PandoraPartyProject

SS詳細

冷めない熱

登場人物一覧

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
万能炬燵(p3p007480)
人を駄目にする炬燵

●冷めない熱
 ぬる、と湿り気を帯びた触手が幼い肢体に絡みつく。
「……ぅ、ぁ…」
「もっと力を抜いた方がいい」
 何処からか降る声。その意味を理解するまでに一呼吸の間をを要するほど、エクスマリアの思考は蕩けきっていた。
 呼び戻そうとした思考は、しかしーー身体じゅうを這うおびただしい量の触手によって甘美なる快楽の沼へ引きずり戻される。
(マリアは、何を……して、いたんだった、か……)
 無防備なその様は、まるで蜘蛛の巣に絡めとられた蝶のよう。微かな身動ぎすらも封じられているというのに、不思議と嫌悪感はなく。
 緩んで半開きになった唇を緩慢ながらも動かし、消え入りそうな程にか細い声を紡ぐ。
「……わ…分か、った……」
「——いい返事だ」
 ずるんッ!!
「ひゃあぁぁう、ッーー!!」
 おもむろに太めの触手がエクスマリアの足首へ巻き付き、太ももに向かって強めに締め上げながらしごきあげた。
 ビクビクンッ! と電流が走ったかのように身体を跳ね上げ、あられのない声で叫ぶ彼女。その瞳の奥ではチカチカと星が瞬き、玉のような汗の雫が頬を伝った。
「ぁあ、っ……熱い、……内側から、ぽかぽかして……はぁ…溶けそ、う…だ……」
「マリアは確か、ウォーカーだったな。液体の姿にもなれるのか?」
「ちがーー」
「それは良かった。液状化されてしまっては、自分としても食事が取りにくい」

 エクスマリアの長い睫毛が揺れる。
ーー食事。
 そうだ、これは生きてゆくために必要な行為。
(駄目になる、とは聞いていたが、これほど、とは……)

 彼女は今、炬燵の中に入っていた。

●招かれた家具
 遡る事、数時間前。ローレットで暇潰しに行われていたゲームで同卓した二人は意気投合し、そのまま流れでエクスマリアの家で遊び続ける事になったのだが。
「横幅が、足りない、な。少し、傾けても、いい、か?」
「勿論だ。手伝わせてしまってすまないな」
 客を招き入れるというより、これは家具の搬入に近いなとエクスマリアは思う。美しい金糸の髪を手足のように器用に動かし、自宅の玄関を炬燵が潜れるよう手伝った。

 一度中に入ってしまえば、彼女の住処はわりと広い。天窓から差し込む光をテーブルに受けながら、炬燵は満足そうに部屋の中央に鎮座する。洋風の部屋に唐突に現れたそれは、傍目から見れば明らかに浮いていたが、2人と今更そこを気に留める事もなく。
 最優先するべきはコレだとばかりに、エクスマリアの髪が戸棚の引き出しからカードの束を巻き込み、炬燵の上へ並べ始めた。
「ここなら、チェスも、カードも、遊び放題、だ。心置きなく、リベンジ出来る、な」
「それに、ローレットのように、依頼で卓に水を差される事もない……か。いいだろう。親は君からでどうだ?」
「望むところ、だ!」
 炬燵の中に足を入れ、ぬくぬくと程よい温かさに浸りながらカードを切る。調子は上々。十分に勝てると踏んだエクスマリアだったがーー。

