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白亜の空で――。

登場人物一覧

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
リゲル=アークライトの関係者
→ イラスト
リゲル=アークライトの関係者
→ イラスト


 エトワール・ド・ヴィルパンは不愉快である。
 わざわざ、このヴィルパン家次期当主がアークライト家当主に会いに来てやったのだ。なのにも関わらずなんだ。
 アークライト家ご当主様に至ってはどこの馬の骨ともつかぬ旅人くんだりと模擬戦などをして戯れている。
 あろうことか、このエトワール・ド・ヴィルパンという好敵手がいるにも関わらず、だ。
「リゲル・アークライト。君は当主としての礼に欠けているのじゃないか?」
 不機嫌そうにエトワールがそれはもう楽しそうに剣で打ち合いをしている二人に話しかけた。
「やあ、エト。久しぶり。元気だったかい?」
 そんなエトワールの不機嫌もつゆ知らず。リゲル=アークライト(p3p000442)は嬉しそうに友人の来訪に応える。
 となりに居る黒髪の旅人などは空気を察知したのか気まずそうな顔になっているというのに。
「ええ、とても元気でした。
 貴方も随分と楽しそうですね。ああ、新しい手合わせの相手が見つかったんですか? 良かったですね」
「ああ、失礼。紹介するよ。彼は神宮寺巽。俺の友人で練達で暮らす旅人だよ。彼はね――」
「だれも紹介してくれといってませんが????」
 この気持はなんだろう? 巽とかいう馬の骨がリゲルと仲良くしていることに妙ないらだちを感じてしまう。もちろん異世界からの客人はこの世界において意味のある存在だ。
 イレギュラーズ。そう呼ばれる彼らはこの世界を守るために動いているのは理解している。
 目の前のリゲルだってそう。イレギュラーズの一人だ。
「はは、今日も機嫌がわるいな。巽、彼はね、僕の弟分でエトワール・ド・ヴィルパン、熟練の槍使いでね。彼とも手合わせしてみるといいよ。槍との間合いは厄介だしね」
「勝手に人をサンドバッグ扱いで紹介するのはやめてください!」
 空気をよまないで紹介するリゲルに巽は目を反らしつつもエトワールに会釈をすれば、エトワールは更に顔を真っ赤にして怒鳴る。
 その赤くなった顔の理由はリゲルに弟分と思われていることの優越感と、槍使いとして認められていることについての照れも混じっているのだが――。閑話休題。
「その、自分は紹介されたとおり、リゲルの友人で、その、エトワール君、いろいろ察するものはあるが、まずは鉾をおさめてもらえませんか?」
 巽はため息をつきつつ、エトワールと共通の友人の朴念仁にため息をついた。
「失礼しました。確かに非があるのはリゲルです。君にはなにも非はありません。無礼をお詫びします」
 シンパシーを感じたエトワールは素直に自らの無礼を詫びる。
「はは、仲直りだね!」
「「お前がいうな!!!」」
 リゲルの言葉に二人の男の言葉がシンクロする。
 
 さて、なにはともあれ、邂逅を果たした彼らは、すったもんだあって、三人で練達に向かうことになった。
 エトワールが彼ら二人に果し合いを申し込み、リゲルと巽はその申し出を受ける。
 果し合いといっても、なにも剣技だけではない。
 (剣技では負けるとおもったエトワールの苦肉の策であることは言及すまい)
 練達で今流行している3Dバーチャルゲームでの勝負を挑んだのだ。流行には敏いのがヴィルパン家の家風、というわけでもないがエトワール本人は練達で流行っているそのゲームには夢中になっている。
 ゲンダイチキュウニホンという国からきた旅人が開発したというそのゲームは戦闘機をシミュレートして、機銃をうちあいそのヒット数を競うというシンプルなものだ。
 もちろんエトワールはこのゲームはやり込んでいてそれなり以上の腕は持っている。
「へえ、ひこう、き、ってこの前巽が言っていたやつだよね?」
「ああ、なるほど、仮想練習機とは……練達に暮らしてはいるもののそういったものには疎くて……確かに興味はそそられるな」
 気を抜けばすぐにイチャイチャと楽しそうに話す二人にエトワールは舌打ちをした。
 
