PandoraPartyProject

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愛しい全てに祝福を

登場人物一覧

ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ニルの関係者
→ イラスト

●ジュゼッペの手記
 世界というものは、よくわからない。
 生まれた世界を『そういうものだ』と生きていたら、突然『違う世界の人間』と称する者たちが現れた。――とは言うが、『彼ら』が別の世界の住人だと知るのも随分と後になってからのことだった。私達の世界は最終的には彼らの世界に吸収されるが、その前に厄災が手を出してきたため滅亡に瀕している、と。
 騙されていた、などとは思ってはいない。結果的に私達は彼らに救われたのだから。

 私たちは――私『ジュゼッペ・フォンタナ』と、私の人形ゼロ・クールたちは彼らに直接救われた。ミーリアは成長し、ウーヌスが救われ、私も救われた。
 そうして私たちは、彼らの世界へと行けるようになった。ギャルリ・ド・プリエの創始者である古代の魔法使い『ロック』の力を借りねばならない点と異世界では私の魔法使いとしての能力は落ちてしまうが、それでも世界が広がるというのは大変素晴らしいことで、暫く前から止まっていた新たなゼロ・クールの制作へも良い刺激となった。
 中でも異世界のゼロ・クール――秘宝種と呼ばれる存在、ニル(p3p009185)。彼から受けた刺激は、私にとっても私の『家族』たちにとっても大きかったはずだ。特にミーリアはよく興味を抱き、たくさん会話を交わしていたようだ。簡単な遊びをし、ギャルリ・ド・プリエを散策し、ともにクッキーを焼き、お茶をした。あの子たちはこんなにも表情豊かだったのかと、私は驚いたものだ。
 そのせいか、私の新しい『製作物』たるカリタスは、気付けばニルによく似てしまった。その点は直接詫びたし、彼も喜んでくれていた。優しく、柔軟の思考を持つとても良い子だ。ニルのようにカリタスも成長していってくれると嬉しいものだ。

 悲しみがあった。
 苦しみもあった。
 我がアトリエの新しい家族、末っ子のカリタスも、失われる所であった。あの子たちは私の被造物であると同時に、家族で。ゼロ・クールごときに心をかけすぎていると心無いことを言う魔法使いも居るが、どちらが『ゼロ・クール心無し』だと思ったものだ。けれどもニルたちは異なる世界の住人である私たちのために心を割き、カリタスへたくさんの想いをくれた。
 カリタスの姿が消えた瞬間は――もう駄目だと思った。あんな気持ちはもう二度と抱きたくはない。絶望に膝を付きそうな私を支えてくれたのも彼らであった。混沌と呼ばれる世界の仕組みを理解していない私のために、彼らは言葉と心を砕いて接してくれた。大丈夫だと何度も声をかけてくれた。
 彼らの言葉通りカリタスは帰ってきた。
 あの瞬間を、私はきっと生涯忘れぬことだろう。

●愛しき世界
 世界というものは、よくわかりません。
 私はまだ『生まれて』間もなくて。インプットされた知識はあるものの、それはデータであって私自身の考えで知ったものではないから。
 けれどそんな私でも、知っている事があります。
 ――私は、世界を愛しています。世界だけでなく、人が、命が、愛おしい。愛おしいもので溢れたこの世界を愛しているのです。
 私の制作者マスターに「愛を知り、愛を与える者となってほしい」と望まれ、私という人格人形は生まれました。これもただのデータなのかもしれませんが、私はマスター・ジュゼッペの優しい心と私に触れる優しい指先を知っています。私にくださった愛は本物で、私もまたマスターを愛しています。私をこの愛しい世界へ生み出してくれたことへの感謝の念は、きっと壊れてこの身が潰えてしまうまで絶えることはないでしょう。

 まだ浅く短い、『私の世界』が変わりました。
 たくさんの人が私を助けようとしてくださり、祈ってくださり――私はそれが嬉しくて、愛おしくて。何とか皆様と繋がっていたいと、もっと皆様を愛したいと思ったのです。
 薄く薄く引き伸ばされて消えてしまいそうだった私は、『私が生まれた世界とは違う異なる世界』が繋ぎ止めてくださいました。それを奇跡だと言うのだと、マスターが後から教えてくれました。皆様が想ってくれたからこそ、私を『異なる世界が愛してくれた』のです。
 目覚めた見知らぬ神殿を抜け、皆様の元へと帰りました。
 沢山の美しいものがそこにありました。
 煌めく涙。あれは美しく、愛しいものですね。
 温かな抱擁。これもとても美しく、愛しいものです。
 ああ、人の心というものは何と美しく、何と愛しいものであるのでしょう。
 愛おしくて愛おしくて。私は愛しさの許容オーバーを起こして倒れてしまい、またマスターや皆様を心配させてしまいました。これは反省しております。けれど、『ヒト』は抱えきれない程胸がいっぱいになると『シャットダウン』することを知りました。私は私の許容量を増やすべきだと知ることが叶ったため、成長したと言えましょう。

