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いつか肩を並べる日まで
登場人物一覧
であい、なんて。
それは、きっと。単純で。
だけど、きっと。運命で。
ふたり、きっと、最高の友達になれるはず。
なぜだか、そう思った。
●砂塵と狼
「真那、アシスト頼んだッ」
「おっけー! いっくで
散る火花。唸る銃口。
戦場に舞うのは赤と青。銃口振るう赤き太陽と、銃声奏でる青き月。
真那の隣で短銃振るう青年。名を
夜闇を融かしたような黒髪と、ルビーの如き真っ赤な瞳。そして極めつけは真那と同じ同じ狼の
得意げに浮かべた笑みに見え隠れする八重歯。ほんのり日に焼けた肌は快活な性格であることを疑わせない。
健やかに育ちましたとでも言いたげに、真那とは頭ひとつ分身長が違う。
二丁の拳銃を愛用する、真那の銃の仲間であり良き友人だ。
今日は陽往の住まう村の警護の手伝いをしに、森の奥まで立ち入っていた真那。
村の周りを見回っていたら案の定獣のお出ましという訳だ。
二人仲良く銃を、弾丸の雨を降らせ、楽し気に笑みを浮かべていた。
バン。ババン。
ダダダダダ。バァン。
軽々と的を撃ち抜き、威嚇ついでに足元に射撃すれば、獣は怯えて近付くことすらままならない。
『がおー!』と真那が両手をあげもう一度
ふぅ、と一息。そしてガッツポーズ。
「おっしゃ、今日はこんなもんだな!
手伝ってくれてサンキュー、真那!」
「おつかれー! こっちこそ、頼ってくれて嬉しかったで!
お腹も空いてるし、今日はどこで打ち上げしよ?」
「お、それ俺に聞くのか? はは、どうせ真那は俺の行きたい店なんて、とっくの昔にわかってんだろ?」
「ふふ、せやね。よっしゃぁ、さっそくいこか!」
「おう!」
舞う砂塵。重なる拳。パァン、と乾いた掌が重なり、ハイタッチ。
背中を預けられる友との共闘。危なげもなく終わると、依頼の完了報告を終えて二人は行きつけへと通った。
●憧憬と連携
「まァ~~~~~~~~~たこの、この……わしの食堂を潰すつもりか?!」
「はっはっは、すまんなじいちゃん。ここの飯がおいしいからついつい食いすぎちまうんだよ、な、真那!」
「そやでおじちゃん。むしろ自慢していいレベルやと思う!」
「それなら二人で三合平らげるのはそろそろ遠慮してもらえんかのう??」
経営は極めて順調、黒字どころか漆黒であるが、しかし。
売り上げの三割がこの二人の財布からのものともなると、老人ながらに気苦労が絶えない。そろそろ毛根が死滅する可能性だって捨てきれないだろう。
一見すると同年代。しかし性別不明の彼ら彼女ら。恐らく(精神年齢的にも)若いだろうから、そんな二人から金銭を受領していることを考えると少しばかり胸が痛くなってしまうのも事実である。
だからおまけだのサービスだの今日は皿を割らなかったからだの今日は仕事を頑張っていたからだの、様々な建前や名目を付けては二人に還元している。
ここに来てくれてありがとう。
ここで食べて行ってくれてありがとう。
素直に口には出しがたいから。
まあそんなことを知る筈もないので、二人はお気に入りのこの『喜々一発』でご飯をたらふく食べるのだけれど。
「そういえば最近、ローレットのほうでハルの噂をめっちゃ聞くで。
黒い狼の
「一般人は余計だっての!
でもまあそうだな、俺もいつローレットの
今のうちに鍛えておかねえとなって思って?」
米粒を口の周りにいくつもつけながら、陽往は語った。
そう、彼は未だ
しかも、ローレットともなれば!
その名を知らぬものは殆どいないであろうローレットの
陽往と出逢ったときにひたすら熱弁されたのは真那の記憶にも新しいため、よく覚えている。あの時真那が不意にこぼした『それやったら私もローレットの
「まあハルの腕前やったらそのうちひょいって呼ばれてもおかしくないよなあ」
「へへ、真那がそう言ってくれると嬉しいぜ。
俺ももっと鍛えとかねえとな。そして、いつかローレットの一員としてあのギルドの床を踏むんだ……!
「おうおう、わかったからもう少しゆっくり食べい。胃もたれしても知らんからのう?」
「「はーい」」
●白と黒、月と太陽
二人の出逢いは語られるほど珍しいものではない。
貧しい村を襲う獣の退治。
依頼主と請負人。手に取るほど珍しいことでもない。
ただ一つ、彼らが似ていること以外は。
「そういえば、ええと……あの時は助けを求めるのに精いっぱいだったから、聞けてなかったんだけど。
アンタ、名前何て言うんだ?」
ぶっきらぼうなのは信じるのが怖いから。
壁を作るのは傷つくのが怖いから。
「ん、私? 私は月待真那!
月に、ひとを待つの待、
気軽に真那って呼んでな!」
屈託なく笑う真那を、心のどこかで羨ましいと思っていたのかもしれない。
或いは、憧れたのかもしれない。
夜の森、構えた二丁の拳銃。真那の握ったマーナガルムロアーのトリガーを
「俺は陽往。真道陽往。
この村の自警団で、」
獣の叫ぶ声。踊り出した弾丸。
眠れない夜に、獣は騒ぐのだ。
その血肉が恋しいと!
「――いつか、ローレットの
●『いつか、』
「そーいえばさ、なんで真那って俺のこと『ハル』って呼ぶんだ?」
食事も終え、ぶらぶらと森を歩く。
それは、いつかのように村の人が襲われないように。
それは、いつものように腹ごなしをするために。
それは、いつか君の隣に並ぶために。
相棒なんて名乗れるかはわからないけれど。いつかきっと、その隣に並んで、肩を並べて戦いたい。
「んー? なんかハルキ、って呼びづらいやん」
「そうか?」
「わからへん! あとはなあ、」
「いつか『ハル』がローレットの
にいっと。真那は、くしゃくしゃに笑みを浮かべた。
目を大きく見開いた陽往。続いて、同じように陽だまりのような笑み浮かべ。
「なんだそれ、すっげー嬉しいな。へへ、サンキュー真那!
すーぐ追い抜かしてやるから、胡坐書いて待ってろよ!」
「あ、ちょ、そんなんずるいわ! 私も特訓して迎え撃つからな!」
「えっ仲間なのに?!」
「……確かに!」
あははは、と、ふたり、声を上げて笑って。
いつかきっと、改めて『仲間』になる君が、ローレットの床を踏むのを楽しみに。
それはきっと、近いうちかもしれないし、遠い先かもしれないけれど。
それでも、いつかちゃんと友達の夢が叶いますように。と、願う真那だった。