SS詳細
PC分析表(イズマ・トーティス) ~芳董ver.~
登場人物一覧
すごい……私がイズマさんを語っていい世界線なんてあるのか…!? いや、是非とも思い出を振り返りながら語らせてくださいませ!
獲得MVP65個という脅威の数字を叩き出し、無辜なる混沌の音楽業界だけでなく世界の未来を大きく変えた英雄音楽家ことイズマ・トーティスさん。
今回はその魅力を紐解いていきます。
■パラメータ
音楽への情熱:★★★★★★★…∞
その場の適応力:★★★★★★★
イライザを巡るドラマ:★★★★★★★
・Swingがなければ始まらない、突き抜けて正道なる音楽家
私が物語を作る時に芸術に秀でたキャラクターを描写する時、常に意識している事がひとつありまして、それを一言でいうなら「異常性」。
何を持って(いい意味で)常人より狂っているかを考えるのですが、イズマさんの場合は一言で言うなら「正道」さが突出しているのではないか、それが彼の魅力なのではないかーーと思っています。
音楽学校の戦いでは無謀な戦いを挑もうとする生徒を冷静に説き伏せて被害を防ぎ、音楽の街・ウィルインでは、魅惑のピアノに熱狂する音楽家たちの手から壊れたピアノを守りきる。そのために行われた説得は、音楽家ながら騎士道に生きる騎士のように真っ直ぐで、普段からイズマさんが誠実だったからこそ通用する内容だったのではないでしょうか。
そんなイズマさんは音楽一家に生まれ、約束された天才として初めから何でも弾けたのかというと、そうではなく、当たり前のように生活の中に音楽がある中で色々な楽譜を弾き、挑戦をしつづけてきたからこその演奏力。
数々の依頼で披露してきた演奏が努力による裏打ちだという事が分かるのは、練達でのとある依頼での一幕です。
他人の才能に嫉妬したバンドマンが怪異になり、対立するバンドを暴力で潰してしまおうとした時、イズマさんは堂々と怪異に対してライバルに勝つ方法を説いていました。
まず「相手よりも長く音楽を続ける事」。世間が己に注目するまで奏で続ければいいとアドバイスしたうえで、怪異にこう鋭く言い放つのです。
「更に楽しみ、君の人生を音色に詰め込むと良い。聴かせるのは悪口より音楽だ」
爽やかクールな好青年のイズマさんの口からこういうワイルドな発言が出るとギャップにぐっとハートを掴まれますね! ロック好きなお母さまの影響がこういう所に時折垣間見えるのがまた最高です……!
・適応力◎、そのせいで苦労も多い?!
終焉が近い世界で何かと病んでいる敵や、曲者揃いの特異運命座標たちの中で、ギルド「ローレット」の良心にして貴重な常識人。コメディ系のシナリオではしばしばツッコミ役として活躍している姿を目にします。イズマさんの凄いところは、まわりのボケに対して一度はツッコミつつも、突飛な事が起きても動揺でひるむ事なくすぐに順応できるところ。何があっても思考を止めずに次のアクションに移る事ができるというのは、危険をともなう仕事を多数受け持つローレットの特異運命座標には必要な能力といえるでしょう。
ただ、あまりにも適応力が高い事から予想外の事態に巻き込まれているケースもあり、チョコレートが独占されてしまったラサの町で、その場のノリでうっかりデモ隊のリーダーとして担ぎ上げられてしまう事も……。
赤貧にあえぐ遂行者の面倒を見てあげたり、締め切りから逃げ出そうとする作家をカンヅメにしたり、頼れるお兄さんポジションだからこそ苦労も絶えませんが、それでも誠実に誰かの為に尽くせるイズマさんは本当に恰好いいですよね。
・音楽家とは何かを考えさせられる、『イライザ』を巡る物語
イズマさんを語るにおいて、やはり外せないのが『イライザ』。あの楽譜を弾いた直後、イズマさんは特異運命座標となるべく庭園に召ばれ、世界の終焉と戦う事になりました。そこから数々の戦いを経て、『イライザ』の作曲者であり己の祖先である魔種、ベルリオ・トーティスさんとの運命的な出会いを果たす―—それまでの過程がSSやシナリオで細かく描写されており、その過程で葛藤を抱えている姿が非常にエモーショナルです。
音楽家は楽譜以外にも様々な情報を拾う。何のために、何を思って、誰に向けて、どのような意図で、どのような人物が作った曲であるか。それらを知る事はできても、それ以上を見出す事はできない。だから作曲者本人の演奏を超える事はできない。
