PandoraPartyProject

SS詳細

約束のルージュ

登場人物一覧

フィーネ・ルカーノ(p3n000079)
津久見・弥恵(p3p005208)
魅惑のダンサー

 気紛れな彼女は思い出したかのように津久見・弥恵(p3p005208)を誘う。今日だってそうだ。朝早く鳴った電話に弥恵はびくりと身体を震わせ、目を丸くする。ベッドから這い出し、時計の針を確認すれば、時刻は朝の四時。
「うーん……何です、こんな時間に……」
 弥恵は目を擦り、部屋を出て廊下をぺたぺたと鳴らす。こんな時間に一体、誰だろう。電話の相手によっては一日のすべてが台無しになりそうだった。まぁ、関係なしに二度寝すればいいのだけど。
「もしもし?」
 受話器を耳に当て声を発すると、眠そうな声だったのだろう。電話の相手が突然、笑い始めた。女の声。弥恵はどきりとした。
「フィーネ?」
 無意識に甘くなる声。
「正解よ、おはよう。眠そうな声ね、弥恵。夜更かしでもした?」
 フィーネはいつだって楽しそうだった。
「いいえ、夜更かしはしていませんよ。と言いますか……いま、何時だと思ってます?」
 からかうような声に弥恵は反論する。
「うん? 朝の四時ね」
 フィーネは時刻を確認したのだろう。そんな間があった。
「そうですよ、朝の四時です! フィーネはさらりと言いますけど、四時は早すぎます」
「あらあら」
「それに、フィーネと違って私はこんな時間に目が覚めたりしませんよ」
 今日は言ってやった。弥恵は笑う。電話の向こうで彼女は驚いているだろうか。
「へぇ、貴女も言うようになったわけね」
「フィーネにいつも、鍛えてもらってますから。ですので、たまには私が主導権を握ります」
「そう。なら、このまま電話を切ってしまうのかしら? 残念だけど、弥恵はあたくしと違って眠いものね。むしろ、あたくしから切った方がいいのかもしれない。では、おやすみなさい」
 フィーネは今にも電話を切ってしまいそうだった。
「え、待ってください! は、話くらいは聞きますよ」
 弥恵は慌て出す。そんなつもりではなかった。フィーネを翻弄したいだけだった。
「良い子ね、ありがとう」
「いいえ、用件は何です?」
「弥恵、貴女さえ良ければひまわり畑に行かない?」
「ひまわり畑ですか?」
「今が見頃なのよ。どう、ワクワクしない?」
「今すぐですか?」
「今すぐ……そうねぇ……一緒に行ってくれるなら、三時間後に迎えに行くわ」
「三時間後……分かりましたよ、幸運なことに今日は予定がありませんので」
「ありがとう。朝食はこちらで用意するから馬車でゆっくり食べましょう」
「チーズトースト」
「え?」
「チーズトーストが良いです」
「いいわね、用意しておくわ。では、また」
 電話は瞬く間に切れた。フィーネは余韻すら与えない。
「まったく……フィーネは本当に強引です」
 弥恵はふぅと息を吐き、慌ててクローゼットに向かう。眠気は吹き飛んでいた。クローゼットを開け、デート用の服を探す。
「ええと……今日は暑くなりそうですから……涼しそうに見える服を……」
 ぶつぶつと呟きながら、白色のTシャツに黒色のプリーツスカートを手に取り、考える。
「きっと歩きやすい格好の方が良いですよね」
 ひまわり畑を歩くのだ。ならば、キャップとスニーカー、ショルダーバッグが合うだろうか。きっと、フィーネは「いつもよりスポーティーなのね」と喜んでくれるかもしれない。弥恵はワクワクした。でも──これはデートの装いではない気がする。
「フィーネはどんな格好で来てくれるのでしょうか……」
 聞いておけば良かった。そうすれば、フィーネの格好に合わせて、弥恵自身の服装を決められる。ただ、デートのドキドキ感はかなり、薄まるけど。
「もしかして、浴衣かもしれませんね……」
 うーんと唸り、弥恵は掛け時計を見上げ、驚く。クローゼットを開けてから既に三十分は経っている。服を決めたらすぐさま、シャワーを浴びて、フェイスパックで肌を整えた後、メイクをする。移動時間は考えないにせよ、余裕をもって準備したいがなかなか決まらない。沢山の服を見つめ、唸った。
「シャワーを浴びてから考えましょう……」
 弥恵は炭酸水を飲んだ後、バスタオルを掴み、駆け足で浴室に向かう。

