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SS詳細

偽りの日

登場人物一覧

フィーネ・ルカーノ(p3n000079)
御幣島 十三(p3p004425)
松庭さん家の医療助手

『ご機嫌よう。
 春の息吹を感じる季節になりましたね。
 一年前の今頃、貴方と共に過ごした時間を未だ忘れられません。
 願わくば再び、愛に満たされた口づけを。
ーー愛しのフィーネへ 機械眼の騎士より』

 フィーネ・ルカーノは届けられた一通の手紙を興味深げに眺め、律儀な男御幣島 十三を思った。
「彼もよくやるものね……」
 一年前から届く手紙。きっかけは、暇潰しの口づけ。彼と知り合ってから、こんな恋文が届くのだ。フィーネは彼の手紙を読みながら、返事を返したことは一度もなかった。勿論、沢山の文の中で彼の恋文が劣っていたわけでも、彼に興味がないわけでもなかった。むしろ、フィーネは文を送り続ける十三に興味を抱いていた。フィーネに文を送る者はいる。ただ、彼らはフィーネの愛を欲しがった。柔らかい文章はすぐに消え、フィーネを責め、やがて、文は届かなくなった。それなのに、彼は日記のような口調で、フィーネに語りかける。フィーネは知りたかった。十三がどんな理由で恋文を贈るのかを。意味が無ければ、それはそれで面白い。それとも、金。いや、宝石でも欲しいのだろうか。くすりと笑う。今のあたくしなら、どれも叶えられる。
「ふふ、予想できないことはとても楽しい」
 フィーネは置時計を見つめ、微笑んだ。シモン・ビスホップ男爵との約束まで、あと一時間ほど。用意は既に出来ている。温めるだけのスープやパン。机には鳥籠のなめくじが四匹。糸を引き、鳴き声を上げている。足元には知人から預かったベンガル。彼女はフィーネの足首を熱心に舐めている。
「ひなた。貴女はどう思って?」
 フィーネの言葉に彼女はにゃあと笑った。そう、すべては気まぐれだ。

 白色の封筒。見覚えのない筆跡がメロディのように載せられている。十三はポストの前ですぐさま、封を切り、便箋を見つめ、目を丸くした。そこには、こう記されていた。

『機械眼の騎士様
 ごきげんよう。あたくしは今、預かっているベンガルを膝に乗せながら、手紙を書いています。彼女はとても人懐っこくて、猫が大好きになったわ。それはそうと、突然の手紙に貴方は驚いているのかしら。あたくしにはそれが解らないのだけど初めて、貴方に手紙を出します。ね、お元気かしら? もし、貴方があたくしに本当に会いたいのならば、××日の×時にR倶楽部で待っているわ。また、会えることを祈って。  偽りの恋人より』

