PandoraPartyProject

SS詳細

罪と誓いの物語

登場人物一覧

リーゼロッテ・アーベントロート(p3n000039)
暗殺令嬢
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル

●アストラーク・ゲッシュ I
 ここではない世界、ここではない場所、ここではない時に一つのゲームが存在する。
 アストラーク・ゲッシュは比較的誰もが良く知る場所現代日本に似た世界で産み出された大ヒット・トレーディングカードゲームだ。
 TCGトレーディングカードゲームの詳細を語る事に意味は無いが、要約すればトランプのように決められた札を配られて遊ぶカードゲームではなく、自分自身がカードを蒐集する事で手札束デッキを作り、相手と対戦する……とでも言えば伝わり易いだろうか。
 かのゲームが戴くバックグラウンドストーリーは幻想世界の一大叙事詩であり、時に英雄譚ヒロイックサーガであり、時に緩いコメディでもあった。ともあれ、アストラーク・ゲッシュは大人気のゲームであり、そのカードにはフレーバーになるストーリーに存在する幾多の英雄が、事件が、魔法が、武具が収録された。
 その中の一枚に『善と悪を敷く天鍵の女王』というキャラクターが居た。
 アストラーク・ゲッシュにとって記念すべき第一弾の収録キャラクターであり、同弾の貴重なレアリティ枠でもある。
 今となっては大層な価値がついてしまったこの初版レアの十一種を愛好者は『アストラーク・イレヴン』と呼称したりするのだが、それはさて置き。
 単に女王職分の名で収録されたこのキャラクターは荘厳であり、美麗であり、同時に何とも可愛らしかった。そんな素晴らしいイラストレーターの仕事と、強力なカード効果で非常に人気の高いカードだったのだが、『彼女』の人気を決定づけた要因は更にそこに一つの要素が加わったからだと言えよう。

 ――ふん。天鍵の女王に願いを述べるにしては随分不遜な態度だわね。
   こんな人間、たちどころに塵にしてあげようかしら?
   ……ちょ、ちょっとそんな顔をしないでくれる? 私は超越存在なのよ。
   それ位、ありあわせの――ありきたりな挨拶というものでしょう!?

 のキャラクターは神域の類と呼ぶには余りにも親しみやすく、彼女のファンアートやアストラーク・ゲッシュの書籍化コミカライズは『善と悪を敷く天鍵の女王』の一方向のミーム可愛らしさを強烈に後押ししたものだ。
  結果として彼女はアストラーク・ゲッシュ屈指の人気キャラとなり、同ゲームで最大収録数を誇る事となる。
 当初第一弾では職分のみで称された『善と悪を敷く天鍵の女王』には『レジーナ・カームバンクル』という呼び名が与えられ、幻想世界の一大叙事詩で実に様々な役割を担う事になったのである。そしてそれはしばしば『善と悪を敷く天鍵の女王』の威厳とは実に、大いにかけ離れていた。

