PandoraPartyProject

SS詳細

夜更かしの二人

登場人物一覧

チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
チェレンチィの関係者
→ イラスト

●夜更かしの唄 I
 出会いは幾億の末の奇跡であるという。
 同じ時代、同じ場所、同じ種族に生まれ落ち――運命を交錯する事は確かに星を数えるような果て無い確率の悪戯であろう。
 時に過ちに、時に疵に、時に運命にもなるそんな出会いは人を超えた天の配剤による領域だ。
 だから、二人の。とある不幸な少年と、不幸な少女が出会ったのは――きっと意味が無いようで意味のある特別だったに違いなかった。
(――いや)
 少年は――ウェンズディ・ランブロウはそこまで考えて大きく頭を振っていた。
 気紛れな我儘でなんて無理を言ったあの日、出会った彼女は特別なんて言葉で言い表せる程、単純な相手では無かった。
 幻想の名門であるランブロウに生まれ落ちたウェンズディはその出自に反して産まれながらにして何一つ持ち合わせてはいなかった。
 当主ザカライアが犯した、口にするもおぞましい獣欲の結末から出来た不義不貞の子は産まれながらに誰にも祝福されない存在だったからだ。本来はそれでも彼を愛してくれたであろう母親は、その家族はザカライアに殺され、ウェンズディは幼少より軟禁生活を送る事になる。
 ウェンズディの面倒を見てくれた使用人達は高給に丸め込まれながらも彼に同情的であり親切であったけれど――
 恐ろしい当主に反旗を翻す程の味方ではなく、彼等に出来たのは精々がウェンズディの酔狂な我儘を叶えるに協力してくれる――離れの鍵を掛け忘れてくれる事までだった。
 だから。
「君を唯の『特別』だなんて。思うに失礼な話だったよね」
「何言ってんだ、お前」
 窓から差し込んだ冴え冴えとした月光を背に、少女は――チェレンチィ (p3p008318)は心底理解出来ないといった風な顔をしていた。
「……お前ってつくづくそういう所あるよな」
「そうかもね。一人が長かったから、つい考え過ぎてしまう癖があるのかも」
 少女らしからぬなチェレンチィの物言いにウェンズディは柔らかに笑っていた。
 やり取りの中で彼女が抗議めいたのはこれが初めてではない。
 成る程、一人上手の夢想家は時折、羽ばたかせた想像の翼の先でモノを言うのだ。
 生まれながらにして軟禁生活を送る貴族の私生児と、名前すら持たなかったスラムの少女では何もかもが違う。
 何もかもが違うのだから、噛み合わないのは当然であるとも言えた。
 だけど。
「今日も――話はしてくれるんだろ?」
 頭をばりばりと掻いたチェレンチィは何時ものように折れてウェンズディの悪癖を
 ランブロウの本邸から離れた古い別邸。大きな窓から月光の差し込む二階の部屋。
 アンティークに大きなベッドに寝そべって、窓からやって来る自分を出迎えるウェンズディ……
 チェレンチィは生きる為だけに街を駆けずり回る昼の時間よりも、穏やかな彼と過ごす夜の時間の方をずっと愛しく思っていた。
 毎日ではない。約束もしない。示し合わせた機会でなくても、始まる時は驚く程自然にその時間を求めていた。
 不思議とチェレンチィが訪れる日、ウェンズディは夜更かしをする。
 不思議とウェンズディが人寂しさを感じる夜、決まってチェレンチィは別邸を訪れた。

 ――それは偶然だったかも知れない。
   だが、その偶然は優しい必然であるようにすら思われた。
   少なくとも歳若い少年と少女はそんな頼りない運命めいたに縋っていたのかも知れなかった。

