PandoraPartyProject

SS詳細

ロリババアの焼き肉会場はこちらです。

登場人物一覧

月原・亮(p3n000006)
壱閃
アルテナ・フォルテ(p3n000007)
冒険者
ロク(p3p005176)
クソ犬
ロクの関係者
→ イラスト
ロクの関係者
→ イラスト

『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)――ギルドローレットに所属する冒険者の少女である。明るく元気で、お世話好き。没落貴族の出生であるらしいが、複雑な部分は語りたがらない。可愛らしい金の髪を持った冒険者たる彼女はローレットが準備した部屋に――管理人はアルテナと同日に召喚された事で縁のある旅人の『男子高校生』月原・亮(p3n000006)である――可愛らしい家具を並べて過ごしている。普段の居室は別にあるにはあるが、時折、その部屋の清掃などに訪れている。少女趣味の家具の中で穏やかに過ごすその時間はアルテナにとっては小さな休息である。そう、小さな――小さな、休息だったのだ。
 バン、と扉が大きな音を立てて開かれる。「こんにちは! こんにちは!」と朗らかな挨拶で入室して来たのはお馴染みの可愛いコヨーテ、『クソ犬』ロク(p3p005176)ちゃんなのである。
「アルテナちゃんのお部屋だよね! こんにちは!」
「え、ええ……? こんにちは?」
 突如として巨大な荷物を引いて現れたロクにアルテナは困惑していた。きょとんとしながらロクの奇妙な動きをまじまじと見つめ続ける。荷車には肉焼き機を乗せているその様子にアルテナは何が起こるのかすら理解できず動く事すらできないのだ。
「え、ちょ、えっ……!?」
 慌てた声を発したのは仕方がない。まるで夢を見るような可愛らしい壁紙と、ふんわりしたカーペット。其処に似合わぬ肉焼き機がどすりと乗せられる。小さなテーブルに向けて小ロリババアが脚を向け、椅子にどっしりと腰かけたそれにさえ、アルテナは凝視する以外の行動はとれないのだ。
「ロ、ロクさん……?」
「月原亮さんからのお届けものです! 『スーパーデリシャス鮮度マックスロリババア』だよ!
 わたしからのサービスでこの場で調理しました! どうぞお受け取りくださいませ!」
 悪魔的な発言であった。アルテナは困惑したようにまじまじとロクの動きを見ている。バチバチと音を立てて勢いを増す焔はファンシーな部屋にあまりに似合わぬワイルドなその様子にアルテナはロクの言葉を反芻した。