ヴァインカルさんからイズマさんに向けた話はまさしくその通りで、それでもイズマさんは魔種として未だ『イライザ』に囚われ続けているベルリオさんを救うため、作曲者ですら弾く事ができなくなった『イライザ』を弾かなければいけない。奏でるだけで心を蝕まれ、正解の分からない魔の楽曲を。
それは音楽家として、トーティス家の子孫としてイズマさんに大きなプレッシャーになっていたかと思います。
一歩間違えれば自らも地獄へ堕ちてしまいそうな状況で、それでもイズマさんはベルリオさんに手を伸ばす事をやめませんでした。音楽を通して寄り添い、討伐とは違った形で魔種という哀しい存在からベルリオさんを解き放つ。これぞまさに、特異運命座標と魔種の長い戦いの中で、音楽という芸術を愛する者同士だからこそ成しえた奇跡です。リプレイの公開当時、リアルタイムで拝読させて頂いておりまして、当時はあんなにも美しい魔種の救い方があるのかと感動に震えました。
美術も音楽も、まわりの人以上に突き抜けて好きだからこそ、魂を燃やして芸術と向き合う。
それこそ、時には命を削るほどの努力と苦労を重ねてーーだから一流の音楽家が作曲した曲は奏者の意欲をかき立てるし、一流の奏者が奏でる音楽は聴く人達の旨をうつのかなと。自分にないもの、知らなかったものに触れた時、人は感動や衝撃を受けるものだと思うんです。
そういう観点でイズマさんを見ると、打楽器のように自分のリズムとペースを崩さず、正常な視点から狂える人々に手を差し伸べるイズマさんは本当に英雄らしい英雄だなと思います。
■フォーチュンで見るイズマさん
お誕生日が12月6日でシンフォニー記念日、音楽一家に生まれ、音楽に愛されている彼をスピリチュアルな視点で見ていきましょう。
まず数秘術の観点で見たところ、イズマさんのバースデイナンバーは「6」。これはイズマさんが生まれた時から与えられた強みを示しているのですが、その特性は「調和」。対人関係であれば先輩として人を導くのも、後輩として先輩を助けるのも得意で、色々な人とから信頼を集めているのに八方美人としては見られない、特別な魅力を持っている方の数字だそうです。
まさに依頼で依頼人や敵の心情に寄り添った立ち回りが多いイズマさんにピッタリの数字ですね!
そしてソウルナンバーは『1』。これはイズマさんが本能的に好むものを示しています。この結果を見ると、イズマさんはその時の流行を追いかけるより、「自分にとって最高と思えるもの」の方が魅力的に感じる方のようですね。
ものに限らず行動でも自分流の「最高のもの」を追求するタイプだそうなので、イズマさんの演奏は他の演者さんにはない、彼なりの癖やオリジナリティが入っているかもしれません。もし未来の事に迷ったら、自分が最高だと思う選択肢を迷わず目指して選んでみると、行動がかみ合って上手くいきます。
自分でしっかりと自分の好きな立ち回りを考えられる人なので、がちがちの制約の中で動くより、ある程度自由に任せた方が実力を発揮できる人、という占い結果が出ました。
また、無辜なる混沌での皆さんの旅も終わりに近づいているので、この後のイズマさんの運命をタロットカードで占わせていただきました。あまり広い範囲で占うとざっくりした結果しか出ないので、今回は「これから半年、音楽家として活躍できるか」とさせていただきました。
結果として引けたのは「女帝」の逆位置。逆位置というと何かしら悪い結果なのかと思われがちですが、そういう訳でもありません。
今回の場合は、周囲からとても多くの恩恵を受けているといった内容でした。それこそ、ありがたみを忘れてしまいそうな部分も出るほどに。ですから、身近な人ほど丁寧に、改めて向き合って、愛を持って接してみてください。無辜なる混沌が滅びを回避した今、ゆっくり一人ひとりと向き合う時間は作りやすいはずです。
そうすれば、今以上に多くの愛を受け取って、幸せな日々が続くでしょう。
占いは当たるも八卦、当たらぬも八卦ですが、気持ちの持ちようや物の見方の変化でその人の人生は少し鮮やかになります。ぜひ結果を元に、残りの旅路も楽しんでくださいませ。
改めまして、この度はイズマさんを語らせていただく機会をいただき、ありがとうございました。ほとんどろくろを回しているオタク語りになってしまいましたが、お気に召していただければ幸いです。
それでは、ボンボヤージュ!