●寝室にて I
 ベッドの天蓋は空からも秘めやかな花園を覆い隠す囲いのようなものだった。
 罪深く、同時に甘やかな時間はそこに居る二人の為だけのものである。
 余人には遠く触れ難く、触れたら爛れてしまいそうな毒の香り。
 無数の茨に手を伸ばしたって怪我をするだけなのだから辞めておいた方が賢明だ――
「……お嬢様?」
 呟いたレジーナ・カームバンクルが薄目を開けたのは部屋に僅かな月明かりが差し込んできたからだった。
 真夜中過ぎ、静寂の部屋には音が無い。『お仕え癖』で殆ど反射的に隣のベッドの窪みを確認した彼女は少しだけ訝しく愛しい彼女の名を呼んでいた。
「ああ、起こしてしまいましたか」
「――いえ、それは構いませんが。こんな時間にどうなさったのですか?」
 胡乱とした頭が最愛の声を聴いた瞬間に覚醒した。
「どうという事も無いけれど」
「――――」
「レナさんこそ、どうなさったの。そんなに惚けて。
 起きたけれど起きていないとか、そんな感じかしら。お寝坊さんね」
 カーテンに手を掛けた美貌が振り返って微笑む。
 寝着レースのネグリジェで窓の近くに立つお嬢様――リーゼロッテ・アーベントロートは何時もの読めない調子のままだ。
 抜けるような白い肌も露わな格好で月明かりを背に振り返る彼女は幻想の至宝と称されるに相応しく、最早絵画的でさえあった。
「……お嬢様はお人が悪い」
「私、きちんと言って戴かないと分からない性質ですの」
。これで満足ですか?」
 以前ならば猫が鼠を甚振るようなリーゼロッテの『からかい』にレジーナは赤くなったり青くなったりした事だろう。
 いや、今でも決してそういう事が無いという事では無いのだが――自他共に認める変化は彼女をハッキリと強くした。
 手慰みのように自分で『遊ぶ』リーゼロッテに対して、レジーナは軽くやり返す位の手管は身に着けているのだ。
「……しかし、どうして?」
 満足したのか軽い足取りでベッドに戻り、その縁に座ったリーゼロッテにレジーナは問う。
 彼女と同じように、彼女の隣に座り。悪戯な紅玉の瞳の中を覗き込んだ。
 二人は良く似ている。お互いの瞳の中に自分に良く似た美しい女がそれぞれ、映り込んでいる――
「理由は特にないけれど、何となく眠れなかったから、かしら」
「不眠の気は無かったように存じておりますが……」
 リーゼロッテの軽い一言にレジーナの柳眉が下がった。
 レジーナにとってリーゼロッテは特別だ。恋人のような何かかも知れないが、それ以前に圧倒的に主人である。
 万物支配せし天鍵の女王が具現化、受肉を果たした世界で従者になるのは運命の皮肉だったのかも知れないが、実際の所彼女は結構それが性に合っていた。
 何年も前に街角で――此の世の全てを蔑むかのように退廃し、華やかな毒の享楽を帯び。幻想に二つと咲かない奇跡の青薔薇を認めたその時から。
 一目惚れというのは、価値感すらも変えてしまうものらしいとレジーナは他の誰よりも良く知っている。
「ああ、いえ。大袈裟な話では無いの。そんな深刻な顔をなさらないで」
 軽く笑ったリーゼロッテはレジーナの心配を一蹴した。
「単に寝付けなかっただけよ。強いて言うなら、そうだわね……」
 思案顔をしたお嬢様は白い指を艶やかな唇に当てて言葉を続けた。
「少し、だったかも知れないわね。もう少し可愛がってあげたら良かったかしら?」
「……へ?」
「レナさんお可愛らしいからついやり過ぎてしまって。
 気をやらせてしまうのも問題だわね。まあ、私だけの問題と言うよりはレナさんの堪え性にも十分責任があると思うけど」
「お、お嬢様……!」
「静かに。真夜中よ。こういう話は二人だけのものでしょう?」
「は、はい――」
 こなれた所で初心は初心。本質的にはどうあれ弄ばれるのはレジーナの常である。
 暗がりに色の確認何て出来ないが――露骨な冗句に顔を真っ赤にしたレジーナにリーゼロッテは満足したらしく、鈴の鳴るような笑い声を深夜の寝室に転がしている。
「ねぇ」
「……はい?」
 少しだけ唇を尖らせたレジーナの顔をリーゼロッテは覗き込む。
 思わずつい、と顔を逸らしたレジーナをそんな彼女が笑っている。
「お話をしましょう」
「……お話、ですか」
「ええ、お話よ。こんな夜には似合いでしょう?
 聞いた話だけれど、千一夜の物語は主人に従者が寝物語を聞かせるものらしいわ。
 きっとレナさんなら楽しいお話をしてくれるでしょうから」
「……原典を考えると、楽しくなければ首が飛ぶ、だったと思うのですが」
「あら。それを言うなら原典の最後はハッピーエンドシェヘラザードよ。
 レナさんにとっては決して悪い話では無いと思うのだけど」
 よりにもよって『暗殺令嬢』の言う冗談でもないのだろうが、本人はそんな瀟洒なやり取りをいたく気に入っているようだった。
 打てば響く会話は一朝一夕に作り上げられたものではない。だ。
 丁々発止とやり合えなければこのお嬢様を捕まえる事なんて出来やしないから。
 ともあれ。
「お話がお望みならば勿論お付き合いします。喜んで」
 レジーナの言葉には一点の嘘も曇りもない。
 初めて出会った時からことこれに到るまで、刺激的な恋の鮮度は些かばかりもその輝きを失っていないのだ。
 だけど、いや――
「では、お嬢様には少し昔話をする事にいたしましょう」
「昔話?」
「ええ。然して面白くない話ですよ。特にお嬢様にとってはそうかも知れません」
「……面白くない話を私に?」
「ええ」とレジーナは頷いた。
「私の、昔話です。興味はありませんか?」
「……ずるい問い方ね」
「ええ。お嬢様仕込みですから」
 涼しい顔をしたレジーナは憮然としたリーゼロッテに胸がすいた。
 心から愛してはいるのだが、スコアを考えればきっと33-4がマシに見える。
 つまり、殆ど全ての局面でレジーナ・カームバンクルはリーゼロッテ・アーベントロートに滅茶苦茶好き放題にやられているのだ。
 それが愛しいと言えばそれまでだが、時折拗ねたような顔をお見せ頂くのも実に甘露という訳だ。
「お話をしても?」
「構わないわよ。どうせ寝れないのだし――付き合うわ」
 リーゼロッテは嘆息を吐いてそう言った。
 彼女とて他ならぬ忠愛の従者レジーナが自分に退屈を押し付けると思ってはいない。
 彼女が要らない前置きを置いたという事は、ましてやそれで自分の話をしようという事は――
(……どういう意味の『面白くない』なのだか)
 ――言葉が額面通りの意味を為さない事それそのものを示している。
 終わらない物語ならぬ、既に終わった物語の閨の昔話は覗き見る誰にもきっと余談なのだろうけど。
 少なくとも月明かりを浴びてベッドに座るこの二人にとってはきっとそんな話ばかりでは無い。