「まずは、機体をえらんでください。課金は僕がしてさしあげました。課金機体もえらべますよ」
 言ってエトワールが選ぶのはスピットファイア。
 第二次世界大戦で、ドイツ空軍から祖国イギリスを守りきった護国の機体。救国戦闘機とも呼ばれる単発レシプロ戦闘機だ。空中格闘戦を重視されたその機体は高い旋回性能が特徴の優秀な機体だ。
「ふむ」
 巽にとって第二次世界大戦は未知の未来だ。
 戦闘機が主役となった第二次世界大戦時を舞台にしたそのゲームに登場する機体には巽の見知ったものはない。
 しかし、巽はその胴体に赤い日の丸の抱く機体。三菱重工が誇るみなぎる体力と20mm機関砲2門の重武装・優れた運動性能を誇る零式艦上戦闘機――いわゆるゼロ戦を選択する。
「うーん、どれがいいのかよくわからない」
 いいつつもリゲルが選んだのは二式複座戦闘機。日本本土防空戦におけるB-29迎撃を担った川崎航空機の機体である。この機体の開発には二転三転といろいろなエピソードがあったのだが今回は割愛する。
「リゲル、君その機体の愛称『屠龍』で選んだんでしょう?」
「あはは、バレちゃったかあ。ドラゴンスレイヤーって意味だろう? かっこいいなあって」
 戸にはかくにも。三者三様の愛機を選び、白亜の都、天儀の空を駆ける。
 
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 俺のドラゴンスレイヤーがああああ!!!!!!!」
 リゲルが悲痛なな叫び声を漏らす。
 そも、彼はまずこのゲームの趣旨というものを理解していない。初めて乗り込む飛行機。わくわくしすぎてあまり説明も聞かず、大いなる空にむかって飛び上がった。そこまではいい。
 エトの事前の説明も大空を駆けるという好奇心の前には馬の耳に念仏、猫に小判、豚に真珠というものだ。
 エトが文句をいっていたような気がしたがあまり聞こえなかった。このばーちゃるげえむというもの、まるで本当に空をとんでいるようで楽しいのだ。スロットルを引けば、速度がどんどん上がっていく。びゅうと風をきりながら白亜の都を走り抜ける。
 またたくようにかわる景色。目の前に立ちはだかるは白き城の塔。
 避け方は? エトがなにかいってたような気がしたがわからない。避けるまもなく。激突。
 言うまでもないゲームオーバーだ。
 これがここまで3分間の流れである。
「流石にこれは……仕切りなおしですね。はしゃぐのはいいですが、今から戦闘です。遊ばないでください」
 言われてしゅんとなるリゲル。
 さすがに今度は説明はちゃんときいた。余談ではあるが2度も丁寧に説明するなんて親切なのだなと巽が漏らして、照れて激高したエトワールが大騒ぎをしてまた一時中断した。この場にエトワールをツンデレと断ずることができるものはいない。

 インサートコイン、コンテニュー。
 再び、蒼穹の戦いが始まる。
 
「見苦しいですよ!リゲル=アークライトォ!」
「すまない、リゲル。……邪魔だ」 
 再戦開始直後、ふらふらと今度は塔に激突しまいと一生懸命に飛んでいたリゲルの機体はエトと巽の十字射撃によって真っ先に撃墜されてしまう。
 その間28秒。
 屠龍という機体の機銃の能力は能力に勝る敵国機体を撃ち落とした程に優秀なものであったのだが、そのスペックを全く活かすことはできなかった。
「君たちひどくない?」
「ひどいと言うなら、精進してください!」
 勝負と名がつくものには本気になるのが男子というものだ。

