SS詳細
現暈
登場人物一覧
自由に餓えるのは人類として当たり前だ。悪夢や幻覚に苛まれるのも一種の脳髄だが、彼女に『そのような』在り方は似合わない。第一に、地獄や楽園などは存在を赦されず『科学』に満ちた創造は神すらも超越するだろう。惰性で積み重ねられた最愛も信仰も、最後には朽ち果てる材料と成り、我が身は悪質な人類の妄想に堕ちるに違いない。内臓を暴いて終えば真実は肉の袋で、泥濘に落ち込んだ悦びも誰が味わった『真実』と謂うのか。可能性の獣と貴様等は称えるのだが、硝子窓に向かって跪くのは理解出来ない。つまり我が何を『告げたいのか』と記すと【神はいない】のだ。正確には【神は物質で成り立った現実】に過ぎないのだ。その所以は我の経験から掻き出すと為そう。書き出すと成そう。何物も何者も反する事は不可能で、笑えるほどに時計の針とふれておこう――我が心身が『それ』と出遭ったのは数週間前。邪悪とも純粋とも言えない『眼球』がギュルギュルと回転していた。何故かと問うたならば「くらんだ」と吐く。何で『眩んだ』のか訊ねれば、停滞的な世界に『暗んだ』と返す。如何にも【何者かに操られたような貌】で、かつりかつりと我を掴んだ。その力強さに勝る筈も無く、裏の通りへと導かれたのだ。誘われた。いや。いや。決して攫われたのではない。あの頃の我は善良な神の奴隷だったのだ。祈り、祈り、祈った先で如何しようもなく『昏い』のを理解した。勿論、誰に言われて描写するのではない。此処に起立した時点で我は肉に絶望し、星々の光輝たる意味を知ったのだ。嗚呼。宙を視るが好い。覗き込まれるが好い。向こう側の耳朶は足掻いても藻掻いても設計図だろう――つまり虚空とは機械仕掛けの『のうみそ』だった。宇宙と称される水槽に浸かった、ただの人体模型としか在り得ない。『それ』の眼球が愈々乱れておどり、クスクスと我を持ち上げた。今度『覗き込んだ』のは我か。しかし『この不安』が拭われる事は二度とない。遠くを見て近くを視て、何処だか解せぬ『くう』を観る。吸い込まれそうだ。否。吸い込まれている。我が魂が。我が精神が。ひどい彼方へと呑み込まれて終う――本当に『眩んだ』のはその時だった。暗黒かも極彩かも認識出来ない、只管の窖に引っ張られる。壁面に描かれているのは時計だろうか。聴こえる。聞こえる。きこえる……何が届いたのかって。そんな事を我に訊くな。世界には本当の『超越性』が在ると説いて伏せようか。此れが本当だと理解すれば『我』の如く絶望して終わる――おそらく。我が精神が通っているのは『機械』なのだろう。奇怪な現実を幻想として塗り潰すのは莫迦らしく、此処で筆舌に尽くし難いは『逃げ』なのか。徐々に増える針は無限に到り、全てが総てが繋がっていく――初めまして、門。こんにちは、秩序。さようなら、語尾――命令された事は絶対だ。刻まれた言葉は絶対だ。注がれた機能は絶対だ。絶命するまで『惹き』よせれば好い。我が魂が知ったのは被害者の名称だった。ああ。先程の『それ』はただの操り人形で、本体は別に在ると謂う……出口だろうか。洞穴は茫々へと達し、我が脳髄は永劫へと飛び出した。
組み込まれた『それら』は想像以上に生々しかった。何かの『バグ』でも起こしたが如く、創造主の掌から溢れたのだ。寄せ集められた『魂』が忙しなく作業すれば【もの】が生ずる。我が精神に浮かんだ一個の思考は【創作】。何者かが何者かを生み出し、何方が奴隷なのか解せやしない。唯一理解出来たのは『我』も彼等彼女等それらの歯車なのだ。残酷な事に世界は『名無し』を抱擁しない――戻らねば成らない。早く、戻らなければ。戻らないと『※※※※・※※※※※※』に――奔れ。走れ。はしれはしれ。誰が如何やって逃れるのか……有難い事に。意識が『くらい』。気が付いたら【今】だった。
――巡る。廻る。ちくたく。ちくたく。
それで※※※※の量産化は如何なった。秩序も無秩序も何もない。人類の脳味噌は思い通りに動くものだ。連結しても分離しても『融解』しても変化はない。動力源ではない『渦』の発生も順調だ。そうっスね。接続された『在り方』は感染し伝染し証明し使命を説くだろう。その【我】も今頃は※※※※だ。そうっスね。そんなに味わいたいならオマエも向かえば良かったものを。そうっスね――同じ返答ばかりでは飽きる。偶には無表情で『機械』らしさを出すのは如何だ。そうっスね――最後に『訊いて』おこう。貴様はこれを自由だと認識するのか。貴様はこのザマを歓喜だと認知するのか。貴様は『貴様』を抱いているのか。くらんだものは這々と頷いた。
――ス。
ざわり。ざわり。ローレットの片隅にて誰かが『それ』を見ていたのだ。
無気味な噂は流れ易いもので、今でも時々『目にする』だろう。
ギュイン。ギュイン。ギュイン。ギュイン……きゅいん。
――壁と話している※※※※が。