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黒狐とコノハと丸い月

登場人物一覧

生方・創(p3p000068)
黒狐はただ住まう

『黒狐はただ住まう』生方・創(p3p000068)の夜は日が落ち始めた夕方時から始まる。太陽がゆっくりと落ちて、朝から働いていた出店のおっちゃんがよっこらせ、と思い腰を上げて、本日の儲け分を計算し終えた頃、軽やかな足取りで創はその前を横切った。

 彼が向かうのはここ最近気に入りの酒場だ。名を『緑のコノハ亭』という。
 創はメインストリートから少し離れた肉屋をささっと右に曲がると、中途半端に整備された細い路地裏につながっており、その通りの左手に木の葉をモチーフにしたのであろう緑の暖簾をひょいっと潜る。背が高い創にとって、この暖簾というものはほんの少し不便なものだったが、慣れてくれば良いものだった。
 店員が次々と先に来ていた客のオーダーを受けていく中、常連である創は注文内容を決めていたようで、横を通りかかった店員に声をかける。

「やぁ、今日のオススメは?」
「ライ麦パンとベーコンとほうれん草の冷製ミルクスープがオススメです」
「じゃあそれと、ウイスキーを貰おうかな。ロックで頼むよ」
「それなら、新作のチョコレートが入ってますよ」
「いいね、じゃあそれも」

 創はウイスキーを愛している。木工細工師である創がいうのもアレだが、ウイスキーというものは醸造した樽の木によってずいぶんと風味が変わるのだ。仕事の都合上、常日頃から木の香りというものを感じている創だが、上等なウイスキーが持つスモーキーかつ癖のある木の香りというのは、また少し普段嗅いでいる木の香りと違って魅力的なのである。

「おまたせしました」
「お、相変わらずココは出すのが早くていいね」
「狭い店の割に人員があるんでね、うちは速さが売りなんですわ」

 創の言葉に、おそらくここの店主であろう、狸のブルーブラッドがカンラカンラと笑いながら応えてくれた。確かに、酒場と言うには狭く、けれどバーというには広くて賑やかな『緑のコノハ亭』には、多くの店員がいた。

「深緑からいい乳が届いたからね、今回のミルクスープはいつもよりコクがある。チョコレートもウイスキーにも負けないと思うよ」
「それは楽しみだ」

 店員から呼ばれ、店主は創のテーブルから離れていった。創はひとまず、ライ麦パンとベーコンとほうれん草の冷製ミルクスープを味わう事にした。

「パンはいつも通り、手前のパン屋から下ろしてるのかな。……いい匂いだ。それに、ベーコンの香りも素敵だ。深緑にツテがあるなら、スモークチップも良いのを使ってるんだろうな……」

 これで500ゴールド。手間を考えれば、なんとも安いお値段設定である。ミルクも濃厚で、少し行儀が悪いけれど、最後の一滴も残したくないと欲が湧いたので、パンでささっと拭い取り、すっかり木の器を空にした。

「さてさて……。ほう」

 これはなかなか、とウイスキーのグラスを眺めて創は息を溢した。ガラス細工の知識はないが、花をあしらったそれが凝っているのはよくわかる。見た感じ、おそらく向日葵をモデルにしているのだろう。

「夏にはもってこいだな。僕の作品も色々あるけど、たまには季節にスポットを当てた作品も作ってみようか」

 季節商品は季節が過ぎれば売れなくなる。故に在庫が嵩張る木工細工ではなかなか手をつけ辛いのだが、縁があったと言う事で受注生産にすれば悪くないかもしれない。
 ウイスキーを口にしては、芳醇な香りと味わいに目を細める。ウイスキーの味に少し飽きたら、一口サイズのチョコレートを舌の上に溶かせば、またウイスキーが欲しくなる。

「嗚呼、いい夜だ」

 夜は更けていく。今宵の月は、ウイスキーグラスに浮かぶ氷のように、丸かった。

  • 黒狐とコノハと丸い月完了
  • NM名蛇穴 典雅
  • 種別SS
  • 納品日2020年06月30日
  • ・生方・創(p3p000068

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