 空の戦いは二人の格闘戦にもつれ込んでいく。
 距離をとり巽は機銃掃射。エトワールはそのスピットファイアの類まれなる旋回動作によってギリギリで避ける。
 初めてと言っていた割には巽の操縦センスは相当なものだ。実は元の世界で経験があったのでは? センジチュウとはいっていたが、彼もまたニッポンという国から来ていると聞いた。
 ――ならば。面白い。俄然やる気がでてくるというものだ。エトワールは巧みに操縦桿を操る。
 旋回したまま巽のゼロ戦の後方に回り込んだエトワールも牽制の機銃掃射を仕掛ける。
 これはあくまで牽制、相手のバランスを狂わせるのが目的だ。
 巽はハンドルを大きく切り機体をかしげさせ、回避に専念するがそれこそがエトの作戦。
 タタタッ。
 思いの外軽い機銃音。巽は肝を冷やしながら回避するがコンマ数秒間に合わず、尾翼に被弾。
 尾翼が欠けるがまだいける。
 巽は陸軍大学に通う其の手前で召喚された。その当時開発されはじめた飛行機については書物で勉強はしている。
 巽とて男子。朴念仁ではあっても戦闘機には心躍らされる。
 有り体に言えば、彼を持ってしても戦闘機はかっこいい! と思うのだ。
 この混沌にたどり着き、地球のことを記した書物を読み漁り戦闘機についての勉強はしている。ここから祖国に帰ったときすぐに対応できるように、だ。
 日々是精進。
 この世界での勉強が元の世界で生かされることはないかもしれない。しかして積み重ねた智識は無駄にはならないはずだ。
 まったく。このような仮想練習機があったのをしらなかったのは愚にもつかない。
 この勝負が終わってもこのばあちゃるげえむに通ってみようと思う。
 少々金銭面については優しい金額ではないが、アルバイトの量を増やせばなんとかなるだろう。
 それに――戦闘機の操縦というものはこれほどまでに心踊るものだったのか、と巽は気づいてしまったのだ。
 こういうのを沼にハマるというのだが。
「やりますね! これなら!!」
「なんのっ!!」
 二人の攻防は目まぐるしくも激しく繰り広げられる。
「わーすごい、かっこいいなー、ふたりともがんばれー」
 語彙力のかけらもないリゲルの応援。
「「うるさい!!!!!!」」
「ごめん……」
 空の真剣勝負に水をさすのは無粋だといわんがばかりの二人の戦闘機乗りの叱責がハモった。

 最初はリゲルに勝とうと思って、練習した。
 ハイスコアも自分――エトワールが上位を独占するまでになった。
 なのに――リゲルではないこのタクミ? タツミ? だったかという男は初めてだというのに練習を、努力を重ねた自分にこれほどまでに肉薄するような技術を見せてくる。
 悔しい。
 これもまた才能というものだろうか? 癇癪をおこして叫びたい気分にもなる。
 才能。それはエトワール本人には得ることができなかったそれだ。だから努力した。人の何倍も努力してきた。
 寝る間だって惜しんだ。そしてやっと研鑽されたものが、才能――いわゆる天才とかそういう口にすれば陳腐なそれになぎ倒されていくのが情けなくてしかたない。
 僕は子供の頃からずっとリゲルと歩んできた。
 それなのに――。このタツミという男は横入りしてきて、リゲルの親友ヅラだ。
 彼と剣を交わすリゲルは楽しげで、そして必死で――。
 あんな顔、僕にはみせたことがない。――なんて、惨め。
 リゲルと模擬戦で対等に楽しく戦う相手は僕なんだ!!!!
 憤りがそのまま銃弾となって巽のゼロ戦を襲う。しかしゆうゆうと被弾を避けこちらに向かってくる。
 くそっ、くそっ!
 
 目の前の少年の操舵技術は本物だ。
 遠いヨーロッパの朋友――英国の機体は狂おしいほどに強い。
 あのスピットファイアという機体は巽の時代より20と数年先に開発されたものだという。
 今は連合国である英国がこの先ずっと我が国大日本帝国と友誼を交わしていたのであれば心強い。
 悪鬼である独軍を殲滅すべく大空で共に駆ける事を思えば心がおどる。
 しかして、彼の国はスパイ大国。スパイを養成し国々に送り込んでいる卑怯な国でもある。
 サラエヴォ事件もそう。きな臭さしか感じとることができないジョンブルたちの国。それが英国だ。
 正々堂々を旨とする大日本帝国とは気風が合うことはないだろう。
 この世界は時間も、世界も、なにもかもを超えて集積されているのだと聞く。
 もちろん、巽の生きてきた大日本帝国の未来から来たものもいるらしい。
 証拠にその手記がいくつも残されている。
 巽は未来を記したそれは読んではいない。
 未来を知ってしまうことは横紙破りに思えたからだ。未来がどうであろうと巽が生きる世界は1910年代。
 第一次世界大戦の真っ只中の時代だ。未来の先取りは神の領域だ。神の国に生きる自分はそれを絶対に冒してはいけない。
 タタタっと機銃の音。
 巽はわれにかえる。がごん、と嫌な音がして風防が外れて虚空に消える。
 今は未来の事を考えている暇などない。
 いつか敵国になるかもしれない、そうじゃないかもしれない。
 仮想敵国である国の機体を堕とすことだけ考える。
 性能を見破れ、パイロットの癖を見破れ、効率的な破壊箇所は?
 巽はそれだけを探ってきた。
 このゼロ戦という機体の性能も測れた。機動力こそはスピットファイアに劣るが、その分馬力は上だ。
 どちらの機体が下というものではない。ならば条件はイーブンだ。
 それに、近接の白兵戦であればゼロ戦には分がある。
 「敵国兵」は右に避けるときに一瞬、コンマ数秒の短い時間であるが戸惑う癖がある。
 そこを突く!!!
 