 ……そう。私は人形ゼロ・クールからヒトになったのです。混沌世界では『秘宝種』という存在ヒトのようです。
 きょうだいとは違う。それは私にとって、少し恐ろしいことでした。マスターが手掛けてくださった体に、マスターが与えてくださった人格。私ときょうだいたちは変わらないのに、どうして私だけが変わってしまったのでしょう。救われたと、愛されたとあの瞬間に思った私の考えは浅かったのでしょうか。どうして私を選んだ存在はきょうだいもヒトにしてくれなかったのでしょうか。
 プーレルジールへとマスターに連れて帰ってもらった後の私は、この件で暫く悩みました。
 けれどマスターときょうだいたち――私の『家族』は、そんなことは何ひとつ気にしていない様子でした。家族にとって、私が『どんな形』でも『生きている』ことの方が大切だったのです。ああ本当に、なんと愛おしい家族なのでしょうか。変貌してしまった私を愛し、慈しんでくれるのです。私自身が他へ向ける愛への見返りなど求めてはおりませんが、私のことを変わらず家族は愛してくれていました。私を『異物』と見ない、私を家族のままでいさせてくれる、そんな家族のことを私はこの上なく愛しています。

 プーレルジールに戻って暫く経過し、私が安定し始めた頃、私はニル様がいる混沌世界が気になりました。気になって気になって、仕方がありませんでした。
 ――愛おしいニル様にお会いしたい。
 秘宝種となった私はロック様の力を借りずとも自由に世界の行き来が出来るようになり、いつでも会いに行けるのですが――混沌世界は世界を守る大きな戦いの佳境となっており、戦闘経験の無い私では危険であることをニル様とマスターは話さたようです。マスターも混沌世界では『魔法使いマスター』としての力を十全に振るえないとの事で、私たちは混沌世界の戦いが無事に終わることをプーレルジールから祈ることしか出来ませんでした。
 愛しい貴方が無事でありますように。
 愛しい世界が壊されませんように。
 私は毎日窓から外を見て、祈りを捧げていたのです。

――――
――

 ニル様の世界での、長い長い戦いが終わりを向かえたそうです。
 プーレルジールにいる私たちにはそれを感知することは出来ないため、ニル様からのお手紙を届けていただいて知りました。
 混沌世界は平和になったそうです。魔種という強くて恐ろしい存在は姿を隠し、魔物等はいるけれど私やジュゼッペ様ときょうだいが一緒に遊びに行っても大丈夫な状態になったそうです。
 なので、ジュゼッペ様が言いました。
『お前が何処を住処にしようと構わない。お前は秘宝種として自由に旅をすることも、彼方の世界で住まおうとも構わない。そうしたいとお前が願うのなら聞き入れよう。……偶に手紙を寄越し、安否を教えてくれるのなら、それで』
 ふふふ、おかしなマスターお父様です。私が誰にも仕えなくて良いのならしもべ人形ではなくなったのだから、私の『家』は家族の居る此処なのです。家族がいる場所が家なのでしょう? ――そう告げたら、マスターお父様は顔を手で覆ってそっぽを向いてしまいました。どうしたのでしょう、大好きで愛しいマスターお父様の顔を私は見たいのに。
『大丈夫ですよ、カリタス』
『ジュゼッペ様は照れていらっしゃるのです』
 愛しい私のきょうだいたちウーヌスとミーリアは、私よりも物知りです。マスターお父様の新しい一面を知る度に、きょうだいたちのことを知る度に、愛おしさが増してずぅっとずっと一緒に居たいと思います。
 私は末っ子ですが、きっとニル様のように強くなれます。ニル様から様々なことを学んで、私も愛しい家族も、愛しいギャルリ・ド・プリエの人々も、守れるヒトになりたい大きな愛で包みたいのです。家族とずっと一緒に居たいのですが、私は家族を守りたいという欲を抱いていることに気が付きました。ヒトは欲を抱くものなのだそうです。よりよくなろうと成長ができるのだそうです。
 マスターお父様と沢山話し合い、きょうだいたちへも沢山相談をしました。
 その結果、私は混沌世界へ『留学』することとなりました。
 下宿先は『果ての迷宮』がある、幻想王国です。ローレットの本部もあるそうなので、困った時はすぐに頼れます。各ローレット支部とは空中神殿を経由して移動ワープが出来、混沌世界の色んな場所へと行けて沢山の景色や楽しいことを知れるのだそうです。
 まずは家族全員で遊びに行って。それから私だけが残り、留学します。
 私は近況をニル様へと手紙でお知らせしました。……マスターお父様も書いていたので、内容は重複していたかもしれません。けれど優しいニル様からのお返事はそのことには触れず、素直な喜びを著してくださっておりました。

「早くニル様にお会いしたいです」
 ウーヌスもミーリアも、お父様も。皆、この愛おしい気持ちは一緒です。
『ニルもカリタス様に会いたいです』
 愛しいお返事を胸に、私たちは旅支度をしています。

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