PandoraPartyProject

SS詳細

未来を担う者たちへ

登場人物一覧

イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色


 混沌を飲み込まんとした終焉そのもの。
 イレギュラーズだけではない。世界各地から集った勇士たち、果ては魔種たちさえも力を結集し、その顕現を回避したことで世界には平和が訪れた。
 しかし、それはあくまでも世界規模の危機から脱したという意味であって、人が生きている以上はトラブルや事件は尽きず、ローレットの――特異運命座標イレギュラーズの仕事が無くなることはない。

 終末的破局を回避してから暫く。季節は巡り、冷たい風が木を枯らすころ。天義某所のとある教会の扉をノックする音が響いた。
「はいはい、どなたかな? ――おや」
 がちゃり、と扉を開けたブランドンは、扉の前に立っていた人物を見て目を見開いた。かつて、襲撃を受けて攫われそうになったブランドンを救い出した一人にして、その後の天義での戦いや、終焉との戦いでも活躍したイズマがそこに立っていたからだ。
「お久しぶりです、ブランドンさん」
「いやはや、こうしてまたお会いできるとは……。ささ、どうぞ中へ」
 挨拶と共に握手を交わすと、イズマは教会の奥にある応接室へと通され、そこでブランドンと旧交を温めた。終焉との戦いを終えてからどのように過ごしていたのか、最近は何をしているのか。話題が尽きることはないが、そろそろ本題に入るべきだろう。
「こちらを……」
「おぉ、まさかとは思いましたが、イズマさんが引き受けてくださっていたのですね。これは心強い!」
 イズマが懐から取り出した一枚の紙。それは、ブランドンが先日ローレットに申請していた依頼の受注証明書だった。つまり、イズマはブランドンが出した依頼――子供たちの訓練依頼を請け負ってくれたということだ。
「早速案内しましょう」
 そう言って立ち上がったブランドンは、イズマを連れて教会に併設された孤児院へと向かう。
 終焉が訪れることは無くなっても、なにかしらの事情で独りになる子供はゼロではなく、こうした孤児院もまた無くなることはない。
 しかし、いつまでも養ってあげられるほど余裕がある訳でもなく、一定の年齢に達しても引き取り手のない孤児は、独り立ちしていくことになる。
 そんな時に、職に困らないようにとブランドンは孤児への教育にも力を入れており、今回のイズマへの依頼もその一環というわけだ。
「さて。紹介してもらったイズマだ。これから暫く、きみたちに戦い方を教える。よろしくな」
 ブランドンから紹介してもらったイズマは、軽く挨拶をしつつ集まってきた子供たちを観察する。見たところ年齢は孤児たちの中でも上の方だろうか。
 戦闘訓練はどれだけ安全に配慮しても危険が伴うが、そうならないように自制できる程度には分別がつく年齢層の子供たちのみを対象としたのだろう。
 中には見るからに悪ガキといった、生意気そうな態度の子もいるが、それはおいおい、といった所だろうか。
「それじゃあ、さっそく訓練開始……と言いたいところだが、最初は俺を知って貰うためのレクリエーションから始めるとしようか」
 なにかしらの事情を抱えて孤児となった子供たちだ。見知らぬ大人であるイズマに対する警戒心は火を見るより明らかで、ふっと笑顔を浮かべたイズマは、荷物の中からヴァイオリンを取り出すと、軽やかにメロディを奏で始めた。
 混沌で広く知られる童謡のような音楽から、天義で誰もが知る賛歌など。次々と旋律を変えて紡がれる音楽は、警戒を滲ませる子供たちの心を溶かすには十分なもので、数曲ほど引けばその音色の虜になった子供たちが、笑顔を浮かべながら歌声を響かせていた。
「自己紹介はこれくらいで十分だな。それでは、今度こそ訓練に移る。
 最初は厳しいと感じるかもしれないが、今後の自分たちが生き抜くための力になると思って、頑張ってついてきてくれ!」
 子供たちの心を掴んだイズマは、そう言うとランニングと筋トレを子供たちに課した。
 限界を見極め、体力を使い果たすように調整しつつ行わせた結果、音楽を楽しんでいた時とはうって変わって、一通りの訓練を終えると息も絶え絶えといった様子で地面に寝転がる子供たち。
 「鬼~!」「悪魔~!」などという言葉も聞こえてくるが、魔物との戦いではいつ命を落としてもおかしくはない。
 その厳しい現実を知っているからこそ、子供たちが将来冒険者となった時に、少しでも生き残れるようにイズマは今心を鬼にして訓練を課すのだ。

