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旅一座より

旅一座より

登場人物一覧

ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者

 笛吹きハーメルン。幻想蜂起の際、下級市民から上流の貴族問わず笛の音を聞いた子供が連れ去られたという事件があった。
 ヨタカ・アストラルノヴァを含めたイレギュラーズによってそれらは救出されたというのは幻想蜂起に起きた顛末の一つとして記録に付けられている。

「招待状だ! あの吟遊詩人サマから招待状がきた!!」
 幻想蜂起から幾らか経ったとある日、その事件に関わった子供達に向けて旅一座【Leuchten】からの招待状が届いた。
 さて、この貴族の少年がこの様に大はしゃぎしている理由についてだが、ヨタカ・アストラルノヴァは吟遊詩人役の俳優として戯曲に出演する事があった。依頼を持ってきた作家が難儀な舞台ではあったが、それでも役者達の尽力によって好評を博したのである。
 吟遊詩人役として出演したヨタカは『正体不明、新進気鋭の役者』などと貴族達の間で評され、貴族の間では「誰が一番早く彼の正体を突き止め、そして詩人として招き入れられる」と競い合った事もあったとか。
 ――でも、僕はとっくの昔に知っている。吟遊詩人サマはあのイレギュラーズの一人!
 招待状を受け取った十五にも満たぬこの少年は、なんだか自分が大人にでもなったかの様に優越な気持ちでニヤけていた。なんたってお父様達が必死に調べ上げた情報を僕は既に知っていたのだから。
「……パパもついていっちゃダメかい?」
 そんな笑みを羨ましげに見つめていた父親は、微妙なジェラシーを感じながらも彼に提案する。
「いつまでもお父様のお手を煩わせるわけにはまいりません」
 彼はピシャリと言い返して招待状へ再び目を通す、そしてまたイレギュラーズの勇姿を思い返してニヤけた。

 当日。招待状指定の場所へやってきた少年少女達であるが、その何人かは果たして此処で合っているのだろうかと不安げな面持ちをしていた。
 目の前に見えるテントはあまり立派なものとは言えない。いや、旅一座という境遇ならばそれは普通の事ではあるが、子供達の中では各々のイメージがどうしても先行してもっと妖しく物々しい場所だと思い込んでいた。
 ――イレギュラーズって幻想ではいっとき勇者サマ扱いだったし、もっといかついお城みたいのを想像してた。
 男の子の誰かがそんな事を言った。つられて、他の子供達もそれを想像して、皆小さく笑いを浮かべる。
「あ」
  一人が何かを見つけて短く声をあげた。
『国々を巡り廻って巡業の旅! ――
  ――紳士淑女、お嬢ちゃんも坊ちゃんも。 皆でおいで! 旅一座【Leuchten】』 
 見れば殴り書き調の文章が添えられたポスターが貼られている。
 やっぱり、ここで間違いないんじゃないかな。
 見つけた者がそう言えど、文章と共に鳥の怪物がポスターに描かれているのを見てしまえば幼心ながらにぎょっとする。まさかイレギュラーズを騙った怪人が再び自分達を攫おうしているのだろうか、などと一瞬ざわめきもしたが……。
「……あの……」
 更にテントの陰からか細い声がして、子供達の何人かはたまらず「ひゃあ」と甲高い驚きの声をあげた。
 その様子に、声を掛けた彼は目を丸くしてから、少し申し訳なさそうに微笑みを向ける。
「……えぇっと、ようこそ……旅一座Leuchtenへ……」
 それは旅一座の団長にして招待主の吟遊詩人、ヨタカ・アストラルノヴァであった。