 ――月原亮さんからのお届けものです。

 彼女は確かにそう言った。悪ふざけを行うタイプなのは知っている。友人たちとローレットで戯れているときにシャルルに意味わからないという顔をされたり、雪風に馬鹿にされる事もある。リリファとはけんか友達で良くムキャムキャ言っていた事だろう。そんな彼がピカイチで仲良しな可愛いメスであるロクとの悪ふざけ――悪ふざけなのかは分からないがアルテナからすれば『スーパーデリシャス鮮度マックスロリババア』がサービスでこの場で調理されるのだ。悪い冗談の一つにしか聞こえないではないか!
「そう……。亮君なのね……そう……」
 アルテナは小さく小さく呟いた。もしも亮が悪いか悪くなくてもどちらでもいいが、ロクがそう言うのだから亮の所為なのかもしれない。ワクワクしながらロクはアルテナの部屋の扉を開きっぱなしにする。子ロリババアが尾をゆらゆらと揺らして扉をぐい、と開いて見せればブンッ――と何かが宙を飛ぶ。
「――――……!?」
 精肉済みのロバ肉が空を飛んでいた。どういうことか分からないが、ロバ肉である。
 アルテナが凝視したように目を見開けば、ロクはその視線に『よくぞ聞いてくれました』とでも言うようにふふん、と胸を張った。その間に飛び交う肉。驚かんばかりの肉(※精肉済み)。
「あのね、あのね。ロリババアが自分で焔に向かって歩いて行って焼かれていく処刑染みた事も考えたんだけど!
 そうすると残酷だし、アルテナちゃんも美味しく食べれないよね! だからね、わたし、練達に言ってメカ子ロリババア整備士のランベルトさんから力借りたんだよ! これはね、企業秘密らしいけど、練達的な不思議な力でなんか精肉されてくるロリババアのロバ肉が生み出される精肉機械が其の儘肉を即席肉焼き機に飛びこませているんだよ!」
「そ、そうなの……?」
「そうだよ! マッドハッターさんとランベルトさんが頑張ってくれたんだって! すごいよね!
 即席肉焼き機へとメカ子ロリババアのシステムを流用すれば、そのまま精肉機械から飛ぶようになってるらしいんだよ!」
 ――分からないが、なんだかそう言う事らしい。
 アルテナは「そ、そうなの」とまじまじと、扉の方を見つめたが――その向こうは見ないようにしようと、何となく思った。人間は見なくて良いものは見ない、そして、アルテナはそのあたりは非常にドライな少女であった。ロクが『そうだ』という以上、「そう……」と静かに済ませてしまうのだ。これが、ギルオスであれば「どういうことか見せて貰おうか!?」と慌てた様子で精肉機械を見に行ったことだろう。だが、アルテナは「そういうものだというならばそれでいい」と言う認識で淡々と考えて目を伏せるだけなのだ。
 ヒュン――ッ
 ロリババア肉が空を飛ぶ。
 ヒュン――ッ
 美味しいと、そう聞いた。
 ヒュン――ッ
 果たして、本当に美味しいのかは分からないが、肉は焼かれ続けてる。
「おいしそうなにおいがするね!」
 ロクのその言葉にアルテナは「そうね」とシンプルな返答を一つ。廊下より響くけたたましい足音に気付いて頭痛を感じて小さく唸る。
「……亮君……」
「えっ、アルテナ! 一体これなんだ!? すっごい煙たい! 窓、開けた方がいいぜ!?
 って、なんだろ。この匂い……肉? アルテナ、焼き肉パーティーしてるのか!? 俺、人の金で焼き肉食べたい方の男だけど――!?」
