PandoraPartyProject

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熱視線には気付かない

登場人物一覧

シレオ・ラウルス(p3p004281)
月下


 朝とも夜ともつかぬ濃紺の髪をしたシレオは、切れ長のアメジストの瞳を煌めかせて笑みを浮かべていた。
 本日は晴天なり。
 日差しもさほど強くはなく、心地よい暑さとなっている。湿度が高ければ肌を伝う汗にも不快感を覚えるものだが、シレオの肌を伝う汗は少量で、夏にしては少ないほどだった。
(少し喉が乾いたな……どこか近くの喫茶店で一休みすることにしようか)
 白いシャツに薄氷色のベスト、藍色のスラックス、グレーのスリッポン。シルバーのネックレスが近寄り難い雰囲気を緩和させる。
 カフェのトリコロールのオーニングの下に入れば、被っていたフェドラハットを取り、小さなショウウィンドウを覗き込んだ。
(うーん……折角なら少し甘味が食べたいな。
 そうだな、このガトーショコラ……いや、チョコタルトにしよう。
 それと……ああ、マカロンも。ベリーと、オレンジと、あと一つはお任せにして。
 ドリンクは……悩ましいがミルクティーのアイスにしておこうか)
 女性店員は微笑ましげにその様子を見守っていた。その視線に気がついたシレオは、少し恥ずかしげにはにかんだシレオに店員はその頬を赤らめる。
「済まない、年甲斐もなく少しばかりはしゃいでしまった。
 注文を頼めるだろうか? 手短に済ませるから、このことは内緒で、な」
 しぃ、と唇に人差し指を当て、どこか悪戯っ子のように微笑めば、店員は言葉を返すよりも先に必死に頷いて。
 くすくすとシレオは笑うと、『それじゃあ』と躊躇いなく注文を始めた。
「そのチョコレートタルトを一切れ。それと、マカロンのベリーと、オレンジ、それから店員さんのお勧めをひとつ。
 ドリンクはミルクティーで頼む」
「ええと……でしたら、このピスタチオはいかがでしょうか?」
「ああ……ピスタチオ、ね。はは、構わないさ。それじゃあオーダーは以上だ」
「か、かしこまりました!! それでは、この番号札を受け取って席におかけください、店員が届けに参りますので」
 納得したように頷いたシレオは手早く会計を済ませ、番号札を受け取ると、店内にある席に腰掛けようとしたかった、のだが。
(……満席か)
 大層人気のカフェなのだろう、ふらりと訪れたにも関わらず注文ができたのは運が良かった。
 しかし席がないと食べるどころか受け取ることも出来ないので、テラス席に向かってみる。
 パラソルの下にいくつかテーブルが並んでいたそこは、相席ならばどうにかどこかに座ることが叶いそうだ。
 どうせならば話の弾みそうな人と相席がしたい。気さくそうな女性のパラソルの下の椅子を引き、シレオは声をかけた。
「御機嫌よう、お嬢さん。人が多いみたいだ、相席をしても構わないかい?」
「え、ええ、勿論よ」
 甘い声、整った容姿。ラフに着こなされた服装は清潔感と親近感を覚えさせる。
「や、やだわたしったら、机の上を散らかして!
 少し待って頂けるかしら、直ぐに――、」
「ああ、気にしないでくれ。特になにか持ち物がある訳じゃあないさ。
 気にせず、そのまま居てくれ」
「そう? ごめんなさいね……」
 今日は天気がいいわね、何を頼んだんだい?、この店はよく来るの?
 なんて在り来りだけれど、弾む会話に目を細めたシレオ。女性は恥ずかしそうに頬を赤らめながら、
「あなたって女の人にモテそうよね」
 なんて呟いて。
「……そう、か?」
「そういうところも、モテそうな原因の一つだわ」
 もう! なんて女性が頬をふくらませる。なぜ膨らまされたのかは解っていないから、シレオは困ったように頬を掻いた。
「お待たせしました!」
 先程の店員がシレオの元へと駆けつけ、注文したスイーツを置いていく。
 『ありがとう』とシレオが呟くと、オーバーに手を胸の前で振って。
「お、お連れ様ですか?」
「いや、相席を頼んだのさ。それがどうかしたのかい?」
 ほっとしたように胸を撫で下ろした店員は、ポケットからメモ用紙を取り出すとシレオに耳打ちした。
「……これ、私の電話番号です。よければ、また」
 恥ずかしそうに顔を赤らめ、店員は『では!』と頭を下げ店の奥に戻って行った。
「……ふむ」
「ほら、あなたモテるじゃない」
 些か不機嫌そうに、相席をしていた女性は手内にあるメモ用紙と店員の背を睨みつける。
「たまたまだ、きっと」
「……ふうん」
 涼やかな顔をして、ミルクティーを1口飲む。程よい冷たさが喉に染み渡る。目を細め笑うと、今度はフォークを使って器用にチョコタルトの先端を切り、口へと運んだ。
 その仕草は洗練されていて、品の良い所作だと言えるだろう。周りの女性もその様子に思わず見惚れるばかりだ。
「あなたって随分鈍感なのね」
「? そうか?」
「ええ、とっても!
 視線が痛いからわたしはこれで失礼するわ。またね、素敵なひと!」
 ひらひら手を振った女性を一瞥し、またスイーツを堪能するシレオだった。
 女性達の熱視線には――未だ気付くことはなく。

  • 熱視線には気付かない完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2020年08月02日
  • ・シレオ・ラウルス(p3p004281

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