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猫と子猫のプレリュード
登場人物一覧
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少女は今日も一人。
わたしのなまえはクラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)といいます。
つい最近、お父様とお母様がいなくなりました。
みよりのなかったわたしは森を出て幻想に連れてこられました。
わたしを連れてきてくれたおとなはわたしにおしごとをくれました。
大きくないとはいえ教会をまかされたのです。だからわたしはきっとふこうではありません。教会ではたらくこと。おとなはそうやってわたしに『意味』を与えてくれました。お父様とお母様はいなくなってしまったけれど、わたしには意味があるのです。
わたしはまいにちのおしごとをこなします。そうしなくてはわたしの意味がなくなるからです。
おとなたちはやさしいです。わたしがおもいものをもてば、ちゃんとたすけてくれます。きっとわたしはふこうではないのです。
でも。
わたしはよるおふとんのなかでひとりです。
むかしはお父さんがとなりに。おかあさんが反対側で一緒に寝てくれたのです。
さびしいとはいえません。だっておとなにはわたしはいいこでなくてはならないのです。わがままはいえません。わがままなわたしにはおとなが求める意味がなくなってしまうからです。
涙がこぼれます。いまだけ、いまだけはゆるしてください。
ある日のことでした。
きょうのしあわせを神様に祈っておやすみしようとするところににゃあおにゃあおと細い声がきこえたのです。
その声はとても心細そうで。いってみればわたしがずっと我慢していた声をその存在はあげていたのです。
わたしはその存在を探しました。
いつ途絶えてしまうかもわからないほどの細い声。
にゃあお、にゃあお。
わたしはその声と邂逅します。まるで枯れ木のようにやせ細った子猫が息も絶え絶えにないていました。
灰色のそのいのちは懸命に懸命に助けをもとめていたのです。
わたしはそのいのちをだきしめます。
であえてよかった。ありがとう、神様。
小さないのちはわたしのうでのなかで震えていました。
わたしはいのちを連れて帰り看病します。
ミルクをあげたら嬉しそうにすこしだけ飲んでくれました。わたしはそのいのちを失うわけにはいかないとおもいやさしくだきしめて一緒に寝ました。
お父さんとお母さんがいなくなってから初めて一緒にベッドで眠る相手がいることに気づいたわたしはよりいっそうちいさないのちをだきしめます。
だいじょうぶですよ。こわくないです。
あさ、おとながきたとき、わたしはこのいのちがたすかる方法を訪ねました。
わたしがその子猫のために泣きそうな顔で訴えたことをたいそうびっくりしていましたが、優しく微笑んでお湯でうすめた温かいミルクをくださいました。
きゅうにミルクをあたえるのはきけんだとおとなはいいました。その言葉にどきりとしてすくむわたしをおとなはなでてくれました。
その手のひらが優しくて鼻の頭がつんとしましたが泣くわけにはいきません。
そのいのちはみるみるうちに元気になっていきました。
はいいろのねこだと思っていたのですが洗ってみたらまるで雪のようにまっしろな子でした。
よだんですが、体をあらったときいろんなところをひっかかかれました。
ほっぺが痛いです。
しろいねこはいつだって私のそばをはなれません。
わたしがこのこを飼うことをおとなにお願いしたら、思った以上に簡単に許可をしてくれました。
「あなたがクラリーチェに笑顔を取り戻してくれたのね。ありがとう。
えっと、クラリーチェ、この子の名前は?」
おとながわたしにたずねます。
「えっと」
そういえば名前を決めていませんでした。えっとえっと。
わたしはきょろきょろとあたりを見回します。
白いからミルク、ぴんときません。
スノウ。今の季節にはそぐいません。
シロ、なんだか簡単すぎる名前です。うーん、うーん。
ふと教会のはしにうえられていた白いパンジーが見えました。
「パンジー、パンジーちゃんです」
花言葉はあたたかいもの。それはこのいのちにたいそうぴったりな名前だとおもったのです。
「へえ、可愛らしい名前ね。大事に育てるのよ」
わたしはおとなのその言葉に何度も何度もうなずいたのでした。
それから長い時間が立ちました。
教会にはいつのまにかたくさんの猫が住むようになりました。
「ずいぶん大所帯ですね」
私はいまなお私の膝の上に座るパンジーに話しかけます。
パンジーは喉をならしながらにゃあお、と答えました。
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少女は今は――。
一人ではありません。