 明るい声音でそう告げた亮に「こんにちは! 亮くん!」と楽し気にロクが微笑む。亮も「こんにちは、ロク!」とにこやかである。その様子を見てから益々頭痛が激しくなった気がして、アルテナは「これって……どういう事かしら」と呟いた。
「えっ!? いやいや、俺? え? 俺の所為!?」
「……って、ロクさんが言っていたんだけど……」
 ちら、とアルテナの視線はロクへと向かう。尾をゆらゆらとさせたロクは微笑んだ。何も知らないとでもいう様な顔で、ロクが亮に合図すれば亮も何となく分ったような顔をした。何も分かっていないと言うのに安請け合いしたかのように「ロクがそう言うならきっとそうなんだな」と言う顔をしたのだ。なんという事だろう――月原・亮はそういうことを安請け合いしてにこやかに微笑んでしまうタイプの男なのだ。アルテナが自分の部屋でロバ肉を焼かれ続けていると言うのに! 亮という少年は「何か分からないけどそう言う事か」と言う風に頷いたのだ。
「……どうして、私の部屋でロバのお肉を焼くの?」
「えっ――いや……ほら、何というか、あのさ、アルテナも人の金で焼き肉食べたいとか思わない?
 俺は思う方だから。よく分からないけどロバ肉でも焼き肉食べれるなら嬉しいなぁって感じでさ」
「……ええ」
「幸せじゃね? 肉食いたいだろ。アルテナも、美味しいもの食べようぜ。
 俺と一緒に美味しいもの食べてくれよな。楽しく美味しいくご飯を食べれば、心も落ち着いてくると思う!
 ホントホント。いや……なんていうか…………そんなに怖い顔、しなくても良い、と思うんだ……」
 亮は静かにそう言った。徐々にその声が小さく小さくなっていくのはアルテナの表情が普段と比べると幾分か曇っているからである。先ほどまでは困惑していたアルテナではあるが主犯が亮だという事に――多分そうなった。亮も自分が主犯であることは理解していない――気づいてからは幾分かお怒り模様なのだ。
 その様子にも真・犯人ロクはニコニコとしながらロバ肉を焼き続けるだけだ。突然自分自身の部屋で肉を焼かれ出したアルテナからすれば一体これはどういうことだという気持ちでいっぱいなのである。
 ロクにヘルプを求めるような視線を送った亮へと、首を傾いだロクは「あ!」と何かを思い出したように立ち上がった。
「そういえば、ビデオレターが届いてるんだよ! えっとねー、今日の出張肉焼きサービスに関してコメントを届けて欲しいっていうんだ!
 亮くんもアルテナちゃんも一緒に見てくれる? うんうん、見てくれるよね。やっぱりこういうのは皆で見たいよね!」
 はい、ともイエス、とも、見よう、とも言っていないがそうなったらしい。アルテナはロクのペースに呑まれた様に大きく頷く事しかできない。
 メカ子ロリババアがしゃなりしゃなりと歩み出し自分の出番が来たとでも言うように亮とアルテナにアピールしている。ビデオレターが届くという奇異な展開だ。メカ子ロリババアが関連すると言うのだから、きっと練達のトンデモ技術者たちからの何らかの映像なのだろう――けれど、それを一緒に見る必要があるのだろうかとアルテナ・フォルテは考えた。その知的な眼差しも今ははるか遠くを眺め、優し気な声音もどこか切なさまで感じさせるほどだ。
「……どなたから?」
「え? それは見てからのお楽しみだよ!」
「……そう、そうなの……」
 構わないけれど、とアルテナは呟いた。メカ子ロリババアが『そんな機能付いていたんだ』というツッコミは他所に、壁へとビデオレターを転写した。口からべろん、と『ビデオ』を飲んだメカ子ロリババアの瞳から映し出される映像は練達の北部にある都市の様子だった。

