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愛と哀とアイ

登場人物一覧

ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)
永遠の少女



 ──さぁ、愛しいあなたに祝福を。
 あなたの物語を視せて頂戴な?





 ここは無辜なる混沌フーリッシュ・ケイオス海洋ネオ・フロンティア王国。
 自国の位置する周辺一帯の海を領海と定義し、周辺の諸島部を含めた王国。一番大きな中央島は温暖な気候と、大らかな国民性から他国のバカンスや観光地として例年この季節ならより一層活気立っている季節ではあるが……
 先の大号令、大海戦で国の国益は大打撃。現在は復興すべくと皆一丸になって取り組んでいる。
 それもその筈で、海洋国民にとってその大号令は国力の低い海洋王国が未踏領域である外洋『絶望の青』を超え、新天地に未来を託そうという特別な大事業であり、過去に幾度もの失敗を重ねながらも、未だ諦める事はない悲願中の悲願だったその海域を王国、そして特異運命座標イレギュラーズが集うギルド・ローレットの力を駆使し漸く突破出来たのだから。

 が、これはその少し前の話である。
「はぁ……皆お気楽なんだから……」
 そんな陽気な国とは裏腹に、深くため息を着く国民もままいる。
「何が大号令よ、馬鹿馬鹿しい……こっちは仕事を増やされてたまったもんじゃないのに……」
 冒険浪漫なんて平凡な私達一般人には関係ない。日々不満を抱え慢性的な虚無感を抱えた女性、シャーリー・ルーデラは今日もそう愚痴を零しながら朝市の準備に追われる。
「こんにちは、おねーさん?」
「えっ、あ?! い、いらっしゃいませ?!」
 突然現れた金髪の美少女にシャーリーは酷く驚いた。振り返った時にその少女は四肢と尾に青白い焔が宿した碧眼の白い狼と共に既にその場所に居たのだ、近づく気配を感じとれなかった彼女が驚くのも無理はないが。
「ふふふ……そんなに驚かせちゃった? ごめんなさい?」
「いえ、準備をしていたものだから……こっちこそ気づかなくてごめんね……」
 シャーリーは相手がだと知ると低い姿勢になり、目線を合わせる。
「えっと……お探しのものはあるかな? ここは海洋各地域の茶葉を集めたお店だけど……」
 子供がお茶を嗜む姿への想像に欠けるシャーリーが少女にそう尋ねる。その姿勢に少女はにこやかなままで
「ふふふ、私はこう見えてもお茶が大好きなの。特に誰かと飲むお茶はね! と楽しむお茶会なんて……とっても素敵な時間なの!」
「なるほど、そうなんだね!」
 きっとお茶好きの父親の影響でお茶が好きな子なのだろう。シャーリーはそう思いながら少女にお勧めの茶葉を探し始めてみる。
「じゃあこれなんかどう? 海洋の市場でもちょっと珍しんだけど、甘めのお茶でね」
「あらまぁ! とっても素敵! 是非飲んでみたいわ!」
「え?」
 少女の喜びようにシャーリーは少し驚いた。これまで彼女は見立てが悪いのか、いつも『そういうのじゃない』『ちょっと違うんだよね』『本当にそう思う?』と言った意見が多かった為だ。
「どうしたの? オススメなのよね? どこかで試飲出来る場所はない……?」
「え? ああ、じゃあ、こっちで……っ」
 少女の言葉の通りにと試飲出来るスペースへと移動し、その茶葉で紅茶を淹れる準備をし始める。その間も少女はとても楽しみにしてくれているのか、ニコニコと笑顔を絶やさず白狼と戯れていた。
(こんな私にせっかくチャンスをくれたんだもの、子供とは言えちゃんと美味しく淹れなきゃ……)
 少女の様子を見てシャーリーは自分の持てる技術を駆使し、客人への一杯を注いだ。

「お待たせしましたっと、お口に合うといいんだけど……」
「ふふ、どうもありがとう! 早速頂くわ!」
 ああ、この子はな笑顔を浮かべてくれるな。こっちまで笑みが溢れてしまう、さっきまで心は荒みきっていたのに……少女の微笑みは不思議で。
 シャーリーがそう少女をジッと見ていれば、カタとカップを置く微かな音が聞こえた。
「確かに甘いお茶……不思議な味ね。香りも豊かで……美味しいわ、とっても!」
「ほ、本当?」
 言われた事がない、と言うと少し違うがこうして素直に褒められたのは初めてで、シャーリーは目を見開いて驚いたと同時に、嬉しさで先程よりも笑顔が花咲いた。
「可愛らしい人、さっきまでの不貞腐れより、素敵な笑顔のままがいいわよ!」
「私が……素敵?」
 初めて言われた。ただそれだけで。シャーリーの世界は一気に変化を見せ始める。
「ええ、そうよ。ねぇ、あなたの名前はなあに? またこのお茶が飲みたいの。だから……また会う為に、あなたの名前が知りたいのよ」
「……そんな事言われたの初めてよ」
 ああ、何だこの少女は。なんて良い子で、愛らしい子なんだろうか。
「私の名前はシャーリー・ルーデラ」
「シャーリーね! 私の名前はルミエール・ローズブレイドよ!」
 些細な会話、茶売りと客人として少しだけ言葉を交わした。

 ──それがシャーリーと『永遠の少女』ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)との出会いだった。