 訓練を始めた日から更に少し日は進み。
 イズマがいつものように孤児院の裏手にある開けた土地を訪れると、カンカンと高い音が響いていた。それは、ある程度の基礎を身に着けた子供たちが模擬戦形式で武器を打ち合う音。
 最初は木製だった訓練用武器も、刃を潰した鉄製に変わっており、訓練の本格さも増してきている。
 耳の良いイズマは、その音を聞くだけでもおおよその実力を知ることができ、当初に比べてずっと上達してきた子供たちに感心するように頷く。やはり、独り立ちが間近に迫った年齢ということもあって、訓練への身の入り方が違うのだろう。
 ――と、考えていたその時だった。
「覚悟ぉっ!」
 孤児院の屋根上から飛び降りながら剣を振るう子供は、ガキ大将ポジションにいる男子であった。訓練初日に思った通り、生意気だったその子は、一応訓練は受けてはいるものの、反抗的な態度が崩れることはなかった。
 そこで一計を案じたイズマは、「俺から一本取れたら自由にしていい。いつでもどこからでも掛かってこい」と告げた結果、こうして訓練の度に襲い掛かってくるようになったのである。
 だが、奇襲といっても訓練を始めて間もない子供の攻撃。百戦錬磨のイズマに通じることはなく。
「躊躇のない攻撃は良かった。ただ、殺気が漏れていたから、次からは気配を抑えることを意識するように」
 半身を逸らして簡単に奇襲を避けて見せたイズマは、着地の瞬間を狙って足を払うと、その子供から剣を取り上げて近くの茂みへと投げつけた。
「うわっ!?」
 樹の幹に突き刺さる鈍い音がしたかと思えば、茂みの中から数人の子供が慌てて飛び出す。
「二段構えなのもよく考えたとは思うが、そっちは思い切りが足りなかったな」
 子供たちは奇襲に対応されることは理解した上で、イズマが奇襲に気を取られた瞬間に茂みから飛び出し、横合いから攻撃を仕掛ける算段だったのだろう。
 しかし、直前で人に武器を向けることに抵抗感を覚え、躊躇ってしまったようだ。
「その優しさは大切にすべきものだが、冒険者として戦う相手は魔物だけとは限らない。
 時には野盗のような人間を相手にすることだってある。独り立ちするまでには覚悟を決めておくんだぞ」
 実戦を想定した訓練はそれなりに成果も出ているが、やはりまだまだ甘い。基礎訓練は引き続き必要だろう、と考えながら、イズマは襲ってきた子供たちを連れて他の子供たちが訓練している裏庭へと歩いていく。

 パンパン、と手を叩いて子供たちを集めたイズマは、今日の訓練内容を伝えていく。
「ただ基礎トレと打ち合いを続けているだけじゃつまらないだろう。そこで、今日は近くの森で弱い魔物と実際に戦って貰う」
 ある程度の基礎能力がつき、それくらいならば問題ないだろうと判断してのことだ。
 子供たちは遂に来た実戦の時に、声を挙げて喜んでいる様子だが、相手は魔物であり命のやり取りである以上は、油断することは出来ない。
 保護者であるブランドンと共に、子供たちのことはしっかりと見守らねばならないだろう。