●アストラーク・ゲッシュ II
『善と悪を敷く天鍵の女王』は神性である。
 本来如何な勇者と言えども手が届くような存在ではなく、理に踏み込んだその性質は何処までも特異であった。
 その本性、本体は神域の武具道具の集合体であり、エルフを思わせる尖り耳の少女のなりは『擬態』に過ぎない。
 だが、きっと。恐らくはその『本質』こそが問題だったのであろう。

 ――ほう、試練を潜り抜け我が眼前に到ったか。人の子よ!

 武具は、道具は。如何な自我を持とうともそのアイデンティティは使われる事だ。
 そしてそれ等は、その品質が極まる程に使い手を選びたくもなるというものだろう。
 即ち意志を持つ神具インテリジェンス・アイテムめいた彼女は本質的に特別な勇者を好ましく思うように出来ていた。
 ……彼女の抗議の一切を撥ねつけ、もう少し俗っぽく身も蓋もなく言うのなら。

 ――面白い。汝が力、我が前に示すといいわ!
   良い芸を見せたなら、善と悪を敷く天鍵の女王は力を貸す事も吝かではない!

 ……………彼女は、とても惚れっぽかった。
 レジーナ・カームバンクルはアストラーク・ゲッシュの長い歴史の物語に常に存在感を示している。
 戦神たる彼女の権能は絶大であり、その意志一つで人の戦争の勝敗が変わった事もあった。
 されど、同時に。語られる幾つものエピソードはそういった勇ましいものとは逆をいく失敗談も多数で――いや、そっちの方が何倍も多かった。
 とある時、詐術の神に騙されたレジーナは愛した男を殺してしまった。
 また別の時、歴史が求めた英雄に恋をした彼女は散々に彼に尽くし――その後で封印の憂き目に遭いもした。
 二度目だが、彼女の一切の抗議を撥ねつけ、もう少し俗っぽく身も蓋もなく言うのなら。

 ――え、え、ええ? ど、どうしてそうなるのだわ!?
   貴方、私を愛していると言った筈なのだわ!?!?!?

 ……………………彼女は、どうしようもなく男運が悪かった。
 レジーナ・カームバンクルはアストラーク・ゲッシュにおける屈指の人気キャラである。
 しかし彼女は『負けヒロイン』としても親しまれていた。

●寝室にて II
「……」
「……………」
「……………………」
「あ、あの」
「……………」
「お、お嬢様?」
 リーゼロッテの表情はこれまでと打って変わって『本気の不機嫌』だった。
 まあ、可愛い可愛い従者の過去の恋愛遍歴なぞ聞かされた日には彼女の性格からしてそんな風になるのも仕方ない所か。
「ええっと、お嬢様。あくまでそれは『設定』というもので……
 その、いえ。全く繋がりが無いという訳ではないのですが、私から言えば実感のある記録と言うか。
 記憶に近しい何かである事は確かなのですが、自我にも行動にも影響はなく――『関係ない』と割り切れる程度のものと言いますか」
 レジーナが幾分か早口で言い訳めいてしまったのはリーゼロッテの反応が想像よりも分かり易かったからに他ならない。

 ――あら、レナさん? それを私に聞かせて……やきもちでも妬かせたいの?

