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不確定世界の破滅的結末に関わるレポート
登場人物一覧
●Scene I
「……うそつき!」
楊枝 茄子子――ナチュカ・ラルクロークの黒い瞳には見て分かる位に大粒の涙が溜まっていた。
「うそつき、うそつき、うそつき!」
短く、そして強い一言を連呼する彼女の有様はやはり見て分かる通りに尋常ならざるものだった。
年相応よりも可憐と呼んでいいその美貌には、年不相応なまでの幼稚さと純粋さが滲んでいる。
目の前の男を責め立てるその様は――彼女が望んだ――恋人や伴侶のものに対してというよりも、幼い子供が父親を困らせているような印象に映るだろうか。
「うそつき! シェアキムの――うそつき!!!」
茄子子がきっと睥睨するのはシェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世。
即ち、混沌の大国の一つである聖教国ネメシスの教皇にして国王、誰もがそうと知るこの世界の聖職者の『頂点』である。
「いや、嘘ではなく――落ち着け、茄子子殿」
「落ち着かないよ。落ち着ける訳無いじゃん!!!」
穏やかな制止の言葉をいやいやをするように頭を振った茄子子は強く、強く拒絶した。
「ずっといい子にしてたもん! 神様に奉仕もしたよ。他人だって出来るだけ助けたよ。世界だって救った!
『シェアキムがそう言ったから』あの時だって我慢もしたのに!
それでそんなのぜったい嘘だよ。うそつきだよ!」
取り様によっては支離滅裂にも聞こえる茄子子の強い主張は、実際の所彼女の本質を何より良く表していた。
「茄子子殿……」
ボロボロと涙を零し、歯を剥く茄子子は可憐な乙女というよりも傷付いた野生動物のように見えた。
『会話が成立しているようでしていない』。或いは『価値観を共有出来るようで出来ていない』。
例えばこのシェアキムを含めた通常の人間は、人間としての在り様、自然衝動的にごく当たり前程度の善性を求めている。そういった発露が行われる、結果がもたらされる、一定の貢献を行うのは高度な社会性を有する人間社会の一員である以上、疑うべくもなく当然の事だと思っている。
だが、しかして茄子子の場合はどうか。
「――シェアキムがそう言ったから守ったのに!」
……大本の『動機』が凡そ通常の人間からは余りにもかけ離れている。
幼い頃、雷撃に打たれるようにした『恋』のままに。彼女が良い子たらんとしたのは単なる『擬態』に過ぎまい。
善性の意味を根本的に理解する事は決してなく、幼く無垢な我欲のままに『好きな人』の言いつけを守っていたに過ぎないのだ。
即ち、茄子子は――『世界を救った今でも、他人に善を為す事に何の価値も見出していない』。
「もう、我慢しないよ。出来ないよ。
あの時、シェアキムは『考える』って言ったのに、シェアキムは私に嘘を吐いたじゃん!
私は待ったのに、ずっと待ったのに! シェアキムは今私に……」
――あのね、私は十五年待ったよ、シェアキム。
責任取ってくれなきゃ、天義壊しちゃうかも。えへへ。
――昔、我が国には歳若くも敬虔で大変感心した少女が居たものだ。
天義事変の時のやり取りを思い出した茄子子の鼻の奥がツンとした。
――言葉を交わした事等、殆ど無い。
国民の全てと向かい合う事等、人間である私の領分で叶う事では無かった筈だ。
しかし、彼女は神と正義への奉仕に熱心で、私の話を良く聞きに来てくれたものと承知している。
――どうしてこうなったのだろうな?
どうして、私の言葉は君の心を捉えたのだろう?
神が意味のない運命を背負わせるとは思えず、さりとてこの状況は余りに青天の霹靂だ。
――ナチュカ・ラルクローク。君は私が好きだという。
だが、私は君を好ましく思ってはいたが、君をそんな風に見た事等無かった。
シェアキムは茄子子を『楊枝 茄子子としてではなく』。
幼い頃に出会ったナチュカ・ラルクロークとして覚えていてくれたのに!