 準備を整えて森まで移動すると、イズマは森の外縁部付近の魔物と戦うように子供たちへと指示を出し、その様子を注意深く観察する。
「その魔物は素早く動き回る。大振りの攻撃は当たりにくいから、もっとコンパクトに剣を振るんだ。……そう、その調子だ」
「初めての命のやり取りだ。緊張してしまうのはわかる。だが、勇気を出して一歩を踏み出すんだ」
 的確な助言だけでなく、時に励ましの言葉も送りながら、子供たちが上手く戦えるように導いていくイズマ。
 しかし、そこであることに気付く。子供たちの数が足りないのだ。いない子供は、いつも反抗的なガキ大将とその子分たち。恐らく、もっと歯ごたえのある相手を探すために、イズマの目を盗んで森の奥へと向かってしまったのだろう。
「ブランドンさんは、子供たちと一緒にここに! 俺が連れ帰ってきます! リオン!!」
 森の奥は、今の子供たちでは荷が重い魔物ばかりだ。すぐに助け出さなければ命が危ない。イズマは大声でブランドンへと呼び掛けると、上空で待機していた相棒の名を叫ぶ。
 その声に応えて降りてきたワイバーンの背中に颯爽と飛び乗れば、再び高度を上げて森を真上から俯瞰し子供たちの姿を探す。
「いた、あそこだ!」
 何かに追われて逃げ回っているように見える子供たち。その姿を認めたイズマは、リオンに指示を出してその場所まで飛んでいく。
「うわぁ~!!」
「リオンは子供たちを守ってくれ。魔物は俺が対処する!」
「え、イズマ先生……!?」
「このワイバーンは俺の相棒だ。安心して守られていてくれ」
 突然現れたワイバーンに驚く子供たちだが、背中から飛び降りたイズマを見ると安堵に表情を緩める。が、まだ魔物を振り切ったわけではない。
 リオンの大きな翼の内側に子供たちが抱えられたことを確認すると、イズマは振り返ると同時に顔の前に右腕を掲げた。
「ガルルッ!」
 直後、腕に鈍い衝撃が伝わり、低い獣の鳴き声が響く。狼型の魔物が噛みつきイズマの腕を喰い千切ろうとしたのだ。
 しかし、鉄騎種が誇る鋼の腕を容易く噛み千切れる訳はなく。
「ふんっ!」
「ギャインッ!?」
 噛みつかれた状態のまま、イズマが腕を振り下ろして魔物を地面に叩きつけると、その衝撃で動けなくなったところへ、更に蹴りを叩き込みとどめを刺す。
 だが、狼は群れで狩りを行う。一体を倒しても、まだ近くに多くの気配が感じられた。
(あまり大規模な魔法を使えば、森の生態に影響が出る……。ならば!)
 素早く視線を巡らせて魔物の位置を把握しつつ、思考を回転させたイズマは即座に細剣を引き抜くと、指揮棒のようにそれを構えて旋律を紡ぎ出す。
 大気を伝わり、大地をも震わせる勇壮な旋律は、イズマの体に染み渡り活力を漲らせた。
「……遅い!」
 指揮棒を振るい音楽を奏でる姿を見て、それを隙だと勘違いしたのか、四方八方から同時に飛び掛かる狼の魔物。
 しかし、深く集中しているイズマから見れば、その動きは非常に緩慢なもの。
 魔物は確かに子供たちにとっては脅威だろう。しかし、多くの戦いを乗り越えてきたイズマにとっては違う。例え無数の方向から同時に襲われたとしても、それらに対処することなど児戯にも等しいのだ。
 獣の咆哮からその位置を正確に読み取ったイズマは、近い魔物から順に夜色の軌跡を描く刃を振るい斬り捨てていく。
 体全体で軽快にリズムを取りながら、返り血の一滴すら浴びずに次々と魔物を切り伏せていくその姿は、流麗にして華麗。戦いの中で磨き上げられた剣術の極致がそこに在った。
「……ふぅ。これでもう大丈夫だな」
 襲い掛かってきた魔物は粗方倒した。実力差を思い知ったのか、様子見をしていた個体も逃げていったようで、近くにはもう魔物の気配はない。
 安全を確認したイズマは、背後でリオンに守られた子供たちへと視線を向ける。
「もう安全だ。早くみんなのところへ――」
「すっげ~~!!」
「ぐわ~って音楽が鳴ったと思ったら!」
「イズマ先生が目で追えないくらい素早く動いてさぁ!!」
 早くみんなのところへ戻ろう。そう言おうとしたイズマの声を遮って、子供たちがイズマの戦いぶりに目を輝かせた。怖い思いをして参っているのかと思ったのだが、どうやら要らぬ心配だったようだ。
 いや、確かに恐怖や不安は抱えていたのだろう。しかし、イズマの鮮烈な姿を見た興奮がそれを上回ったのだ。
 反抗的な態度から一転して、尊敬の眼差しを向ける子供たちに苦笑したイズマは、ブランドンが心配するからと気を取り直して、子供たちを連れてブランドンが待つ外縁部へと歩くのだった。

  • 未来を担う者たちへ完了
  • GM名東雲東
  • 種別SS
  • 納品日2025年12月25日
  • ・イズマ・トーティス(p3p009471
    ※ おまけSS『あの日、剣を取った者たちより』付き

