PandoraPartyProject

SS詳細

虹霓を追いかけて

登場人物一覧

ノア・マクレシア(p3p000713)
墓場の黒兎
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
瑪瑙 葉月(p3p000995)
怠惰的慈愛少女

『黄昏夢廸』と『慈愛少女』の少し茶目っ気の混じった文通。
 そして、二人は愛らしい喫茶店へと出かけた――のだが、その子尾を思うにランドウェラはノアを呼ばずに出かけたのは彼女にも申し訳なかったかと考えていた。
「ノアさん」
 そう呼んだのは『申し訳なさ』からなのだろう。ランドウェラと葉月が二人で出かけてしまったことが尾を引いているのだが――ちょっぴり拗ねていたノアも今日は上機嫌だ。
「三人でお出かけなんて嬉しいなの」
 にっこりと微笑んだ葉月は何時もの様にメルヒェンなワンピースを揺らしてランドウェラとノアを振り返った。
 今日は『二人』が文通の中で発見してきた『虹の喫茶店』へのお出かけの途中だ。曰く、広く開け放たれた窓からは虹を覗くことが出来るらしい。雨季ならば、その機会が多く、景観も素晴らしいためについたあだ名が『虹の喫茶店』だそうだが折角ならばカフェでのてぃーたいむを楽しみながら虹を見てみたいと言うのが三人の目標だ。
「虹って、どうすれば見えるの、かな」
 ノアが首を傾げれば葉月は「絵本に描いてたことなら、雨の後なんかに見えると思うのだよ?」と同じようにこてんと首を傾げて見せる――だが、晴天だ。
「あー……」
 ランドウェラは言葉を濁した。今日は雨季の中でも爽やかな風が吹き、白日が全てを晒してしまいそうなほどにぎらついている。滲む汗をぬぐう仕草を見せる事のない涼し気な三人ではあるが夏の扉にノックをしてしまったかのような感覚であった。
「虹のグッズや料理もあるらしい。確認してみればいいだろう?」
「そうね、そうなの。チーズケーキがおいしいって聞いたのよ!」
 瞳をきらりと輝かせた葉月に「チーズケーキ?」とノアが首を傾いだ。黒衣の少女の言葉を聞いてから葉月は大きく頷いた。
 虹の喫茶店と呼ばれるようになってからというもののそうしたモチーフの料理が増えるようになったとは聞いていた。
 三人揃って、足を踏み入れた途端にメルヒェンな七色の色彩が真っ直ぐに飛び込んできた事には思わず葉月も「わあ」と声を上げたものだ。
 こじんまりとしたカフェではあるが、装飾はカラフルな七色を基調に森を思わせる。虹の喫茶店――本来の名を『フォレストカフェ』と言うその場所は木々の装飾から虹がちらりと覗き小鳥たちのオブジェを飾っていた。
「自然の中、ね」
「ああ……森の中でのんびりと過ごせるような感じがするな。
 さて、二人は何を注文する? 此処はチーズケーキがおいしいらしいけど、紅茶も珈琲もお勧めだそうだ」
 メニューを開いてランドウェラが指し示す。ノアは小さく「んー」と声を漏らして悩まし気。しかし、葉月は立ち上がっては「これは?」と嬉しそうに二人へと問いかけた。
 コールドドリンクの欄に掛かれていた『レインボーチョコレイト』という名前のチョコレイトドリンク。カラフルな七色のチョコレートを混ぜ込んでホイップクリームを乗せた可愛らしいドリンクの上には天使の羽が飾られていた。
「可愛いのよ!」
「すごい、ね。……これ、は?」
 ノアが指さしたのはチーズケーキだ。メルヒェンなそれにはやはり虹をイメージしたチョコレートが飾られている。ブルーベリーソースの泉越しに虹が見えるような、と言うデザインであるそれはこの喫茶店の看板メニューだそうだ。
 紅茶の類にも角砂糖もカラフルな虹色を思わせ、ティーカップにも虹が描かれている。メルヒェンなその場所にぴったりなロリータドレスの葉月が「かわいいの!」と瞳を煌めかせれば、ノアはこくこくと大きく頷いた。
「虹を見てるみたい、だね」