――だから、君の気持ちを理解したのは今、この瞬間。今宵が初めてだ。
十五年待った君は早急な結論だけを求めるだろうか。もう幾分の時も待てないのだろうか?
そんな風に言って、あの時の私を止めた癖に。あんなに上手に止めてしまった癖に、と。
「……っ、う、うぇえ……ばか、きらい。すき」
数分前の『お断り』の言葉を思い出した茄子子が鼻を啜ってまたボロボロと涙を零した。
かつて茄子子が『良い子』であらんとしたのは、シェアキムにそうすべきと言われたからだ。
同時にシェアキムという人間の価値と、天義における重要性は分かっていたから――国を滅ぼしてでも彼を奪うには代価が要ると考えただけだった。
世界を救った今となっては、十分なお代は支払われたと考えていい。少なくとも茄子子はそれを疑うような構造をしていない。
故に、最早是非もない。
こうなれば、茄子子という女に残された手段等一つだけだった。
「シェアキム、あの日をやり直すね。今度こそ私はどうしたって止まらないよ」
腫れぼったい目を擦り、茄子子は真っ直ぐにシェアキムを見据えていた。
薄い唇は三日月のような口角を作っている。
泣きじゃくっていた筈の子供はその本性を嫌という程明らかに露わにしていた。
「……どうしても、か」
「どうしてもだよ」
それは恐らくシェアキムなりの誠意なのだろう。
この場には茄子子を阻む邪魔者は誰も居ない。
鬱陶しい聖騎士も、レオパル・ド・ティゲール団長も。兵士達も。
そんなものが居たとしたって殺してでも奪い取るのは間違いないが――シェアキムとの『楽しい新婚生活』を考えればやり過ぎが毒になるのは茄子子も承知している。
「お話は後にしよう。今度こそ一緒に幸せになろうね、シェアキム!」
茄子子は泣いた子が笑った可憐な笑顔で実に身勝手な未来を口にした。
恋愛なんて上手くいかない事もあるのに。
どれだけ想っても、どんなに尽くしても全ての罪を赦す都合のいい免罪符なんて在りはしないのに。
「えへへ、大丈夫だよ。シェアキム! 私はシェアキムがどんな風でもだいすきだから。嘘吐きでもだいすきだからね?」
認知の歪みは『肯定的返答』以外の全てを『嘘』にした。
――嗚呼、姿形が常に人間の本質を示してくれるのならば此の世は何て単純だろうか。
されど、しばしば。己の為に世界を侵せる怪物は、怪物のなりでそこに居ない――
●Scene II
破滅的に、そして刹那的に。
愛や恋だけを理由にして世界の果てまで駆け抜ける――まあ、神話や伝承ではそう珍しい話ではない。
許されぬ恋人達は時に一生に一度の恋をして、総ゆる艱難辛苦を乗り越えてハッピーエンドの類に結ばれる事だってあるだろう。
物語の中ならばそんなものは日常で、例えば。
『塔の上に囚われた年かさの男を、勇敢な少女が助け出す物語』だって――不合理ながらも存在しよう。
だがそれはあくまで『お互いが同じ方向を向いていれば』である。
もう少し言うならば紆余曲折の姿がどうあれ、『最終的に双方が望んだ結末ならば』であろう。
物語の中でさえ、一方的に姫を攫った魔王に同情的なシーンは少ないものだ。
――しかし、この物語は『そちら側』が主役なのだからいよいよもって性質が悪い。
「……シェアキム、ご飯だよ」
優しく笑って言った茄子子にシェアキムは疲労感と諦念に満ちた何とも言えない視線を投げかけていた。
人里離れた場所に存在する愛の巣(かくれが)は凡そ快適な居住性とかけ離れた天然の洞窟だ。
茄子子が用意した食事は簡素極まるものであり、本人なりの努力と愛は存在するもののやつれた彼を満足させるものでは無かった。
「……………」
「シェアキム、嫌いなものあった? ごめんね、次はもっとうまく作るから……」
いやさ、それ以前に。衰弱した彼を『慮る』茄子子自体が酷く酷くやつれていた。
愛らしい美貌にはクマが出来ており、髪の毛は色艶を失っているように見える。
二人の聖衣はボロボロであり、特に茄子子のものには幾つもの血痕さえも残されている。
血痕の方は『二人の新婚生活を邪魔する誰かを排除した時についたもの』だが、寝不足の理由はそればかりではなかった。
「でもシェアキムも悪いんだよ。私知らなかったよ。シェアキムって結構亭主関白っていうか、我儘な方だったんだね?
