SS詳細
魔法騎士セララ 第一巻『セララとフシギな十二聖石』
登場人物一覧
きらきら光るお星様みたいだった。
遠い宇宙からやってきた、十二の色をした綺麗な宝石が、そのうちのひとつが強く自分を呼んでいた。
――みつけて。みつけて。ぼくを、みつけて。
心に直接響いた声に応えるように、手を。
「むはっ!」
枕を抱きしめたまま目を覚ました少女。
部屋は白とピンクで整った可愛らしい子供部屋だった。
窓際に吊るしたクリスタルボールが朝陽を反射して部屋にプリズムの光を散らしている。
「セララー、ごはんよー!」
部屋の扉越し。階段を通じた下の階から聞こえるような遠い声に、少女セララは目をこすりながら身体を起こした。
ひつじさんの目覚まし時計はぴこぴこと可愛いアラーム音を鳴らしていた。
スイッチを押してアラームを止め。背伸びをして大きくあくびをする。
「なんだったんだろ、いまの」
――魔法騎士セララOPテーマ『ドキドキの魔法』とスタッフクレジットをお楽しみください。
『私セララ、小学五年生!』
モノローグをよそに、セララはハート型のホイップクリームがのせられたパンケーキをもふもふ食べると、『カフェセブンスレイ』と書かれたエプロンをしたパパがにっこりと笑ってフライパンを翳した。
『家は秋葉原のカフェ! 一見ごく普通の女の子だけど、ホントは……』
ピピピ、とセララがランドセルに入れていた子供向けタブレットブックがアラームを鳴らした。
慌ててパンケーキを喉に詰まらせオレンジジュースで流し込むと、セララはタブレットを引っ張り出す。
「大変! ダークネス反応だ!」
「セララ? どうかしたの?」
化粧をしながら顔を出すママに手を振ると、セララは朝ご飯を手早く食べおえて家を飛び出した。
「『ダークデリバリー』たちがまた暴れてるみたい。行ってくるね!」
いってらっしゃーいというパパとママの声に後押しされて、セララは通路をダッシュ。非常扉を開け放つ。
秋葉原電気街の朝。雑居ビル五階の非常階段へと躍り出ると激しい風がセララを迎えた。
靡く髪をそのままに、セララは助走をつける。
ポケットから取り出したカードを返すと、そこには『魔法騎士』の絵が描かれていた。
「インストール! マジックナイト!」
飛び上がったセララの姿はたちまち西洋風のマントとシャツ、そしてスカートによる魔法騎士モードへとチェンジした。
魔法の靴が光の翼を広げ、セララは秋葉原の空へと舞い上がる。
秋葉原電気街アニメショップ。
「ククク、お前たちに明日はない。万引き居座りクレーム地獄。果てはアニメを違法にアップロードしてお前たちの仕事を邪魔してくれる。それが嫌なら我がダークデリバリーの配下に入るのだ!」
覆面を被ったオトナたちが入荷作業中の店員たちを取り囲む。
指揮しているのは悪の魔法を受けて変身した怪人、ダークネスラジカセだ。
「まちなさーい!」
「ムッ、その声は!?」
天から響く声に振り返るダークネスラジカセ。
「魔法騎士セララか!」
「ダークデリバリー、町に悪意を運ぶのは許さないよ!」
光の翼を畳んで着地するセララ。
と同時に、彼女を中心に魔法のフィールドが広がった。
平行世界を利用したこの魔法結界は周囲の風景はそのままに、戦うべき敵と自分だけを移したバトルフィールドなのだ。
「輝く魔法とみんなの笑顔! 魔法騎士セララ――参上!」
「小癪な、やってしまえダークウーバー!」
「「ウバー!」」
覆面を被った男たちが警棒を振りかざし、セララをぐるりと取り囲む。
「負けないんだから――来て、ラグナロク!」
セララが天空に手を翳すと、魔法のゲートが開いて美しい剣が舞い降りた。
それをキャッチし、頭を狙って正面から打ち込まれたダークウーバーの警棒を打ち払う。
返す刀で反転し、背後から殴りかかるダークウーバーへ斬撃。
魔法の力を剣に溜め、両手でしっかりと握り込んだ。
「えいっ!」
「「ウバー!?」」
豪快な回転斬り。
ダークウーバーたちは一斉に切り払われ、路上に転がってぽしゅんと消えてしまった。