「……もう一戦、だ」
「その前に小休憩を入れさせてくれ。マリアもみかん、食べるか? とても美味いぞ」
 炬燵から伸びた触手が器用にみかんを剥き、一切れ彼女へ向ける。
「うぅ、ぅ……食べる」
 あれからというもの、手を変え品を変え色々なゲームで遊んでみたが……結果は炬燵が8割勝利をもぎ取っての勝ち越しとなっていた。エクスマリアも健闘はしているものの、あと一歩を詰め切れない事が多く。というより、隠しきれない。ポーカーフェイスで感情を隠そうとしても、彼女の髪は昂ぶりに合わせてざわざわと動いてしまうのだ。
 それが主な敗因とは気付かずに、彼女はみかんをムグムグと咀嚼する。飲み込む時の表情は、困ったような悔しいような、感情のない混ぜになった顔だった。
「マリアを此処まで、追い詰める、とは。こたつは、強いのだ、な」
「そう言うマリアも強いと思うぞ。特に勝利への執着心……油断する隙もなくて、すっかりお腹が空いてしまった」
 剥き終わったみかんがシュルシュルと炬燵の中に吸い込まれ、中からジャクッと音がする。どうやって食べているのかと一瞬エクスマリアは疑問に思ったが、それ以上に腹が空いたと言われた方が気になった。炬燵から抜け出そうと、寝転んでいた身を起こす。
「食事が、必要なら、何か、マリアが用意する、ぞ?」
「いや……自分も飲食はするが、それよりもこうして炬燵に入って貰っていた方が効率的に養分を接種できる。更に効率を取るならばーー」
 と、炬燵はそこで言い淀む。
「いや、出会ったばかりの君にこれを頼むのは気が引けるな」
「気に、するな。空腹を満たせる、術がある、なら。マリアに、遠慮なく、言って、欲しい」
「本当にいいのか。……になるぞ?」

●触圧に溺れて
(まさか、その、効率を上げる方法、が……マッサージ、とは……な)
 片目を閉じ、エクスマリアは熱のこもった息を吐いた。炬燵の中に養分の元が入る事が"食事"になるならば、こうして直接触手で触れられるマッサージが吸収をよくするというのも納得だ。
「痛いか? マリア」
「ん……気持ち良い、ぞ。いい腕……否、触手、だ」
 褒められると一瞬、触手の動きがピタリと止まる。そしてすぐに、にゅるにゅると照れを隠すようにマッサージを再開しはじめた。
「食事の礼だからな。さて、次はふくらはぎのマッサージに手をつけるとしよう」
 強く刺激されて敏感になっている足を、再び触手が揉みほぐし始める。
「やぁっ、ま……また、足……なの、か?」
「足は『第二の心臓』と呼ばれるほど大事な部位だ。重力に逆らってもしっかりと血液が登るよう、足の筋肉がポンプとなって血の巡りを助けている」
 言われてみれば、とエクスマリアは目を見開いた。弄られているのは主に足ばかりだが、身体じゅうがぽかぽかしている事に気づく。施術前より炬燵の中の温度が下がっているのに、身体の内側から熱が滲み出ているようなーー不思議な感覚。マッサージの申し出を受ける時、シミーズに着替えてよかったと頭の隅で思う。
「凄い、な……炬燵。よく考えられて、っーー!」
 きゅうぅと太ももに巻き付いた触手が締め上げ、力を緩めてを繰り返す。湿り気を帯びた触手は滑らかに身体の上を這い、今度は腰と手を同時にむにむにと刺激しはじめた。
「んッ……ふ、はぁっ……そ、んな……同時、に……!?」
「一時間ほどの施術を予定していたのだが、思っていた以上に身体が固くなっていたからな。ペースアップだ」
「待っ、……こ、たつぅ!」
「うつ伏せにするぞ。肩回りも大分こっているな」
 腕が解放されると、たまらずエクスマリアは近くにあったクッションを手繰り寄せた。ぎゅっと抱きしめながら施術の気持ちよさに耐える。野太い触手がズルズルと肩甲骨の内側を這い、ズププッと潜り込むように蠢いた。
(……全て、が終わった、ら…マリアは…どうなって、しまうん、だ……)

「これで施術終了だ」
 ぱふ、と炬燵布団がめくれて炬燵の吐息が外に吐き出される。
「定期的に整体には通った方がいいぞ。後は水分補給だな。身体の水分量が足りていないと、揉み返しという痛みが……マリア?」
 エクスマリアは答えない。代わりに聞こえてきたのは安らかな寝息で、状況を悟った炬燵は中の温度をほんの少し上げる事にした。一本の触手を伸ばし、先端を彼女の額に当てて、おやすみのキス代わりに優しさを注ぐ。


「おやすみ、マリア。……よい眠りを」

  • 冷めない熱 完了
  • NM名芳董
  • 種別SS
  • 納品日2020年05月17日
  • ・エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787
    ・万能炬燵(p3p007480

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