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ハラペコ狼、今日も街を行く

登場人物一覧

月待 真那(p3p008312)
はらぺこフレンズ

●とある王都の昼下がり
 『ハラペコ狼』月待 真那(p3p008312)が幻想王都、メフ・メフィートの街路を軽快に駆ける。
 時刻は昼過ぎ、太陽は頭上に高く昇って、街はどこも賑やかだ。
 あちらこちらのお店から、肉の焼けるいい匂いと、油の跳ねるいい音が聞こえてくる。
「うーん、お腹空いてきた。今日はどこでお昼ご飯にしよっかなぁ」
 真那のアクアマリンの瞳が、左右の店に行ったり来たり。なにぶん、食べることが好きな自分だから。元気いっぱいないつもの空気も、腹が減ってちゃ出しようがない。
 どこに行こうか、いつもお世話になっている「喜々一発ききいっぱつ」なら勝手も分かっているけれど、いつも同じ場所というのも芸が無いし、何よりありきたりでつまらない。
 見たこと無いもの、話したことの無い人、どちらも真那は大好きだ。
 なればこそ。大通りから「喜々一発」に向かう時に曲がる十字路を、いつもとは逆の方向へ曲がる。
「うん、こっちの道も楽しそう!」
 角を曲がって、数歩歩いたところで。真那の鼻が肉の焼ける香ばしい匂いを察知した。
 その香りを漂わせる店は、角を曲がってすぐのところにあった。鮮やかな色に塗られた木製の壁が目に眩しい、一軒の料理屋だ。開いた窓の奥は厨房になっているようで、虎の獣種と思しき大柄な男性が、腕をまくって肉の塊を焼いている。
「ふんふん、いい匂い! お邪魔しまーす」
 いい匂いと音に釣られ、引き寄せられて。真那はその店の扉を開いて中に飛び込んだ。はたして、厨房に立っていた虎の獣種が、すぐさま彼女の姿を見つける。
「いらっしゃい……おや? お嬢さん、珍しいね」
「あれ、おじさん、私のこと知っとるん?」
 まるで自分のことをよく知っている風な言い回し。真那はこてんと首を傾げた。
 この店に入ったことはない。この男性とも初対面だ。しかし相手は、どうやらそうではなかったらしい。手にした金属製のへらで、窓の外、大通りと交差する十字路を指した。
「毎日毎日、あそこの角をうちとは反対側に曲がって駆けていくからね、いやでも覚えるさ……さて。『志士類々ししるいるい』にようこそ、今日のおすすめメニューは、牛肉のカツレツだ」
 にっこり笑うこの男性は店主らしい。その男の前、厨房に面した形で設えられたカウンター席に、真那は嬉々として飛び込んだ。
「わぁ、美味しそう! じゃあそれを一つ、ライスもつけてや!」
「はいよ、ライスの量は?」
「大盛りで!」
 打てば響くように注文を返す真那。その朗らかな声に笑いながら、店主の男性は調理に取り掛かった。
 牛肉のブロックから5ミリ幅に切り出し、パン粉をまぶして油を引いたフライパンの中に。じゅわっという軽快な音が、店内に広がった。
 肉が揚げられる音を耳で楽しみながら、真那は店内を見回した。
 随分と、色鮮やかで、見目に楽しい店内だ。そこまで広くない店内だが、あちらこちらに様々な美術品や工芸品が展示されている。真鍮細工が真那の目の前、カウンターの上でランプの光を反射している。
「うわぁ……すごいなぁ、このお店」
「そうだろう? 店内の調度品は、私が幻想国中からかき集めた逸品ばかりだ」
 感心したように言葉を漏らす真那に、肉をさっとひっくり返しながら店主の男性は答えた。曰く、店内の装飾品、調度品は全て、この虎の獣種の男性が手ずから集め、配置したものだという。
 どうやらこの男性、工芸品には並々ならぬこだわりがあるようだ。バルツァーレク派だったりするのかもしれない。
 真那がほう、と息を吐く中、フライパンから肉を降ろし、包丁を入れる店主がちらりと彼女を見た。
「お嬢さん、よくローレットに出入りしている子だろう?」
「うん、そやけど……なんで?」
 突然の、素性を問う言葉に、真那の顔に驚きと疑念が浮かんだ。
 何故、そこまでこの男性は私の事を知っているのだろう。そこまで自身は幻想国内で、名が知られているわけではないはずだ。
 しかし、全くの無名というわけではない。加えてこの近隣の店の常連、という情報もある。男性曰く、ここの通りに面した店では「喜々一発」含め、真那の顔はよくよく知られているらしい。
「いやなに、ローレットの勇士に気に入られている店が近所にあるとなると、やはり面白くないもんでね。今度からは時折、あそこの角をこっち側にも曲がってくれると嬉しいな」
 そう言って笑いながら、店主の男性が皿に炊いた米を盛り付ける。よそっては盛り、よそっては盛り。そうしてカウンターの上に置かれたライスはこんもりと山のようだ。一緒に置かれたカツレツの皿も、二枚のカツレツと一緒にキャベツがたんまり盛られている。
「はい、お待ちどうさま。牛肉のカツレツと、ライスだ」
「ふわっ……確かに、大盛りでって言うたけど!?」
 目の前にでんと置かれた大量の肉、野菜、米。真那の瞳は大きく開いて、正しく目の前の料理に釘付けになっている。
 感動に震える真那に、店主はからりと笑った。
「逃がしたくないお客さんには、サービスしないとね。なんなら、ライスとキャベツの千切りはおかわりも出来るよ」
「うわぁ、太っ腹! いっただきまーす!!」
 おかわりもある、の言葉に尻尾をブンブン振りながら、真那はフォークを手に取った。
 カツレツを刺して、大きく開けた口に含む。さくっと噛めば、肉の弾力が歯を跳ね返して切れるとともに、肉汁がじわーっと溢れ出して。
 ジューシーで味わい深い。それでいてパン粉を纏っているから、その肉汁が逃げていないでしっかり中に留まっている。
 これは、予想以上に素晴らしい。
 流れる様にライスをすくう。天井のランプの光に照らされてつやつやと光るコメの粒が一粒一粒立って、存在を主張している。零さないように口に運べば、穀物の優しい甘さが口いっぱいに広がった。
 肉、コメ、肉、コメ、時々キャベツ。
 真那の食べる手は、止まらない。
「んん~っ、美味しい~!!」
「そいつはどうも、気に入ってもらえて何よりだ」
 二度目のキャベツを食べて、ぐーっと噛み締めながら喜色満面、嬉しそうな真那の姿に店主も微笑んだ。自分の作ったものを美味しそうに食べてもらえるというのは、料理人にとって格別の喜びだ。
 一枚目のカツレツをぺろりと平らげ、二枚目に取り掛かりながら、真那が口を開く。
「こんだけ美味しくて、量も満足できて、懐にも優しかったらなぁ、通うんやけどなぁ」
「はっはっは、正直なお嬢さんだ」
 その率直な物言いに、虎の獣種は尻尾をゆらりと揺らして笑い。
 結局、ライスを一杯おかわりした真那。伝票を持って来てもらえば、その価格の手ごろさにまた驚いて。
 すっかり膨れた腹をさすりながら、彼女は再び幻想王都に踏み出していく。
 次はどこへ行こうか、誰と話そうか。
 真那の自由な時間は、まだまだ終わらない。

  • ハラペコ狼、今日も街を行く完了
  • NM名屋守保英
  • 種別SS
  • 納品日2020年07月06日
  • ・月待 真那(p3p008312

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