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活け花
登場人物一覧
ごぅん……ごぅん……ごぅん――一通りは試した。胴体は確かに完璧だし『貌』の好みも数多に合わせた。しかし四肢、だ。四肢が問題なのだ。世の中の獅子どもを悦ばせる為に必要な『妖艶』を造り出し、妥協せず魅せるにはどれが最も好ましい。嗚呼。其処、その筒の中だ。少し細いだろうが接する価値は在る。もたもたするな。関節部分は痛み易いからな。何? 何故痛み易い部分に成したかって。そんなのオマエ説明書きに記す為だよ。この娘は傷付き易くも頑丈ってな。女の好みは人それぞれだ。肉体の好みは一定すれど『脳味噌』は何処までも変われないのさ。おい。早くしろよ。オマエの腕は飾りか? そうか。そうか。つまり此方の脚が良いんだな。構わないとも。次はそれを使って視よう。ええ? なんで疲れて眠っているのかって? まだ生まれてないのさ。彼女は未だ赤子なのだよ。出荷される前は皆、這い這いも難しい、独り立ちの姿も思えない商品さ。ほら。唱えろ。彼女のテーマは『処女の脚』一番いい足をお願いします。五月蠅い。黙れ。小さく唱えろ彼女が起きるだろうが『商品』に瑕がついたら如何なる拘りの一品だぞ――クソ。此れは短い。もう少し長い足が最適だ。鏡が無いのに判るのかって。オマエは如何なんだオマエは。そら見ろよ、こんな部品じゃ一人しか満足しない。ちょっと幼いとこを残した方が好いんだよ。隣のそれ持ってこい。悪くないな。つぅって触れた指が悦んでやがる。そっちの腕と組み合わせれば素晴らしい。爪は女性らしく整った形で頼むぞ。あぁ? 嘘だろ! 誰だこの肌を造った奴は! 僅かに凸凹と加工失敗じゃないか畜生――造り直しだ造り直し。別時空からの滲みを表現するのに『現実』を入れちゃあダメなんだよこの失敗作どもめ。起きてないよな? 起きたら合図しろよ。彼女に私の怒声は『聞こえないよう』にするんだ。妙な毒素は一切認めない。最悪の場合は脳髄にも手を加えねば成らない。そうだとも『完成』とは未完成だ。真に完成させるのはお客さななんだから――次だ次。何年掛けても構わないが、お客様は待つ事が苦手だったりするんだ。髪を汚さないよう心掛けろよ。其処も一応は売りなんだから……ごぅん…ごぅん…ごぅん。
黒だ。黒がこの皮一枚の裏側に在る。この娘の特徴は確かに『美脚』だが、他の部位にも『キタナイ』は在り得ない。人が神を造ると謂うのならば、我々が神々しさを造るのも当たり前だろう。この空間に閉じ籠ってから幾年経ったのか。肉体と精神が商品と成ってから幾百年。技術は進歩し『水槽』が歌えば、謳う事もなく組み合わされる――艶やかな髪先が座椅子を撫で、最後の部品を望んでいるのだ。あと数個だけの『四肢』は怯えるように水泡と混じっている。養分は最高品質で肥える事も痩せる事も自在……云々と垂れ流す暇は無い。最終段階故に『接続』の道具も準備しろ。直ぐだ。もう直ぐだ。眠り姫は遂に目覚め、世界の獅子を悦ばせる――この脚は如何だ。良い。好い。この太腿と踵の具合、触れて揉んだ瞬間に駆け上がる強烈な刺激。舞台上で舞えばきっと観客は錯乱するぞ。こう成れば腕の妥協が問題だ。此処までの『脚』に完璧な腕は存在しない。人類全部を集めても腕には魔物が潜んでいる! なあ。本当か。本当に腕が足りないのか。脚は真実、相応しいものを掲げたのに……ええい。諦めない。諦めて、縋り付いて、埋もれる為には『もっと』良い部品を使わねば――待てよ? おい。今直ぐに切断用の道具を持ってこい。ええい。ざわめくな。喧しい。商品を出す為ならば【私】は何だってやってやる。あは。あはは。あはあはあは――後は任せたぞ。造るのは皆の願望だろう。漸く『北神祭』の在り方を思い出したか。左首筋の雪結晶。
獅子よ。四肢が遂に繋がった。私の腕が使用されたのは実に悦ばしく、商品としても最良と思考出来る。彼女は未だ眠りの底だが、何れ起き上がって微笑むだろう。誰しもが唾を飲む【沁入】シリーズの最新の品だ。きっと買い手数多の彼女に成るだろう。嬉しくも寂しい『魂』が震えて震えてたまらない。私はこの場に存在している。彼女の旅立ちに心の内での喝采を……ごぅん……ごぅん……ごぅん……何? 新しい部品がたった今届いた? 更なる脚と腕が届いたのか。は。はは。それは最高だ。不良品は残っているのか。それを私に繋げて『造り直し』だ。彼女を次の高みに上げるのだ。女性は何事よりも優先されるべきで、貴様等ならば理解出来る筈だ。同士。同志。作成者。技術者――丁寧に設置された無数の『四肢』だ。道具の準備は。点検は先程終えたな。先ずはこの脚だ。悪くはない。悪くは無いがその程度だ。其方の脚は『妖艶』だが、逸脱には程遠い。人間の無意識に叩き付けるような、そんな美しさは赦されないのか。いいや。お客様の【オーダー】は絶対だ。祈れるほどに。縋れるほどに。
活け花、所望。