 しかし、そんな隙は簡単に突けるものではない。
 彼もその『苦手』に気づいているのだろう、巧みな操縦で巽が右側に向かうことを許さない。
「ちっ」
 思わず舌打ちをする。
 耐えろ。大日本帝国軍人は耐え忍びここまできた。
 その甲斐もあってか、ついにその瞬間が訪れる。
 急いた、エトワールが機銃の操作をミスする。巽は軍人として敵の油断を冷酷に突く。
「勝機!!」
 巽はスピットファイアへの銃弾を一点に――何度も攻撃したそこに収束させ――。

 勝負がついた。

「エトワール君、君はすごいな。
 うん、自分は戦闘機乗りを目指しているだけだが、勉強になった。
 良い腕前だな。よければまた戦おう」
 清々しい笑顔で巽は握手を求める。
 気が付かずのうちにエトワールへの敬語は失せていた。それは巽がエトワールを戦友であり良きライバルであると認めた証。
「うるさいっ! うるさい!! バーカ! バーカ!!!!」
 ヘッドホンとゴーグルを外したエトワールが涙目で叫ぶ。
 差し出した握手は空を切る。
 クールに戦ってきた戦友の突然にも過ぎる豹変に巽は目を白黒とさせる。
「今度は叩きのめしてさしあげますからね!!!!!!! 覚えてやがれ……ッです!!!!!!!!!!」
 涙を見られないようにぷいと踵を返してエトワールはあっという間に姿を消してしまった。
「その――、巽?」
 おずおずとリゲルが声をかける。エトワールは素直じゃないだけで、不器用なだけで、悪いやつじゃないんだなんて言葉を組み立てようとする。
 その前に。
「ああ、いい戦闘機乗りだ。他者の動きを精密に観察し、弱点を即座に見抜く。
 自分も相当にひやひやしたよ。
 ただ、焦るとその精密さが失われるのが欠点か。もったいない。
 それさえなくせばいい戦士になるだろう。
 所作をみるに、彼は長物使いだろう? やけに距離をとる癖が見受けられた」
 100点満点の巽のその寸評にリゲルもうなずく。どうやらフォローは野暮だろう。
 巽は俺の弟分のいいところを全部見てくれたと思うと笑みがこぼれてくる。
 巽の寸評はリゲルにとっても頷く部分しかないのだ。
 戦いによって生まれる理解というものなのだろう。
 なんとなくそれが嬉しくて。親友に弟分が認められたことが嬉しくて。
「また、俺もばあちゃるげーむで勝負したいな」
「リゲルはもっと練習しろ。なんだあの操作は? すぐに浮かれて目の前がみえなくなる。
 剣を使えばそんなことはないのに、君は真剣勝負を馬鹿にしているのか?」
 軽口に巽が真剣にダメ出しをはじめてしまった。
「えええっ、巽、俺に辛辣すぎないかい?」
 でもそれは親友だからこその気安さからうまれるもの。リゲルはそれがうれしかった。
 きっと、きっと。
 巽とエトワールは仲良く慣れると思う。
 そうしたら三人でまたばあちゃるげーむを楽しむのもいい。
 なんなら三人で三つ巴の模擬戦をするのもいい。
 そんな楽しそうな未来を思い、リゲルは自然と笑みがこぼれ、また巽に小言をいわれてしまうのだった。
 

 
 
 
 
 
 

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