おまけSS『Wonderful Timpani Concerto!!!!』
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その日、ローレットの掲示板に張り出された新しい依頼には募集要項に『打楽器奏者』と力強い筆跡でデカデカと書かれていた。現場にいた特異運命座標たちの視線が一斉にイズマの方へ向いたのは言うまでもない。
(……ここが依頼人の店か)
潮風香る海洋。音楽の街“ウィルイン”はもはや、勝手知ったるイズマの庭だ。無辜なる混沌を滅びから救う以前より、歩いていれば数分おきに街の人たちから軽い挨拶の声がかかる。それほどに馴染んでいながらも、街のすべてを掌握しきっている訳ではない。今回呼び出しがあったのは街の楽器屋が並ぶ大通り―—から逸れた横道にある、薄暗い路地にあるお店。軒先に吊り下げられた看板は誇りを被って色あせているが、うっすら『カウンター・パンチ』という名前を読み取る事ができた。
(楽器屋にしてはずいぶんと物騒な名前だな)
事前の依頼書で楽器屋だという旨は書かれていたが、武器屋だと名乗られれば納得しそうな店名にイズマは怪訝な顔をした。依頼内容も「詳細は店内で」の一言で片づけられており、怪しい依頼ではあるのだが、ローレットに斡旋されている物であり、何より音楽絡みの仕事である以上、無碍にする訳にもいかない。
音楽の事で何か困っている事があるのなら、手をさしのべたい。そういう良心のもとイズマは店の入り口の扉を開け―—中の惨状を見てソッ閉じした。ドアベルが鳴ってしまったのでバレバレではあるが。
「よーーーうこそローレットの方!!!」
「俺はまだローレットの者だと名乗っていない筈なんだが」
この時点でイズマはすでに直感する。この依頼はローレットの誰かに宛てた依頼ではなく、イズマ自身を呼び出すためのものだったと。
ドアの開閉音を耳ざとく聞きつけて飛んできた店主——なんか今時そんなファッションしないだろうという感じの、便底眼鏡をつけた中年のハーモニアににじり寄られ、イズマは渋々店内へ足を踏み入れた。
店の中は見渡す限りティンパニ、ティンパニ、ティンパニ。演奏のために複数個ステージに設置が必要な楽器ではあるが、その前提を抜きにしても多いうえに店内が狭くなるほど敷き詰められている。ただでさえティンパニの大渋滞で店内が狭くなっているというのに、そのティンパニすべての膜に大穴がぶち開けられていた。
普通に演奏するならマレットと呼ばれる、木や竹の棒にフェルトを巻いたばちで叩いて演奏する代物だ。こんなクソでかい穴があく事はそうそうない。
「一応聞いておくけど、ここは楽器屋で合ってる?」
「見ての通りティンパニ専門店ですぜ」
「こんな粗悪な環境でティンパニ売ってる専門店があってたまるか。というか、まともに叩けるティンパニがないのはどういう事なんだ?」
確かに、世の中にはティンパニに頭をつっこんで締めくくる楽曲が無い訳でもない。
―—が、それは楽曲のラストを飾る一打であり、全編通して頭をティンパニにつっこむ訳では決してない。
「これらはすべて試作品でさァ。私は楽器職人でもありましてね。特にとあるオーケストラでティンパニに頭をつっこむ楽曲を聞きまして、そいつがガツーン! と心に響いたタイプの職人なんでさァ」
「はぁ……。だからこんなに膜の破れたティンパニが沢山あるんだな」