『あー……映ってる?』
 何処か、戸惑いを感じるその声音に『映ってるよ』と揶揄う青年達の声が重なった。『ビデオの撮影』現場は大騒ぎのようだ。楽し気な笑い声が聞こえ、位置調整しないと等とけたたましい音が何度も繰り返される。
『あ、あー……お久しぶりです。ロクさん。その、『出張肉焼きサービス』リリースおめでとうございます!』
 其処に立っていたのはメカ子ロリババアの整備を担当する練達北部の技術者――の卵であるカール、エリック、ハンネスの三人であった。
 アルテナは「え?」と首を傾げる。出張肉焼きサービスのリリース? このサービスが続いていくとでもいうのか。こうして、有無も言わせぬうちに突然部屋で肉を焼かれるという驚愕のサービスが恒常的に始まるのだとすれば如何ともしがたい。
『今回、ロバ肉の精肉機械を師と一緒に設計したんですが、大変勉強になりました!
 これも、子ロリババアを提供してくださったロクさんと、アルテナさん? の部屋で肉を焼く計画を立てた月原さんのおかげですよ!』
「「え」」
 亮とアルテナがハモった。亮からすれば初耳の情報であったが、どこかで軽口気分でぽろっとそんなことを零したのではないかと言う不安が首を擡げたからだ。同時にアルテナはという形容しがたい感情が沸き立ったのだった。其れもそうだろう、誰だって、自分の部屋に肉焼き機を設置されて、先進的技術を駆使してその為だけに精肉機械まで作成されたならば筆舌尽くし難いという感想しか生まれない。アルテナは日常的に子ロリババアと呼ばれる驢馬を目にすることが多かった。勿論、それこそ非日常的であり、子ロリババアが闊歩する光景はローレットかイレギュラーズの側でしか見られない事を彼女たちは忘れている。
『それにしても、凄いですね。メカ子ロリババア! 流石はDr.マッドハッターが作成しただけの事はある……。
 今、メカ子ロリババアの整備にも携わらせていただいてるんです。すごい勉強になりますよ!
 その一環で精肉機械を設計したんですが、メカ子ロリババアの動力から色々と考えることの楽しさが……』
『おい、エリック。テンション上がるのは分かるけどさ、ロクさんたちにそれを伝えてどうするんだよ』
『あ……っ』
『そうだなあ。近状報告って思ったんですが、さっき、アルティメットメカニカル子ロリババアがこっちに来てて、整備を完了したって師が言っていて、これからセフィロトに向かってかららしいんですよね。
 こっちの事は師とマッドハッターさんから聞いてください! あ、マッドハッターさんもそちらに行くと思うんですが、ファンさんがお怒りだそうなので気を付けてくださいね! さっき、俺らに問い合わせ来たときは月原さんたちが呼んでるって伝えておいたんで!』
「え」
 亮は愕然とした。今からここにメカ子ロリババアの整備を担当する技術者のランベルトが来るらしい。強面で口下手であるランベルトが『ラジオ』による狂気の事件に巻き込まれイレギュラーズ達の力を借りた事は記憶に新しい。その後もロクはメカ子ロリババアの整備でランベルト達との交流があるとは聞いていたが――今からここに……?
 しかも、三塔の主であるマッドハッターも共に、と言うのだからこれは事件だ。アルテメットメカニカル子ロリババアに跨って練達的に最高技術を用いて幻想王国のまで来るのだという事は――とそこまで考えてから亮とアルテナは顔を見合わせた。
「え? 私の部屋にマッドハッターさんたちが来るの?」
「そう、なる……な……?」
「亮くん……? どうして……?」
 どうして、以上にアルテナは言えなかった。ロクは「わーい、ランベルトさんたちが来てくれるんだねー、うれしいー!」と楽しそうにぴょんと跳ねている。彼女のその様子を見ればアルテナはロクを責めることは出来ない、そして、弟子らの話を総括すればというのだから――実際の所はロクが追加機能を頼んだメカ子ロリババアの『クララ』がを用いて追いかけてくる苦々しい謎の思い出さえ存在していた。
 亮はそっと、足元を振り返る。べろんべろんと自身の服を舐め続けるエリスと可愛らしい室内でのんびりとくつろいでいるロリババアの第51子にして宝石の内包物と萎れた切り花が大好物の華々しき老ロバであるアリィを視界に映す。
「あー……あのさ、ロクちゃん」
「どうしたの!? 亮くん!?」
「ロバ肉焼きはちょっと中断しよう。お客さんが来るんだよってエリスとアリィにも教えてやらないと、さ!」
「わあ、本当だね! こんにちは、エリス。アリィ。
 ロクだよ! おかあさんも今日は一緒だし、メカ子――クララの『おとうさん』も今から来るらしいから、楽しみにしててね!
 あ、アルテナちゃん! 『ロバ飼育入門書 触・食・殖』も持ってきたから良ければ呼んでね! アリィ、ちょっと痩せちゃったかな?」
 折角だからおめかししようね、と校庭の砂埃と時計の秒針が大好物の凛々しきエリスをべりべりと亮の服から剥がしたロクはアルテナに微笑んだ。曖昧に笑みを返す事しかできないアルテナは出来ればランベルト達も到着する事無く急用で帰ってほしかったしロリババアにすさまじい勢いで適応している亮にもさっさと帰ってほしかった。彼が旅人で、この世界に『来た』側なのを考えれば、この適応能力は天性のものなのかとさえ感じたからだ。
(……凄いわ……亮くん、ロリババアのプロフェッショナルみたいだもの……)
 呆然としたアルテナはばたんばたんとけたたましい音を立てた廊下に頭を抱えた。ロクが部屋の外へと頭を出して「わあー!」と楽しそうに合図している。そこに立っていたのはアルテメットメカニカル(以下略)とマッドハッター、そして操縦手であったランベルトだ。
