PandoraPartyProject

SS詳細

La magie de la lumière

登場人物一覧

武器商人(p3p001107)
闇之雲
ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)
永遠の少女

●Monologue
 悲しいヒト。寂しいヒト。
 あなたはいつか朽ちてしまうというのに、着飾ったりなんかして。
 昔に壊してしまった可愛い人間ヒト。あのコもそういえば、お洋服を着ていたわ。
 幸せそうだった。愛らしいフリルに包まれて、花のように咲き誇って。
 でもね、花はいつか手折られるものよ。
 勿論、手折るつもりなんてなかったのだけれど、ついうっかり加減を間違えてしまったの。
 許して頂戴ね、可愛いヒト。
 茨の永遠少女<アリス>がまだまだ幼かったころだもの、少し『ドジ』をしてしまったって、仕方のないことでしょう?

 でも、そうね。
 フリルだとか、レヱスだとか。そう云ったものって、なんだかとっても、愛らしくて素敵よね。
 お人形さんみたいで、でもどこかお姫様にも近いわ。王子様や妖精に愛されるのは、ふわふわで小さくて、守りたくなるような少女なのよね――なんて、月光の死神が云っただなんて知られたら、怒られてしまうかしら。
 でもね、でもね。どんな時代でも、どんな時でも。素敵な舞台にはおめかししていくのが礼儀ルールでしょう? 私もそれに倣ってみたいの。うふふ。
 そう思わない、父様?

●Ennuyé
 御伽の妖精、月の落とし子。光を冠する名を持つ娘、ルミエールは窓枠に腰掛け足をぶらぶら。スカートの裾が危なっかしいのだが、ルミエールは人の目を気にすることもなければだれにどう思われるかも気にしない。その為少しお行儀が悪くたって、ルミエールにとっては唯の『お茶目』に過ぎないのだ。
 五月、快晴。春の陽気から初夏の兆し。桜は青々とした葉をつけ、次第に日が長くなり始める。水の心地よさや日の眩しさに目を細めては、青い夏が来るのを待ちわびる、そんな季節だ。
 ルミエールは白磁の華奢な足を、メトロノームが刻むリズムのように規則正しく動かして。アン、ドゥ、アン、ドゥ。スカートの裾が揺れ、陽光がその肌に触れ。夢見る青は其れでも尚、退屈に溺れる。
 今日の少女は少しばかりご機嫌斜め。退屈、平和、つまらない。そんな様子を見かねた叶えるモノ――武器商人は、ぬるりとした足取りで不朽の乙女、永遠の少女に声を掛けた。
「おや、退屈なのかい、アタシのムスメ」
「ええ、父様。私、とっても退屈。何か面白い暇潰しはないのかしら」
 ふむ、と考える素振りも束の間、武器商人はルミエールの手を取り扉を開けた。
「ルミエール。今日はアタシと服を買いに行こうか」
「まぁ……! それってなんだかとっても楽しそうね、父様!」
 窓枠からふわり、飛び降りて。金の長髪靡かせ、ルミエールはご機嫌にくるりと回った。そんな娘の様子を微笑ましく思い乍ら、二人の服屋巡りは始まった。

●Couleur du père
 並んで歩く二人。人か、或いは。
 否、そんなことを訊くのは野暮だろう。二人の様子は『倖せ』そうで、『人間らしい』ものだったのだから。
 こつ、こつ、こつ、こつ。
 パンプスの音が道に小さく木霊する。
 夏が近付いていると云うのに、この二人ときたら暑そうな恰好をして人目を集めていた。特にルミエール。やたら分厚いロリィタのコルセットは見ている此方が暑くなって来る。そんな視線に気が付いたのか。武器商人は傍らのルミエールに微笑んだ。
「ふむ、そうだね。夏服にしようか」
 幾ら少女の見た目が人間種達の中に馴染んでいるとは云っても、まだまだ旅人種はその言動や季節の装いでこの世界の住人であったのか、そうではないのかさえもバレてしまう。この世界を楽しみだした娘には、この世界をもう少し知り、触れ、満喫し、叶うなら愛して貰おう。
 武器商人の思考は手に表れ、ルミエールと繋いだ手に加わる力。『あら、どうしたの父様』と告げられるまでは気付かなかったし、気付いてからも『嗚呼、こんなにもヒトに似た感情がアタシにもあったなんて』と、ケラケラと笑うだけなのだが。
 そうしてふらりと歩いているうちに辿り着いたのはロリィタのお店。何でもござれな混沌なのだ、それくらいあっても不思議ではない。パールホワイトの壁は二人を優しく出迎えた。
 チリンチリン。鈴の音は優しく響き、店に客がやってきたことを告げる。
「さァ、ここで見繕おうか」
「素敵! このお店、お人形さんのお洋服みたいに愛らしいものが沢山なのね」
「そうみたいだね。アタシのムスメなら似合うと思ったんだけど、どうかな?」
「父様が私に似合う服を選んでみせて。父様なら屹度、私を可愛くしてくれるでしょう?」
「勿論さ。安心しよし、アタシは下手なモデルよかまともなセンスはあるはずだからね」
 マネキンに着せられた洋服はルミエールの背丈には少し大きめ。寂しげにマネキンの周りをうろついていたルミエールの手を引いて、武器商人は小さめのロリィタコーナーへ。マネキンはショウウィンドウにしかないから手探りではあるが自分たちで探すのも悪くはないだろう。
 さぁ、はじめよう。愛しい娘に祝福を。恋しい父様に幸福を。