「いいよ。話をしよう。僕の好みに寄ってしまうかも知れないけど」
「アイオンの話だっけ? スケアクロウって奴の話の続きだったよな」
 チェレンチィの可愛らしいにウェンズディは嬉しそうに頷いた。
 誰かと気安く話す事それそのものが嬉しい事だった。
 年の近い誰かと歓談をする事何て――以前は想像も出来ない位の望外だった。
 ウェンズディに許されたのは辛うじて与えられた書籍から過去を、夢想を追う事だけであり――物語はそんな彼の慰めに他ならなかったから。
 大好きな英雄譚を話して聞かせる行為そのものが、ウェンズディにとっては何よりの時間だったから。
(……なんて、思ってるんだろうけどさ)
 だが、夜更かしの時間に格別の喜びを抱いているのは何もウェンズディだけでは無い。
(お前は知らないだろうな。ボクがこの時間にどれだけ救われてるか。
 お前とこうして過ごす時間を――どれだけ大切に思っているか、何て)
 チェレンチィは事ある毎に「ありがとう」と口にするウェンズディが面映ゆくて仕方なかった。
 素直になれない。そんな簡単に、口には出せない。
 それでも彼女は彼が嬉しそうに笑う度、自分を気にかけてくれるその度に緩みそうになる顔をぶっきらぼうに保つ事に全精力を注がずにはいられなかった。
 本来ならば交わる筈も無い尊い血筋の彼と、路地裏の野良猫のような自分を引き合わせてくれた神に感謝さえしていた。
 ウェンズディはチェレンチィに知識を教えてくれる。
 チェレンチィはお返しにウェンズディに経験を伝える事が出来る――
(ああ――)
 御機嫌に、楽しそうに英雄譚を聞かせてくれるウェンズディの声を聴きながらチェレンチィは目を閉じた。
(――そう言えば、この名チェレンチィだって。コイツがくれたものだったっけ――)
 チェレンチィが持ち合わせるものなんて殆ど無かったけれど。
 思えば今彼女が持っているものの大半はウェンズディがくれたものであるような気さえした。
 幾つも、幾つも。胸の奥でポカポカとキラキラと輝く思い出は彼女に得難い宝石のよう。
 ウェンズディと一緒でなければ輝く事何て出来ない――宝物だ。
「……聞いてる? まさか寝てないよね?」
「ん……ウェズ……?」
「酷いよ。今、一番いい所だったのに――」
 胡乱な反応を見せれば、ウェンズディは想像通りの顔をして唇を尖らせていた。
 それがおかしい。チェレンチィはその――じゃれ合うような距離が、仕草がどうしようもなく心地良い。
「酷いよ。ちゃんと聞いておくれよ。もう、君がそんなじゃ話はこれまでにしてしまうよ。
 分かってる? 僕は本気だよ、本当に本気だからね? 分かってる!? チェーニ!」

●Boy Meets Girl I
「……私はそう言えば胡乱なメイドなのでした」
 王都の大劇場で披露すれば無数の野次を免れない、酷い酷い大根芝居はウェンズディにとっては拍手喝采の見事な披露そのものだ。
「ああ! しまった! 私は肝心な鍵をここに置き忘れてしまった!
 いけない。旦那様には坊ちゃまの監視を命令されているのに――困った、困った!
 絶対にこんな事は知られてはいけない。朝までには必ず鍵を掛け、眠っている坊ちゃまを確認しておかねばなりません!」

 ――どうしても、外の世界が見たいんだ――

 零したウェンズディのその一言を使用人達は聞かない振りをした。
 少なくとも彼に何かを言う者は唯の一人も居なかった。
 別邸でウェンズディを軟禁する使用人達は血も涙もない父に高給で言い含められた雇われでしか無かった筈だった。
 彼等はウェンズディに比較的親切ではあったけれど、少年はこの時まで――彼等に気を許した事等無かった。
 大きくなればやがて――恐らく邪魔になれば消される身の上だと分かっていたから。
 眠る自分の胸に刃を突き立てるかも知れない――突き立てるであろう彼等は無味乾燥とした何者でも無い他人だとしか思ってはいなかったのだ。
「……ありがとう」
 テーブルの上に置かれた重厚な鍵に視線をやり、思わずそう漏らしたウェンズディに返る言葉等ありはしない。
 絶対に会話は成り立たず、を続けるメイドはやはり酷過ぎる演技力で独り善がりな言葉を続けるだけだった。
「夜風は冷えますから、外に行くならコートを羽織っていくに違いありません!
 帰る時は裏路地には気を付けないと。良くない連中もたむろしていますからね。
 私は胡乱なメイドですから、鍵を忘れた事には朝まで気付いたりしないのです!」
(……思えば)
 ウェンズディはこの夜に初めて自分の生活を顧みた。
 苦痛だけに満ちていると思っていた自身の短い人生を回顧した。
 初めて立ち上がった自分を見守る厳格な執事の顔を思い出した。
 皿をひっくり返して床をドロドロにした時、慌てるメイドの顔を思い出した。
 彼等は……酷いだけの人間では無かった事を改めて、思い出していた。
 弾んだ足取りで部屋を辞したメイドを追いかけるように、鍵束を掴んだウェンズディは縛られない夜の世界に飛び出した。
 何の目的がある訳でもない思い付きに過ぎなかったが――
 初めて吸う外の空気は屋敷の中よりもずっと澄んでいて、両手両足にはまったく軽やかな翼が生えたようですらあった。
 街並みを眺め、初めて歩く石畳に踊る。
 真夜中の街に人通りはなかったけれど、だからこそウェンズディは誰よりも深く息を吸い込めた。

