰かであっても同じ事。
 
 ……別にオマエで遊んじゃいないから、そういう顔で泣くんじゃないよ」
「……………」
「だから――」
「――本気になってくれましたか?」
「ああ」
「本当ですか?」とじっと見返す赤い瞳ワインレッドにレオンは「うんうん」と二度三度頷いた。
 ドラマはそんな彼の様が駄々っ子をあやすようなものである事を何となく察していたが、彼女からすれば清水の舞台から飛び降りたようなものだ。そこにあったのが完全な否定でなかった事に思わず安堵してしまい、何とも複雑な瞳の色で間近のレオンの顔を見上げるばかりだった。
「『忘れ難い思い出は網膜に焼き付いた呪いのようなもんだから』。
 そういうのは大人でも中々消せないもんなのさ。
 ……ああ、でも? お姫様の呪いを解く王子様のキスみたいに。
 とびきりの口直しの一つも貰えたら、ちょっとはマシになるのかな?」
 茫としたドラマは歳不相応に幼く無防備そのものだ。
 レオンの胡乱な物言いにやはり合点しなかったドラマは不思議そうな顔をして、
「……ふぇ!?」
 突然目前を塞いだレオンの手に思わず間抜けな声を上げていた。
「!? !?」
 間髪を入れずにその間抜けな声をくぐもらせたのは『知らない温い感触』だった。
「忘れせてよ」
 気のせいか、本当か――吐息めいた微かな声にドラマは応える術を持たない。
「……頑張りな。いや、頑張って。無責任に言うけどさ、オマエの為にも。俺の為にも」
 ドラマの目前に風景が戻ってきた時、自身の頭にポンと手を置いたレオンは既にその身を離していた。
 これ以上は何を言う心算もないらしく、何をする心算も無いらしく――
 振り返って彼の姿を追ったドラマにレオンは後ろ手を振っている。
な」
「――――」
「――これ以上だと、今夜は優しく出来そうもないからね」
 その顔は見れず。
 振り向かずに投げられた言葉は僅かながらに少女の願いほんきを感じさせる色合いを帯びた気がした。

  • 月曜九時の眠り姫完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別SS
  • 難易度
  • 冒険終了日時2020年09月12日 22時15分
  • 登場人物2人

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