「おのれ魔法騎士セララめ……ならばこの私が相手だ!」
ダークネスラジカセは再生ボタンを押し込むと、激しい騒音を鳴らしてセララへと浴びせかけた。
「うわわっ! 耳がとれちゃいそうなくらいうるさい……!」
思わず耳を塞ぐセララ。
対してダークネスラジカセはリズミカルに踊りながら音量を上げ、セララにさらなる騒音攻撃を浴びせていく。
「くっくっく、どうする魔法騎士セララよ。降参するなら今のうちだぞ?」
「攻撃したいけど音がうるさくて……そうだ!」
セララはヒツジさん型の耳栓をぽふっと装着すると、新しいカードを取り出した。
「インストール、フラワーショップ!」
たちまちお花屋さんの姿に変身したセララは、魔法のじょうろでダークネスラジカセに水をふりかけた。
「ぐわああ!? なんてことをするんだ! 電子機器は水に弱いんだぞ!」
「いまだー! インストール、フェニックス!」
セララにフェニックスの力が宿り、真っ赤なスーパー魔法騎士ルックへと変身する。
「セララストラッシュ!」
剣に集めた魔法の力が大きな大きな炎となり、ショートしてばちばちいってるダークネスラジカセへと振り込まれた。
「ぬ、ぬわあ!? 電化製品を捨てるときは、粗大ゴミにーーーー!!」
真っ二つに切り裂かれ、爆発四散するダークネスラジカセ。
「正義は勝つ! のだ!」
ブイサインをしてにかっと笑うセララに、アニメショップの店員がひょっこりと顔を出した。
「いやあ、助かったよ。おかげで今朝の陳列に間に合いそうだ。はいこれ、お礼と言ってはなんだけど」
アニメDVDを差し出され、セララはありがとうと言ってそれを受け取った。
「ところで……学校は大丈夫なのかい?」
「あっ……! しまった! 学校遅刻しちゃう!」
セララは慌てた様子で鞄を掴み、学校へと走り出した。
なんてことのないいつもの日々。
秋葉原を守る『魔法少女』セララの日常。
悪の組織をやっつけて、学校にいって、放課後は友達と遊んで……。
いつものようにやってきた夜。セララは窓から空を眺めていた。
タブレットPCには『今夜は奇跡的な流星群! 夏の大三角形から流れる星を目撃しよう!』という見出しのニュースが表示され、セララも世の例に漏れずブランケットを被って星が流れるのを待っているのだ。
「あっ、動いた!」
空に光る星。
流れる星。
「すごい、流れ星だ! わっ、お願い事しなきゃ。えっと、ドーナツ沢山食べられますように……!」
手を合わせてお祈りしている、と。
タブレットが激しいアラームを鳴り響かせた。
ハッとして手に取ると。
「ダークネス反応!? こんなに沢山いっぺんに、なんで!?」
こうしちゃいられない! 窓から飛び出そうとすると、空がカッと光り輝いた。
「わわっ……!?」
光は爆発したように十二個の光に砕けると、秋葉原の町のあちこちへと散り、ズドンという激しい音を響かせた。
熱。衝撃。窓から飛び退きベッドに倒れたセララは、きーんとした耳鳴りの中でタブレットのアラームを聞き取った。
手探りするようにタブレットを引き寄せると、ダークネス反応を示すアイコンが一度に十二箇所も現われていた。
「……い、行かなきゃ!」
ポケットから魔法騎士のカードを取り出し、セララは窓から飛び立った。
セララが向かったのは反応があったポイントのなかでも最も家に近いポイントだった。
「あれは……ダークネス雪だるま? 夏場になんで?」
大きなクレーターができた十字路の真ん中。
雪だるまに手足が生えたようなダークデリバリーの怪人『ダークネス雪だるま』が、何か光るものを拾い上げていた。
「ダークネス雪だるま! 夏に出てきてくれるのは涼しくていいけど、悪巧みならゆるさないよ!」
「おっと、魔法騎士セララか」
光るものを手の中で転がし、ダークネス雪だるまはセララへと振り返った。
「これがなんだかわかるかい? 『聖石』っていうのさ」
「せい……せき……?」
小首を傾げるセララの様子を見て、ダークネス雪だるまはけらけらと笑い始めた。
「どうやら何も知らないみたいだね。じゃあ特別に教えてあげるよ。