おまけSS『あの日、剣を取った者たちより』

 乾いた風が吹き荒ぶ無尽の荒野。
 その中で巨大な人型の魔物――サイクロプスを前に三人の若い冒険者たちが対峙していた。
「来るぞ、気を付けろ!」
 先頭のリーダーらしき剣士が叫ぶと同時に横へと跳べば、その直前に立っていた場所へと巨大な鉄拳が叩きつけられて地面が大きくへこむ。
 もし直撃を受けていたとしたらそれだけで、真っ赤な肉塊になっていてもおかしくはない威力。だが、その剣士の顔には恐怖も不安も感じられない。
「僕が引き付けている間に削ってくれ!」
「任せろ!」
 剣士と入れ替わりで前に出た重騎士は、全身を覆い隠せるほどの巨大な盾を掲げ、その表面を槍で叩き大きな音を立てることで注意を引くと、その間に剣士は鋭くサイクロプスの足元に潜り込んで、容赦のない斬撃を叩き込んで足の肉を削ぎ落していく。
「隙だらけなのよ!」
 苦悶の声を挙げたサイクロプスが剣士の方へと視線を向けようとするが、その瞬間を狙って横へと回り込んでいた弓士が、ロングボウから矢を放つ。
 対大型魔物用の特別に大きな矢は、サイクロプスの首筋へと精確に突き刺さり、鮮血を噴き上げさせた。
「よそ見ばかりしていていいのかい?」
 思わず首筋に手を当てたサイクロプスに向かって突進する重騎士。分厚い鎧の分を含めても、重量差は歴然としているが、その差を感じさせないほどの一撃でサイクロプスの巨体を押し倒し、尻餅をつかせることに成功する。
 だが、サイクロプスも負けてはおらず、倒れ込むことは避けようがないと悟ると、すかさず受け身を取りつつ重騎士へと蹴りを叩き込む。
「ぐぅ……!」
 重い衝撃に押し込まれ、重騎士が動きを止めると、その間にサイクロプスは再び立ち上がり、弓士の方へは近くに転がっていた大岩を投げつけ、剣士には鉄拳を振るう。
 巨体を活かして大暴れするサイクロプスは、冒険者を寄せ付けないほどの力を見せつけていた。
「やっぱり、あたしたちにはまだ早かったんじゃない!? 不味いことになる前に撤退したほうがいいと思うんだけど!」
「いいや、このまま倒すぜ。大丈夫、リズムは掴めた!」
 降り注ぐ岩塊の雨をぎりぎりの所で躱しながら叫ぶ弓士だったが、剣士の眼には既に勝ち筋が見えていた。
「キック来るぞ、防御頼んだ!」
「了解!」
 走り出した剣士が、まるで数秒先の景色を見てきたかのように指示を飛ばせば、一歩踏み込んだ重騎士が盾を構えて巨木の幹を思わせる太い足を受け流し、サイクロプスの体勢を崩す。
 地面に倒れ込みながらも、接近していた剣士を迎え撃とうと腕を伸ばすサイクロプスだが、鼻歌でリズムを取ることで先読みしていた剣士は、その手に掴まることなく更に間合いを詰めていく。
「まったく! とどめは任せたからね!」
「おうよ!」
 岩塊の雨が止んだことで自由に動けるようになった弓士は、引き絞った弦を弾いて再び矢を放つ。
 解き放たれた矢は空気を切り裂く音を立てながら鋭く飛翔し、次の瞬間には見事にサイクロプスの巨大な単眼を射貫くに至る。
 大気を震わせるサイクロプスの絶叫。しかし、剣士はその爆音に足を止めることはなく。
「こいつで……終わりだ!!」
 サイクロプスの背中を駆け上がり、高く跳び上がった剣士は渾身の力で剣を振り抜き、強靭な筋肉に覆われた巨人の首を斬り飛ばしたのだった。

「おつかれ~」
「今回もなんとか依頼達成できたね」
 サイクロプスの討伐を成し遂げ、ハイタッチを交わす剣士と重騎士。巨大な魔物を打ち倒したことで、その表情は満ち足りたものになっていた。
 が、そこに呆れたような怒ったような、複雑な表情を浮かべた弓士が歩み寄る。
「なにが、おつかれ~、よ。毎度毎度、危なっかしい戦い方して……。イズマ先生が見ていたらなんて言うのかしらね?」
「はっ! 師匠なら分かってくれるさ。俺にはサイクロプスの動きがいるんだからな!」
 綱渡りをしているように見えた剣士だったが、その実、サイクロプスが次の瞬間にどう動くのかを完全に把握し、その上で攻撃の当たらないぎりぎりを見極めて紙一重で躱しながら近づいていたのだ。
 だが、それでも剣士が慢心することはない。
「でも、師匠はもっと凄かったからな。もっと早くリズムを掴めるようになって、精度も上げていかないと」
「ふふ、懐かしいね。あれからもう十年だもんなぁ。先生、今はどこにいるんだろう?」
「ブランドン先生なら何か聞いてるかもしれないわね。次の依頼は天義方面にして、ついで孤児院に寄ってみるのもいいんじゃない?」
 弓士と重騎士の二人が話している傍らで遠くを見つめる剣士の頭の中には、色褪せる事なく焼き付いたの景色があった。
 森の奥に入り込んだ自分たちを救うために駆けつけてくれた師匠が、魔物を圧倒する姿。
 それは剣士にとって理想であり、同時に超えるべき壁でもある。
 今はまだ遠くとも、いつかその高みへと至り、そして超えていくのだと。剣士は冒険者として戦い続けるのだった。

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