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【Pan Tube】絶対に失敗しないアイテム教えます

登場人物一覧

鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
キャロ・ル・ヴィリケンズ(p3p007903)
P Tuber『アリス』


 ざあざあと、ざあざあという音が絶え間なく、窓の外から聞こえてくる。
 そちらに視線を向けてやれば、朝だというのが信じられないような薄暗さと、げんなりするほど激しい雨模様が見て取れた。
 せっかく、久々の休日であるというのに。
 どこに出かけよう、何を買いに行こう、あれを食べてみよう。そのような計画が脳内で無いではなかったが、一瞬で霧散し、頓挫する。この雨では、到底で出かけようという気にはなれない。
 まあなに、気を取り直して、今日は自身の回復に努めることにしよう。なにせ、ここのところ忙しかったのだから。
 大きな背もたれと腰痛を避けるためのランバーサポートがついた椅子に座り、画面を点ける。ブラウザは専用のものにしてあるから、開くだけでトップページを見せてくれた。
『Pan Tube』。練達にて開発された動画投稿サービスである。これさえあれば、何日だって時間をつぶすことが出来るだろう。
 トップページでは、適当にいくつか、自分向けと判断された動画が紹介されている。その中で、投稿時期に『新着』と記されたものが目に入った。
『ぜーんぶベストバイ!!』と目立つ色で書かれた小さな四角い枠組み。
 ヘッドホンを装着して、炭酸飲料を手の届くところに置いて、椅子の背もたれに深く体を預けたら、とりあえず今日はそれから、見始めることにした。


「はーいこんにちは! 皆のフリータイムのお供、アリスちゃんだにゃ!!」
 動画の視聴ボタンを押すと軽快なBGMが流れ始め、少しすると、画面中央に現れたブルーブラッドの少女が元気よく挨拶を行った。
「今日はなんと、特別ゲストをお呼びしてるにゃ!! ぱちぱちぱちぱちー!」
『ぉおー!!』という感嘆のような音響効果と共に、少女は目一杯の拍手してみせる。
「それではさっそく、かーのっこちゃーん!!」
 画面外に向けて声をかけ、おいでおいでと手招きをしつつ、自分が画面中央から外れて、もうひとりくらい画角に入れそうなスペースを作る。
 そこにまたもうひとり、ブルーブラッドの少女が現れた。こういう撮影が初めてなのだろうか、少し緊張した雰囲気を見せている。
「お友達のっ、鹿ノ子さんだにゃー!!」
「は、はいっ、鹿ノ子といいますッス!! この角は本物ッスよ?」
「そう、そうなのにゃ! ほら、見てにゃ、角! 角っ娘!! 可愛いよにゃ、鹿娘!!」
「鹿じゃないッス! トナカイッス!」
「そうだったかにゃ? ともかく、今日はこのふたりで、アリス達が今、気になっている逸品を紹介していこう思うにゃ!!」
「よろしくッス!!」
「それじゃあ、ひとつずつ紹介していくにゃ。はいここでアイキャッチ!!」
 一枚画像が挟まれると、場面が切り替わり、画面いっぱいの写真と、その両隣にアリスと鹿ノ子が立っている構図になっていた。
「はい、まずはー……こちら!!」
『でーでん』という音響効果。
「このフリルがいっぱいで可愛らしい衣装! 『アリス・イン・ワンダーランド』!!」
 写真はアリスの言う通り、フリルが目一杯使用されたドレスである。可愛らしさをこれでもかと際立たせる造形をしており、着る者を選ぶだろうが、目を引く品であるのは間違いなかった。
「個人的にはデビューしたばかりの頃プレゼントしてもらった、大切な衣装なのにゃー♪」
「思い出の品ッスね!」
「そうなのにゃ! でも聞いてよ鹿ノ子さん、これ、倒れても倒れても立ち上がっては戦い続けるスタイルのひとにオススメらしくて……」
「あ、そうッスね。確かに、そういうガッツ力が身につく効果があるッス」
「ええ、修羅ぁ……」
「プレゼントは送った人の気持がこもってるッス!!」
「やめて今考えないようにしてたのに!!」
 頭を抱えていやいやとポーズを取るアリス。
「あと、確かメンズのXLまでサイズが用意されてるって聞いたんだけど、ほんとにゃ……?」
「…………戦場で生き残るには、背に腹は代えられないこともあるッス」
「いや、うんまあ……ファッションは個人の自由っていうか、私には思いつかない男らしい着こなしとかあるのかもしれないしにゃ……」
「ファッションは自由ということで!!」
「強引に纏めたにゃ!? それじゃあ次の品!!」
 ここでまたアイキャッチが挟まれる。先程の画像とは、アリスのポーズが異なっていた。

