PandoraPartyProject

SS詳細

忍刃と二天の嵐

登場人物一覧

風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
月羽 紡(p3p007862)
二天一流

 ――所はカムイグラ、とある町人地。
 のどかに鳥の囀る、休日の昼前のことだ。

 ど、ぱぁんッ!!

 出し抜けに、地揺れ、爆ぜるような音が響いた。囀っていた鳥が木々より慌ただしく飛び立つ。
 何の変哲もない町人地の一角に、突如響き渡る大音――出所は、壮麗とはいかないまでも小綺麗に、質実剛健と設えられた道場である。
 辺りの町人らが慣れたものというふうに行き交う中、町に未だ慣れぬ新参者が目を白黒させるのに、噂好きの町人が語る。
『――なんでもあの道場つきのお屋敷にゃ、越してきた大層お強い御仁がお住まいなんだと』
 再び大音!
 空気が裂けるような破裂音は竹刀の打音、地を揺るがすは踏み込みの音! はてさて如何なる立ち合いをすれば、このような音になるものか!
『気になるんなら覗いてみたらいい。尋常じゃない動きだそうだよ』
 噂好きの町人が語る間も、竹刀打ち合う音止まぬ――


 噂になっているとは露も知らず、二人の特異運命座標は、道場の床板を素足で蹴って打ち舞い回る。
 一人は脇指ほどの小竹刀を逆手に構えた、穏やかで柔和な面差しの男性。名を、風巻・威降(p3p004719)。黒髪に碧眼をした優しげな容貌の男だったが、しかしその速度、尋常の域になし。
 威降は対手より苛烈に振るわれる二刀流の連続斬撃を右手の小竹刀で流し弾き捌く! 踏み込みから三連続の斬り上げ、振り下ろし、突きが来るのを弾き弾き、突きを片手後方転回で回避するなり蹴り上げ! 対手の顎を狙う!
 しかし相手もさるもの、残像を残すほどの速度で飛び退り、間合いを開け、二刀の竹刀を構え直す。鳶色の瞳にぬばたまの黒髪、和装をした、美しい妙齢の女性である。しかし女性としてはかなりの長身に、扱いづらいであろう二刀を軽々振るうその手管、女傑と言うに相応しい。名を、月羽・紡(p3p007862)という。
「流石に速いですね」
 紡の声に蒼眼を和ませ、ひらりと着地した威降が笑う。
「月羽さんこそ。いや、逃げ回るので精一杯ですよ」
「……その割に息も上がっていないようですけど」
「それこそお互い様でしょう」
 軽口の応酬をしながらも、両者摺り足で間合いを計る。どこまで踏み込めるか。竹刀での立ち会いとはいえ、二者共に油断はない。
 剣を持っての格闘戦とは、それ即ち敵の剣先が己に到達する前に、自らの剣先を敵に到達させるという極単純な勝利条件を持った駆け引きだ。ただそれだけのことなのに、極まった彼らの技と手管があれば、それは見るものを圧倒する激戦となって表出する。
「……なら少しばかり速度を上げましょうか。息すら上がらないのでは鍛錬になりませんものね。良いでしょう、風巻?」
 紡は柔和な笑みを浮かべたまま、ゆらりと竹刀の剣先を上げた。上段に構えて切っ先を威降に向ける。その動作はあまりに自然。表情を変えるほどに自然に構えを変じるその動き、常在戦場の極みと見える。
「お手柔らかに」
 威降は逆手に持った小竹刀を、身体で隠すようにして構える。間合いを取らせぬように構え、守勢に回る動きだ。
 再びの先手はやはり紡。床板高らかに踏みならし、どうと踏み込んだ次の瞬間、先ほどよりも更に鋭く撃剣走る。まるで舞うような動きから無数の斬弧が描かれ、威降の首を、胴を、籠手を薙ごうと疾る。七打流す間に八打目が来る、神速の突き!
「……!」
 極度の集中により、世界は最早コマ送りに見えた。
 上体を傾け避ける威降の目に、特異運命座標用のカーボン入り強化竹刀が身を捩るようにはっきりと撓るのが目に入る。当たってもいない突きで強化竹刀がビビるように撓るというのは、あの切っ先が音の壁に触れつつあると言うことに他ならぬ。
 恐るべし二天一流、二刀連撃『緋舞連刃』!
(――けれど)
 しかして威降もまた、風巻流小太刀を極めた身。幾度となく死線を潜り抜け、その身そのものを刃と成すに至ったその絶技、彼女の撃剣に勝るとも劣らぬ。
 紡が嵐ならば威降は柳。続く連撃を流し受け捌き、手に宿した『氣』を収斂し、受け弾くためのもう一刀とする。
 上段二連撃を流す、左に回り込めば即座に五月雨の如く薙ぎ払いが来る。上段は首を縮めて避け、胴を襲う一打は逆手の一刀にて受ける。弾いた竹刀が即座に引かれ、呆れるほどの速度で突きとして打ち――否、射ち出された。息つく暇がない。機関銃と相対した方がまだ気が楽だ。
 しかしその暴風雨めいた撃剣の連打を前に、威降は更に前に出る。氣を集中させた手で撫でるように切っ先を反らし、それが引き戻されるよりも早く、一瞬に全ての力を集中して二歩踏み込む。――それは拍子リズムを、或いは呼吸――認識を盗む、といわれる忍の絶技だ。
 接敵敵う。至近距離。対手からすれば、突如相手が懐にいた、というように見える動き。
 虚を突かれた風に目を丸くする紡。息の触れるほどの距離に踏み込んだ威降は逆手の小太刀を打ち込もうと繰り出すが、しかしまさか、ここでこの上紡が動く。右手の竹刀の柄を威降の小太刀の柄に叩きつけ、打撃を防ぐ!
 凄まじい対応力。威降は即座に打ち込んでの一本を諦め、空いた左手での投げ技に計画変更。身を沈め足を浚ってのすくい投げ!
 紡の身体がほとんど吹き飛ばされるように宙を舞った。ぶあう、と和装が空気を孕んで、はためくような音を立てる。――頭から地に叩きつけられてもう不思議ではない威降のすくい投げを、しかし空中で身を捻り無効化。紡は手すら付かずに脚から着地する。彼女もまた、剛柔どちらも心得のある格闘の達人である。
「いやお美事、意表を突いたつもりだったんですが」
 肩を竦める威降に、浅く息を吐く紡。
「衝かれましたよ。……驚きました、捌くのに必死になってしまうほどには」
「捌かれたのが想定外だったと言いますか……まあ、驚かせられたなら満更俺の技も、悪いものではなかったと言うところで」
 忍びの末裔は言うほど口惜しそうな顔もせずに、氣を集中させた手刀と小竹刀の二刀を、今度は身体前、攻勢にて構え直す。
「これで技が尽きたわけでもなし。続けましょうか」
「勿論。――きっと沢山動いた後の方が、ご飯も美味しいでしょうし、ね」
 茶目っ気滲ませて応ずる紡が今度は後手。互いに息を吸い、間合いを計る。常人が巻き込まれれば非殺傷武器であろうと問答無用で絶命せしめそうな組手を演じながら、彼らの会話は実に何気ない。

 ――何の合図もなく今一度激突し、轟音奏でる二人の特異運命座標。
 我知らず耳目を集める彼らの元へ、入門希望の若い剣士が幾人も来たとか来ないとか――それはまた、別の話。

  • 忍刃と二天の嵐完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2020年07月30日
  • ・風巻・威降(p3p004719
    ・月羽 紡(p3p007862

PAGETOPPAGEBOTTOM