それでも私はだいすきだから全然大丈夫だけど。ちょっとびっくりしちゃったよ」
場違いな笑みを浮かべた茄子子に酷いクマが浮いている直接の原因は『以前にシェアキムが逃走を図ろうとしたから』である。
それを知った時、半ば発狂するかのような激情を見せた茄子子は『すぐにシェアキムの両足を叩き折った』。
その次に一晩中泣きながら謝罪をして、それ以降まともに眠らずにずっと彼の様子を伺っている。
――壊れている、と言われればそれは間違いなくそうなのだろう。
だが、茄子子が壊れたのはずっと昔――恐らくは産まれた時からで、彼に出会った時からだった筈だ。
「……何時まで、続けるのか」
ぽつりと漏らしたシェアキムの言葉に力が無い。
彼は聖職者であり、天義の国王であり、同時に茄子子の理解者であった。
茄子子自体がその理解を拒み、幻想の世界に逃げただけで――彼はずっと茄子子の理解者だった。
『これだけの目に遭わされながらも、自身の先行きに未来が無くとも。せめて茄子子だけには光あれかしと今でも本気で思っている』。
止まった所で責咎は免れまいが、シェアキムの信ずるは即物的な人の世の運命だけではない。
ナチュカ・ラルクロークなる一人の少女が汚濁めいた闇に拘泥し続ける様は彼の信条をして許せるものではなかった。
ましてやその原因が自分であるとするならば尚更に――
「ずっとだよ、ずっと! シェアキムも知ってるでしょ。夫婦ってのはずっと一緒に居ないといけないんだよ!
前に言ってたじゃん。愛する者が離れ離れになるのはよくないって。『お互いを許し合うのが夫婦』だって。
……十三年前の九月だったかな? 私、感動したんだよ。だからシェアキムとそうなろうって思ったの!」
――だが、救いたいと強く願う目の前の少女はやはり分かり合える作りをしてはいない。
混沌の形に生まれつき、世界の何某か――恐らくは『失敗』によって特異運命座標成り得た茄子子は無垢なる邪悪そのものである。
恋が奪い合うもので、愛が与え合うものだとするのなら、茄子子が知るのは『永遠に恋まで』だ。
少女時代のまま狂った形で時計を止めた彼女は、へたくそな好意を振り回して『ここまで』する。してしまう。
「そうか」
瞑目したシェアキムはおかしな形にねじ曲がり、動かなくなったままの自分の足に嘆息した。
洞窟の背に寄りかかり、追憶する。
(何処で、何を間違えてしまったのか――)
全て、最初から間違いだったとは思いたくはなかった。
記憶の中のナチュカ・ラルクロークは偽りの形だったとしても『良い子』のままで。
楊枝 茄子子は公明正大な立場たらんとしてきた我が身をしても『可愛い』特別な存在だったから。
それが――こんな。僅かばかり価値観と求むる形が異なっただけで、どうしてこんな事になってしまったのか――
「……またかあ」
――そんなやり取りの内に、ざわざわと。多数の人の気配が近付いてきたのに茄子子は気付く。
それはこの『新婚生活』が始まってから決まって起きるお邪魔虫の妨害で、彼女はそれに酷く腹を立てていた。
「ごめんね、シェアキム。ちょっと行ってくるから。ご飯食べてね」
まるで旦那の世話を焼けない妻ののように悪びれて――茄子子は得物を手に洞窟を出た。
――そんな彼女は、ひどく幸せそうに笑っていた。
●Scene III
ぱくぱくと唇が戦慄く。
酸素を求めて荒くなった呼吸は吐息の代わりに真っ赤な液体を吐き出した。
世界が赤く染まっている。
『誰よりも人でなしであった癖に、人間の血を流している』。
「……」
「……………キム」
「……………………」
「しぇあ、きむ」