人の心を揺さぶる音楽というのは確かにこの世に存在する。それはイズマもよく知っている事だし、それによって人生を狂わされた人間はごまんと見てきた。狂い方がいい方、悪い方、向かう方向は人によって様々だが、これはかなりピーキーな方に狂ってしまった人間だなとイズマは半眼になる。
「それで、ローレットにわざわざ依頼を出して俺を呼び出した要件は?」
彼が問うと、楽器職人はキラキラと黄色いオーラを漂わせて喜んだ。瓶底眼鏡で目が見えないかわり、こういったところで彼が考えている事はなんとなく把握できそうだ。
「よくぞ聞いてくださいやした! 無辜なる混沌の終焉を退け、人類を救ったローレットの特異運命座標様。中でもイズマ様は打楽器がお得意という話を風の噂でききまして」
「はぁ」
「ぜひウチで作った特別性のティンパニに頭をつっ込んでいただきたいと!!!」
「待って、言ってる事がちょっと……いや、すごくよく分からない」
しかも店主が持ち出してきたティンパニは、明らかに堅そうな膜——もとい鋼のような銀色だ。
普通のティンパニの膜は仔牛やヤギの皮を元に作られているし、例の頭をつっこむオーケストラでは顔をつっこむ用のティンパニに紙を張ったりしている。決して丈夫な皮の膜に無理やり頭をつっこんでいる訳ではないのだ。
普通の人間ならここで相手の説明を待つところだが、共感力の高いイズマはうっかり先に気づいてしまう。
「もしかして楽器職人さん、ティンパニに頭をつっこんだ時の音のすばらしさは、ティンパニの膜が頑丈であれば頑丈であるほどいい音が出る……みたいな危険思想の人だったりするか?」
「さすがイズマ様、話が早い! どうぞ私の心を震わせるようなティンパニの音を聞かせてくださいませ!」
店主はいう。最近は自分で鳴らす音に飽きてしまい、ちっとも心が震えないのだと。
よい演奏を聞けばそのマンネリ化からも脱却できる気がする―—などという真面目な話に持ってかれてしまえば、音楽好きのイズマとしては放っておけなくなってしまう。
「分かった。職人さんが満足いくまで頭をつっこむが、条件がある。店の中を他の楽器屋くらい綺麗にして、ティンパニを大事にする事。膜を割りっぱなしで放置は流石に見過ごせない」
「……!! ありがとうございます。きっと昔の情熱が戻れば、やる気もきっと起こる筈でさァ!」
さっそく、と運ばれてくる鋼鉄膜のティンパニ。覚悟を決めて響奏術・羅をキメるイズマ。壮大な音の波を背に、頭を振り上げ、振り下ろす―—
バシャ―――――ン!!!!!
「っ……! 素晴らしい!! もう一度!!!」
バシャ―――――――――ン!!!!!!!
「ハラショー!!! もう一度!!!!」
いつの間にかわんこそば状態で新しくより硬い膜の張られたティンパニが運ばれてくる。ダイアモンドをちりばめたもの、プラチナを繊維状にして編まれたもの、ドラゴンの甲殻で作られたもの―—
「さぁさ、次はこちらを!」
「いや、さすがに表面に露骨に剣山のある膜はやめたいが!???」
こうして無限とも思える数のティンパニを頭で割り続け、その日からイズマはティンパニの膜の耐久度がなんとなく目視で分かるくらいにティンパニブレイカーとしての才能を開花させ、音楽家としてさらなる高みに登ったのであった。
めでたし、めでたし。
「ツッコミと力技で倍疲れた……」