 これとか。

 ――へえ、じゃあたっぷりと躾け直してあげないといけないわね?

 こんなんとか。
 まあ、レジーナの良く知るリーゼロッテはこんな調子である。
「……まあ、良いです。『面白くない』って事前に聞いておりましたし。
 まさか『そういう意味』で面白くないとは思っておりませんでしたけれど」
「恐縮です」
「お話を続けても?」とおずおずと申し出たレジーナにリーゼロッテは鼻を鳴らした。
 多分、了承の返事であると思われたのでレジーナは言葉を続ける。
「どうして、こんな話をしたと思いますか?」
「言い振りからしたら、ただの意地悪ではなさそうだわ。
 もしそうだったら頭からバリボリと食べてやってしまったかも知れない位」
「……お嬢様にそうされるのは何だか幸せかも知れませんね」
「レナさんってたまに本気よね」
 苦笑いを浮かべたリーゼロッテにレジーナは言う。
「ええ、本気ですとも。ですからあんなお話を差し上げました」
「……?」
 怪訝そうなリーゼロッテにレジーナは構わない。
「『私』は碌な恋を出来ませんでした。
 先程申し上げた通り『その私』は『この私』ではありませんが、記録にも記憶にも似て違う。
 そんな履歴はありありと思い出せるのです」
 やや独白めいたそんな言葉が夜に揺蕩う。
「私は私の世界で支配者だったけれど、結局何時もその結末は不出来で女王足り得ないものだったのでしょう。
 この混沌に『使い走り』のようにされて、受肉して。その時も、同じ事を思ったものです」

 ――結局、レジーナ・カームバンクルは報われないままに。いいように扱われるに過ぎないのだ、と。

「……………」
「ですが、結論から申しあげれば『違いました』。
 かなり早い段階で今回は絶対に違うと確信出来ました」
「……どうして?」
「貴女に、逢えたから」
 馬鹿らしい程に純粋で愚直な思慕の形は信仰にも似ている。
 それは善と悪を敷く天鍵の女王ならぬレジーナ・カームバンクルが幾度と無く恋で失敗した原因そのものだ。
 彼女は荘厳としていて、凛然としていて、その癖酷く人が良かったから。
 口では何と言おうとも誰かを信じ過ぎて、その度に傷付いてきた神性おんなのこだったから。
「おかしいわ」
 リーゼロッテは目を細める。
「どうして、私が他の何かと違ったと言えるの」
 彼女は酷薄にも思える調子でレジーナの恋の歌を鼻で笑う。
「どうして出逢ってしまった私が、貴女にとっての救い足り得ると思えたの。
 私だって貴女を利用しているだけかも知れないじゃない。
 私だってレナさんをいいように扱って――捨ててしまうかも知れないじゃない」
 聡明で意地の悪い蒼薔薇はこんな時にも優しくはない。
 随分とこの所は丸くなったけれど、茨の棘は自他を問わずに傷付ける。
 彼女の生い立ちはこんな時、殊勝な顔をさせる事を決して許してはくれないのだ。
「いいえ。有り得ません」
「……どうして?」
 その問いは二度目のものだ。
「お嬢様は最初から『そんな風』だったではありませんか」
 レジーナは笑って言った。
「見るからに享楽的で我儘に身勝手で、残酷に酷薄で意地悪で毒々しくて。
 他人何てどうでも良くて、御自身が何より大切で。そういった風を微塵も隠さないお人だったではありませんか。
 いいですか、お嬢様。誰かを騙したいと思うのなら、もう少しお行儀は良くなるものです」
「……貶しております?」
「褒めているんです、お嬢様。
 
 ……当時はまるで自覚していなかった後付けです。
 理由の無い恋に理由を語る愚か者と謗って頂いても別に構わない話ですが。
 ともあれ、私は貴女に恋をしました。
 まるで取り繕わず、美しく。誰よりも堂々としたお姿に憧れました。
 ……お嬢様は、良くも悪くも何処までも正直で純粋に思えるのです。
 ですから貴女は私を騙す方ではなかったし、貴女は私を酷く打ち捨てたりもしないでしょう。
 
