PandoraPartyProject

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ダイアの涙はベリーのにおいがした。

登場人物一覧

コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
コゼットの関係者
→ イラスト


 ローレットのカウンターから声がかかった。
「コゼットさん、コゼットさん。新人教育させてあげマス」
 常にジト目気味のコゼットが、パッと顔を輝かせた。いそいそとカウンターに行く。黒い耳が機嫌よさそうにピコピコ動いているのが自分でもわかった。
 イレギュラーズになりたての女の子とベリー摘みに行くのが、新人教育だという。特に危険な場所でもない。それが何でローレットの仕事になるのか。それには訳があるのだ。戦うばかりが依頼じゃない。
「ダイアさん。このベリー、ちょっとでも強く触ると破れるです。繊細なお仕事です。デリカシーのない奴には任せられねーのです。そーっと摘んできてください」
 つまり、子供に頼むのが一番だが、子供の使いでは困る類の仕事。力の極端に弱いヒトが仕事として請け負うローレットに頼むのが最適なのだ。
「ダイアさん、一緒に行ってもらう先輩のコゼットさんです。こう見えて腕利きさんなので何の心配もいらないです。めっちゃ強いです。コゼットさん、ダイア・コルドーさん。さっき来た子ですよ」
 じゃ、よろしくです。と、お仕事開始になった。
「よろしくおねがいします」
 ダイアはぺこんと頭を下げた。きちんとしつけられている。頭をあげて上目遣い。ダイアの視線の焦点はコゼットの黒いお耳に集中している。
「――え、と」
 コゼットは奮起していた。自分が今楽しく暮らしているのは、ローレットでたくさんのヒト達がコゼットを助けてくれたからだ。
 だから、返す。その分にコゼットが嬉しかったり、楽しかったりした分を乗っけて返す。
「あたし、コゼット。ダイアさん、よろしく、ね。だいじょうぶ。あたしがいるから、だいじょうぶだから――」

 ベリーのしげみまでの道すがら。
 なぜ自分がこんなことになってしまったのか、わからない。と、ダイア・コルドーは言った。
 空中庭園に来た日はちょうどダイアの誕生日で、きっと九才だったらわんわん泣いていたから、今日でよかったなんてなんとなく思った。と、初めて会ったコゼットに話した。
 9歳11ヶ月と30日だって10歳丁度だって、小さな女の子が一人でお仕事を立てていくのは並大抵じゃない。と、コゼットは我が身を顧みて思う。大体、暴力と理不尽に飲み込まれて、何かきっかけがなければそのまま泥の中に沈んでいくのだ。
「大体一緒にこっちに来たおじさんと一緒に説明を受けたんですけどね」
 年上の人にちゃんとしゃべろうと一生懸命なのが見て取れた。
 薄暗い天井裏でコゼットは沈黙を覚えたけれど、ダイアは違うようだ。
「およその世界から来た経験をたくさん積んできたヒト達と私は、その時同じような能力と言われました。そうかもしれないけど全然違うって思いました」
 と、ダイアは言った。
「いかにも強そうなおじさんは、自分がどうやって強くなったかわかってたみたいだけど、あたしは何にもわかんないんですもん!」
 そのおじさんは、「剣は通用するかい」とか「武器屋はあるのかい」とかいろいろ聞いていたけれど、ダイアには話のほとんどがちんぷんかんぷんだったという。
 実際、ダイアはまっさらぴんの子供だ。本当なら、親元で自分が何をしたいのか、何ができるのかをすり合わせて未来に向かっていくはずだった。
「イレギュラーズ? の登録っていうのをかいてもらう時に、『ダイアさんは魔法を使う素質があるみたいね』なんて言われても」
 よくわからなかった。と、ダリアは眉を下げた。
「何ができますかと聞かれて、『おうちのお手伝いをしてました』って言ったら、受付の青い髪のお姉ちゃんが、まずこの辺りからやってみましょーか。と言っってくれて、コゼットさんを呼んでくれました」
 今日、カウンターによってみようと思ってよかった。コゼットのミミがピルピル動いた。