腹部から胸元を真っ赤に染めた茄子子は童女のように最愛の彼の名を呼ぶだけだ。
改めて考えなくても分かる破滅は、特異運命座標(ゆうじんたち)によってもたらされていた。
顔も声も名前も浮かぶローレットの誰かが暴れに暴れた茄子子の『対処』に乗り出す事は分かり切った未来だったと言える。
「いたいよ、しぇあきむ」
「茄子子殿……」
一秒毎に死の影が強くなる茄子子の痛ましい姿にシェアキムの顔が厳めしさを増していた。
誰がどう見ても分かる致命傷は『新婚生活』の終わりを告げていた。
永遠に続く筈もないごっこ遊びの夢は無惨に覚め、残されたのが最悪の事態だけだという事は誰の目にも明らかだった。
「……っ、たすけて、いたいよ」
シェアキムは「どの口が言う」とは思わなかった。
この少女が道を踏み外したのは確かであり、許さない行為を積み重ねた事は疑う余地もない。
よしんば自身が全てを許したとしても――奪われた命が戻って来る事はないのだから。
「……いかないで、わたしといて」
どれ程の麻痺していたとしても、どれ程に壊れていたとしても茄子子は愚かな女ではない。
些か偏った形ながらに鋭敏であり、身勝手なだけで聡明だった。
だから彼女は知っていた。
『彼を繋ぎ止める術を失ってしまった自分はもう一人になるしかないのだ』と。
元より思っていた。『こうなる前』にシェアキムを殺して二人で死ぬのが最良なのだ、と。
しかし……恐らくは。神の代弁をするのなら、そう出来なかった事こそ、茄子子なりの実に幼い愛と呼ぶべきなのだろう。
「いかないで――」
早鐘を打つ鼓動はときめき何かを理由にしていない。
急速に失われる生命が結果に抗おうと無駄な足掻きを見せているに過ぎまい。
「――いかないで」
繰り返される幼稚な懇願はきっと誰にも届く筈がないのに。
「いやだよ、シェアキム……!」
誰よりも我儘で、誰よりも邪悪な彼女は駄々を捏ねる以外の総ゆる術を失っていた。
きっとずっと前から、でもそんな事には目を瞑っていただけで。
だけど。
「……行かんよ」
「へ……?」
全身の力を奮い立たせて伸ばした茄子子の手を――血濡れた手をシェアキムの大きな手が包んでいた。
「『行かん』と言ったのだ、茄子子殿。君の願いは私がここに残る事なのだろう?
離れずに、この場に居続ける事なのだろう? 了承したと言ったのだ」
「どうして」と問うた茄子子は自身が人生で最大の愚問を呈したと自覚した。
どうしてもこうしてもない。それは。
「……え、へへ。シェアキムも私の事、あいしてたんだ……」
「そうだな」
少女の夢の繭を男は壊すような真似をしない。
百も大罪を重ねた罪人に救いを与えんとするのは彼が至高の聖職者だからなのだろう。
しかして実を言えばその動機は何も『聖職だからだけ』では無い。
僅かばかりとは言え、その先が――在る。
「だいすき」
「ああ」
「だいすきだよ、しぇあきむ。あいしてる」
「……ああ」
呪いが解けたかのような茄子子の顔は穏やかで、道連れなんて思っていたそんな最後の『らしさ』すら抜けていた。
地面を蹴る連続した気配がこの場に辿り着いたなら、茄子子が遠く望んだこの刹那の永遠はきっと壊れてしまうに違いない。
それでも。血濡れて横たわる茄子子を抱き起こし、その手を握ったシェアキムの姿は場違いにも宗教画めいていた。
――『荘厳にして異質なる或る傍迷惑な恋の歌』。
誰にも許されずとも彼は許した。
誰にも理解されずとも、少なくとも彼は知っていた。
(……嬉しい)
この世界は、彼女の世界は邪悪に満ちていた。
そこに聖なるかななんて微塵ばかりも存在していないのに――
――私、しあわせかもだよ?
