PandoraPartyProject

SS詳細

拗らせ乙女の躾け方

登場人物一覧

レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)
蒼剣
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め

●そういう事もありますでしょI
(うーむ、何故こうなってしまったか)
 リアナル・マギサ・メーヴィンはこの時、遅ればせながらに『今という時間』に思いを馳せていた。
(確か、あれはついこの間――
 街角で珍しくこやつを見かけたものだから、腰痛持ちをからかってやる心算で……)
 内心で『その時』を述懐したリアナルは目の前で屈伸等をしてやる気を見せる一人の男を何となく眺めていた。
 売り言葉に買い言葉――
 場の勢い、モノの弾みとは往々にして恐ろしいものだ。
 レオン・ドナーツ・バルトロメイは混沌において最も有名な冒険者の一人である。世界最大の冒険者ギルド・ローレットのオーナーという肩書を抜きにしても、彼の物語はそこかしこで語り草になっている――文字通りの伝説そのものだ。
(うむ、儂はからかってやる心算だったのじゃが……)
 そう、リアナルは三度の飯より軽薄で、綺麗な女の子を見れば目がなくて。その癖、自分の身体を動かす事に俄然全く兎に角ちっとも興味を示さず、やたらに嫌う彼をからかってやる心算であの時大体こんな風に言った筈だ。

 ――デートなぁ。儂を抱きたいなら、稽古をつけてくれるなら構わんぞ?

「なぁに呆けてやがる」
「……いや、本気なのかと思ってな?」
 屈伸に続いて腱を前後に伸ばし、四十肩をぐるぐるとやって。
 首をコキコキと鳴らしたやる気たっぷりのレオンにリアナルは何とも言えない顔をした。この期に及び、その所作を見る限り全く我ながら間の抜けた問いになったとは思ったが、リアナルは『綺麗所に、若い子に目がない(と思う)レオンの対象に実際の所、自分が入るとは一切思っていなかった』。
 いや、客観的に見るならリアナルは十分に美人で一般的価値観に照らし合わせるなら『そういう事』もあるかも知れないし、実年齢の大概あてにならない混沌における『さんじゅういっさい』等参考記録のようなものだ。第一、若いだ若くないだなんて話を始めるならばレオンこそリアナルからすれば『外れている』。身も蓋も無く言えばリアナルの好みはどちらかといえば線の細い若い男であり、言うてレオンは年上なのだからまぁ――
「自分で振っといて何言ってやがる。わざわざ俺を午前中に起こしたんだし、覚悟しとけって話でしょうよ」
「……深酒は日課か。不健康な輩め」
 嘆息したリアナルは呆れたように言葉を零した。
 繰り返すが、レオン・ドナーツ・バルトロメイは伝説的な冒険者である。混沌が幻想に生を受け、練達時代を経てこの幻想に戻ってきた格好のリアナルからしても彼は幾ばくか憧れさえ感じる存在であった。幸か不幸か特異運命座標等という身の上になり、身近な存在になって以降は信頼さえも感じている。『こと女絡みの話を除いたなら、恋愛対象であるかどうかは別にしてレオンは幾らか特別な存在と呼んでも構わないかも知れない』。
(……よりによってこやつか)
 この世に生を受け三十一年、リアナルは異性とデートなるイベントに赴いた事は無い。
 厳密に言えば異性でないなら恋愛経験はあるし、身を焼き焦がすような恋をした事もあるのだが――その彼女が失われて久しい今、リアナルはそういった話にある種の諦念さえ覚えている。
(よりにもよって……)
 だというのに。碌に経験のない『はじめて』が繰り返してよりにもよってこれなのだ。
 リアナルの感じる何とも言えないやり難さと居心地の悪さは敢えて説明するまでもないだろう。
 彼女が知る限りでは彼はそういうやり取りに嫌味な位に慣れている――そういう手合いなのだ。
 毒を食らわば皿まで、取って食われる位でガタガタ怯える程『乙女』ではない心算だったけれど――
「――さて、ウォーミングアップはこの位で十分か。
 一応、先に断っとくがあんまり教えるのは得意じゃないんでね。
 ある程度は『実地』で叩き込むから覚悟しなよ。ま、基礎的な事からやらせてもいいんだが、ご褒美つきならあんまり地味に終始しちゃオマエも納得いかないだろう?」
「そりゃ、お気遣いどうも。まぁ、約束は約束じゃ。精々しっかり『教えて』貰うか」
「あちこちすり傷をつけない程度に、な」
 本人曰く珍しい――『太陽の下』で真っ当に構えて嘯くレオンの格好は滅多に見れない稀有な面立ちであった。
「……………余裕じゃな。腰をいわしても知らんぞ?」
「安心しなよ。仮にそうなるとしてもそりゃあこの後――夜の予定」
「最悪じゃ」と顰め面をしたリアナルにレオンは大笑した。
 蒼剣教導と言えば聞こえは良いが、やっぱりこんなもの――売り言葉に買い言葉だったではないか!