「そんな事はない」と否定してみせるのも大変に益体も無い話。
 リーゼロッテは苦笑いを以ってレジーナの些か不遜な言葉を肯定した。
「私が本当として実感出来るのは『この私』の生だけです。
 ですが、私は記録だか記憶と照合するまでもなく今生を愛しく感じる事が出来るのです。
 貴女は何年もの間、私を傍に置いてくれました。
 貴女は混沌の運命を占う時に、私と戦ってくれました。
 貴女は今夜、私とベッドで眠ってくれます。そうして、こんな面白くもない昔話に付き合ってさえくれるのです」
 遠く長いラブレターは、レジーナが『記録だか記憶』と笑い飛ばす永劫の時間を超えている。
 受肉した結果現れた数千年か、それ以上の時間以上に――たかだかこの数年が重く、深い。
 断言するレジーナは他ならぬレジーナだからこそ、澱の中から自身を拾い上げたその白い指先を愛していた。
「お嬢様」
「……なあに?」
「私、粉骨砕身――この身が果ててもお嬢様にお仕えします。
 お嬢様の御為に、何をも投げうってお尽くしいたします。
 ですから、そうしたら。きっと、きっと褒めて下さいませ。
 その瞳にきっと私の姿を映し続けて下さいませ。
 愚かな私は、レジーナ・カームバンクルはただそれだけを願い続けているのです」
 恋で身を焦がし、愛で不幸になる女は混沌においても変わらない。
 唯一つ違いがあるのだとすれば、それは。
「その身が果てても、だなんて。とんでもない不忠ですわよ。
 ええ、不出来ですとも。レナさんは私の所有物。
 所有物が勝手に壊れたら――そんなの全然道理じゃないわ」
「いいこと」とリーゼロッテはレジーナの額を指で弾いた。
「私が許可するまで居なくなる事なんて許しませんから。
 今、ここで。私にお誓いなさいな。どんな罪を呑み込んでも、私の言葉に違えないって」
「――――」
 何という我儘か。
 何という傲慢だろう。
 そして、何という望外だろうか。
「……厭なの?」
 少しだけ不安気にそう言ったリーゼロッテをレジーナはそっと抱きしめた。
 唇を寄せた耳元が少しだけ、しかし確かな熱を持っている。
「ええ、一言一句お嬢様の願いに違いなく。
 レジーナ・カームバンクルはお嬢様リズと共に。それは必ず、永久とこしえに」

 ――罪と誓いの物語アストラーク・ゲッシュが夜に瞬く。

「そう言えば男運が悪いのはお互い様でした」
「……お嬢様のそれは御父上パウル卿の話では」
「ええ。でも男は男で中々性質が悪いのよ」
「そう言えば」とレジーナは笑い、リーゼロッテも笑う。
 少女二人の秘め事やくそくを知っているのは月だけだっただろうけど。
 確かにそれは報われない物語レジーナ・カームバンクル完結さいごだったに違いない。

  • 罪と誓いの物語完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別SS
  • 納品日2025年02月05日
  • ・善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665
    ・リーゼロッテ・アーベントロート(p3n000039
    ※ おまけSS『何かそこはかとなくエロくね?』付き

おまけSS『何かそこはかとなくエロくね?』

「エロいとか言うななのだわ!」
「まあ、ほんの少しだから、ほんのちょっとだけね」
「それにしても!」
「いや、クリピンとかで滅茶苦茶既成事実かましたのは何処の誰だね」
「……え、ええと。それはー……」
「まあ、別にそういうのがあってもいいからいいんだけど。
 ちなみに知ってるかも知れんけど、おぜうは基本的にノーマルだったんだけど」
「(=゚ω゚=)」
「君がそういう顔をしたからバイにしたんで問題なくなった訳だよ」
「それでいいもんなのだわ?」
「そういうもんなのだわ。
 PBWにおける作者の人の設定原則論、割とどうでもいい派なので。
 良かったね、おめでとう。ハッピーエンドだね」
「ええ、良かったという事にするのだわ!」
「ちなみにアストラーク・ゲッシュのくだりはほぼ全て創作だから」
「新しい記憶が生えてきたのだわー……」


 お嬢様の為に動きたく思います


 一生懸命頑張って
 この身がボロボロになっても
 粉骨砕身
 お嬢様のために


 そして最後に褒めてもらいにいくのです

 その瞳に
 我(わたし)はおりますか?


「何かそれっぽくなってたら幸いです。
 遅れてすみませんでした。あとお幸せに」

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