「それじゃあお次はこれ、『ましゅまろせっと』にゃ!!」
 また音響効果を挟み、写真が切り替わる。
 ましゅまろせっとというので山積みになったマシュマロのようなものを想像していたが、マシュマロだけではなく、綿菓子やマッシュポテトが混在したものだった。
「何とこれ、魔種が配布したともっぱらの噂のお菓子セットなのにゃ!」
「……毒でも入ってるッス?」
「いちおう、食べても大丈夫なやつ、らしいにゃ。魔種にも色々いるんだにゃあ……」
 そして彼女らの手元に運ばれてくるお皿。本物の『ましゅまろせっと』。
「中身はマシュマロに綿菓子にマッシュポテト……やけに柔らかい物ばかりだにゃあ」
「綿菓子だけ柔らかさの次元が異質な気がするッス」
「もぐもぐ……」
「もぐもぐ……」
 しばらく、二人が無言で頬張るだけの時間が続く。
「……ごちそうさまでした」
「……ごちそうさまでした」
 そして二人合わせて、自身の手を合わせていた。
「…………いや、実際ちゃんと美味しいのにゃ」
「これ、闇市で出てくると、報告書が何故かぐちゃっとなってすごく読みにくくなるッス」
「ま、まさか、それが狙いか……おのれ魔種め!!」

「それじゃあ次は鹿ノ子さんから!!」
「おまかせあれッス!! じゃん、『キラキラ星』!!」
「キラキラ星!!」
「きー―――」
「それ以上はいけない」
 何かリズムを取り始めた鹿ノ子の口を抑えると、妙に落ち着いたトーンの口調で諭すアリス。
「あ、アリスさん……?」
「いい? この世には権利というものがあるの。それをおいそれと破ってしまうと、この界隈ではやっていけないどころか、権利者に目をつけられてしまえば全てを奪い取られる可能性もある。わかったにゃ?」
 こくこくと無言で頷く鹿ノ子。それを見て、アリスはそっと手を離すと、また明るいテンションで話し始めた。
「はい、じゃあこれはどんな逸品なのか、教えてほしいにゃ!!」
「え、あ、はいッス!! これはシャイネンナハトの時期に、ちょっとだけ闇市に出回ったっていう幻のアイテムッス!!」
「ぉおお、レア、アイテム……!!」
 感嘆の音響効果とともにキラキラ星を拝む姿勢をとるアリス。
「お空のお星さまに負けなくらいキラキラしてるッス!」
「それじゃあ、鹿ノ子さんは、ちょっとだけ出回ったレアアイテムをゲットしたにゃ? なんたる幸運!!」
「いえ、僕は自力では入手できなかったので、とあるひとにお願いして同じものを作ってもらったッス!」
 鹿ノ子の言葉に、変な空気が流れる。見ているこっちまで、流れ続けているはずのBGMすらミュート機能が働いたかのようだった。
「…………幻の、レアアイテムを、作ったにゃ?」
「……まったく同じものを作ることができるって、どういう技術なんスかね?」
 しばし流れる妙な沈黙。そして考えることをやめるという結論に至ったのだろう。アリスは強引に話の方向を戻すことにしたようだ。
「幻のアイテムっていうからには、すっごい効果があるにゃ? だってにゃ、シャイネンナハトだもんにゃ、聖なる夜の贈り物だもんにゃ!!」
「はい、持ってると幸運が上がる気がするッス! 気がするだけかもしれないッス!」
 そっかあ、気がするだけかあ……。

