PandoraPartyProject

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「No!」と言えない君だから

登場人物一覧

イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。

●イルミナのお付き合い
 軒先の風鈴がチリンと涼やかな音を立てた。
「おやっさん、気が早いっスねぇ」
「わはは、梅雨がさっさと明けるように願掛けだ! 湿っぽいのは嫌いでな」
「確かにおやっさんはピーカンが似合ってる気がするっス」
 他愛もない話をしながら勘定を済ませ、『blue』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)は店を出る。ローレット近くの商店街は何かと使い勝手がよく、顔馴染みになった者も少なくない。
「イルミナちゃん、うちの花屋にも寄っといで! 可愛いのを入荷したんだ」
「綺麗っスね。後で立ち寄らせてもらうっス。
 依頼の後に、好きな物を好きなだけ買う……これが人間の謳歌している『自由』なんスね」

 自由には責任が伴うというが、それも悪くないとイルミナは思う。誰かに命じられるまま生きるよりも、視野が開けたと感じるからだ。混沌で得た自由たからものを心ゆくまで楽しむ心算で、次はどの店を覗こうかと思案する。その背中にーー迫って来る謎の影。
「おい、アンタ」
 強めの口調で背後から声をかけられ泡を食う。動揺収まらぬままに腕を掴まれ振り向かされると、目の前に居る女性は全く知らない人物で。
「私と付き合え!!」
「承知っス!」
 誰、と聞く前に口から出たのは定められたあの言葉。
(や、やってしまったっスーー!)
 悲しきかな、イルミナは命令口調に逆らえない。コンマ一秒の間もなく返された返答に、相手が一瞬だけ虚を突かれたような顔をしたが……すぐ気を持ち直し、イルミナの腕を引き始めた。
「よし、いい返事だ。ついて来い!」
「了解っス!」
(わーー! 全然、了解じゃないっスーー!)
 何をされるか分からないまま、身体は相手の成すがまま。これから起こりうる様々な"最悪のパターン"をいくつも頭の中に思い描きつつ、儚すぎた自由にサヨナラを告げて商店街を後にした。

●「No!」と言えない君だから
「……で。付き合うってこういう事だったんスか」
「どういう意味だと思ってついて来たんだ?」
 ざくざくとキャンバスにラフを書いていた女が、手を止めてイルミナの方を見る。
「動くな」
「っス」
 拉致騒動の後、連れ去らわれた先は街外れの小さなアトリエだった。室内はどこを見ても作品ばかり。家主が人生の内の大半をここで過ごしたのだろうと察せる量だ。しかし、その内容が偏っている事にイルミナは気づく。
「風景画ばっかっスね」
 鋭い指摘にギク、と家主は肩を跳ね上げて視線を逸らす。
「天才は常に孤独だからだ」
「友達も居ないんスか?」
「べっ、別にそんなもの居なくても寂しくない!
 ただ、街角でモデルをスカウトしようとしても逃げられるばかりで……」
(そりゃあ、あんな命令口調でいきなり迫られたら、誰だって逃げると思うっス)
 喉元まで出かけた言葉を引っ込める。ついて来た理由を掘り下げられたら、ギフトの秘密がバレてしまう。
 すまし顔で指定されたポーズをとったまま、モデルに徹しはじめたイルミナ。その耳に、消え入るような小さい声が飛び込んできた。

「初めてだった。あんな風に快諾してくれる奴。……ありがとな」

 感謝の言葉は"寂しさから救われた"と言わんばかりに震えていて、彼女がいかに心細いまま人に声をかけ続けていたかを如実に物語っていた。嗚呼、とイルミナは目を細める。彼女の声なき悲鳴に気づけたのは、人並みの自由を得ながらも"マシンの宿命"を背負い続けたからだ。
 一見すれば枷にしか見えないギフトだって、時には誰かを救う鍵になり得るのだと。

 そしてこれは、いくつもの運命と偶然が噛み合って出来た『奇跡の一枚』。

「……綺麗っスねぇ」
 初夏の晴れやかな青空の下、カンパニュラが咲き誇る花畑の中で、ワンピースを着たイルミナが嬉しそうに笑っている。そこには画家の歓喜に満ちた情熱と、出会った事への感謝の気持ちが強く込められていた。
「気に入ったか?」
 気力の全てを使い切り、脱力していた画家が問う。イルミナが首を縦に振ると、彼女は絵の具まみれの顔を嬉しそうに綻ばせた。
「私の最高傑作だ。イルミナにやるよ。持って帰れ!」
「ありがとうっス!」
 新たに下された命令へ、胸がすくほどの声で応えたイルミナ。その表情は、奇しくも絵画の中で笑う彼女と重なるような笑顔だったーー。


「今回の仕事もやり甲斐があったっス!」
 依頼をこなした後は、イルミナにとって自由の時間。何をするのも自分の意思で、こうしてたまにアトリエへ顔を出すようになったのも、彼女自身が選んだ事だ。
「お疲れ。また来てくれたのか……って、何だそれ」
「商店街で買ってきた、ちり取りと箒っス! お金持ちの家にたまる埃は、集めると美味なるお菓子に生まれ変わるらしいんスよ!」
「確かに引きこもって絵を描いてられるくらいの財力はあるが……今日の私のお茶請け、埃か」
 それは嫌だと画家は笑い、じゃあ何がいいのかと2人は一緒に考え始めた。

  • 「No!」と言えない君だから完了
  • NM名芳董
  • 種別SS
  • 納品日2020年05月22日
  • ・イルミナ・ガードルーン(p3p001475

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