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【Pan Tube】混沌来ちゃいました!~鉄帝国~
登場人物一覧
アリスの『ワンダーランド』という文字の隣には銀髪の髪の少女が微笑んでいる写真が張り付けられている。指さす仕草で指し示すは『混沌来ちゃいました!』というポップな文字だ。
10分後にライブ配信という文字の隣にはリマインダー登録機能が躍っている。流石は練達の叡智――動画投稿サイト「Pan Tube」だ。それが常の事、今日はといえば――
『今日は動画を投稿するにゃー! 今日のテーマは初心者支援! 乞うご期待にゃー!』
「Pan Tube」のP-Tuber『アリス』による発信に期待が集まっている。動画説明欄には『混沌世界を大冒険! アリスと(時々)ゲストさんにお任せにゃー!』という説明と共にサムネイルには『混沌来ちゃいました! ~鉄帝国大冒険!~』という文字が並んでいた。
再生ボタンをクリックすれば、軽快なイントロと共に『アリスのワンダーランド』という文字が躍った。
画面が切り替わる。歯車や硬質な鉄材が並び、蒸気が立ち上る所謂『スチームパンク』な街並みの中、『アリス』がにんまりと微笑んでいた。
「はいこんにちはにゃ! あなたのフリータイムのお供、『ワンダーランド』始まるのにゃ!
今日は鉄帝、こと、『ゼシュテル鉄帝国』の首都『スチールグラード』にお邪魔したのにゃー!」
両手を広げてにんまりと微笑む。蒸気が音を立て、廃油の匂いが鼻腔を擽れどアリスはにんまりと微笑み『アイドルスマイル』を崩さない。
「前回から見てくれてる人居るかにゃ? ありがとありがとなのにゃー!
なら、ゲストさんもそろそろお馴染みかもなのにゃ! 今日のゲストさんはこちら!」
「こんにちはっす! 今回ゲストでお供するレッドっす。よろしくっす!」
赤い髪にハットと大きめの靴を履いた少女――その体は少女であるために便宜上、彼女と称する――は手をひらりと振って見せる。
「ゲストさんは幻想王国に本拠を置くギルドローレット所属のイレギュラーズなのにゃー!
前回の幻想王国に引き続き、鉄帝でもご一緒してくれるのにゃ!」
「はいす! そして今回見るのが初めての人もよろしくっす!
それじゃ、今回は筋肉と闘技で賑わうコチラを紹介っす!」
レッドとアリスが振り返れば遥かその向こうに見えるのは鉄帝国にとっての国民の夢と栄光を詰め合わ込んだ闘技場であった。
大闘技場ラド・バウ――それは、鉄帝国の象徴だ。近づくにつれ熱気あふれ、人々は口々に興奮を語り合う。それこそがこの場所という事だろうか。
「今日は一段と盛り上がってるっすねー! 有名どころのカードなんすかね?」
「どうかにゃー? それじゃ、ラド・バウに向かいながら鉄帝国についてご紹介なのにゃ♪」
遠くに見えるラド・バウ。それを背景にアリスとレッドがポーズをとった――動画の中でカシャ、とカメラらしきBGM、そしてラド・バウの前でポージングを取ったアリスとレッドが記念写真のように切り取られて静止画となる。
――アリスのワンダーランド♪
アイキャッチが流れた後、画面は一転。スチールグラードのほど近く。それは青煙を揺らし玉屑の中に立たずむ『異形の聖堂』であった。その名前を歯車大聖堂――鉄帝国に置いてはごく最近できたばかりのスポットだ。地下に眠っていた古代兵器は命を得たように縦横無尽に動き舞ったという痛ましい事件での遺物は今は再構築し、荘厳なる聖堂群として見物することが出来る。
「ここは『歯車大聖堂』っす! 最近流行の観光スポットっすね!」
「イレギュラーズの活躍でスラム街『モリブデン』での非道な行為が止められて、観光施設や商業施設、新闘技場になって問題も解決したらしいにゃ!」
アリスは成程、と歯車大聖堂の前で一礼する。この場所は『人々を救う為に命を潰えた』聖女が眠っているともいわれていた。生き物の死骸であるかのような感覚に同居する無機質な気配。
「うーーん! 動画で全部をおつた出来ないのがすっごくすっごく、悔しいにゃー!