 ――果たして。

 初めて外の世界に触れた少年がメイドの言いつけを守らなかったのは――裏路地に足を踏み入れてしまったのは、浮かれた彼の状態を考えれば止むを得まい。
 迷路にように入り組んだ裏路地はウェンズディの冒険心をくすぐるに十分で。
 まるでウルカンの剣を備えたアイオンのように、はダンジョン奥深くまで足を伸ばしたのだ。そんな彼が道端で眠っていた酔っ払いモンスターを蹴っ飛ばす事になったのも必然であり、機嫌を斜めどころか縦にした彼に凄まれて身を竦ませる羽目になったのも……また必然だったと言えるだろう。
「……ご、ごめ、なさ……」
「ああ!?」
 静寂の夜に不似合いなダミ声が轟けば、ウェンズディはもう泣きたい位の気分だったけれど。
「何やってんだ、酔っ払い」
 救いの声は――聴き心地の良いに訪れた。

●Boy Meets Girl II
「……それで、お屋敷から……ねえ」
 人心地ついたウェンズディは自分を助けてくれたにこれまでの事情を話していた。
 勿論、相手は初対面の――それも自分より幼さそうな子供だから、部分は少し濁して。
「僕はウェンズディ。そういう訳で深夜の散歩をしていたのだけど……君は?」
 助けてくれた事から生じた安堵を含め、ウェンズディは目の前の少年にとても気安い気分になっていた。
 モンスターに襲われたのは彼にとっての不幸だったが、こんな時間に似た年齢の子供に出会えた事はそれ以上に嬉しい事だったから。
「……」
「……? 君は?」
「……………」
 だが、それは一方通行のものだったのか――
 右手を差し出したウェンズディに少年は応じなかった。
 問いかける言葉に答える事は無く、差し出された手をちらりと見て何とも居心地の悪そうな顔をする。
「その、迷惑だった……かい?」
「……………」
「いや、もう迷惑をかけていたっけ。ごめんね、邪魔ならすぐに帰るから……」
「……違う」
 鼻白んだウェンズディに少年はようやく言葉を返した。
 半ば叫ぶ位の音量で鋭く響いたその否定の言葉に彼は思わずびくっと震える。
「あ、いや。大声を出して悪い……そうじゃなくて、その」
「……えっと、焦らなくていいからゆっくり話を聞かせてくれたら大丈夫だよ」
 当を得ない、な少年にウェンズディは優しく微笑みかけた。
 少年が何を言おうとしているかは知れなかったが――少なくとも自分は邪魔にはされていないのだと理解した。
 いや、むしろ。その逆だ。どうしてかウェンズディは少年が自分と話したがっているのだと、恐らくに確信していた。
 それは根拠のない、頼るには薄ら寒い妄想だったのかも知れないけれど、運命の歯車が動いた事だけは現実だったのだ。
「……無い」
「え?」
「名前とか、無い。チビとかそんな風に呼ばれてる」
「――――」
 ウェンズディはその時、思わず息を呑んでいた。
 狭い屋敷の中だけが彼の世界だったから――壊れかけた幻想のスラムの事情なんて想像さえつかなかったのだ。
 酔っ払いと丁々発止とやり合った、年齢よりも大人びて――スレて見えた少年は
 ウェンズディの世界の解像度はそんな現実を知らない。
 煌めくばかりの冒険譚に彩られたアイオンの時代は、遥かな歴史の彼方まで押し流されている。
「……それは……」
「……………」
 視線をついと逸らした少年の顔は拗ねているようにも罰が悪そうにも見えた。
 ウェンズディのコートは上等なもので、その身なりはいい所の子供だったから尚更だったかも知れない。
 何れも少年には持ち合わせないものだった。但し、彼の不自由さも――だったけれど。
「チェレンチィ……」
「え……?」
「チェレンチィ! 君の名前!」
 面食らった少年にウェンズディは強く言葉を重ねた。
 その顔をじっと見つめ、手を握る。
「誰も決めなかったなら、いいじゃないか。僕が決めたって!」
「初対面だぞ、お前……」
「でも、きっと友達になれるだろ?」
 強引過ぎるウェンズディに少年は何とも言えない顔をした。
 相変わらずぎゅっと握るその手の体温は温かで――否が応無しに目の前の彼の存在感を際立たせていた。
「……っ……っ……」
 何かを言おうとして、それでも言えなくて。
 口をぱくぱくと動かした『チェレンチィ』にウェンズディは問う。
「やっぱり、駄目かな?」
「駄目じゃないけど――」
 顔を真っ赤にしたチェレンチィは距離の近過ぎる友人に力一杯に声を張った。
「ボクは、女だ!」
 初めて貰ったその名前はウェンズディが好きな冒険活劇の主人公のもの。
 この瞬間までチェレンチィを男だと思っていたウェンズディの目は滑稽な位に丸くなる――

