PandoraPartyProject

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同じ空の下で――。

登場人物一覧

加賀・栄龍(p3p007422)
人生葉っぱ隊


 戦争なんて馬鹿げているだろう?
 それが同僚である志村亮介の口癖だ。
 
 鳳圏――。
 そこは加賀・栄龍(p3p007422)という青年が生まれ育った国だ。
 閉鎖的で、外交手段といえば言葉ではなく戦い。
 常に戦争に明け暮れた国で生きてきた。いうなれば彼らにとって戦争は言葉だ。空気だ。文化だ。
 それが隣にあるのが当然だった。
 故に、亮介の言葉に栄龍はふざけるなと窘める。
 戦争の否定は国逆にも近い。それ以前に自分たちは軍人だ。この国を戦争によって守るべきものだ。
 ばかばかしいものであるはずがないのだ。
 しかし、亮介はそれに言い返すこともなく緩くほほ笑む。
 栄龍はその微笑みが嫌いだった。

 本日の彼らの任務は鳳圏の首都である火離(かり)の見回り業務である。
「やあ~! かわいらしいお嬢さん。こまったことはありませんか? お茶でも一緒にのんで相談事をおききしますよ」
 軽薄に少女たちに声をかける亮介に栄龍ははぁ、とため息をつく。
「あらやだ、えいたっちゃん! ため息をつくと幸せにげちゃうわヨ!」
 亮介はくねくねときもちのわるい動作をしながら変な口調で栄龍を叱責する。それをみて少女たちは嬉しそうにころころと笑えば、ねー、と亮介が同意を求める。
「仕事中だアホ!!!」
「いたたたた!」
 栄龍は半眼で亮介の耳を引っ張りあげれば亮介が悲鳴を上げる。
「栄龍はお堅いよなあ。可愛い女の子がいたら口説くのは普通だと思わねえ? むしろ常識、しないなんて失礼! 道義にも悖る!」
「そんなこと言うのは色ボケのお前だけだ。しかもこの間も2股してどつかれたんだろ、懲りろ!」
 栄龍の眉間にしわがより快活そうな額にいくつもの青筋が浮かぶ。
「たかが4股だよ」
 しれっと亮介が指をおりたたみながら言い放つ。
「はあ? 前に聞いていたときより増えているが????」
「いや違った、今アタックしてる子もあわせたら……」
 声をかけられた少女たちがくすくすわらって去っていく。
「いっちゃった……えいたっちゃんが怖い顔するからおびえて逃げたんだよ。か~わい~そ~~~~~~~」
「まったく貴様は」
 いつもの毎日、いつもの光景。遺憾なことではあるが栄龍自身もこのやり取りがそれほど不快というわけではない。
 ため息の数はふえるが。

「また貴様は!!!」
 宿舎にもどるやいなや、亮介は軍服を脱ぎ捨て、そこいらにシャツをなげれば即栄龍の小言が飛んでくる。
「うるっさいなー。おまえおれのおかんかよ」
 栄龍は亮介のシャツを握り亮介の鼻先におしつけた。
「あせくちゃい」
 うんざりとした顔で亮介はつぶやく。
「ああ、そうだろう、あたりまえだ、仕事あけだからな。投げ捨てるな、片付けろ。それでもお前は栄えある陸軍准尉か!」
「栄龍ママ、あらっといて。どうせ栄龍のシャツも洗うんだろ? そんなら一緒に洗うほうが手間はぶけるっしょ? それに経済的だぜ」
「志村ぁあ! 貴様はいつもそうやって!」
 青筋をたてる相棒にウインクを送れば青筋がまた一つ増えた。面白い。
「ごはん用意しておくからさ! 今日はなんにしようかなあ! あ、女の子から差し入れの干し肉もらったんだった。
 なー、えいたっちゃん、これスープにしてよ! 野菜いらないからね! おにくのすーぷ!」
「いい加減にしろ!」
 とは言え、結局はなんだかんだで栄龍は亮介の世話をしてしまう。
 ごねる亮介にかまうよりはさっさと終わらせてしまうほうが早いからだ。
 それが亮介の自立を阻害していることを栄龍はきづいていない。
「栄龍ママ愛してるぜ!」
「だまれ、その口をひらくな、アホ!!」
「栄龍って意外と悪口のレパートリーすくないよな。アホとか馬鹿とか」
「黙れといっている。この――この――……愚か者が!」
「もっと語彙がんばって! 考えて考えてその程度しかでないなんて!!! んもう! えいたっちゃんかわいい!」
「うるさい!!」

 栄龍と亮介は幼馴染だ。
 昔からずっとこのノリで過ごしてきた。
 これからもずっとこんな日が続くのだろうと亮介は思う。
 そんな明日がくるのが亮介は楽しみでしかたなかった。
 栄龍がいればこの戦争に明け暮れた馬鹿らしい国でも生きていけるのだから。

 しかし――。
 今日もまた、任務は火離の見回り業務だ。
 今日はお日様がカンカンに照っている。暑くて見回りなんてやっていられない。
 あーあ、もうすこしくらいお日様も容赦してもいいとおもうんだけどね。
 亮介は日陰にはいると短袴の後ろポケットから煙草をとりだすと片手で器用にマッチをこすり火をつける。
 すう、と煙を肺に送り込んでから深呼吸をするようにゆっくりと紫煙を吐き出す。
「また貴様はさぼりか」
 いつもなら煙草を吸い終わる前にそんな声が聞こえてくる――はずだった。
 じじ、と煙草は短くなっていく。だというのに――。
 あのけたたましい怒声が聞こえない。
 
 加賀・栄龍がこの亮介の前から姿を消して早数か月。
 あのまじめな栄龍のことだ。この国から逃げ出すことなど、ありえない。
 だとしたら知らない任務についたのだろうか。
 それなら一声かけてくれればいいのに。自分もまた、栄龍とともにこれからも一緒にその任務に向かうのに。
 閉鎖的なこの国では同じ軍人であっても、状況によっては任務内容をしらないことも往々にある。
 それでも親友のこの自分にひとこともないなんて薄情にもすぎる。
「どこいったんだよ、あいつ」
 彼が今どこにいて何をしているのかは亮介には見当もつかない。
 ああ、つまらない。
 口やかましいやつがいないせいもあってなんとなく女遊びもやめた。
 5人いた彼女には別れを告げた。
 包丁を向けてきた女もいたが、それは別の話だ。結果としては円満に別れている。
 多少の刺し傷はあったけれど。
 ああ、つまらない。
 あいつ、いつ帰ってくるんだろうな。
 どこかで野垂れ死んでなんかいないだろうな。
 はやくかえってこいよ。
 亮介は空をみあげる。空は青く高く。
 同じ空の下にはいるのだろうとは思う。
 その思いは、妙に空虚なものに感じた。

 半分以下の長さになった煙草がじじ、と燃える音がした。

 おまえのいない鳳圏は――。

 まったくもって
 つまらないのだから。

 本当に馬鹿げた話だ。
 
 亮介は立ち上がるとその場に煙草を捨て、軍靴をこすりつけ火を消した。
 いつもであれば、吸った煙草は拾えと口やかましい小言が飛んでくるはずだった。
 なのに、その小言がとんでこないことがとてもさみしいものに思え、亮介は火の消えた煙草を拾い上げると乱暴にポケットの中に突っ込んだ。


 
 

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