PandoraPartyProject

SS詳細

喫茶店再開の日

登場人物一覧

エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)

「ああ、こっちにも少し埃が溜まって……」
 砂都茶店MughamaraはErstineが開いた小さな喫茶店だ。しかし小さいながらも彼女の人柄とその容姿が主に男性客を惹き寄せ、今ではそこそこに繁盛しているといいだろう。
 その我が城とも呼ぶべき場所に久々に帰ってきたErstineは忙しなく店内を駆け回っていた。それと言うのも先の海洋大戦の為に帰ってこれない日々が数日続いた為に。また、『あの方』へのお土産探しに時間を少々使ったが為に、掃除ができていなかったのだ。
 ラサは砂の都。いくら地下にある彼女の店とはいえ、数日空けてしまえば砂が隙間から入り込んできてしまう。その為に朝から忙しく砂を掻き出しては外に捨てを繰り返していたのだ。
 数度同じ動きを繰り返し、ふぅと息を吐き汗を拭う。なんとなく店内にいる時はメイド服を着ている彼女だが、暑くなってきたので着替えようかとも考える。
 そこへふらりと現れたのは、顔なじみの傭兵である。ある日偶然にErstineの店を見つけてやってきた彼は、彼女のことを気に入ったのか何度も訪れてくれている。傭兵仲間にも話を通した影響か、一時期は大量の傭兵に店が押しつぶされそうになった事もあった。今では流石に落ち着いているが。
「よー、エルスちゃん。久しぶりだね」
「はい、お久しぶりです」
 ふわり、と営業スマイルを披露するErstine。最初の頃は恥ずかしいと思う事もあったが、今ではもう慣れたものだ。
「まだ準備中?」
 店の入り口。その壁に立てかけられた看板を見やりながら傭兵は問いかける。そこには『Closed』と書かれていた。掃除をする為にずっとそのままにしていたのだ。
「あ、はい。ちょっと数日空けてたので中の掃除が……」
「そうなのか。久しぶりにエルスちゃんの淹れてくれる珈琲が飲みたかったんだけどな」
 粗方終わっているとはいえ、後は床にモップをかけてカウンターを拭いてと考えていたErstineは、傭兵の残念そうな顔を見て悩む。
 よく着てくれる方だし、多少無作法あってもいいわよね……と。
「それでは、まだ埃っぽいですが……入られます?」
「やったぜ、エルスちゃん愛してる!」
 お調子者の傭兵の定番文句である。あはは、と愛想笑いをしながら裏でつい、『あの方』の言葉だったらなぁ、とか考えてしまうErstineであった。

「おまたせしました」
「サンキュ。……んー、これこれ」
 差し出された珈琲を、匂いを楽しむ事なく豪快に一気飲みする傭兵。美味しく飲んでくれるのは嬉しいけども、もうちょっと味わってくれてもいいんじゃないかしら? とはErstine談。
「そういえばエルスちゃん、噂だと海洋へ行ってたんだって?」
「ええ。ローレットのお仕事で。今回は大変でしたね」
 先の大戦を思い出しながら応える。強大な敵と厄介な病気に立ち向かう、海洋王国と鉄帝の同盟。そしてイレギュラーズ。恐らく歴史上でも稀にしかないであろう、三同盟が死力を尽くした、まさに大戦。
 後世にはこれも伝説の一つとして語り継がれるであろうものに、Erstineも参戦していたのだ。
「すっげーなぁ……え、これマジ話?」
 喫茶店に置いてある書物の中には、Erstineが個人的に集めてきたローレットの依頼報告書の写しがある。その中の一つに目を通した傭兵は、半信半疑といった表情で見入っていた。
 それも仕方ないだろう。おとぎ話の中にしかいないような存在、リヴァイアサンが現れ冠位魔種と共に行く手を遮り。それでいて、目の前の彼女を含むイレギュラーズは奇跡を起こしたのだから。
 イレギュラーズではない傭兵から見れば、まさに神話大戦である。
「本当ですよ。正直、何度ももうダメだとは思いましたね」
 それでも、彼女が生きて帰ってきたのは。諦めなかった理由はただ一つ。
 もう一度『あの方』に会う為に。
「いやー……アイツも罪深い男だねぇ」
 少し遠い目をしていたErstineの考えを読み取ったのか、今度はニヤニヤと笑う傭兵。慌てて取り繕うErstineだが時既に遅し。
「こーんな可愛い子に想われてんのに、アイツは思わせぶりな態度を見せるだけだもんなー」
「も、もう! からかわないでください!」
 ある程度気心知れた常連客だからこそできる、軽いじゃれあい。
 恥ずかしい思いをするのが大半だが、不思議と悪い気はしないのは。きっと前の世界ではあり得なかった感覚。この混沌世界に馴染んできた事の証明であろう。
「そ、そういう貴方は何をされてきたのです?」
「お、俺? Erstineちゃん程じゃないけど、一仕事終えてきたところさ。君も一緒に飲みながら話しようぜ」
 金は出すからさ。と傭兵が貨幣の入った袋を取り出す。
 もう、仕方ないですね。と今度は二人分の珈琲を淹れながら、笑う。
 不思議な客との、コーヒーブレイクタイム。

  • 喫茶店再開の日完了
  • NM名以下略
  • 種別SS
  • 納品日2020年07月02日
  • ・エルス・ティーネ(p3p007325

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