「それでは本日、最後の逸品の時間がやってきたにゃ!」
「短いようで、気づけばもう四品目! ショッピング番組換算で言えば結構な時間が経っているッス!!」
 そういえば、と。画面下部ののスクロールバーに目をやれば、確かに動画は終盤に差し掛かっているものの、これまでで結構な時間が経っている。
 二人のやりとりを見ている内に、どうやら時間を忘れてしまっていたらしい。
「それじゃあ最後の逸品は―――こちら! じゃん、『クリティカルリング』ッス!!」
 最後は写真ではなく、鹿ノ子の手元がアップで表示されているようだった。彼女が実際に嵌めている、あまり飾り気のない、一見シンプルにも見える指輪である。
 しかし、アップで表示されたからこそわかる、細やかな紋様がうっすらと刻まれていた。目立ちはしないが、見るものが見ればその価値がわかるのだろう。
「あ、これ知ってるにゃ。ローレットの人が、同じものを着けているのを何度か、見たことあるにゃ。もしや、集団ペアルック……?」
「違うッスよ!! 何かの報酬だったか記念だったか……そんな感じで頂いたアイテムッスね!」
「なるほどにゃ。でも着けているひとが多いってことは、やっぱり何かすごい効果があるにゃ? こすったら精霊が出てきて戦ってくれるとか、外すと封印されていたパワーが解放されて一時的に金髪ゴリラになったりするにゃ?」
「そ、そこまでじゃないッス。えっと、技巧の魔力が込められている、とかで……身に着けていると直感や技の冴えを鋭くする……かも知れないらしいッス!!」
「なるほどにゃ、それも戦場で生き残るアイテムなのにゃ」
「そうッス! おじさんが着るフリルドレスみたいに!!」
「それも考えないようにしてたのに!!!」
 目をバッテンにしてアリスがフリーズすると、また鹿ノ子が強引に話の流れを戻し始めた。
「僕、アクセサリーってあんまりつけないんスけど、これだけは特別ッス!」
 まだアリスは固まったままだが、どうやらこのまま締めに入るらしい。
「アリスさんは小物とかにも拘ってる感じッスよね。僕もオシャレとかしたほうがいいんスかねぇ……」
 最後のアイキャッチには、今や懐かしい手と膝をついて落ち込むポーズのアリスが描かれていた。


「はい、それじゃあ今日はアリス達が今、気になっている逸品を紹介していったにゃ。どうだったかにゃ?」
「皆も、是非、フリフリでキラキラに輝きつつ直感力を高めてやわらかいお菓子を食べて欲しいッス!!」
「うーんなんとも強引すぎるまとめだにゃ。まあそれも混沌っぽいにゃ!」
「はいッス! アリスさん、本日はありがとうございましたッス!!」
「こちらこそ、ゲストで来ていただいてとってもありがとうにゃ! また遊びに来て欲しいにゃ!!」
「はい、是非是非遊びに来たいッス!!」
「それじゃあ画面の前の皆、この動画が気に入ったら、ナイス評価とチャンネル登録をよろしくにゃ! SNSもばっちりチェックしてほしいにゃ!! それじゃ、またにゃー!!」
「またねッスー!!」
 手を振る二人。BGMは徐々にフェードアウトしていき、画面はチャンネル登録を促すアイキャッチに差し替わる。
 BGMが完全に消えた頃、『次の動画』とサムネイルが薄く表示され、再生ボタンが点滅していた。
 ヘッドホンを外して一息つくと、あれほどうるさかった雨のざあざあ音は鳴りを潜め、雲の隙間からは太陽の光が大地を照らし始めていた。
 動画一本。そこそこボリュームのあるムービーではあったが、一日が潰れるほどではない。
 天気予報を確認すると、午後から雲がまた水分たっぷりに戻ってくることはないらしい。今から出かけても、十分に休日を満喫することは可能だろう。
 少し遠出をして、気になっていた小物を見て回り、お昼には少しだけ豪華なランチを取る。ここのところ仕事ずくめだった自分には、丁度よいリフレッシュになるだろう。
 だが、それはそれとして。
 ヘッドホンをもう一度装着し、黒い炭酸飲料を喉を鳴らして飲み込んで。
 着替えもせず、食事も適当にあるもので済ませて、ぐうたらを満喫する。
 そういう休日も、きっとアリだろう。
 とりあえずはチャンネル登録を押して、なんだったらメンバー登録もないか確認して、SNSのアカウントをフォローしたら、まずは過去の動画を漁るとしよう。

  • 【Pan Tube】絶対に失敗しないアイテム教えます完了
  • GM名yakigote
  • 種別SS
  • 納品日2020年07月06日
  • ・鹿ノ子(p3p007279
    ・キャロ・ル・ヴィリケンズ(p3p007903

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