こちら、『見て楽しむ』名所って感じなのにゃ! モリブデンの商業施設なんかじゃ『ラド・バウ人気』のアイドル闘士パルスちゃんのおすすめブランドやスウィーツも取り揃え、らしいにゃ!」
アリスはそう笑ってから次のスポットをご紹介とウィンク――すると画面には歯車大聖堂の美しい風景が映し出されてからアイキャッチが流れる。
所変わり、レッドとアリスが「こっちこっちー!」と呼んでいる演出が見られる。銀色の美しい雪に覆われたその場所は忘れ雪が木々を覆う。凍てつく空気に穏やかな南風が混じると言うのに雨氷は植物に纏わり着いたままだ。
「ここは、銀の森っす! ラサの砂漠地帯から流れ温暖な空気と鉄帝国の冷やかな気配が混ざり合う観光名所っす。
氷の精霊達が住まっていることから、個々の氷は解けず『万年雪』と称されるらしいっすよ!」
美しい木々の中を歩みながらレッドがそう告げる。向かう先は森の中心部。底より古代兵器の残骸がその顔を見せる『雪泪』は銀の森の静謐溢るる湖である。天穹より注ぐ日輪を受けて煌めく雪泪は『映え』スポットだ。
動画にはガイドブックの様な可愛らしい画面が映し出される。幻想王国などでも流通する一般的なガイドブックを思わせるレイアウトには『銀の森』というポップな文字が躍っていた。
赤いペンでぐるりと丸をされるのは雪泪。注釈のように並んだ文字はこの土地は
特異運命座標ならば知っていてもソンはない場所だ。アリスの視聴者にも精霊種は多数存在するはずだ。きっと彼らにとってはどこか懐かしい空間なのかもしれない――
喧騒が響く。鉄帝星屑商店街の中を歩くアリスとレッドに楽し気な国民たちが声を掛けてくる。その様子はノーカットでお届けだ。『※ノーカットにゃ!』の文字を躍らせた動画の中では気前のいい対象が唐揚げ串を二人へとプレゼント。
「今からラド・バウ観戦だって? 美味しいもの見ながら盛り上がりなよ!」
楽し気な彼らのその声より鉄帝の人々は『基本は脳筋。だからこそ、楽しい』と言うのが伝わってくる。
「さあ、国民の娯楽、夢の地、ラド・バウへ――!」
ぴょん、と跳ねて見せたレッドとアリス。そして二人が辿り着いたのはラド・バウ――の、控室であった。
喧騒が響く外の声を聞きながら二人はそっと扉を指さす。控室の個室を使うという事は有名な闘士であろうか。
其処に書かれるのは『パスル・パッション』という文字であった。
「なんとなんと――! レッドさんの推し! 大ファンでもあるB級闘士のパルス・パッションさんにインタビュー出来る事に!」
「えええええええ――――!? ほ、本当っすか!? パ、パルスちゃん!?」
「Pan TubeのP-Tuberとしっかり名乗って、OKを貰ったのにゃ! それでは――」
こんこん、とアリスがノックすれば中から楽し気な声で「どうぞー」という応答が返ってくる。今だドキマギしており、言葉を飲み込めずにおろおろとした調子のレッドを映すカメラはどこか楽し気だ。
「それでは、お邪魔します! こんにちは~~! P-Tuberやってます、アリスにゃ~~!」
「アリスちゃん~! いつも見てるよ。こんにちは、みんなのアイドル、ラド・バウB級闘士の――!?」
せーの!
「パッルスちゃ~~ん!」
お約束の文字が画面に浮き上がる。パルス・パッションは何時もと同じ桃色のポニーテールを揺らしてにんまりと微笑んでいる。今日はB級ランクマッチの日だ。彼女にもあまり時間はないが……『アリスのワンダーランド』の為の特別らしい。
「それでは、パルスちゃん! いつも見てくれてありがとうにゃ!」
「いえいえ。今日はインタビューありがとう! とっても嬉しいよ!」
にんまりと笑ったパルスを見てレッドは限界オタクのように「はわわ」と言った。流石はアイドルニッコリ笑顔でノックダウンである。
問いかけるは本日のランクマッチへの意気込みやアイドル活動の予定、そしてP-Tubeへの印象だ。
「ボクもP-Tuberとかしてみたいかも?」
「パルスちゃんが? それってとってもすごいっすよ!」
意気込むレッドに「今度、アリスちゃんのチャンネルにお呼ばれしてもいいかも!」とパルスは冗談めかす。
インタビュータイムは終始和やかだ。途中、『スウィーツタイム』としてパルスお勧めスウィーツが並んだ。
マカロンにクレープ、そして砂糖菓子を簡素なテーブルに並べての食レポはアイドルとご一緒だ。
そろそろパルスの出番も近づいてくる――「ああ、もっと話したいのに!」とパルスが体を揺らせばアリスは「またの機会を待ってるにゃ!」とアリスが告げればレッドは「そ、そうだ、視聴者プレゼントにサインとか!」と提案をして見せる。
「それじゃ、二人にプレゼントでサイン♪ ――視聴者さんはラド・バウで待ってるからね!」
楽し気なパルスに「パルスちゃんとの二度目があれば皆のもゲットするにゃ!」とアリスは意気込んで――「今日はここまで!」とにんまりと微笑んだ。
「それじゃあ! またにゃー!」
「またっすー!」
「まったねー?
手を振るアリスとレッド。そしてパルスがウィンク一つだ。
画面は切り替わり軽快な音楽と共にアイキャッチが流れる。チャンネル登録はこちら! とにっこり微笑むアリスと『おすすめ動画』として『【Pan Tube】30万GOLDを闇市に投入してみた!!』『【Pan Tube】混沌来ちゃいました!~鉄帝国~』のサムネイルが表示されたのだった。