●Magie blanche
 とは云ったものの、魔法使いにとってもどんな魔法をかけるかは悩ましいもので。愛しいムスメならば何でも似合うだろうから、たったひとつを選ぶことが難しいのだ。
 スチームパンク風。パニエでふわっとふくらませて、運命の歯車を散りばめて……ベルトで絞めて、きゅっとセピアな娘の姿はどうだろう。嗚呼、夏服と云ったのはアタシじゃァないか。これはもう少し後。
 所謂チャイナロリータは? 上海領の首回りにふんわりレヱスを纏わせて、金の刺繍で花咲かせ。けれども嗚呼、少しばかり浮いてしまうような気がする。
 と云った感じで、武器商人にしては珍しく頭を悩ませて。一方その悩みの中心、ルミエールはご機嫌に店内を駆けまわる。
「父様、私父様の色のお洋服がいいわ」
「そうかい? ルミエールがそれを望むなら、そうしようか」
 けれども濃いとなんだか夏には向かないような気がしたから、淡いパーピュアの色を軸に店内を巡る。するとどうだろう、案外早く望みの品は手に入れられた。それこそ、見つけてもらうのを待っていたかのように。運命とはこういうことを云うのだろう。
「ルミエール。これはどうかね?」
「なぁに、父様」
 武器商人が見せたのは白いチュールワンピース。パーピュアのリボンできゅっと絞めたデザインがなんとも上品で、子供っぽさを消している。散りばめられたパールは薄らパーピュアで、白とパーピュアだけのはずなのに美しい。
 鏡の前で当てて見れば、ふわり、風に揺れた裾が妖精のようで、愛らしくて。ルミエールは逸る気持ちを抑えられず、試着室へかけこんで。『おやまぁ』と笑う武器商人が試着室の扉をあければ、そこには鏡の前てくるくる回る青薔薇の魔女。茨は何処へやら、そこには唯の可愛い永遠少女だけ。青薔薇の髪飾りとの相性も良く、武器商人も満足げに頷いた。
「似合うかしら」
「とってもお似合いさ。ルミエールのために仕立てられたみたいだねェ」
「ふふ、本当? なら此れにするわ!」
 戯れに。人間ごっこは楽しいから、こんな意味のないやり取りだって楽しいのだ。此れにする、というが早く、試着したままお買い上げ、そのまま帰ろうとしたルミエールの手を引いて、武器商人はもう一軒店を訪ねる。
「幸せは足元から、って云うらしいからさ。ニンゲンに倣ってみようよ、ルミエール」
「わかったわ。靴屋に行くのね?」
「正解。賢いコは嫌いじゃないよ」
 時刻はお昼過ぎ、ランチにはもってこいの時間だけれど二人は靴を優先し。そう遠くはない場所にあった靴屋で靴を見繕う。
「此処ではルミエール、お前さんの色の靴を買おうねェ」
「あら、どうして?」
「青薔薇には青が良いだろうさ」
 ひょいと武器商人は青のリボンパンプスを持ち上げ購入し、ルミエールの足元へ。今まで履いていた靴を新しい靴の箱に詰め袋に入れて。シンデレラが王子に硝子の靴を履かせてもらったかのような心地で、そっと足を靴へと踏み入れる。
 浮かれた幼いシンデレラは店の外へ駆け出すと、くるりと振り返り店からゆっくり出てきた武器商人へニッと元気に笑って見せた。お茶目さ一掬いと、愛らしさを少々。できあがったのは、夏の永遠少女。金髪を翻し、青い瞳は夢をのせて輝いて。青い空がやけに近く思えて仕方ないほど、澄んだ瞳は幸せそうに笑うのだ。その姿の何と愛らしいことか。
 ルミエールは武器商人の手を引くと、逸る胸の音を隠しもせず、仲間の元へと見せびらかしに行った。

●Les chaussures vous apportent le bonheur
 青の靴にかけられた魔法は幸せを齎す魔法。
 チュールワンピースにかけられた魔法は幸せに気付きやすくなる魔法。

 アタシの愛しいムスメに、光あれと願って。

  • La magie de la lumière完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2020年05月04日
  • ・武器商人(p3p001107
    ・ルミエール・ローズブレイド(p3p002902

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