PandoraPartyProject

SS詳細

風鐘の鳴る方へ

登場人物一覧

月待 真那(p3p008312)
はらぺこフレンズ
真道 陽往(p3p008778)
双銃の狼

●Beginners Good Rack!
 真那が駆けるように足元を抉る。
 鉛の雨は敵を怯えさせるに十分だ。
 鮮烈なまでの鉛の豪雨は敵を否が応でも駆け回らせる。
 その敵の眉間を、鋭く、狙い、

 たかった。

 トリガーに指をかけ、引く。
 ことができない。
 空中で照射を合わせているため、撃てないとなれば墜落あるのみ。
「ッあ、ってぇ!?」
 落ちる、落ちる、墜ちる。
 尻をぶつけるのは確実だろう。打撲は避けられるだろうか?
 しかし、そんなことよりも陽往の脳を、思考を埋めたのは、相棒――父より譲り受けたナイトブラットとカーマインクロウが応じなかった。
 それは、陽往にとって強いショックを与えることだった。
 陽往の父は村を守るため、戦死している。運悪く幼い子供を連れている時に魔物に腹を穿たれ、そのまま息を引き取ったのだ。
 子供を庇ったと聞いている。どうして、とかなんで父さんが、とか。色々考えはしたのだけれど、それでも人を守った父は偉大であろう。
 悲しみよりも、お疲れ様が大きかった。
 そんな父親の背中は幼かった陽往の記憶に色濃く残っている。
 ヒーローと呼ぶにふさわしい。父への経緯も、あこがれも、まだ強く胸を焦がしていた。
 そんな父の形見であり、遺品である二丁の拳銃が、応えてくれなかった。
 どうして。
 俺じゃ、だめなのか。
 やっぱり、強くないから。
 父さんじゃないから。
 そんな苦い気持ちが、じわりじわりと侵食して。
 だから、足元で牙を出す魔物に気付くことができなかった。
 それに先に気が付いたのは真那だった。
 強く強く声を張り上げて、銃を構える。
「ちょ、ま、ハルっ、余所見あかん、前見ぃや!」
「っあ、あ、うわ――っ?!!」
 バァン、バァン。
 乱暴な銃声。不必要な弾丸。空の薬莢が落ちる。
 魔物は逃げて行った。
 しかし、二人の顔は驚きと困惑と、そしてとくに『ハル』とよばれた少年――陽往は、その表情に死への恐怖も浮かべていた。
 普段ならこんな失態を侵す彼ではない。
「ハル、どうしたん? 足滑らした?」
「いや……親父の銃が、撃てなかった」
「え?」
「引き金が硬くなってて、それで俺、びっくりしてさ。
 だってさっきまで撃ててたんだぜ? メンテだってしっかりやってたのにさ。
 こんなの、神様が俺に銃なんて使えねえって言ってるみたいじゃん……」
「ハル……」
 腰を抜かしたまま座り込んで、銃を見つめたまま自虐したように笑う陽往。
 初めて見た、陽往の姿。
 珍しく後ろ向きな姿に、真那もつられて不安になってしまう。
「俺、……しばらく、剣使うわ」
「ハルの剣使ってるとこ、私みたことないんやけど……」
 『一日二日じゃ危ないやろ、私も練習しよっかなあ』なんてやけに声を張り上げて、気遣うように告げてみる。
「……俺、剣とか槍とか斧なら、余裕もって使える」
 珍しく冷めたトーンで告げた陽往に、真那は一層の不安を覚えたのだった。

●Conflict boy
 その日の陽往はずっと上の空だった。
 道端の石や雑草に足を取られては躓き転んだり。
 前から駆けてきた子供にぶつかられてもいつものように『次は気を付けるんだぞー?』という優しい注意をすることもなく『……悪い、よそ見してた』とぼんやり返すだけ。
 挙句の果てには、
「あ、なーなーハル、ご飯食べにいこ。お腹すいたやろ~?」
「悪い、俺今日腹減ってねえからひとりで行ってくれ。じいちゃんに宜しく言っといて……」
 しょげて。凹んで。
 がっくりと肩を落として。情けないほどに背を丸めて。
 『ヒーローに見えるだろ?』と好んで纏っていた赤いパーカーが情けなく土で汚れていた。

「ってことで、作戦会議やでほんま」
「なぜわしらを巻き込む」
 場所は変わり喜々一発。
 二人の行きつけである食事処だ。
 店主であり、真那からは『おじちゃん』、陽往からは『じいちゃん』と呼ばれているこの老人。
 冷静なツッコミが炸裂した。
 実際、『おや、今日は陽往はいないのか』と興味本位で聞いたのがよくなかった。
「おじちゃん聞いてや……今日はもうめっちゃ食べるから。
 狼定食、ハンバーグ、あとうどんとコロッケとコーラ……」
 みるみる顔を青くし、冷蔵庫の残りを確認した店主。真那は毎度のことながら目もくれず、事の発端を抑揚ある語り口で話していた。
 そして今はうどんを啜っている最中である。
「……まあでも。愛用しておったのなら、突然使えなくなる、というのは。
 相当にショックじゃろうて……しかも父親からの遺品ともなれば、なお一層じゃろうなあ」
 顎を掻きながら、真那の前に団子を置いて。真那は首を傾げた。
「おじちゃん、私今日は団子頼んでへんで? もうボケてきた……?」
「煽っとるのか? お? ……というのは置いておいてじゃな。
 これをやるから、わしのアイデアに乗る気はないか?」
「うーん。メリットは?」
「一週間団子を10本で無料サービスじゃ」
「乗った」
「即決か。わしは――、」
 店主が語ったアイデア。
 真那は目を輝かせ頷くと、勢いよく店を飛び出した。

