PandoraPartyProject

SS詳細

再開、そして。

登場人物一覧

ボーン・リッチモンド(p3p007860)
嗤う陽気な骨
ヒナゲシ・リッチモンド(p3p008245)
嗤う陽気な殺戮デュラハン


『穴掘り英雄の抒情詩』
『ある仕立て屋の一生』
『人間に恋する鐘』――

「これで揃ってるかい、ロベリアちゃん」
「えぇ。ありがとう」
 棚から探し終えた本をデスクに降ろしてボーンが問えば、積み上がった本の中からロベリアが顔を上げる。
 垂れた横髪を指先で掬い上げ、長い耳にかけながら――新たに増えた蔵書の背表紙をなぞり、タイトルを確認し。
「ごめんなさいね、付き合わせてしまって。
 本当は司書の仕事なのだけど、どこで貰ったのか風邪を引いてしまって」
「カッカッカ! 構うこたぁねぇさ。この事務作業が終わらないと、新しい依頼が出せないんだろう?」
 だとしたら、終わるまでどうせ暇だ。陽気な骨は雑務を軽く笑い飛ばした。

 普段人をくったような笑みで過ごしているロベリアが、真面目に書類と向き合う姿。
 背筋を伸ばし、凛としてペンを滑らせる様は牡丹のように優雅である。おまけに時折、眼鏡をかける姿まで見れるのだ。司書ごっこも悪くない。
(って、待てよ。普段ロベリアちゃんの傍に居る司書がいるって事か?)
「ボーン、こちらの蔵書を持って来てくださる?」
「お安い御用だ」
 聞くのはまた後にしよう。今は手伝いを優先だ。リストを受け取り、再び本棚の列へ消えていくボーン。
「お次は『思いやりの花園』か。"お"の行の……」
 あった。白い骨太な指が伸びる――と同時。
 細く白い指が触れ合った。同じ本を手に取ろうとした相手へ「すまねぇ」と声をかけようとして、目を疑う。
「えへへ♪ 久し振り、ダーリン! 元気してた?」
 驚きのあまりに声が出ない。その間に、冷たいながらも柔らかな感触が越の辺りを包み込む。
――間違いない。このギュッと強めに愛情を込めてハグをする癖。
「ヒナゲシ……! ヒナゲシじゃねぇか!! 元気そうで何よりだ!」
"無事で何より"と言えなかったのは、互いに姿が変わりすぎていたからだ。


 異世界アースエンド。
 魔人族と人族の争いの歴史は幾重も繰り返され、絡んだ怨嗟は解けぬほどに強固なものとなっていた。
 魔人族の族長、魔王としての運命を負ったボーンは冷酷非道にならざるをえなかった。

 人も魔人も同じ命。手折る権利など誰にもありやしない。
 流された血を、全てが報われる日を祈った時もあった。それでも前に進もうと挑む戦は、失うものばかりで。

 もう疲れた。
 このまま擦り切れてしまうくらいなら、いっそ心を無くしてしまった方が楽だ。

「頼もーーーーっ!!」

 諦めから心を閉ざそうとした時――ヒナゲシは現れた。

「お下がりください、魔王様! ここは我々が!」
「構わん。どうせ潰える命だ。誰が終わらせようと変わらねぇだろう」
 魔王の城に乗り込んで来たのはたった一人。別の世界の気配を滲ませた"名も知らぬ少女"だったが、言い換えれば"名声が広がる前に此処へ来た"のだ。脇目も振らずに最短で、一直線に。恐らく魔人族との戦いを終わらせる使命を背負わされ、出来なければ元の世界へ戻して貰えないのだろう。

 ならば彼女は俺と同じだ。望まぬ使命を負わされ、運命に翻弄される者。
「冥途の土産に残してぇ言葉はあるか?」
「ち……」
 玉座から立ち上がり、ボーンが彼女を見下ろすと――嗚呼、その身体は雛鳥のように震えているではないか。

「恐ろしくて声も出ねぇか。せめて痛みなく、消してや――」
「超絶好みのイケおじっ! かっっこいいーーー!!」
「は?」

 ピリピリした場の空気が一瞬にしてふき飛ぶ。次の瞬間、ボーンは倒れ込んでいた。
 攻撃をされた訳ではない。強く抱きしめられていたのだ。
「ねぇ! 魔王ボーン……だっけ?」
「ボーン・リッチモンドだ」
「じゃあボクは今日からヒナゲシ・リッチモンドだね!」
「はぁ?」
「惚れた! 大好き! だからボクと結婚しようZE!」
「「はぁーーーー!?」」