●夜更かしの唄 II
 大きなアンティークのベッドの上には二人の影。
 大きな窓から冴え冴えと降り注ぐ月光は、相変わらずの二人を冷たく残酷に照らしていた。
「ああ……」
 馬乗りになったチェレンチィに伸ばされた手がその柔らかな頬に触れた。
 ウェンズディはその感触が昔のままだった事に月のように淡く微笑む。
 幾度と無く――数え切れない位の夜を過ごしたこの部屋なのに。
 今夜ばかりは常ならざる悲哀の気配に満ちていた。
「……ああ。やっと、やっと会えた。だから僕は満足なんだ。
 ねえ、チェーニ。君は本当に綺麗になったよね――」
 ……チェレンチィが姿を消したのは今から数年程前の出来事だった。
 寄る辺さえ無い、スラム街の子供が犯罪者めいた人買いにさらわれたのが原因だった。
 酸いも甘いも嚙み分けて、思い出したくも無い時間の末に再会した。
 暗殺者として仕込まれて――邪魔な私生児を消す為の駒として、もう一度あの懐かしい窓をくぐる事になったのだ。
 そんな風に拗れた運命の綾はまるで縺れた糸のようだった。
 そして今夜、チェレンチィはその場所と顔に驚いた顔をして――ウェンズディは間近に迫った死の気配が彼女であった事に破願した。
「いつか、した話を覚えてる?」
「覚えて、る」

 ――君は人を殺した事がある?

 どうしてそんな話になったのかは――唯の弾みだったかも知れない。
 ただ、何時か来る終わりを強く意識していたウェンズディは頷いたチェレンチィに告げたのである。
「自分はいつか殺される運命だから、どうせ殺されるのなら君が良かった」
「……そんな事」
 チェレンチィは頭を振る。
 たった一人の――特別な友人を殺したい訳がない。
 命令を受けた時、その場所を指定した時、門を飛び越えた時、懐かしい窓をくぐった時。
 アンティークのベッドの上で自分を出迎えた顔が微笑んだ時……
 チェレンチィは一つ一つ今夜という最悪を確認せずにはいられなかっただけだ。
 だが、同時に彼女には未だ選択肢が存在していた。
 もし、彼を殺さないで済むのなら……どうしたら、それは成るだろうか?
 簡単な事だ。自分が、連れて逃げればいい。何もかもを放り出して――彼を閉じ込める檻から逃げればいい。
 彼を執拗に追いかける死の影から、地の果てまで――逃げればいい。
「いけないよ」
「――――」
 チェレンチィの心の中を読んだようにウェンズディは言った。
「君一人なら兎も角、僕の体力じゃ逃げ切れない。
 そういう仕事を任されたなら――裏切った君はきっと酷い目に遭う。
 それに……父は絶対に僕を逃がしたりはしない」
 