●"Blessings and gifts"
「俺腹減ってねえんだよ……」
 些か不愉快そうに、けれどそれは八つ当たりだと自覚しているので眉を顰めるだけに辛うじて留めた陽往。
 店主がラーメンと焼き鳥を置く。アンバランスな上に栄養はフル無視な、陽往のお気に入りメニューである。
「ていうか、真那は?
 俺を呼んだのはあいつなのに、あいつが居ねえなら俺だっている意味ないだろ……」
 不貞腐れたようにラーメンを啜る陽往。『喜々一発に集合、これ命令やから、拒否権ないから』と告げて駆けて行った真那に事情を聴くべく喜々一発にやってきた陽往。
「おっまたせーッ!」
 ガラガラガラ、と真那が息切れしながら扉を開けた。
「あったか?」
「奮発したわ!」
「……団子20本に追加じゃな」
 ぼそりと呟いた店主とはしゃぐ真那の様子に着いて行けず、陽往は首を傾げた。
「……帰っていいか」
「あかん。私、ハルにプレゼントがあるんやから」
 笑顔で拒否。
 料理を避け、両腕に抱えた箱を陽往の前に置いた真那。
「開けてみて」
 にっこりと、得意げに。宝物を自慢するような表情で笑う真那にしぶしぶ頷いて陽往は箱を開けた。

「……え?」
「プレゼントや!」

 にいっと笑う真那。
 それぞれ箱の中には新たな拳銃が収まっていた。
「そっちがヴァナルガンドでこっちがフローズヴィトニル。
 私が混沌中駆けまわって選んだ最高の二丁やで」
 えっへんと胸を張る真那に、首を横に振る陽往。
「受け取れねえよ……だって、」
「……真那から話を聞いての。わしは思ったんじゃよ。
 お父さんが、『自分の道を選べ』って、陽往に言ってるんじゃないかってのう」
 言葉足らずな真那に代わって店主が告げた。
 続けて真那も。
「『わしは、陽往のお父さんが、陽往がずっと村に居るのを望んでいる訳じゃあないと思うんじゃ。
 だから、これをきっかけに外に出てほしいんじゃないかと思うのじゃ』て」
 店主が先程真那に告げた言葉を復唱する。
 陽往は、震える手で拳銃を握った。
「……そっか。ありがとう、じいちゃん、真那」
 その声は、どこかすっきりしたような。そんな声だった。

「俺……また頑張るよ」
 
 そう告げ笑った陽往の姿は、気が付くと喜々一発から消えていた。

●Beginning bell
「え……喜々一発は?」

 目を、開ければ。
 そこに広がっていたのは、夢のような景色だった。
『神託の少女――ざんげちゃんって言うんやけど。そのざんげちゃんがいるところが、空の上にある空中神殿。
 特異運命座標イレギュラーズと偶然の“バグ”でしか立ち入れへん場所らしくってさぁ――、』
 混沌の大陸の上に浮かんだ、特異運命座標イレギュラーズたちが召喚される最初の場所とされるそこ。
 かつて真那が、陽往に語ったのと同じ。
 そこにあったのは、名も知らぬ草や花、そして石レンガ。
 それから、神託の少女だけだった。
 憧れが、現実になったと知った。
 現実が、優しくないことは知っていた。
 獣や魔物がふるさとである村を襲ったから。
 生きているうちに叶うかもわからない、遥かとおくの夢を見ていたから。

 だから。

 少女の黒髪が風に攫われて。そんなありふれたような、当たり前の光景にすら、息をするのが躊躇われた。
 バグだ、と真那は教えてくれた。
 なら、こんな運命のバグ、あってもいのだろうか。
 夢がこんなにも突然、叶ってもいいのだろうか。
 神様とは、なんと意地悪で気まぐれで、お茶目なのだろう!

「っ、ああ、」

 声が、震えた。
 きゅう、と喉が絞まる。声にするのも躊躇われた。
 それでも。口にしなければ、実感するのなんてさらに先になってしまいそうで、だから。
 上擦って、震えて、思い返せば情けない声だったけれど。

「嘘だろ、」


 でも。
 それはきっと、とびっきり幸せで、とびっきりの魔法みたいな。
 憧れを現実に変えた。
 そんな、一声。

「俺も、ッ、……っ特異運命座標イレギュラーズに、なった……?」

 快晴。空の青。空を往く鳥の声。降り注ぐ太陽のひかり。
 待ちわびた、日。
 それはあまりにも突然で、まさに“バグ”のようなもので。
 けれどそんな運命バグは、とっておきのプレゼントのようにすら思えた。

 懐には砂漠の鷲を意味するデザートイーグルが二丁。
 真那からもらったそれは、その日のうちに使われることになるのかもしれない。
 この銃が運命バグを運んでくれたのかもしれない。
 そっと二丁に触れながら、陽往は一歩踏み出した。

 それは、始まりの日。
 それは、踏み出した日。
 始まりの鐘がとおく、とおく。鳴り響く。
 高らかに。朗らかに。空を駆け巡る。
 爽やかな夏の風が吹いた。
 それは、少年の背中を押すように、涼やかに吹き抜けた。

 少年は、その足を、一歩、

  • 風鐘の鳴る方へ完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2020年07月23日
  • ・月待 真那(p3p008312
    ・真道 陽往(p3p008778

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