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Cook for usual

登場人物一覧

カナメ・ベアバレー(p3p005191)
もりのくまさん

Cook for usual

●始まりの音
 鶏もまだ鳴かぬ早朝に目覚め、エプロンを羽織る。衣擦れの音は、やる気を高めるに十分で。
 流れる水の音は、そのまま野菜に触れ、飛び散る飛沫の音へと変わる。
 雑めにまな板に載せられたそれらは、これまた雑……というか『適当』に刻まれていく小気味よい包丁のリズムへと変わる。
 自分の作ったものを食べて、美味しいと言ってくれる誰かのために、包丁を、菜箸を、そして調理器具を手にキッチンに立つ。それが彼女なりの幸せなのだ。
「……なんて、がらにもねぇんだけどなー」
 カナメ・ベアバレー (p3p005191)はそんなふうに一人呟くも、料理の手を止めることはなかった。
 コンロにかけられたフライパンは程よく熱を帯び、落とされた油は全体に馴染むように踊りだす。僅かに湯気立つそれに落とされた卵は、徐々に目玉焼きの形へと変わっていく。
 鍋ではゆっくりとお湯が沸き始め、食材を受け入れるのを今や遅しと待っている。カナメは食材を刻んでいくと、次々と鍋に放り込む。
 千切りにされた葉物野菜は皿の端に添えられ、トマトがひとつアクセント。
「次は……揚げ物は流石に重いんだぜー、この際ポテトサラダでも作るかなー」
 フライパンから目玉焼きを下ろし、葉物野菜の横に添える。鍋の食材に火が通るまで時間はあるから、次の料理を考えないと。
 そういえば、とカナメは考える。ポテトサラダ……芋を蒸して潰して調味料を合わせたあの料理を作るだけの時間はあるか。
 鍋がもうひとつ増えてしまうし、片付けの面倒さが更に増えるが仕方ない。料理を作り、食べてもらう。或いは自分で美味しいものを食べる。それは彼女の生き甲斐、というより本能に近いのだろうか? 意識したことはない。それが当たり前だと思って生きてきたから。
「ドレッシング……もなかったなー。作らないとなのなー?」
 卓上にならぶ野菜の量を考えると、そういえば必要だなとカナメは思い至る。油と玉ねぎ、調味料。それ以外にも好みに合わせていくつか。
 ゴマを主体にしてもいい、チーズを混ぜたものを作っても良い。野菜はなんでも受け入れる。いっそ塩でもいいのだが、それだけでは彩りが足りないのだ。
 ひとつ料理を作れば、誰かが喜ぶ顔が浮かび。その料理を見ていると、新しい料理を作ろうと思い立ち。気付いたら、テーブルの上は料理でいっぱいになっていく。
 先に煮立った鍋……スープの火を止めると、彼女はポテトの火の通りを確認した。もう少し時間がかかるか。
 その間にと取り出したのは切り身にして塩を振っておいた鮭だ。
 赤身に鮮やかな銀の皮が眩しい。上手く焼けば、皮の際などとても美味しいことだろう。
 焼くのは皮から。既に焼き始めからして食欲をかきたてる香りが漂ってくる。……その匂いのいいことといったら。カナメは少しの間、その香りで意識が飛んでいた。
「おっと、いけないいけない。ポテトサラダの具材も要るんだぜー」
 茹でておいた卵、ドレッシングのついでに多めに刻んだ玉ねぎ、サイコロ大に刻んだベーコン。そしてこれまた細かく刻まれたピーマン。卵は細かく潰し、ピーマンは生のまま。そして玉ねぎとベーコンは十分に火が通るまで炒める。その前に、鮭を裏返してさらに焼く。
 茹で上がった芋を火からおろし、粗熱をとっている間にフライパンを振るい、火を通す。少しずつ色が変わっていく食材の変化は、あたかも錬金術を目の当たりにしているかのよう。
 そう、料理は値千金の笑顔や満足感を生むのだから錬金術と同列にしても過言ではないのでは、とカナメはふと思った。思っただけで、口にする気はなかったが。
 玉ねぎが飴色になった頃には、鮭も十分な焼き加減。長皿に映すと、少しだけ白味を増したその身はとても食欲を掻き立てる。
 具材ができたら、次は芋を潰す番。ここで気をつけなければいけないのは、適度に芋の形を残すことだ。潰しすぎると少し残った芋の歯ごたえが楽しめない。形が残りすぎると、滑らかさを楽しめない。熟練の調節が必要なのだ。
 そして、潰した芋に食材を均等に混ぜるのも手間がかかる。特に卵。細かくなった食材と違い、適度に粗いつぶし具合のそれはダマになりやすいので注意が必要だ。
 ……尤も、カナメに限って不手際はないのだが。
「潰すのも混ぜるのも力仕事なんだぜー……」
 でも、それを食べて喜んでくれる誰かの顔を思い浮かべればなにほどのこともない。
 丹念に混ぜ合わされたそれに、塩コショウをまぶしてさらに混ぜ、皿に移す。白い芋をベースに、食材のカラフルさが映える。次を作る時は人参も欲しいだろうか? そんな工夫を考えるのも料理の醍醐味だ。
 気づけば太陽が登り始め、鶏の声も随分前に聞いた気がする。……もう一息、最後はパンの種を細かく分けて、釜に放り込む。
 テーブルクロスをシワなく広げ、中央に大皿のポテトサラダ。目玉焼きに焼き鮭、具だくさんのスープもつけて。
 湯気が立ち上る食卓は、一人で食べるためではなく。
「熊ー、朝だよ、起きるんだぜー」
「がおー」
 とりあえず、熊(という名前の犬)は一緒に。スープに食べられない食材が入っていないのを確認して、十分冷まして皿に移す。
 ダイニングに漂ってきた小麦の香ばしい匂いを嗅ぎつけ、カナメは釜の蓋をあける。
 そこに並んでいたのは、綺麗に焼けたロールパン。いつもより気合を入れたつもりはないけど、いつもどおりだからこそ、とっても美味しく出来たのだ。
「これだけ用意できれば、十分だなー」
 カナメはパンの出来に満足すると、皿にうつして食卓へ。……これで朝食の準備は終わりだ。
 料理は食べる人の顔を思い浮かべて、とか。そんな事を重視する時もあるけれど、彼女にとっては当たり前のように、美味しいと食べてくれる『貴方』のために作っている。
 いつもどおりの時間に着て、食卓を囲むその人と。
「ちょうど来る頃だとおもってたんだぜー。今日もたくさんつくったけど、食べてくれるんだよなー?」
 彼女はいつもどおり、晴れやかな笑顔で『貴方』を出迎えた。
 さあ、朝ごはんを食べよう。

  • Cook for usual完了
  • GM名ふみの
  • 種別SS
  • 納品日2020年07月12日
  • ・カナメ・ベアバレー(p3p005191

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