 幻想という国の暗部、貴族という世界の浅ましさに抗うには諦念の青年と駆け出しの暗殺者の力は弱すぎた。
 もう一度、ふるふると首を振ったチェレンチィにウェンズディは念を押すように言う。
「僕はね、幸せだ」
「……………」
「人生の最後の日に君に逢えた。最後の、最大の願いを叶えられた。
 君がやらなくて――他の誰かにやられるのだけは嫌なんだ。
 僕が君の人生を終わらせる事だけは――嫌なんだ。
 気に病まないで。ずっと前から決まっていた事だ。君なのか、他の誰かなのか。
 期待はしていなかったけれど、もう無理だよ。だって僕は君の顔を見てしまったから」
 ウェンズディはかつてのようにチェレンチィの手を握った。ナイフを持ったその手をぎゅっと握った。
 誘導するように自身の胸に刃を向け、どうしようもない位に混乱した彼女に優しく頼む。
「どうか、僕の願いを叶えて」
 それは身勝手で痛烈な――ウェンズディの我儘だった。
 だが、この物分かりのいい青年が人生の中で我儘を言った相手は、機会は酷く限られていた。
 その殆どは瞳の中の少女であり、少女もまた――自身の素顔を見せてきたのは懇願する青年に他ならなかった。
「……これは」
 握ったその手の中に硬質の感触を認めたチェレンチィはウェンズディの顔を見た。
 金色の砂時計のピアスはかつてウェンズディが母の形見だと語った――彼のたった一つの宝物だという事を覚えていた。
 その片方を彼は彼女に託している――
「どうしても……そうしろって……?」
「ああ。どうしても。それに、もう一つ。いや、二つ」
 泣き笑いのチェレンチィにウェンズディはいよいよして自身の願いを押し付ける。
「死ぬその時まで――生きる事を諦めないで」
「自分はとっくに諦めてる癖に?」
 身勝手過ぎるその言葉にチェレンチィは涙を零した。
「うん。それでも君は諦めないで」
「自分勝手……だよ」
「分かってる」
 ボロボロと涙を零す彼女を慰めるようにウェンズディは頷いた。
「もう一つは……?」
 「おばあちゃんになるまで――僕に会いに来ては駄目だよ」
「知ったような事、言って……」
「だって、君は僕の最高の友達だったもの」
「分かるよ」と告げたウェンズディは本当に――チェレンチィがどうするか、どうしたいかを知っていた。
 チェレンチィはウェンズディを殺すだろう。彼女は優しい子だから、ここまで懇願した自分を無碍にはしないと知っていた。
 だが、彼女は同時に。自分自身も殺すだろう。彼女の物語に幸福は無かったから。これまでは自分と同じように――道は暗いままだったから。
(でも……)
 でも、きっと。
 不思議と魔法も使えないウェンズディは、魔法めいた予感でチェレンチィの先行きを見たような気がしていた。
 彼女にはこれからもっと素敵な出逢いと物語が待っているに違いない。
 ――そんな予感がしたから、彼は最期に我儘な願い呪いを遺さずにはいられなかったのだ。
「……ごめんね」
「本当だよ、馬鹿」
 導かれたその手が、ナイフの切っ先が柔らかな胸に沈む。
 ベッドの上にビロードのような赤色が広がって――チェレンチィは号泣した。
 少年期の終わりのような夜更かしの唄は今夜一人の青年の幕を下ろし、少女の物語の幕を上げた。

 ――きっと、君が。君の先行きが明るいものでありますように。

おまけSS『あとがき』

「酷い話だ……」
「酷い話ですねぇ……」
「でも『大体』リクエストの通りだよね」
「『大体』は……」
「一部ちょっとアレンジした所があるから言っておくと、ウェンズディとチェレンチィの逢瀬の場所を外、ないしは屋敷にした。
 元設定的には『外』っぽかったんだけど、オンリーにするより回想と現在がクロスする方がしっとりすると判断したから」
「ははあ」
「本筋は大体要求通りにしてるけど、そこはちょっと弄らせて貰いました」
「……しかし、冷静に見るとこれ。中々酷い要求じゃないです?」
「苦情は親御さんに言うてもろて……
 逆にこれ要求するウェンズディと、それを受け入れるチェレンチィのロジックには苦労したんだよな。
 だからまあ、大分感情やら何やら表現で盛って何とかする方向にしたけれど。
 チェレンチィがこの場合、仕事に殉じるイメージが見えなかったからより強くウェンズディの意向を入れて、自殺めいた状況にしている」
「……そりゃ、したい訳ないじゃないですか」
「そう。だから結構ウェンズディっていい性格してるなって。いや、これは愛の物語なのだけど――」

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