 本物ではなくても、偽物の虹をこんなにも見て居られるというのは何処か心地よく感じられる。二つ一気に見れる場所を欲張って見た、とランドウェラは言っていたがこれだけでも満足ではないか。
 メニューを選びながら、雑貨棚を見遣れば、虹の雑貨がずらりと並んでいた。虹を描いた絵筆に、グラス、ティーソーサー、それから置物も並んでいた。
「……その、くまは?」
 首を傾いだノアにランドウェラはちら、と自身の尻の下敷きになって居る熊に気付く。まんまるとしたフォルムの熊も虹色カラーだ。注文した料理を運んでくる定員が「虹ベアー君です」とそれの名を呼べばノアは「にじべあー」と小さく呟き、葉月は「可愛いの!」とそのぬいぐるみをぎゅうと抱きしめる。
「三人で虹を探しに来たつもりだったんだが、どうやら一人旅の道連れが増えてしまったようだね。
 葉月とノアと、虹ベアー君か。さて、虹ベアー君は何を食べる?」
「角砂糖?」
 こてん、と首を傾げたネクロマンサー。ぱちぱちと瞬くノアに葉月は「ぴったりなのね」とくすくすと笑みを零した。
 テーブルの上にはラサの気候を生かしているという茶葉とスパイスを使用したチャイ――これも虹を思わせる可愛らしいカップに入っている!――とチーズケーキ、レインボーチョコレイト、そしてレインボージュースという名前の『飲んでみてからお楽しみ』なドリンクが並んでいる。ついでと言うように子供用の小さな椅子に座らされた虹ベアー君はレインボージュースを前に据えられて元からの困り顔を更に困らせたようにも見えた。
「頂きますなの!」
「いただき、ます」
 二人に「はい」とランドウェラは頷く。これだけの虹があればとても楽しい――けれど、今日の目的は他の所にある。偽物の虹を見ているだけでも楽しくって仕方がないのだけれど、それでも『本物の虹』を探す三人にとってはそれが何処にあるのかが疑問だ。
「虹ベア―君は知らない?」
 勿論ぬいぐるみなので物言わない。しかし、このカフェの住民である虹ベアー君であれば、本物の虹を見た事もあるのだろう。窓際、開け放たれた窓から見える雄大な草原に虹の橋が架かる所を想像して葉月はほぅと息を吐いた。
「虹ベアー君はいつもこの席に座っているの?
 この窓から虹をたくさん見えるからなのね。特等席なの!」
「……ほんとう、だ。特等席。虹ベアー君、今日は、虹は?」
 子供用の椅子に座って窓の外を眺めるような虹ベアー君でも虹を自由に顕現させることは出来ない。
 それでも残念がる仕草を見せないのは三人とも『三人でおでかけ』という一番の幸せを前にしているからなのかもしれない。晴れ渡った晴天に、雨の日ならば虹が見えるのかななんて『おとぎ話の虹のおはなし』をもとに考察するのもまた楽しい。
 虹ベアー君の前に置かれたレインボージュースを誰が飲むかの譲り合いをしながら、口にしたチーズケーキは何処か大人の味わいであった。甘味が少なめのそれをブルーベリーソースで頂けば酸味が夏のけだるさを取り払うかのようだ。チャイもスパイシーさがスッとさせる気がしてランドウェラは美味しいよと二人へと告げた。
「その、レインボージュースは、何味?」
 ノアの言葉にランドウェラと葉月は顔を見合わせる。物言わぬぬいぐるみの虹ベアー君もそれにこたえることはない。
「……『飲んでからのお楽しみ』らしいの」
「お楽しみ……」
 葉月がメニューを見返しても掲載されるのはアレルギー表示のみだ。それを見る限りフルーツ系なのは確かだが――細かい所までは分からないと言うのが二人の感想だ。
「なら、飲んでみるしかないな」
 ランドウェラのその言葉にノアと葉月が首を振った。何か想像がつかない以上、少し恐ろしい感じがするのだ。ランドウェラは「え?」と首を傾ぐ。そうされれば飲むのは自分――虹ベアー君は無機物だ!――しかないではないか。
「飲むか……」
「感想聞かせて欲しいなの」
「感想」
 二人の期待のまなざしを受けながら少し飲んでみる。カラフルな層が交じり合うように、異様なカラーリングに変化したが、味わいは悪くはない。ベースはブルーハワイなのだろうがそこからカラフルなフルーツの味が絶妙にマッチして流れ込んでくる。これをミックスフルーツジュースと思って飲めばそれほど違和感がないような気がしてランドウェラは「美味しい」と小さく零した。