●そういう事もありますでしょII
「……だと言うに」
「あん?」
 スツールに腰を掛け、カウンターに肘を置くレオンに傍らのリアナルは何とも難しい顔をしたままだった。
「あれだけ即物的と見せておいて随分ではないか」
『蒼剣教導』は大方の予想通りリアナルの大惨敗で、まぁ仕掛けるも仕掛けるもいなされかわされ打ちのめされ散々に『体に教え込まれた』結果、彼女が疲労困憊、音を上げた頃に終了を迎えた訳であるが。その後の話は彼女の言った通り――彼女の想像したものとは少し違う話になっていた。
「条件をつけたらほいほいと頷いたではないか?」
「まーね」
「……あれ程にやる気がなかっただろうに」
「暑いのも面倒くさいのも嫌いだし」
「……………だから、条件を出したら頷いたのだろう?」
「なのに何故」と口の中でモゴモゴとやったリアナルは今日の後半をたっぷりと思い出していた。
『即物的』である筈の物語の中の主人公は何やら一日リアナルをあちらこちらへ連れ回したものだ。
「旨いらしいぞ」と昼食は人気の店に引っ張り、「市場でも見るか」と引っ張りまわし――リアナルの髪に掛かったアクセサリーは彼がその場で『適当に』買って寄越したものだ――「夕食は?」と予約を済ませた人気の店で完璧なエスコートをしたかと思えば、「締めね」と行きつけのバーにご招待とそんな訳である。
「別に構わんぞ。いちいちこんな段取りを組まんでも」
「段取り、ねぇ?」
 カウンターに預けた肘に顔を乗せ、半目で自身を覗き込む青い目にリアナルは少し胸が詰まった。
 全く油断の出来ない男だから、何処から何が来るか読めないのは戦いと同じ事である。
 だからこれは身構えただけ、と自身ではそう納得して彼女は彼の次の言葉を待っていた。
「そう、この段取りは自分の為にするもんだけど。
 俺、モテるからね。実際は『交換条件』なんて趣味じゃないんだよねぇ」
「…………は?」
「オマエ、自分なんてって思ってるでしょ。たまに。
 他の奴と違って儂なんて、とか。それから俺は趣味じゃないとか」
「後半は認める」
 肩を竦めたレオンはくっくっと小さく笑った。
「それな。前者も後者も好きじゃないし、撤回させてやろうかと思ってね。
『その交換条件で付き合わなかったら失礼だし、その交換条件で手なんて出したら俺に失礼』。
 ま、失礼二つじゃ恰好がつかないから、今日の判断はオマエに任せてみようかと思ってね」
「――――」
 レオン・ドナーツ・バルトロメイは性格が悪い。
 伝説の冒険者で、ローレットの一部の女の子が熱を上げ、誰にも本気じゃない癖に目を逸らす事もしないのだ。
「年上も、たまには良くない?」
 当たり前のように。何のきらいも外連味も無く、整った面でそんな事を言いやがる――

  • 拗らせ乙女の躾け方完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別SS
  • 納品日2020年08月29日
  • ・レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002
    ・マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906

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