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Chess is 99 percent tactics

登場人物一覧

ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌



 月が美しく窓に映る幻想レガド・イルシオンの夜。
 『協調の白薔薇』ラクリマ・イース(p3p004247)はとある依頼で一人ある貴族の屋敷へ訪れていた。無辜なる混沌フーリッシュ・ケイオスでも最も長い伝統を誇る大国の中でも、それなりに由緒ある一族とされている貴族だ。それだけにこの広い応接室の中だけでも高価そうな調度品がいくつも飾られていた。
「この度は話し合いの場を設けて頂きありがとうございます」
「いや、君達特異運命座標イレギュラーズが所属するローレットからの派遣なら造作もないよ。……それに」
 貴族の男性はラクリマの頭から足元まで舐めるようにじろりじろりと見て、静かにニヤリと笑った。
「……派遣の希望を出した綺麗な君が来てくれて嬉しいよ」
「……俺は男ですが」
「綺麗に性別は関係ないよ」
「はぁ……それで要件についてなんですが」
 その白い肌にほんのり鳥肌が立つ。
 いや、今はその時ではないとラクリマは咳払いをして冷静に話題を変えた。
「ああ、そうだね、確か情報が欲しいんだったかな? じゃあ少しゲームに付き合ってくれないかい?」
「ゲーム、ですか?」
 ラクリマが聞き返せば貴族は使用人に合図を送り、運び込まれたのは美しい硝子のチェス盤とチェス駒。
「事前に君はチェスが出来ると情報があってね、だから君に来てもらったのもあるんだ。……正直この家の者ではもう私を満足させてくれる者が居なくてね。これに勝ったら望みの情報を提供しよう」
「……どこの情報かはわかりませんが、そう言う事でしたらお相手致しましょう。ちなみに、あなたが勝った場合は?」
「私がかい? 随分余裕があるんだねぇ……じゃあ例えば君はどんなものなら私の持ってる情報と釣り合うと思う?」
 不気味に微笑む貴族を前にラクリマは思考を巡らせる。チェスの腕には彼なりに自負していて、その自信に恥じなず尚且つ貴族の望むとなるもの。
「であれば、あなたが勝った際は何でも言う事をお聞きしましょう」
 この下品な笑みを浮かべる貴族が求める答えは、きっとこんな品のないものだ。
「……ははは、君、わかってるね? ならばよろしい、それで勝負をしよう。……今からとても楽しみだよ」
 二言は受け付けないからね? と念押しし最早勝ち誇っている様子の貴族に、ラクリマは微笑みを作りながら静かに頷いた。





 コツ、コツ、静かな部屋に響く駒を動かす音。優勢に立っているのは現時点では貴族、それでもラクリマは冷静に駒を動かした。
「そろそろどんな事をして貰うか考えていてもいいかな? ふふふ」
 優雅で静かな空間をぶち壊すように、自分が優勢に立っている事から貴族は次第に下品な口を開き始める。
「そうだなぁ……君は綺麗な見てくれだから女装させても映えるだろうねぇ……」
 それからそれからと貴族の口は止まらない。が、ラクリマは集中しているのか、変質的な内容であってもその長耳がピクリと動く事もなかった。
「君は幻想種ハーモニアだし、奴隷として買うのもいいかなぁ……ああ! 痛い事は勿論しないよ、もし痛くなってしまったとしてもそれは首輪や手錠をする程度さ!」
 安心してね、と微笑む貴族の顔は最早見れたものではない。下品で嫌悪感でどうしようも無い……クズの顔だ。
 だが仮にも彼には情報を持っていると言う一枚上手な面がある。幻想種を侮辱する言動にピクリと反応しそうになったが、どうやら貴族はそれに気づいていないようで少しばかり安堵する。
「もう少し楽しめると思っていたんだけど……口だけだったのかなぁ?」
 正直残念だよ、とヤレヤレと肩を竦め始める貴族。
(……なるほど、チェスの腕もちゃんと期待されていたのですね。……ならばそろそろ気の入れ時かもしれません)
 ラクリマは貴族の挑発に少しばかり乗ってみようと駒を進めた。
「お、そこに置いたか。なるほどなるほど、じゃあ勝負はまだまだわからないかな?」
 楽しげな声色にラクリマはため息が漏れそうになる。正直言えばこの貴族の腕前は彼に遠く及ばない。故にこれはラクリマが貴族へかなり譲歩をしている事になるのだが、貴族は余程の自信があったのか自分が優勢である事を信じて疑っていないらしい。
(馬鹿で弱い貴族を相手にするのも苦労しますよ)
 綺麗な顔で微笑みながらラクリマは毒の花を心に咲かせる。だからと言って手加減をし過ぎて負けてしまうのは格好が悪いし、何よりも何を要求されるかたまったものではない。
 さてはて、お遊びはそろそろこの辺りでいいだろうか。それとももう少し遊ぶべきか……悩ましげにどう煮て焼いてやろうかと考えていれば。
「それにしてもその若さでチェスが出来るなんて凄いねぇ……感心するよ」
「……若さ、ですか?」
「だってそうだろう? 私より幼く見えるしハタチなりたてかな?」
 ハハハ! と笑う貴族に対してその長耳がピクリと動き、ラクリマは駒を打つ手を止めた。





