PandoraPartyProject

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Alone Midnight

登場人物一覧

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
罪のアントニウム



 猫の鳴き声が遠くにあった。
 長く、長く、甲高い音だと思った。
「…………ん」
 息を漏らし、顔に籠るような熱を感じて、ゆっくりと瞼を押し上げる。
「?」
 視界が真っ暗だ。
 いや、というより、いつ目を閉じたのだろうかと思う。それに、とても息苦しい。まるで、顔を覆い隠されている様な、押し付けられているような、そういう──。
「っはぁ」
 というか、埋もれていた。
 無理矢理に体を横へ回して、ぼやけた視界で天井を見上げる。
 靄が覆う思考の海に沈み、はて、と、どういうことかと探っていく。
「あれ……」
 めがね。
 顔に当てた手は、いつもあるはずの矯正具を認められない。気だるげに顔を右へ動かし、それから左へと向けて、そこに畳んで置かれたそれを見つけた。
「いつ取ったんだっけ」
 そこから既に記憶が無い。
 はて。
 どういうことかと、今一度考える。まずは一日の始まりを思い浮かべる為に目を閉じて、朝の出来事を思い返そうとする。
「いっ……」
 だが、頭を使おうとすれば、鈍い痛みがそれを邪魔する。
 ただ、状況を鑑みるに、今の状態はだいたい理解出来てきた。
 つもるところ、
「無理、してしまい、ましたかねぇ……」
 そういえば朝から、不自然なダルさがあった様な気もしてくる。それに、いつもより感情の触れ幅も大きかったような気もするし、やけに汗をかいた気もする。
 ……全然思い出せないのですが。
 意識と記憶の混濁だ。
 と、正しく状況を判断出来る程度には、思考力も戻っている。
 しかしそうなってくると、感じるのはやはり不快感だ。
 たっぷりと吐き出した汗を吸って、重く、そしてべっとりと肌に張り付いた修道服。脱ぎ捨てて、たっぷりとお湯の張った中へと、身を清めに行きたいという欲が出てくる。
 だがそれも、意思に反してピクリとも動かない手足では難しいだろう。
 深く息を吸って、大きく吐き出した空気。
 見える筈もないその残滓を追って、虚空に目を泳がせる。
 ……独りは大変です、ね。
 重くなる目蓋に抗わず、暗闇を映す。
 遠退く意識に委ねて、少し休もう。そう思った矢先に、触れられる感触に目を開けた。
『大丈夫?』
 掛けられた優しい声は聞き慣れた、懐かしい音だ。霧が掛かった様な視界を細めて見ると、それが父親のシルエットに似ていると思う。
「……ん」
 絞り出した返事の後に、微笑む事が出来たように思う。それからまた、目を閉じて、微睡みに落ちかけて一時。
『食欲はある?』
 と、問われた言葉で目を開ける。
 相変わらずはっきりとしない視界だが、感じる香りは母のものだと解った。そして、うっすらと暖かな、薬味の匂いに上体を起こそうとして、しかし叶わず倒れ込む。
「ふぅ……」
 やけに遠く、自分の熱っぽい吐息が聞こえた気がした。
 身体の気だるさは酷くなる一方で、頭の内側で警鐘を鳴らされている様な痛みが強くなる。
 キツイ。
 素直にそう思う。
『──?』
 と、不意の感触が、頭にある。痛みではない。どちらかと言えば、心地の好さを思い出す、そんな感触だ。
 それが、なにごとか言葉を掛けてくる。
 けれど、もう、目蓋を開ける気力は沸かなくて、ただ耳の感覚だけを懸命に尖らせながら、
『早く、良くなれよ』
 と、そう、言われた、声は、遠くに──。
「………………っ」
 目を開けた。
 横を見る。
 何もない。
 視線の先にあるのは、扉だけだ。
「は、ぁ……」
 夢だ。なんて優しく、残酷な夢だろうか。
 目から零れた雫が、肌を伝う。
 自嘲の笑みを浮かべて顔を戻し、気力で持ち上げた手のひらで顔を覆った。
 えづく様に、喉を一つ鳴らして。
「駄目ですね……」
 体調不良に起因した、駆け巡るかつてのはかつての記憶。亡くしてしまった、もう戻らないモノ。
「ああ」
 なんて辛い事でしょうか。
「はやく、あなたたちがいるそちらへ、いきたいのに」
 それはなんと、苦しい事でしょう。
「まだ、いきろと、かみさまはわたしに、そうおっしゃる」
 解放を求めて、しかし叶う事を許されない。
 見つめ、受け入れ、祈り続けろ、と。
 自身の道行きがわからない少女の夜は、まだ明けない。

  • Alone Midnight完了
  • GM名ユズキ
  • 種別SS
  • 難易度
  • 冒険終了日時2020年08月03日 22時10分
  • 登場人物1人

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