 あれからと言うもの、ルミエールはシャーリーの店に時間を作っては来てくれた。
「シャーリー!」
「ルミエール、いらっしゃい!」
 二人は仲睦まじい姉妹のように親睦を深めた。一方は女性、一方は少女……あまりにも不思議な組み合わせだが、周囲はシャーリーの妹かなにかだと思っているのか現時点では特になんとも思われていない。
「今日はね、新しく仕入れたお茶があるの!」
「ほんと? 楽しみね」
 拒む事なく、寧ろにこやかにすら答えるルミエールに、シャーリーはホッと胸をなでおろしてお茶の支度を始める。
 最近ではそれがお決まりの流れで、シャーリーのお茶を淹れる腕も段々と磨きがかかってきていた。
「はい、南の地域で採れた茶葉なんだけど、口当たりも良くてまろやかなのよ」
「そうなのね、頂くわ」
 もうここ暫く何度も聞いた言葉でも今日は調子が悪ければ聞けないかもしれないし、といつもこの瞬間は緊張する。相手は少女だと言うのに、シャーリーはすっかりルミエールの言葉が気になって仕方ない。けれどでもどこかでだとも、どこか思っていて。
「ああ、確かに美味しいお茶ね」
 だからにこやかでもどこか反応が薄いとドクリと鼓動が高鳴った。
「え、ぁ……ま、まだあるのよ」
 そうだ、私にはまだまだある。伊達に茶店で茶の商売はしてない、自分なりに培ってきたノウハウをフル活用して……ついつい高価な茶葉にも手を出し始めて……。
「ルミエール、あなたの為に最高の一杯を淹れるわ……」
 だから、その微笑みを絶やさないで欲しい。シャーリーは一人の少女の笑顔が見たいが為に、少しずつ……少しずつ……。
「……シャーリー」
「ルミエール……?」
 そんなシャーリーに対して、ルミエールはその人懐っこい笑みで彼女の手を両手で優しく握った。
「シャーリー、あなたはとっても素敵なお茶を入れてくれてるわ? 私はどんなお茶でもシャーリーが入れてくれたなら、とっても好きなの!」
 まるで砂糖菓子のような甘い言葉は、焦るシャーリーの心すらもどこか安らぎを与えているようで、見透かされているようで。
「本当? そうだったら私も嬉しい!」
(喜んでくれてた、喜んでくれてた! ならもっと、もっといいものを……)
 甘い言葉に酔いしれるシャーリーは狂気に足をつけ始めているかのように、静かに静かに心は荒んでいった。





「ねぇ、シャーリー。最近あなた変よ」
「え?」
 それは友人に唐突に言い放たれた言葉だった。
「あの女の子と話すようになってからずっとあの子と話してるし、あの子以外とはそうしてお茶ばかり淹れてるじゃない」
「だって……だってルミエール様にもっと……」
「ルミエール様……? なんであの女の子のこと……様付けなんか……」
「ルミエール様は……ルミエール様よ!」
「シャーリー!」
 つい数ヶ月前までは普通の……ただ慢性的な虚無感を抱えた成人女性なだけだったはずなのに。シャーリーの変わり果てた姿にその友人は寂しさと切なさを含む眼差しで、彼女が勢いよく出て行った扉を見つめた。
(なんで、なんで? 私はただルミエール様に笑って……褒めて欲しいだけなのに……!)
 あの甘美な……甘えるような、そんな、そんな微笑みが愛らしくて、愛らしくて、愛らしくて! あの笑顔の為ならば、何だってしてあげたいと思うのは、異常なことなのだろうか……?
 ──そう例えば
「……あった」
 その手を黒く染められることすらも、異常なことなのだろうか……?

「今日のシャーリーが淹れてくれたお茶、いつものよりいい香りね」
「そうでしょう? ルミエール様に是非飲んで欲しくて……茶葉市場でも幻と呼ばれる代物なんですよ」
「へぇ……そうなの」
 今日もいつもの場所で、いつものようにルミエールとお茶の時間を楽しむ。なんてなんて素敵な時間なのだろうか。
「シャーリー・ルーデラ!!」
「?!」
 突如聞こえてきた怒号のような声に、シャーリーはドクリと鼓動を震わせた。
「シャーリー・ルーデラは私ですが……」
「お前か、窃盗の疑いで逮捕状が出ている。同行してもらおうか」
「え……?」
 窃盗? と、シャーリーは何のことだかわからない様子だった。
「ま、待って? どうして……何を盗んだと……!」
「その茶葉が証拠だろう」
「え、あ、ぇ……?」
 シャーリーにとってそれはだった。そう、思い込んでいたものだった。
「ほら行くぞ!」
「待って……ルミエール様……ルミエール様……!!」
 だが狂った女の叫びを聞いても、ルミエールの微笑みが崩れることはなかった。



「へぇ……そんなことがあったんだねぇ」
「そうなの、シャーリーはそのまま、罪を認めず牢屋の中に連れていかれてしまったわ」
 父様に話すルミエールは、まるで自分が聞いた素敵な物語を親へ聞かせる子供のようで。微笑みすら浮かべていた。



 ──これは愛と哀とアイ狂気のお話。

  • 愛と哀とアイ完了
  • NM名月熾
  • 種別SS
  • 納品日2020年07月21日
  • ・ルミエール・ローズブレイド(p3p002902

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