この年の夏、地球の秋葉原には十二個の聖石が降り注ぐという予言があったのさ。俺たちはそれを先回りして手に入れたってわけだよ」
「そんなのを手に入れてどうするつもり!?」
聖剣ラグナロクを呼び出し、突きつけるセララ。
だがダークネス雪だるまはけらけら笑う余裕を崩さなかった。
「わからないかい? 十二聖石をぜんぶ集めた者は、どんな願いだって叶う膨大な力が手に入るのさ! その一端を見せてあげるよ!」
ダークネス雪だるまは聖石を口に放り込み、ごくんと飲み込んでしまった。
するとどうだろうか。
セララより一回り大きいだけだったダークネス雪だるまがみるみる巨大化していき、ゲームセンタービルとならぶほどの巨体になってしまったではないか。
「わ、ちょっと! そんなの反則ー!」
「勝負だ魔法騎士セララ! もう夏の暑さにもお前の炎にだって負けないぜ!」
セララを踏みつつそうと足を振り上げる巨大ダークネス雪だるま。
その場から助走をつけてジャンプすると、靴から光の翼を広げて飛び出した。
さっきまでセララがいた場所がずずんと巨大な足で平らにされる。
「あんなのに当たったらひとたまりもないよ!」
「避けるな! 当たらないじゃないか!」
ぷんすかと怒りのマークを額に浮かべる巨大ダークネス雪だるま。今度は腕を振り上げると、ダークネス雪だるまを中心に飛び回るセララめがけて殴りかかった。
すんでのところでパンチを回避するが、拳がゲームセンタービルへとめり込んでいく。
特別なガラス張りエスカレーターが破壊され、階段パーツが飛び散っては道路へと落ちていった。
一方のセララは空中でくるくると姿勢制御をかけ、巨大ダークネス雪だるまの腕を駆け上る。
「インストール、チャイナコック!」
セララはチャイナドレスを着た中華料理屋さんの力をインストールすると、中華鍋から放つ炎をダークネス雪だるまに浴びせた。
だがしかし、大きな炎はダークネス雪だるまの表面を軽くなでるのみ。
「そんなっ」
「はっはっはー! 言ったはずだぜ、もうお前の炎には負けないってな!」
驚くセララを掴み取り、顔の前へともっていくダークネス雪だるま。
「捕まえたぞ魔法騎士セララ。聖石の力を前にしたら、おまえもそんなものだったってワケだね!」
さあ、どうしてくれようか!
ダークネス雪だるまはもがいて逃れようとするセララを両手でしっかりと握り込むと、ぐいぐいと力を入れていった。
苦しみに顔をしかめるセララ。
「このままじゃ……」
中華料理屋さんの火力はチャーハンをぱらぱらに炒められるほど強力だが、今のダークネス雪だるまを倒せるほどじゃない。
ならもっと強い炎がいる。
強い炎といえば……。
「雪だるま!」
「なに? いのちごい?」
「そうじゃないんだけど、折角こんなに大きくなったんだから足で踏みつぶしたほうが格好良くない?」
「……言われてみればそうかも」
よいしょ、といってダークネス雪だるまはセララを地面に置いた。
改めて足を振り上げ、踏みつぶそうと乗り出した――その瞬間。
「インストール、フェニックス!」
とっておきのカードから不死鳥の力が舞い上がり、セララへとインストールされた。
「セララ・フェニックス・スペシャル!!」
聖剣ラグナロクと共に聖剣ライトブリンガーが現われ、セララは自らを巨大な炎の鳥に変えて飛び立った。
巨大なダークネス雪だるまの足裏を、そして巨大なボディを、そして頭を、まとめて貫いて、セララははるか天空で炎を解いた。
「し、しまったあ……!?」
ぐずりと崩れ、爆発四散するダークネス雪だるま。
ターンして着地したセララの手元に、キラキラと光る石が吸い寄せられるように飛んできた。
「これは……聖石」
改めてタブレットを見てみると、沢山あったダークネス反応は消えている。
「こんな強い力をもったアイテム……悪い人たちの手には渡せないよね」
一方その頃。
結界の解けた秋葉原。雑居ビルビッグパイナップルの屋上にて。
「へぇ、やるじゃん……」
謎の影が、セララを見下ろしていた。