 来てしまった。本当に彼女はいるのだろうか。十三はくくと笑った。これはフィーネ様嘘吐きな財産家の悪戯の一つかもしれない。直筆の手紙は少女のような文字。誰かの代筆かもしれない。
「まぁ、それを確かめにきたんだよねぇ」
 呟く。十三はR倶楽部の重い扉の先を歩いている。響く足音。監視カメラが十三の全てを暴こうとしている。人気はない。まるで、厳重な檻に向かう哀れな獣のようだった。最初はおひねりの一つでも貰おうという、借金まみれの軽薄な考えが、悪名高いR倶楽部に訪れることになろうとは。視界の端に浮かぶ漆黒の額縁。描かれていたのは錆びついた斧。
「機械眼の騎士様でございますか?」
 無機質な声。十三は振り返り、身構えた。女だ。白色のスーツを纏い、金色の瞳が細められる。ただ、それだけだった。女はにこりともしない。
「……そうだけど?」
 白衣がゆらゆらと揺れる。十三は顎を撫で、女を見下ろしている。ベルガモットの香りがした。女の香水だろう。
「そう、ですか。では、こちらへどうぞ」
 女は左手を揃え、ゆっくりと歩き出した。十三は笑い、女の腕を掴んだ。
「……何を?」
 女はそれ以上、何も言わなかった。十三は女を壁に押し付け、女の耳元で囁いた。歪む唇。女は十三を突き飛ばし、小型拳銃を向けた。傲慢な笑みは彼女そのものだった。フィーネは息を吐く。見惚れてしまう。彼女はいつだって美しい。
「騙したつもりはないの。ただ、貴方があたくしを覚えているか知りたかっただけ」
「フィーネ様、俺が忘れているとでも?」
 心外だと言わんばかりにぼりぼりと頭を掻き、十三は立ち上がった。視界に赤が見えた。突き飛ばされた時に切ったのだろう。指先から血が流れていた。
「ああ、フィーネ様、貴女に殺されるなんて本望だねぇ」
 とろとろと指先から血が溢れていく。十三はフィーネを見た。あの女は人殺しだ。欲しいものの為なら、恋人ですら殺めるのだ。それでも、彼女は愛される。いや、魅了される。優しい笑み、フィーネは欲しいものを与えてくれる。
「そうかしら」
 フィーネは言った。そこに、偽りなどないかのように。何かが少しずつ奪われていく。
「ああ、そうさ」
 十三も笑った。何故だか、目の前の女にすべてを捧げてもいいと思った。愚かしい。愛してなどいないくせに。
「機械眼の騎士さん?」
 心地よい声。ベルガモットの苦味は貴女が欲しいと望む愛なのだろうか。十三はくつくつと己の妄想を笑った。次第に呑み込まれ、嫌でも囚われていく。フィーネは十三の片手に触れた。ハッとする。苦しくなるほどに冷たかった。この手で愛を奪うのですか? そう、問いたかった。でも、出来なかった。
「……ああ、そうに決まっている」
 十三はふっと笑った。本当は泣いてしまいそうだった。何故? 嘘吐きは一体、誰なのだろう。それとも、これが真実なのだろうか。解らない。彼女と話す度に十三は自分が彼女の恋人であるように思えた。首を振る。そんなことは有り得ない。十三はフィーネを救いたいと思った。同時にそれは、意味のない願いだと思った。

「さ、行きましょう」
 拳銃を捨て、フィーネは十三を誘う。招かれた部屋には、質素なベッドが一つ。それ以外、何もなかった。
「目を瞑って」
 フィーネは背伸びをし、十三の耳に唇を押し付け、首筋に掘り込まれた認証コードをなぞった。十三はフィーネを見下ろした。血が滴り、落ちていく。ハッとする。汚してはいけないと十三は拳を握り締めた。白くなっていく指先。
「良いのよ、別に」
 フィーネはそんなことと笑い、十三を押し倒した。


「フィーネ様……」
 冷えたシーツが熱を帯びる。眩暈を起こしそうになった。心臓が痛い。十三は息を吐く。本当にこのまま──
 どきりとした。ああ、目が合って──
「ええ、大丈夫。誰よりも愛しているわ」
 フィーネは十三を見下ろし「……何も言わないで。あたくしは……貴方のことが知りたいだけよ。貴方はそうね……好きな人を想像すればいいのよ。これなら、簡単でしょ?」
 フィーネはにこりとした。

 冷たかったはずの手は、濡れていた。もう、どのくらい経ったのだろう。十三は濡れた髪を掻きあげる。永遠にとわ反転する身体。四肢は震え、隙間なく相手を想い、空っぽの愛を互いに唄う。掠れた歌声、すべてが不規則にゆれ、まじりあう。
「ああ、まだ……まだ、足りないの……」
 フィーネは十三の額に口づけ、熱い身体を押しつけ、赤くなった首筋にくらいつく。
「んっ、あっ……フィーネ……さま……」
 十三は苦しそうに目を細め、唸った。痛いのか心地よいのか、もう解らない。唇の端から唾液が垂れている。フィーネは笑い、十三の濡れた唇を指で拭い、誘う。
「ああ……」
 十三は息を吐き、フィーネを傲慢に押し倒した。軋んでいく。途端にフィーネは口笛を吹き、両腕を首に絡ませ、力を込めた。十三は大きく息を吸い、笑った。ベルガモットの香りは何処かに消えてしまった。

  • 偽りの日完了
  • GM名青砥文佳
  • 種別SS
  • 納品日2020年06月01日
  • ・御幣島 十三(p3p004425
    ・フィーネ・ルカーノ(p3n000079

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