SS詳細
隠し、喰われて、幸福散って。
登場人物一覧
「よしよし、いい子だね」
「みゃぁ」
学校の帰り、私はとある神社に寄る。私にいつもすり寄って甘えてくる黒猫がいるのだ。
この子を撫でて、夕日に染まる神社を眺めるのが私の日課だった。
そして日課と言えばもう一つ。
「今日もいるなぁ……」
境内の少し奥のほうにいつも佇んでいる白い上着を着た細身の人。
フードからちらりと見える顔はとっても綺麗でモデルさんみたいだった。
神社に参拝するわけでもなく、境内を散歩をしている様子でもない。
ただそこにいるだけのその人のことが、いつも私は気になっていた。
「いつも何してるんだろう……このあたりの人なのかなあ」
サァと風が吹いて木の葉が揺れる。するとその人が神社の石段をとんとんと降りだした。
どこへ行くんだろう。
いつもは後をつけようなんて絶対に思わないのに、何故か気がつけば私はスクールバッグを担ぎなおしてその人を追っていた。
足元で撫でていた黒猫がにゃあ、と何か言いたげに鳴いたけどもう私の耳には入っていなかった。
電信柱や建物の陰に隠れながら、私は数メートル先を歩くその人を改めて良く見てみた。
身長は百七十前後くらい、すらっとした手足は思わずため息が出そうなくらい綺麗だ。
フードの右側からは角みたいなのがにょきっと生えているみたい。
あれだけ綺麗な人がこんな近くに住んでいるなんて、知らなかったな。
高校とか通っているのかな。大学生かも。いや、そもそも学生なのか?
一つ沸き上がった疑問がどんどん膨らんでいって私はその人から目が離せなくなっていった。
その人はどんどん奥のほうへと進んでいっている。
橋を渡り、商店街のような場所を横切ってその奥の住宅街も抜けてまだまだ進む。
一体どこまで行くんだろう?
そしてその人がふと路地裏へと入った。私も慌てて後を追う。
――いない。
おかしい、確かにここに入ったはずなのに。
周囲を見渡しても隠れられそうな場所も、さらに脇道にそれる場所もないのに。
そしてふと気が付いた。
ここはどこだろう……?
最初は見慣れない場所だなくらいにしか考えていなかったが、いくらなんでもおかしい。
だってここに来るまでに誰にもすれ違っていない。
いやそれどころか、声すら聞こえない。
背中に冷たい汗が流れてぞくりと粟立つ。
もしかして私はとんでもないところに来てしまっているのではないか。
急いで帰ろうと後ろを向いたらその人が立っていた。
赤い鬼のお面の向こうから穏やかな青い目がこちらをじっと私を見ている。
「わぁ!?」
腰を抜かしてその場にへたり込む、そんな私の身体を押し倒してその人は私の身体に跨ってきた。首をつぅと伝う指先に息が詰まる。なんか、いろいろ危ない気がする。
「ああ、まさか引っかかってくれる人がいるとは、な?」
お面の奥の目がとっても楽しそうに笑っていた。
悪戯が成功して喜ぶ小さい子の様なそんな笑みだった。
引っかかってくれる人、ということは最初から気づかれていたのか。
――いや、むしろそれが目的だった?
目の前の人物の目的を理解した途端に恐怖で心臓が早鐘を打つ。
脳内がけたたましく逃げろとサイレンを鳴らしている。
「は、離して! お願い!」
「おっと、まあ暴れるなよ」
じたばたしだした私の腕を簡単に一纏めにしてその人は私に更に話しかけてくる。
「あー、オレは華。アンタは?」
答えちゃいけない気がする、答えたら最期だと本能で口を塞ごうとする。
が、自分の意志とは関係なく唇が意味のある言葉を形作ってしまった。
「わ、私の名前は――」
「ふぅん、可愛い名前だな」
名前を口に出した瞬間にさっきまでの恐怖心が嘘のように消えていった。
代わりに私を包んだのはとても幸せな気持ち、ふわふわとしてあったかい気持ちだった。
華さんの骨ばった細い指が私の首に掛けられる。ぐぐっと力を込められても息が苦しくなっても私は抵抗しなかった。
「怖いか? いや、嬉しそうな顔してるな。じゃあこのままいただくとするか」
嬉しそうな顔、そうか私嬉しいんだ。なら、このまま華さんに身を委ねてしまおう。
だってこんなに幸せなのだから。食べられる、命が消えるその瞬間はきっと、きっと――。
――最高に幸せなのだろう。
●
「次のニュースです。都内のM高校に通う――さんが行方不明になりました。警察では近日発生している連続行方不明事件と関連付けて捜査を行っています」
どこかの交差点でテレビが淡々と原稿を読み上げるニュースキャスターの姿を液晶パネルに映している。
それを退屈そうに欠伸をしながら鬼の面が見上げていた。
後ろをちらりと見れば、まさか自分が誘い込まれているとは夢にも思っていないだろうセーラー服の少女が健気に自分の後をつけてきている。
「ああ、腹が減ったな」
次はどんな風に