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冒険者達が紡ぐ物語~或る領地の序章~

登場人物一覧

カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
カイン・レジストの関係者
→ イラスト

「――という訳でお願い、楓さん。僕の所の領地の執政官になって欲しいんだけどっ!」
「……なるほど。そう来たか」

 高天京郊外某所。
 まだ幾つかの建物しかできてない、村と呼ぶにも小規模なその集落……否、“領地”の一角に二人は居た。

 一人はカイン・レジスト。一般的な人間種の少年と同じ様ななりだが、その実は異世界よりやってきた旅人――最近豊穣へやってきたイレギュラーズの内の一人だ。
 もう一人は楓。この豊穣で活動している獣種の女性にして相応に名の知られた識者の一人だ。

 二人は共に好奇心、知識欲が強く各々が探検中に、フィールドワーク中に出会い意気投合し、その後もこの豊穣で幾つかの奇縁を紡いできた仲だが――

「いや、皆まで言うな。きみの事だ。大方、折角だからと領地を賜ったまでは良かったが、想像以上の難しさと多忙さに参ってきたのだろう? 冒険に行く暇もない、とな」
「……楓さん、遠見とか読心の力でも持ってたっけ? 良く分かったね」
「分かるとも……きみ達が思っている以上にきみ達の行動は注目されているのだからな」

 カインが頭上にはてなマークを浮かべるが――実際、楓としては本当に大した事ではないのだ。

 国の為に働き、尽くし名声をあげたイレギュラーズを抱え込む為各々に小さな領地を与え褒美とする……噂話は草案として以前にもあったが、その施策が実際に全国的に施行されだしたのはつい最近の事。
 彼らは喜び勇んで次々と領地を手に入れ一国一城の主となり、国側としての目論見は成功する事となる。
 ……だが、基本的に対象となる彼らの元来の役目としてはギルド・ローレットに所属する解決屋。
 それも、主に武力に抜きんでた者達が多く――有り体に言えば、領地経営のいろはを心得ている者は殆ど居なかった。
 その困難を前に、ある者は今まで培った己の叡智や経験から堅実以上に経営をこなし、またある者は手探りで少しずつ前へ進み、またある者は稼いできた資金を投入し――そしてまたある者は自らとは違う方向に適性のある縁ある者関係者に頼み込み領地経営を手伝って貰う事となっていたのだ。

 当然、全国的にそんな事態が起きていれば、イレギュラーズと縁深くその行動を注視している者であればある程度知り合いの行動も予想ができる訳で。

 (とは言え、あまり頼りきりにされ過ぎるのは困りものなのだがな。色んな意味で)

 彼女自身だって生業があればフィールドワークに出る事も多く、見た目以上の生で培った知識量は並外れた物があっても実際に領地の経営などからは離れた市井で暮らしていた身だ。
 万全とは言い難く、また実際の領地の旗頭のカインの手を離れ過ぎるのも後々の事を考えれば悪手と言えもする。
 元より金銭に困ってはいないと否の面もあれば公よりは束縛もなくある程度安住の場を設けられるのは嬉しいという肯の面もある。
 ついでに言えば高天京に程近い郊外の平原と言うのも肯の面だろうか。今まで通りの仕事も続けられるのだ。
 そして、それ以上にカインと楓のこれまでのやや複雑な恩や借りの事も含めて、無言で悩む。悩む――

「あー、うん。勿論基本は今まで通り僕が主にやるからさ。それでも多分一人でやるより凄い楽になるし」
「それはわたしとしても嬉しいが、良いのか? もう身に染みていると思うが、領主と言うのはきみが思っていたよりも大変な仕事だろう?」

 カインから提示された条件や待遇、報酬は楓が考えていた適正の範囲の中でも相当に高い。
 それなら楓も多少の否の面を押してでも頷く利があるが――そうなって来るとまた別種の不安が湧き上がる物だ。
 即ち――不慣れなイレギュラーズである彼が音頭を取って、領地が然りと成功を収められるのかと統治方面の不安が拭い切れない……!
 そうでなくとも彼はどちらかと言えば刹那主義。人を率いる事も得意としない冒険者の一人――不安しか、ないのだ!

