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思い出を語るのはこの家で
登場人物一覧
●虹の川の冒険
深緑東部アゼット村に、『疾風蒼嵐』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)は足を運ぶ。
以前依頼で訪れた時は春先で、それから二ヶ月ほどが過ぎた今は過ごしやすい気候に変わってきたなと感じる。
訪れた目的は、この村に住むミュージー老婆への挨拶と、その夫で亡くなったロペス老人のお墓参りだ。
ミュージーは特にシャルレィスのことを良く覚えており、歓迎してくれた。特に覚えていた理由はシャルレィスが腰に携えた御守刀にある。それはミュージーとロペスの思い出のナイフであり、シャルレィスが譲って貰ったものだった。
大切に扱ってくれていることにミュージーは喜び、シャルレィスとの会話に華を咲かせる。
「――それでね。お肉が食べたい女の子のためにマンモスと戦ったりとかしたんだ!」
「まあ、マンモス。大きな象というあの。まあまあ、それは凄いわねぇ」
自分が体験した『冒険』を身振り手振りを交えながら語るシャルレィスに、ミュージーは子供のように目を輝かせて耳を傾ける。
「その後はみんなで料理を作ってね、それがまたすっごい美味しくてね!!」
「ふふふ、本当に美味しそうね。みんなで作る料理ですもの、不味いわけがないわね」
微笑ましく笑うミュージーに、思わず勢いで喋りすぎたとシャルレィスが頭を掻いた。
「……って、なんかあんまり冒険者っぽい冒険の報告じゃないかもだけど……」
「そんなことはないわ。
とっても素敵な冒険だと思うわ。ふふふ、ロペスが聞いたらきっと同じように楽しんだでしょうね」
「そうだといいなぁ……。
でも、いつかはすっごい冒険をして、大冒険者になるからね!」
シャルレィスの宣言にミュージーは何度も頷き「応援するわ」と声をかけた。
一頻り話を終えたシャルレィスがミュージーに尋ねる。
「ねえ、二人の冒険の話、良かったら聞かせてくれる?」
「こんなおばあちゃんの思い出話でよければ。
そうねぇ……いろいろロペスとは冒険に出たけれど……面白そうな話は……」
過去を振り返りながらミュージーは冒険の記憶を引っ張り出す。
そして一つ思い当たって、クスクスと笑いながらその思い出話を始めた。
「それはね、虹の川を探しにでた冒険の話なの」
「虹の川!? すごいどんな川なの?」
「まさに虹色の水が流れる川のことよ。
話の始まりは深緑のある町に立ち寄った時のことなの。そこに住む少女が冒険をする私達が物珍しかったみたいでね、色々と話を聞かせてとついて回られたのよ」
クスクスと「今の貴方みたいにね」とミュージーが笑う。
「それで、その少女が言うのよ。深緑には虹色に染まる虹の森があるわ、それなら虹の川も何処かにあるんじゃないの、って」
「森があれば川もある……たしかにこの世界じゃ在っても不思議じゃなさそうだけど」
「それがロペスの冒険心に火を付けちゃってね。
それじゃ虹の川を見つけて水を持ち帰るって豪語しちゃったのよ。深緑から出たこともないくせにね」
思い出し苦笑するミュージー。シャルレィスは「それでそれで」と話を促した。
「色々な文献を漁って、それらしい記述から幻想の秘境に目星をつけて、初めての国外遠征。
とても大変だったけど、二人とも若かったからねぇ。勢いだけでなんとかしてしまったものよ」
山あり谷あり、そうして辿り着いた場所に確かに虹に染まる川があったという。
「私達は虹の水を小瓶にいれて、少女に見せるため町へと戻ったの」
「わぁ、本当に手に入ったんだ!
それじゃ女の子はその水を貰って喜んだだろうね!」
「ふふふ、それがね。
ロペスが水を見せると少女は本当に驚いて、そして水を貰って本当に喜んだの。
けどね、クスクス……その少女がね突然その水を飲んじゃったのよ」
「飲んじゃったの!?」
「それで女の子の身体が見る見る虹色に染まっていってね、これは大変だって街中大騒ぎよ。
親御さん達から叱責されるし、本当に大変だったわ」
「女の子はどうなったの?」
「ふふふ、もうむしろ虹色になってるのを喜んでる感じもあったわ。
けれど、それだけ町を騒がせて置いて、一日経ったらあっという間に元通り。身体にも別状なくて、騒動は収まったというわけ」
「はぁーなにもなくてよかったよー」
ホッと胸を撫で下ろしシャルレィスが笑う。
「それが初めて国外へと冒険にでた思い出かしら。ふふふ、楽しんでもらえたかしら?」
思い出の風景に目を細め、お茶を啜ったミュージーは一つ気持ちを落ち着けた。
「うん、とっても!」
頷くシャルレィスは真実満足げに笑うのだった。
「今日は素敵なお話聞かせてくれてありがとう。また来るね!」
「ええ。いつでもいらっしゃい」
再会を約束し、シャルレィスはその家を出る。
二人の老人の旅立ちはあの丘で、そして思い出を語るのはこの家で。
新しい思い出を語れるその日を楽しみに、シャルレィスはまた冒険の日々へと進んでいく。