「えっ、あ、う、嘘だろう?!」
「はい、次はあなたの番ですよ」
 青ざめる貴族とは裏腹に清々しい程に爽やかな笑みで駒を進めるラクリマ。
 形勢逆転、ラクリマが大きく優勢していた。
 彼は当然の結果としていたが、貴族の方はいきなり劣勢になり酷く慌てた様子である。
「そんな馬鹿な……くっ、こんな偶然の展開……っ!」
 ……偶然ではないのだが、貴族はこんな事も予想していなかったのか段々とどう進めるか考える時間が増えてくる。
「そんなに焦らずとも、俺如きに造作もないのでしょう?」
「し、ししし、静かにしたまえ! 手元が狂ってしまう!」
 親指を噛んでチェス盤を見る貴族の顔に、ラクリマは静かに微笑む。
(ふふふ……楽しいですねぇ)
 しかし考えている事はやはり毒の花の如くだ。

 ──カツン
「チェックメイト、になりますかね?」
「な!!」
 じわりと進めていたラクリマの駒はそうしてあっさりとチェックメイトを決める。
 貴族はまるで信じられないと言いたげにチェス盤を覗き込んで
「……サマだ」
「?」
「イカサマだ!! もう一度勝負しろ!!」
「はぁ」
 貴族は声を震わせてそう叫ぶ。
 こんな貴族だから言う事はわかりきっていた。だからこそラクリマは落胆のため息を……今度は隠さずに吐いた。
「構いません、何度でも。……それであなたの気が済むのなら」
 何度も負けたいとは気が知れないが、この敗北に納得出来ないのなら致し方ない。
 今度は遊ぶ事なく本気で、ラクリマはそう駒を取った。

「何故だ……何故だ?! 優勢にすら立てなくなったぞ?!」
「最初の勢いはどうしたんですか? さぁあなたの番ですよ」
「んぐぬぬ……」
 悔しそうに、惨めそうに、貴族は酷い声で唸る。こうして彼の異常に高かった自信もプライドもチェスゲームでズタボロにしていく。
「はい、チェックメイト。これで何回目でしょうか」
 くすりと微笑むラクリマはもう、意地悪い表情を浮かべていた。
「くっ……君、本当は強かったんだね?! 実力を隠して私を弄ぶなんて卑劣だよ!!」
「……卑劣なんて悲しいです。Chess is 99 percent tactics……それでは情報を頂きましょう」
「……今なんて言ったんだ?」
 幻想では聞きなれない言葉に貴族はただただ呆然とするばかりだったが、勝敗が決まった以上情報を提供する他なかった。




──Chess is 99 percent tactics.チェスは99%戦略だ。

  • Chess is 99 percent tactics完了
  • NM名月熾
  • 種別SS
  • 納品日2020年07月17日
  • ・ラクリマ・イース(p3p004247

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