SS詳細
魔法少女ドラマ☆ゲツク
登場人物一覧
ねえ、知ってる? 魔法少女のお話――。
魔法少女は、魔物からみんなを守ってくれるんだよ。
* * *
ネオン輝く、
魔法少女は、マジカル☆ステッキ片手にファンタジックなコスチュームに身を包み、ビルの合間を駆けていた。
「ドラマちゃん、こっち!
「はい、わかりました妖精さん!」
青白い蝶の翅を羽ばたかせ、ドラマを誘導するのは、魔法少女の相棒である本の妖精だ。
ドラマの昼の顔は再現性東京の希望ヶ浜学園に通うごく普通の女子学生だが、夜の
夜妖は、人間界に忍び寄り、人間から可能性の輝きであるパンドラを奪おうとする魔物である。
今宵もまた、
テケケ、テケ……
テケケリリリリ……
「この声……!」
「夜妖だよ、ドラマ☆ちゃん!」
ビルの谷間から聞こえるのは、この世のものとは思えぬ奇妙な声であった。
ひどく不快で、不気味な響きがまだ耳にこびりついている。
その気配を辿った先、ビルとビルの裏路地に、果たしておぞましい
不定形の、どす黒いゲル状の本体からは、おぞましい職種が何本もうねっていた。
吐き気をもよおすようなそいつが、犠牲者となった女の子たちを絡め取っている。
「ううっ、ああああっ……!?」
「やあああっ!? もう、やめてええええっ……!!」
絡みついた触手が、獲物から生のエネルギーを吸い上げようと、なまめかしく蠢き、そのたびに苦悶する喘ぎ声が漏れ出している。
「なんてこと!? クラスの子たちが……」
魔法少女ドラマ☆ゲツクはあまりのことに戦慄した。
いかなる運命の悪戯か、触手の餌食となり、パンドラを奪われているのは、希望ヶ浜学園に通うドラマの同級生たちであった。
いつもクラスで声を掛け合い、同じ時間を過ごす知り合いが、見せるわけもない姿態と表情……。
見てはいけないものを見てしまったと、ドラマ☆も赤面してしまう。あまりのことに
「中級夜妖のショク=シュゴラスだ! もうあんなに育っているなんて」
「ショク=シュゴラス? どんな夜妖なんですか!」
「見てのとおり、女の子たちからパンドラを奪うだけの本能で動くおぞましいヤツだよ。……あっ、ドラマ☆ちゃん気をつけて! あいつ、ドラマ☆ちゃんのパンドラも狙ってる!?」
「ええっ!?」
ドラマ☆は思わずたじろいた。
だって、それは自分も触手によって、あんな目に遭わされてしまうってことだから――。
「テケリ・リリリリ!」
奇妙な鳴き声がまた響くと、黒いゲル状の本体から、投げ縄のように触手が飛んでくる。
「捕まるわけにはいきません!」
すぐさまマジカルステッキを構え、居抜きの要領で蒼月剣の凍れる刃を抜き放つ――。
「
マジカル☆ソードケインステッキに納められた蒼月剣の柄は長い。
魔法の呪文を唱えてドラマが繰り出したのは、上段から仕掛ける敵の甲主を斬り払い、さらに下がる敵を追って勝つ意の
林崎夢想流の流祖にして本朝居合術の開祖とされる
十分に発達した武術は、魔法と見分けがつかない――。
いいや、武術こそ魔法の一種である。誰がどう見てもその冴えは魔法の域にあった。
魔法少女とは、あらゆる魔法を駆使して魔を狩る対魔任務を全う存在なのだ。
蒼い月光を宿した魔法の冴えは見事であった。だが、その触手はショク=シュゴラスの巧妙な囮であった。
「いけない、ドラマ☆ちゃん!?」
「あっ……!?」
待ってましたとばかり、触手がドラマ☆に絡みついていく。
「やっ? やめてくださ……やああああっ!?」
触手はうねうねと蠢き、コスチュームに潜り込んで少女の大切なパンドラを奪おうとしている。
「ドラマ、ちゃん……? どうして」
魔法少女に同級生の面影を見たのは、ドラマ☆がドラマとして過ごしているクラスで、隣の席に座っている眼鏡の女子生徒であった。
――いつもの物静かで、本を読んでいるドラマちゃんが、魔法少女的なピンチに遭ってる……?
朦朧な意識の中で、その眼鏡女子は、魔法少女を目撃してしまった。
本来なら、コスチュームが持つ魔女っ子リアリティ☆ショックの影響によって正体を認識されないのだが、異常な興奮状態が彼女をおぼろげながら目覚めさせたのだ。
「ドラマ☆ちゃん、ウ=ス異本を開くんだ!」
「で、でも、あれは禁断の書ですよ、妖精さん! ……んあっ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ! このままだと大切なパンドラを奪われて、ドラマ☆ちゃんが禁断になっちゃうよ!?」
「わ、わかり……ました! ウ=ス異本、私に力を貸してください!」
ドラマ☆は、禁断の魔術書と呼ばれるウ=ス異本を紐解く。
空中に浮かび、ぱらぱらとページが捲れていく。このわずか十数ページの書には、狂える魔術師アブドゥル=コン=プライアンスによって封印された魔法が記述されているため、高価がつくという。
そこに綴られた魔法を、ドラマ☆は見てぎょっとする。
「ええええっ!? わ、私……これをやらなくちゃならないんですか!」
「よくわかんないけど、そうだよ! 早くしないと、禁断にされちゃう……!」
本の妖精は、急かすように言う。
ドラマ☆は覚悟を決めた。このまま禁断になってみんなの前から消えてしまうよりはいい、やるしかないと。
「
「むぐっ……!?」
ドラマは呪文詠唱を詠唱すると、傍らで喘がされていたメガネ女子の唇に、自身の唇をあてがった。
乙女と乙女の接吻、それこそがあらゆるものを尊みの彼方に消し去る“来ましの搭”召喚の儀式である。
地響きとともに地面から搭がそびえ、ショク=シュゴラスを光の中へ消し去っていく。
それから光が溢れ――。
* * *
「――って何ですかこの本は!?」
希望ケ浜学園の教室で、思わずドラマ・ゲツクは叫んでいた。
隣の席の下に薄い本が落ちたので、開いてみたらこうだったのだ。
タイトルは『魔法少女ドラマ☆ゲツク』、誰がこんなのを書いたのだろう。
「ド、ドラマちゃん! それ、見たの……?」
隣の席の眼鏡女子教室に戻ってきて、この世の終わりのような顔をしている。
「え、えっと……」
ドラマ、思わず目をそらす。
これも、禁断になりかけたがゆえの影響だろう。今は、そう信じたい。
「こ、この物語はフィクションですから! ……実在の人物とは関係あるはずありませんともっ!!」
それを叫んだのは、ドラマだったのか隣の席の眼鏡女子であったのか?
その謎を残し、この物語は唐突に終わるのであった。