「やあ、お待たせしたかな? 特異運命座標アリス。今日は君たちがメカ子ロリババの機能をさらに拡張した画期的な茶会を開くと言うのだから、祝わずには居られなかったさ。何せ、メカ子ロリババアからすれば今日は新たな誕生日ではないか。ああ、君のクララにはしっかりと同様の機能を搭載しておいたよ。何、私もアルティメットメカニカル子ロリババアの乗り心地を確かめたくてわざわざ、こうしてやって来たわけだが、ふむ、もう少し弄らねば誰もが乗れるようにはならないね。さて、それから、今日は君の誕生日だったかな? 特異運命座標アリス
「いいえ」
 アルテナは首を振った。誕生日ではないが、肉焼きパーティー会場の主ではある。それも、知らないうちに始まったパーティーだ。
「大丈夫さ。恥ずかしがらずとも今日は君の誕生日を祝いに来たのだから。おめでとう、おめでとう。特異運命座標アリス! さあ、ロバ肉を焼くかい? 所で、君、お茶はお好みかな? 私も喉が渇いた。折角だから、私が茶を淹れよう。何、遠慮する事はないさ。君たちにとってもとても馴染みのある茶だよ。さあ、クララを此処へ」
「………(←
 マッドハッターの指示を聞いて亮がそろそろとクララを彼の前へと押しやれば、にいと笑ったランベルトが何かを弄り出す。クララのシステムに何かを追加したのだろう。「さあ」とマッドハッターが合図するとともに突然、クララは両足を上げてだばだばと何かを吐き出した。お茶だ。それも、心地よく香り立つ茶葉を感じさせるのである。
 ティーカップも自動で出すのが練達の謎技術だ。クララは呈茶マシーンにでもなったのだろうか。その茶をアルテナに進めたマッドハッターは、次にロクに手渡そうとして――飲みやすいようにと水皿へと変更した。
「わあ、ありがとう! ティーカップはとっても大変だからうれしい!」
「いいや、レディに対しての気遣いも必要だと赤の女王が言っていたからね。そうもしなければ私の首が跳ねられしまうさ。君たちはミルクは? 砂糖も必要なら言ってくれ給え。クララが準備をしたいと君たちの前ではしゃぎまわっているじゃないか」
「あはは、クララ。はしゃいじゃダメだよ」
「そうだぞ、クララ」
 楽し気なマッドハッターとロクと亮。その様子をまじまじと見つめながらアルテナは何が起こっているんだと言うように眉を寄せた。どうした事なのかは分からないが楽しそうなのである。駄目だよと揶揄う様な声音でメカ子ロリババアと戯れる彼ら――そしてその場ではあまりにテンションの差異があるのはアルテナの只一人である――は肉を焼くことも忘れて楽し気に茶会を始めたのだ。
「……あの……」
 思わず口を開きかけたアルテナに「あ、ミルク必要だった?」とロクが慌てたように立ちあがる。ミルクと砂糖は先ほど、クララが尻から出してたではないか。
「……いいえ」
 アルテナはこれ以上何も言わない方が賢いではないかと感じた。其れも此れも元凶つきはらに責任を取らせようと――ただ、その事だけを考える事しかできない。
 肉焼き機の火が爆ぜるが、室内では危険だとランベルトがさっさと消火活動をしてくれていた。どうやら、彼は気づかいが出来る方の技術者なのだ。それはそうと、彼もメカ子ロリババアの技術者の一人だ。肉焼きの感想を聞きたいとでも言うように亮とアルテナをワクワクとした様子で見守っている。
「あ、アルテナちゃん。この人はランベルトさんだよ! メカ子ロリババアの整備を担当してくれてるんだ!
 初めてあった時は練達でラジオ事件っていう魔種が暴れて居た時なんだけど、とってもとっても、凄い人だから、これからアルテナちゃんも仲良くしてね! ロバ食べる?」
「……いいえ。あ、アルテナです。よろしくお願いいたします。
 それで、その……マッドハッターさんはファンさんに怒られないのかしら? ロクさんとランベルトさんは大丈夫だとは思うんだけど……マッドハッターさんはその、そういうわけにはいかないでしょう?」
 アルテナが困り切った様にそう問いかければロクとランベルトは顔を見合わせて「あー」と何かを考えついたように頷いた。
「怒られるね!」
 ――やっぱりである!
「でも、月原のオーダーって伝えたからなあ」
 ――亮が衝撃を受けたような顔をしている。
 アルテナは彼もある意味で被害者なのだという事を感じ取った。だが、この遣る瀬無い気持ちをどこにやればいいのかさえ分からないのだ。
 怒られる前に帰りましょうと準備を整えるランベルトに「もう少しだけいいじゃないか」とふわふわとした調子のマッドハッター。亮が「帰ろう!」と彼をぐいぐい押しているところを見ればどうやら、仕事も全て放置してやって来たことが想像される。そして、その元凶扱いされる亮はに合うかもしれないのだ――という事も察した。
 けれど、だ。
 アルテナは亮に言うしかない。彼の友人関係が成し得た事だ。
「亮くん」
 アルテナに背後から名前を呼ばれて、二匹のロリババアを両腕に抱えた亮がびくりと肩を跳ねさせた。
「……その、反省してね……」
 冷たいアルテナの言葉に対して、亮は唇を引き攣らせながら笑うだけだった――それ以上、何も返す言葉はないとでも言うようにさっさとその場を走り去り、背後から誕生日を祝うクララが追いかけてくる恐ろしい展開に身を任せるほか、今の彼にはできる事が無かったのだ。

 皆が去った後、アルテナは小さく息を吐く。さて、部屋を片付けるところから始めなければならない。
 腰かけていた椅子から立ち上がった時、足元に座っていたアリィと目が合って、彼女はぎこちなく笑うだけだった。

状態異常
月原・亮(p3n000006)[重傷]
壱閃

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