 薄く薄く透けるベリーはたっぷり水けを含んでいて、そーっと触らないと甘酸っぱい汁を吹きだすのだ。取り扱いは、丁寧に。息をひそめて、丁寧に。
「――あたしはカオスシードだけど、お母さんはうさぎのブルーブラッドです。だからかな、コゼットさんはお母さんに似てます」
 ふわふわほわほわです。と、笑うダイアは、素直で好意を表すのに躊躇がない。ふっくらした頬や健やかな手足も、今まで贅沢したことはなくても飢えたこともないのだろう。
「そうなんだ」
 それで、ダイアが安心して甘えてくれるなら、ウサギのブルーブラッドでよかったかもしれない。
「それで。魔法使いになれそうだって。おうちの周りにはそういうの習えるところなかったからよくわかんないんですけど――」
 ぷちぷち。触れるか触れないかでほろほろと落ちてくる身を掌でそっと受け止めて、柔らかい布で裏張りした籠にそっと入れる。やさしく、やさしく。
「魔法――」
 コゼットが駆使するスキルは、動きの速さを利用した残像で人を惑わすもの。マナがどうたらこうたらはさっぱりわからないし、なんだか魔法もいろいろあるみたいなので、ダイアにどれが良さそうなのかわからない。
「えっと」
 だからって、わからない。で、済ませちゃだめだ。コゼットがいればだいじょうぶだと、コゼットが言ったのだ。
 コゼットだって、最初からソードミラージュのなんたるかを知っていたわけじゃない。
「ベリーを摘み終わったら、カウンターに持っていく。そうすると、お金と、スキルを教えてもらえるようになるよ。まずは簡単なのから。どういう魔法を使いたいか、考えよう。一緒に」
 今度魔法が使える誰かとお友達になれたら、魔法使いの初めはどうしたらいいのか聞いておかなくちゃ。コゼットは、ダリアの、お花を降らせたり、動物さんとお話ししたいという話にうんうん頷いた。
 そして、ふと気が付いた。
「ダイア、今日来た」
「はい」
「お誕生日」
「はい」
「おめでとう。お祝いをしなくちゃ」
 ケーキだ。それは、相談すれば誰か助けてくれる。
「帰ったら、急いで支度して、お祝いしよう」
 今頃、ダイアのふわふわほわほわのお母さんは娘がいなくなった。と、探しているだろうか。ダイアがどこから来たのか探してあげて、手紙を書いてすぐに送ってあげるといいかもしれない。ひょっとするとローレットに探してほしいと依頼が来るかもしれない。コゼットがダイアにしてあげられそうなことは考えたら結構あった。ので、口にしてみた。安心できるって大事なことだ。
「コゼットさん……」
 ふええ。と、ダイアと大きく息を吸った。途端にコロコロと目尻から涙の粒が転げ落ち丸い頬を濡らした。
「あたし、また、お家に帰れますか」
 お父さんとお母さんに会えますか。
「もちろん」
 だって、およその世界から来た人と違って、ダイヤはこの世界のヒトだから。
「いつだって、すぐに――送って行ってあげようか?」
 コゼットは、ダイアのほおをハンカチで拭いてあげた。自分の涙もぬぐえなかったのに、いつの間にかヒトの涙をぬぐえるようになっていた。
「ありがとうございます。あたし、がんばれそうです」
 その日、ダイアは、急ごしらえのバースデーケーキを前にありがとうを人生で一番たくさんいうことになった。


 それから、コゼットが依頼を済ませて戻ってくると、ダイアが出迎えてくれるようになった。
 ダイアは、ベリー摘みや小さな配達のような仕事をこなして、少しづつ魔法を学んでいると言った。
「うちの周りの町とか村の話をあたしの分かる範囲でお話したら、あたしの家、結構遠くって」
 子供の脚では数週間かかる。馬車を乗り継いでいくことになるが、道中に出てくる野獣、魔獣、夜盗をかんがえると中々過酷だ。報酬もらうまでが依頼です。の言葉が身に染みる。
「だから、お手紙を書いて、自分で帰れるくらいがんばったら帰ります。って。大きな街でお勉強してきますって書きました!」
 胸を張るダイアに、コゼットはおー。と小さく歓声を上げた。
「じゃあ、あたしが送るのは、なし……?」
 コゼットのお耳がへなへなっとなる。実は結構楽しみにしていた。
「ありです! ローレットでできたお姉ちゃんだってお父さんとお母さんに紹介します!」
 それで。と、ダイアは笑う。
「お父さんに靴を作ってもらいます。コゼットさんがビュンビュン走っても壊れない立派なのを作ってもらいます。それをプレゼントできるくらいになったら帰ります。だから、その時は一緒に来てくださいね」
 ダイアがギュッとコゼットの手を握った。
「うん……っ!」
 きゃーっと言って抱き合う二人を、通りがかりのローレット・イレギュラーズは微笑ましく見ていた。
「紹介したボクが言うのもなんですけど、姉妹みたいですね」
 でしょー? とわらう、ふわんふわんのダイアの髪に顔をうずめて、コゼットも、くふふと笑った。

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