 そのまま彼に観客席へと招かれた子供達――貴族出自の者以外――はかなり緊張した振る舞いで客席に座っている。
「こういう演奏会ってわたしはじめて……」
「……音立てちゃいけないんだよね?」
 吟遊詩人と聞いていたからには、年端もいかない子供にとってはそういう解釈なのであろう。
 息をつくのもグッと我慢する様な仕草でヨタカの一挙一動を必死に睨みつけている始末だから、周囲にとっても気が気でない。その初々しさがある意味可愛げはあるのだが、ヨタカにとっても彼らが楽しめない様な格式張ったステージにするのは気が引ける。元々子供達を楽しませる為に催したのであるからして。
「……そうだ……君たちもステージにあがってきてくれるかい……?」
 それを聞いて子供達はこてん、と首を傾げながらもヨタカの言葉通りにステージを上がった。年少の子が「こんな場所に上がるのははじめてだわ」とドキドキした様に呟く。
 そう緊張する事は無い、と言いたげにヨタカは首を静かに振る。だがこの手のものは簡単に慣れるものでもない。ヨタカもそれはよく知っている。
 ゆえに彼はこう言った。幻想で子供も知っている様な童話を自分に見せてくれないか。それに合わせて演奏をさせて欲しいと頼み込んだ。
「そっか、イレギュラーズさんにおしえてあげるね」
「この前せんせーに教えてもらったんだ!」
 無論、それは緊張をほぐす為の建前だが、年少の子達は「そういう事なら!」と喜んだ。彼らにとって命の恩人に何らかの形でお礼が出来るのなら、というのが一番大きかったのだが。ヨタカがそこまで計って頼み込んだのかは分からない。
 比較的年長者の子はそのやり取りを何処か申し訳なく感じて少々苦笑いした。

 ともかくとして彼らは幻想に伝わる童話の一つをヨタカに向けて演劇という形で見せてくれた。
「きれいなたいよーさん。どうぞわたしをあなたのもとへ連れていってください」
「うつくしいお星さま、どうかあなたのもとに連れてってください」
 五、六歳くらいの年少の子達が代ワリ番コに、とても真面目に役の台詞を述べていた。
 生粋の役者と比べるべくもなく、拙いものだ。この年頃だと童話の教訓や寓意なども深く理解していないのだろう。端役を引き受けてくれた年長者の子達も演技の面においては大差無い。
 だが、その拙さが妙な魅力に思えた。子供が演じる姿はプロの芸術家達には無い愛嬌というものがある。
 ヨタカも即興で演奏を合わせてみたが、子供達もそれが気に入ってくれたのか役に熱が入っている。
 成る程。親が子を見て微笑ましく思う気持ちとはこういうものだろうかと、なんとなしに思うヨタカ。
 そうしてついに童話も終盤に辿り着いたらしい。ヨタカは場面の雰囲気に伴って演奏一旦止めて、彼らの芝居を見守った。
 その内、ふと端役を終えた一人の子がヨタカに近づいた。
「僕達がこうやって劇を演じられるのも吟遊詩人サマのおかげです」
 その子は風体から貴族の少年だろうか。ヨタカの傍で耳打ちをする。
「……あの時の仲間や……君達が勇敢だったからさ……」
 謙遜する様に首を振るヨタカ。やたら純粋な好意をぶつけられただけに、かえって自身の過去を思い返した。醜い鳥は陽の光や星々の輝きの様に美しくない。
 ヨタカの心境を知ってか知らずか、少年は屈託の無い笑みを見せて劇が一段落した子供達を指さした。
「最後の場面はイレギュラーズのにいちゃんも一緒にやろー!」
「わたしがセリフ教えてあげる!」
 彼らは劇を無事に成し遂げた事に、満足げな笑顔でヨタカを手招きする。
 子供達の表情を見て一瞬考えた後に、フッと笑みを浮かべた。
「あぁ……わかった……」
 そうして、彼らと共に演劇のシメへと加わる事になった。

 諦めずに飛び続ければ、この子達の様に笑顔に出来る者達もきっと居る事だろう。
 そうすれば、いずれ怪鴟は星になれるのだろうか……。

  • 旅一座より完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別SS
  • 納品日2019年06月25日
  • ・ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155

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