「ふっふっふ、大丈夫。任せといてよ! 僕はこれでも異世界では一国の大臣をしていた事だってあるのさ。僕の作戦で何度宮廷の危機が救われた事か!」
「いや流石にそれは嘘だろう……なぁ、本当に大丈夫なのか? 日が経った後で実はヤバかったなんて言われてもどうしようもないんだぞ!? 本当に大丈夫なのか!?」

 ――不安しか、ないのだ!!!

 結局、まずは短期半月で期限を切って領地に身を置き、様子を見る事となった。








 半月後。役所にて。

「意外だ……まさかカインが業務用の日誌を書いているとは」
「ちょっとちょっと。一度僕についての認識を詳しく聞いときたいんだけどー!?」

 領地の地図を睨んでいたカインはそう憤慨するが……それでも矢張りカインの性格的には似合わない事は間違いない。
 それは本人も自覚していた様だが最近ちゃんとやってみたらこれが意外と合うらしかった。
 やはり冒険の思い出は記憶の中だけの輝きとしておくのも良いけども文字に残す事も――とかなんとか言っていたが閑話休題それはともかく
 それ以上に――

「それにしても……まさか、本当に堅実に領地運営をこなしてみせるとは、な」
「まぁまだ人数も少ないし規模も小さいからね、これくらいはやってみせるよ」

 そう……そうなのだ。この半月、楓は殆ど手出しはせずに彼の領地運営の方向を把握するに留めていたが、大過なくこのレジスト領は栄えていく事となった。
 早急に石切場や伐採場、果樹園などの第一次産業に着手し、楓が来る前より引かれていた井戸も併せて最低限の自給自足体制を整えた後に無理をしない程度に病院、取引所や商人ギルドと言った公共施設を揃える。
 都度起こるイベントに対しても対処が必要な物は直ぐに対応してみせ、対応の選択に関しても相応に理があるモノだった。
 ……勿論、粗がなかったという訳ではないのだが。

「だが、以前も忠言したが軍事力が低すぎるな……これでは悪漢が大挙して押しかけて来たらひとたまりもないぞ?」
「よ、余裕が無くて……ある程度なら、僕が出張ってなんとかしてたんだけどね」
「それで持つ訳がないだろう……資源が足りないのも計画が崩れるのも理解はしているが、兵舎も確りと予定を組んでおくんだよ」
「はーい……」



「――でも、楓さんも人が悪いよね? 何度か“変”化して揺さぶりに掛けて来たでしょ?」

 息を呑む。 

「……気付いていたのか」
「僕は勘は良い方だと自認しているんだよー?」

 事実。
 確かに楓は力を用いて、所謂“悪徳の誘い”を行い、彼を試していた。
 一つ領地を預かる領主となる身だ。彼女がそうしなくともいずれその誘いは彼の下に届いていただろう。だからその前に、今の内に……深入りする前に、させる前にその適正を測り、そして慣れて貰う必要があった。だが――

「それで、結果はどうだったのかな?」
「分かっているだろうに。……合格だ。全く手堅くやってくれる。私も動き甲斐がある物だよ」
「やったあ! それじゃ――今後とも、よろしくね?」
「ああ、こちらこそ、だ。その期待に相応しい働きをしてみせるよ――」

 そうしてレジスト領の今日も、明日も目まぐるしく動き続ける。

 冒険者の少年と識者の女性が采配せし領地の未来がどうなって行くのか。それはまだ誰にも分からない――

 ……この直後に懸念が的中し大規模な盗賊連合とテロ組織の発生が重なり、今までにない程に慌ただしく動く事になるのだが、それはまた別の話。

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