 雷鳴が絶えず轟く魔王城に、驚きの声が木霊する瞬間だった。押しかけ女房との日々は慌ただしく、それでも幸せな日々だった。
 愛娘シオンを授かり、人族と魔人族が手を取り合う日を夢見て、荒野に種を蒔くように、ひとつひとつ希望の芽を咲かせていって――。


「ボーン、どうかしたの?」
 頼まれた蔵書は、そんなに遠い場所には置かれていない筈だ。帰りの遅い彼を心配し、ロベリアが本棚の方を覗き込むと……見てる此方が恥ずかしくなるようなハグ合戦に、思わず目を見開く。
「許してくれとは言わない……だけど、謝らせてくれ……すまなかった」
「私の方こそ、ごめん。あの時、ダーリンの許に帰って来れなくて」
「過ぎた話さ。それより、シオンは元気か?」
「うんっ!」
「そうか。じゃあ後で挨拶させてくれ。今はちょっと、手伝いの最中でな」
 そこでボーンは、此方を見つめるロベリアに気付く。
「すまねぇロベリアちゃん! すぐに運ぶから――」
「構わないわ。どうぞお幸せに」
 生温い笑みを返したロベリアは、すぐに背を向けデスクの方へ戻っていってしまった。
 ボーンの胸に懐きながら、ヒナゲシがきょとんと目を丸くする。
「ねぇダーリン。今の人、怒ってた……?」
「……」
「ダーリン?」
「あぁ、ちぃとばかし意外だったな」
 不思議がるヒナゲシの頭を撫でながら、どうしたものかとボーンは緩やかに考えた。


 元の鞘に収まっただけの事だ。
 既婚者だと聞いてはいたし、グラオ・クローネで伝えた思いに偽りはない筈なのに。
――乙女かよ。
 何のために『境界案内人』になったか忘れた訳ではあるまいに、いつの間にか心を許してしまっていた……だからこれは罰なのだ。

 吐き捨てるように自嘲して、ロベリアはデスクに座り直す。
 置かれていた本の表紙をなぞり、開きかけて、そこで手を止めた。
(こんな本、管理していたかしら?)
 タイトルの無い本を含め、ロベリアは自分の管理下の蔵書をひとつ残らず暗記している。しかしこんな表紙の本、どこにも置いてなかったような。かといって他の案内人に押し付けられたとは思えない。
 指先でページを繰ると、中身は白紙だ。不信に思って眉根を寄せると、目の前でじわりと文字が浮かんだ。

"Where is Richmond?(リッチモンドは何処にいる?)"
 蘇芳色のインクで現れたそれを見ると、ロベリアは唇を歪めて笑った。
「ふ、ふふ――」
"I don’t give a damn!(知ったこっちゃねぇですわ!)"
 紫色のインクで返事を走り書きした後、目の前で赤々と燃える暖炉の中へ疑惑の本を投げ入れる。
 それが誰からの、何のための質問だったかは分からず仕舞いだが、炉の中で燃えていく本を見ていると、少しだけ胸が透いた。

「ロベリアさんっ!」
 底抜けに陽気な声が降る。振り向けばボーンとヒナゲシが、本を二人で抱えて来てくれていた。
「さっきは、はしたない所を見せて御免なさいね。貴方も特異運命座標なのかしら?」
「うんっ! ボクはヒナゲシ・リッチモンド。ダーリンと一緒にお世話になるね!」
 ヒナゲシと会話をするロベリアは、先程と違って定常通りだ。見間違いかとボーンは首を傾げたが、次の依頼と聞けば其方に気を向けずにはいられない。

「二人とも腕は立つようですから、此方の世界を救って戴こうかしら」
「よし、久しぶりに元夫婦で共同作業といきますか!」
「任せてダーリン、張り切って蹴散らしちゃうZE☆」
 こうして新たな運命の糸は絡み合う。その果てに何があるか、今はまだ誰も知らない。

  • 再開、そして。完了
  • NM名芳董
  • 種別SS
  • 納品日2020年04月05日
  • ・ボーン・リッチモンド(p3p007860
    ・ヒナゲシ・リッチモンド(p3p008245

PAGETOPPAGEBOTTOM