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ポールスターの商人
登場人物一覧
ラサ南部に存在する港街ポールスター。海路を用いての海洋、練達、そして覇竜との交易を目的として事業拡大を行なっていくアイトワラス商会の本拠地である。
廃墟の町であったがラサのアイトワラス商会、そして商会キングマンズポートが手ずから開拓作業を行なったことでめでたく交易拠点の一つとして知られるようになった。
その地に大型の駅拠点を建設し、鉄道で点と点を結び合うことでラサ傭兵商会連合に存在する砂漠地帯のリソースを円滑に活かしたいという意見が飛び出した。
その発案者こそアイトワラス商会の商会長ラダ・ジグリである。元ジグリ商会の商会長であった女の野望ではあるが――
「良き案であるとは思いますよ、色々と」
キャラバン隊の輸送に同乗する形で砂漠を行くファレン・アル・パレストは乗り合いの商人にそう言った。
「そうですかね。無謀というか、なんというか」
「案外、無謀な夢というのは好きなものです。それに、それは早々何者かに脅かされることのないパイでもあります。
先んじて一つ、噛ませて頂くというのは商人にとって選択の瞬間でしょう? まあ、人的リソースの投入の仕方には色々と考えがありますから」
「流石は、パレストの貴公子」
「そんな、そんな。良き友人に恵まれた程度でしょうとも」
揶揄うように笑ったファレンはキャラバンの前方に座っていた少女をちょいちょいと手招いた。長く伸ばされた髪と装飾品が揺らいでいる。
一見すれば傭兵の様な風貌の少女は「呼んだ?」と首を傾げた。商人からすればパレスト商会の貴公子にそんな物言いをする少女に驚いた事だろう。
「安全だけれど」
「有り難う、イヴ」
ファレンは商人へ己の護衛役であると言う
「ファレンが居るから一緒にキャラバン旅行名だけだよ。レンと一緒に空から行けばラダの所にだって直ぐ行けたのに」
「レンはお留守番を?」
「……ううん。上で用心棒。ラダの所につくまでにモンスターが出て来たら到着が遅れるから」
脚をブラブラとさせたイヴにファレンは小さく笑った。古代遺跡の守護者であった精霊の少女がこうも変わるものか。
彼女はパレストの名を名乗ることを選んでから商人としての自分という未来絵図を描くようにもなったのだろう。身近に師事を出来る相手がいると言うのに――
「フィオナは当てにならないし、ファレンは元からそう言うタイプだったでしょ。
違うの。商売人のお家で育ったとしても、ずっと冒険者としても戦ってきたラダだから私は話が聞きたい。
私は最終防衛線でのんびり過ごすよりも、日々成長したい。間違いはないと想うよ、この気持ちに」
そう笑った義妹にファレンはラダになんて言ったものかななんて肩を竦めた。
ポールスターに到着してからキャラバンを降りたファレンは「お迎えまでして頂けるとは光栄です。アイトワラス商会長」と声を掛けた。
その声掛けに肩を竦めたのラダは「わざとらしい挨拶だな」と揶揄い半分でファレンを見詰める。
「実は、貴女には幾つかのお願いがあって来ました。
……ああ、最近ご実家の方には戻られましたか? ヴァズの街には最近はフィオナが近郊まで遊びに行っていましたがラダさんが帰って来ないとアルリア嬢が文句を言っていたのだとか」
「……アルリアこそ実家と深緑とを往復して元気なものだな」
ラダは小さく笑った。ひょんな所から耳にした親族の近状からその光景がありありと思い浮かべられたからだ。
ダァカと鳴くパカダクラとの楽しい日々を過ごして居るであろう従姉妹は今日も元気いっぱいに西方の街ヴァズとアルティオ=エルムを往き来している。その情報だけでも世情的な落ち着きを感じさせるものだった。
「良ければ商会まであるかないか」
「手の内を見せて頂けるので?」
「
ラダが鼻先で笑えば、可笑しそうにファレンは肩を竦めた。ラダの言う通り、ここに至るまでにある程度の調べは付けてきている。
「で――、お土産はイヴという訳か」
「私ではありませんよ。如何しても、とこの子が言うので。
……改めて、というと何ですがきちんとパレストの名を名乗らせることにしました。
彼女はファルベリヒトの仔であるだけではなく、今は人だ。彼女からそう願われたので、今はイヴ・
ラダは驚いた様子でじっとイヴを見た。彼女は頬を緩めてから「よろしく、ラダ」と笑う。随分と大人びたように見えたのは彼女の心が成長したからだろうか。
「本当はこちらにお招きして、と考えたのですがイヴが如何しても此方の街を見ておきたかったようなので」
「ラダが欲しい情報は持ってきた。北部の方向の情報? それとも、覇竜の事?」
「では何方も」
ラダがそう冗談めかせばイヴは語る。相変わらずのネフェルストは幻想王国や
特に鉄帝国の鉄道の影響もあって、拠点へと荷を運び終わった後の物資搬送は早くなり商人達は新たな交易拠点であると銀の森に隣接しているサングロウブルクやバーデンドルフ・ラインに注視をしているらしい。
「その結果、といえばそうなのだけれど。ファレンが鉄帝国内の線路をそのままラサ側にも引けないかななんて言い出したの」
「途方もない夢ですよ。それとラダさんの夢を重ね合わせれば大陸鉄道の完成です。
勿論、
「概ね同意見だ」
鉄帝国の鉄道は商人の目から見ても羨望の的であったのだとラダは頷いた。人と物の往来を砂漠鉄道を通すことで更に良くしたい。
そんなラダの願いに対してファレンは大陸に鉄道を、と更に大きく出て見せたのだ。
「その為には復興支援に、各地のオアシスの活性化を図らなくてはなりませんね。
宿場町を用意し、観光資源としてのオアシスの有効活用もして置くべきでしょうか。
「望むところ――と答えた方が良いかな?」
同じ事を考えて居るなどとはラダは言わずに揶揄い半分でそう言って見せた。互いに腹の探り合いをする良い
二人のやりとりに耳を傾けていたイヴは「デザストル側との道も欲しいよね?」などと未来に向けての言葉を口にした。
「難しいだろうが、いずれはそうしたいな」
「ラダなら出来そうだけれど。南部砂漠コンシレラの地理は私もよく理解してるし、力になれるかも。
ねえ、ファレン。ラダが色々と成し遂げたらアイトワラス側に移っちゃうのもありかもしれないね」
「……イヴ」
片方の眉を吊り上げたファレンを見遣ってからイヴは面白そうに笑った。随分と表情豊かになったものだ。
ラダは余り予想もしていなかった少女の成長を目の当たりにしながら「さて、商会長殿、お時間は?」と振り返る。
「ええ、今日は貴女の為に。とことん話し合いましょう」
「……ああ。上手くやってしまうと妹君を奪い取ってしまうことになるらしいが」
「それはその時ということで」
男は何処か楽しみにしているとでも言う様に笑みを含んだ。