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おともだちごっこ
登場人物一覧
ゆるやかに。
毒に墜ちるように。
じわりじわりと、侵食されるようなここち。
有るかも無いかもわからないその
枝分かれした先、にんげんの分子が大暴れ。
デオキシリボ核酸だとかいうよくわからないものの芽生え? 発芽?
笑わせてくれるな、我が身体は黒であり夢幻であり虚無である。
私の躰。愛を知った、宇宙よりも大きく美しい、この躰に、無限大の愛を詰め込もう。
嗚呼。ほら、美しいではないか。
どこかの妖精の母なる魔女がビビディ・バビディ・ブゥ! と唱えたのなら、我等『物語』――否。私は、えらぶねおてぷと唱えよう。
甘い甘いホイップの海。甘美な猛毒、耽美な悪夢。
夕餉はいつもどおりそれを食らい、私は生きている。生を感じている。私に命が? Nyahahahahahahahaha!!!
柔い温い胎内のようなベッドに墜ちて、まだ慣れぬ睡眠とやらを謳歌し貪ろうではないか。
嗚呼。にんげんとは、このように生きるのだろう?
ならば此れは正しい人間チックな行いであるし、素晴らしいことではないか。
傍らに散乱したホイップクリーム? 此れも芸術さ!
●だから眠りなんて嫌いなんだよばーかばーか
ぼくは最近同じ夢をみる。
婆やの入れたミルクティー、お気に入りの苺のタルト。
おひさまを吸い込んだみたいな、とびきりふかふかのベット。
ぜんぶぜんぶぼくのもの。愛されてるって、こういうこと。
嗚呼、これなら屹度、『彼女』もみとめてくれるだろう。
赤い三日月のきみ。いろとりどりの、とびっきりのパウダー、ルージュ、ファウンデーションを塗り重ねた、まさしく乙女(レディ)のきみ。
正直、はじめはぼくはこわいとおもった。だってぼくとは形が違うから。
だけど、一度聞いてみたんだ。
『きみはなに』って。
だって、悪夢を見るんだって思って寝るより、なかよしのともだちのとこへ行くって考えた方が、よりすばらしい夢になりそうじゃないか。
まさか意思疎通ができるなんて思ってなかったから、おねしょしそうになってたけどね。
だから今日もぼくは眠りにつく。
とびきりなかよしの、おめかしの上手なきみに会うために。
「私のところにまた来るとは、酔狂な奴め。貴様の顔もそろそろ見飽きた」
「ここはぼくの夢だよ。きみが勝手に来たんじゃないか」
「何? 愚かしいことを云うでないわ。私が他の男に往く等傲慢。空虚。大嘘である。何故なら私には――、」
「『最愛がいる』だっけ」
「ふむ、貴様物覚えがいいではないか。好い。忘れられるのは些か気に食わぬ。恐らくは。Nyahahahahahahahaha!!!」
「うっそれ耳キィンってするんだ、やめてよ」
「貴様の笑い声と同様のモノであるがゆえに、私は私を塞ぐようなことはしない。
私はにんげん。笑いたいときに笑うのがにんげんだと学んでいる」
「んー、まあそうなんだろうけど」
パジャマ姿。まっくらでまっくろな闇に内包された、赤い三日月のきみと、ぼく。
最初は怖かった此処も、今じゃぼくのお庭みたいなものなのかも。わかんないけどね。
「あっなんかここ、ぼこってしてる」
「それは私の臓器。触ることを貴様に許した覚えはない、退け」
「臓器ってのはもっとあかくて、うーん……きもちわるいものなんだよ」
「ふむ、聞こうか。否、貴様に拒否権など存在しない。語れ」
「うん。なんだかねえ、くだもののいちごみたいな……ざくろも、いいかもしれない。
ひとをころすひとがいてね。そのなかの、かわったひとは、それがみたかったりするみたい」
きみは三日月を浮かべたままだった。まだ足りないのかもしれない。
ぼくは唇の皮を剥いてみた。
「いてて……夢の中なのに、ここ、いたみがあるのって、やだよね。
これ、血。これがたくさんつまっててね、それがなんか、はたらくんだって」
ぼくは唇から血を指ですくって、三日月に向けて差し出した。
「……此れがにんげんの欠片。成程」
三日月のきみはふしぎな女の子。赤い三日月に声を宿して、そのすがたはみせてくれないのだ。
婆やにはなしても信じてもらえないんだ。『それは悪夢と呼ぶのですよ。友達になんてなれませんわ、坊ちゃま』って。
でもぼくら、ともだちだとおもってる。
それに、いつかきっと、このまっくろでまっくらなカーテンも、いつかとれると思ってたんだ。
だから、気付かなかった。
彼女はぼくのことをほんとうに、興味なんてもってなかったんだ、って。
「貴様を壊せば、私にも手に入れられる筈。まずは見て見なければなるまい。Nyahahahahahahahaha!!!」
ぐしゃり。