「「美味しい?」」
 ずい、とノアと葉月が不思議そうな顔をしてその身を乗り出した。層がストローによって崩れて色が交じり合うのは幼い子供たちが絵筆で描いた虹のようだが――それよりも何よりも、彼の感想が美味しいの一言だったことが気になったのだ。分けて欲しいと言うように一口ずつ口にして、葉月とノアは顔を見合わせる。
「「……美味しい」」
 美味しくない、訳ではない。だが、それ以上に『この味はこうだ』と紹介することが出来なかったのだ。お口の中の虹の感覚を共有しながらついつい、笑ってしまった二人。その様子にランドウェラは小さく笑みを浮かべた。
 虹はまだ出ていない。驚くほどの晴天だ。只、太陽の輪が虹色の色彩を作り出している――と言えば確かに虹を見た気にもなれるが、目指すは空より橋をかけて山向こうまで連れて行ってくれそうな、そんな虹なのだ。
「はあ……お腹も膨らんだの」
 チーズケーキも、レインボージュースもおいしかったと葉月がにんまりと笑えばノアも大きく頷く。
 カフェでの談笑と喫茶を存分に楽しんでしまったが、本題の虹はまだまだ見えない。だが、カフェに設置された柱時計の指し示す時間を見るにそろそろ太陽も山の向こうにその姿を隠したがる頃合いだろうか。
「虹は残念だけど、今日は無理かな」
「……そうね。うん、美味しい虹は沢山だったけど、本物が見たいもの!」
 あのお山の向こうに向かった橋が伸びるのでしょう、と葉月はワクワクした口調でそう問いかけた。
 ランドウェラが大きく頷けば、ノアはそれを想像して「すごい」と小さく呟く。
「虹でお山の向こうに、いける?」
「さあ、どうだろう。虹を渡った事がないから」
 揶揄うその声音にノアは「すごい」ともう一度繰り返した。御伽噺なら、絵本なら、虹の橋を渡っていけるのかもしれない。あの橋を渡って、その向こう側――輝かんばかりの『虹の国』が待ち受けているとでも言うのだろうか。
 ならば――ランドウェラは小さく笑った。
「今日は虹が見つからなかったね。けど、また来よう。
 二人は次は何時暇かな? 今度も――虹ベアー君も一緒がいいならそれでもいい――虹を探しに行こう。
 次もこのカフェで虹を待っても良いし、野にピクニックに出ても良い、雨の日に出かけて虹を追いかけたっていいね」
 ランドウェラはそう笑った。なんだって、三人でならば楽しくってたまらないのだから。
 虹が見れなくっても三人で一緒に居られるならばそれで良いと葉月はにこにこと笑みを零す。
 ノアだって、同じだ。二人とお出かけできる、ただ、それだけで満足なのだ。次の約束をいつにしようかなんて、三人でああでもないこうでもないと話しながら『また今度』が増えていくことがどれ程までに嬉しいか。
 それじゃあ、と次の『おでかけ』を約束して、お土産として虹ロールという名前のロールケーキを買って帰ろうというとランドウェラは二人へと提案した。今日と言う日の『美味しい』お土産と、それから――ちら、と視線を向ければ虹ベアー君の小さなマスコットが揺れている。何か、可愛い記念をそろえようと提案を交える。
「それじゃあ、雑貨を見てから買えるの!」
 嬉しそうに雑貨へ向かう三人の背中を、売店にどっしりと腰かけていたビッグザイスの虹ベアー君は微笑ましそうに眺めていたのだった。

  • 虹霓を追いかけて完了
  • GM名夏あかね
  • 種別SS
  • 納品日2020年06月24日
  • ・ノア・マクレシア(p3p000713
    ・ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788
    ・瑪瑙 葉月(p3p000995

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