 念入りにボディクリームを塗り、弥恵はフェイスパックをする。服はどうにか決まった。時計を見上げ、残り時間を確認する。ぎりぎりだが何とか間に合う。弥恵は微笑み、一時間後のフィーネを想った。フィーネは喜んでくれるだろうか。

 呼び鈴が鳴る。
「はーい!」
 廊下を駆け、「開けますね」と叫んだ。弥恵は深呼吸しゆっくりと扉を開け、眩しそうに目を細めた。フィーネはサングラスをかけ、白色のシャツとグレーのロングスカートを着こなす。イヤリングが揺れ、爪は白く塗られている。フィーネから爽やかなヴァカンスの香りがする。
「似合ってるわ、可愛い」
 フィーネは弥恵を見つめた。花柄のワンピースにショートブーツ。ワンピースは透け、とても涼しそうだ。そして、大きめのショルダーバッグに麦わら帽子。
「あ、ありがとうございます。フィーネも素敵です。サンダルも夏らしくて……」
 言いながら、汗が吹き出してしまいそうになる。恥ずかしくて、直視出来なかった。
「ありがとう」
 声と同時に触れられる指先。反射的に見上げれば、サングラス越しでも分かるほどの柔らかな表情笑み
「行きましょう、お腹も空いたことだし」
 頷き、馬車に乗り込んだ。がたがたと揺れている。食べたかったはずのチーズトーストは何故だか味がしなかった。それでも、弥恵は幸福だった。ひまわり畑に着くまでフィーネは弥恵がこなしてきた数々の依頼を聞きたがった。

 地を踏み締める。背の高いひまわりが太陽を見つめ、熱風に大きく身を委ねている。目を細める。熱い空気が喉を焦がすようだ。
「暑いですけど、ひまわりはとても綺麗ですね。元気が出ます」
 弥恵は言った。圧巻のイエロー。
「そうね」
 フィーネは頷く。それ以上の言葉を見つけることは出来なかった。フィーネの美しい横顔を見つめながら、弥恵は息を大きく吸った。渡したいものがある。
「フィーネ」
 出逢ってから何度、彼女の名前を呼んだのだろう。ふと、耳元でトンボが横切った。
「蜂でもいた?」
 金色の瞳が弥恵を捉えた。弥恵は笑う。不安そうな声を出していたのだろう。
「いえ。あの、フィーネにプレゼントがあるんです」
 バッグから紙袋を取り出し、押し付けるようにフィーネに手渡す。紙袋には赤色の紐が付いていた。
「ありがとう、中身を見るわね」
「え、ええ」
 フィーネは丁寧にプレゼントを取り出し、すぐに微笑んだ。
「口紅ね……ああ、とっても綺麗な色」
 イニシャルが刻まれたルージュ。
「気に入ってもらえて良かったです」
 弥恵は安堵しまた、口を開いた。伝う汗。フィーネが私をどう思っているか知りたくて仕方がなかった。でも、聞けなかった。
「……フィーネに似合う華やかなローズにし──」
 途端に唇が触れあう。とても柔らかかった。
「はぁんっ!? な、何ですか!? 勝手に!」
 弥恵はぎょっとし、フィーネを何度も指差す。顔が、耳が、全身が熱い。フィーネは笑いながら弥恵にレースのハンカチを手渡した。きょとんとする弥恵。
「フィーネ?」
「貴女、凄い汗よ」
「はっ!? フィーネだって汗が──」
「弥恵」
 変わる声音。
「急に何です?」
 警戒する弥恵。
「また、一緒に何処かに出掛けましょう。そうね、今度は貴女の誕生日にでも」
 ふふんと笑うフィーネ。そう──今度はこの口紅を塗って。

  • 約束のルージュ完了
  • GM名青砥文佳
  • 種別SS
  • 納品日2020年08月11日
  • ・津久見・弥恵(p3p005208
    ・フィーネ・ルカーノ(p3n000079

PAGETOPPAGEBOTTOM