――自分勝手極まりなく穏やかに目を閉じた楊枝 茄子子の一生はきっと誰よりも満ち足りていたに違いない。
●Epilogue
「阿呆か、アレは」
世界は多重構造で出来ている。
運命は連続性を帯び、一つの道で繋がっているように思えるが、実際は全く別物だ。
全ての運命は全ての選択を伴う。
選択の結果枝分かれした未来は無数に分岐し、選び取られなかったものも含めて『全てが存在する』。
箱の中の猫の生死は観測される事で初めて確定に到ると云う。
つまり誰にも観測されない結末は無かった事になるだけで、最初から無かったとはどうあれ≒の関係に過ぎまい。
「……空恐ろしい話だ、実に」
人間の情愛が深淵なるものである事は、スターテクノクラートであろうとも最早認めざるを得ない事実である。
柄にも無く誰かに手を貸したり、帰還の面倒を見てやったり……
『悪い意味で』彼等に感化されてしまった事を認めないのはプライドに触るレベルの醜態であるのだから仕方あるまい。
「蝶のはばたき一つで世界は変わる、か」
バタフライ・エフェクトなる事実を『観測可能』なシュペル・M・ウィリーは深い溜息を吐き出した。
選び取られなかった先を詮索するのは無粋が過ぎる。しかして、彼は混沌肯定の枷が緩んだ今、それを視る術を得てしまう事になった。
当然と言うべきか、彼にも消せない後悔がある。
見ようと思えば別の結末(ミシェル)を観測する事も容易い話ではあったのだが――
(馬鹿げている)
――頭を振ったシュペルは自身の事ではなく『二人』の事を考えた。
成る程、特異運命座標というのは数奇な宿命を背負っているものである。
楊枝 茄子子という女は徹頭徹尾――その力の多寡ではなく、在り様が異質であると証明されたようなものだ。
シュペルは茄子子の事を詳しく知っている訳ではなかったが、『愛だの恋だの』にあれだけに直球で生きられるような女は滅多に居ない。
……記憶の中にたった一人だけ残っているが、あのゴリラの事は実際余り思い出したくはなかった。
(これを人間らしいと云うべきか?)
答えは否だ。茄子子は余りにも怪物(フリークス)である。
(……では、アレは只の怪物だったと評するべきか)
……この答えもまた否である。
茄子子は唯の『女の子』だった。
お弁当を作りたがる女の本質の理解なんて天才にとっては改めて分析するまでもない朝飯前だ。
「……………はあ。どうするか」
実に胡乱な話である。
シュペルは取り留めのない思考を止め、目前に横たわる机の上の『問題』に目をやった。
「はあ……どうして小生に」
そうして重く、何度目か知れない物憂げな溜息を吐き出した。
基本的に他人は嫌いだ。
誰にも会いたくないし、日々押しかけて来る弟子気取りだの自称ライバルだの煩い金髪なんかにはほとほと辟易し続けている。
特にローレットの連中はそれを良く知っている事だろうが、どうも彼等はわざとやっている節すらある。
(挑戦か? 神への挑戦なのか???)
その行為は最悪に不敬であり、シュペルとしてはそれが憤懣やるかたない。
とは、言え。
シュペルは随分とほだされてしまった自身は少なくともそれを悩む程度には彼等彼女等に価値を認めているのだと思い知っている。
昔なら一顧だにせずに一蹴した頼み事を真っ当に検討している辺り、つくづく自分が嫌になると言わざるを得ない。
「……はぁ……」
心底疲れた調子のシュペルの視線の先には一枚の写真と手紙があった。
――私達、結婚します!
結婚式の参加は? Yes/はい
参加だね。分かったよ。絶対来てね! 待ってるからね!!!
『選び取った結末』の対処はシュペルにとって幾分かハイカロリーだ。
写真の中では困り顔のシェアキムに抱き着いてピースサインをする茄子子が最高の笑顔(どやがお)を見せている。
- 不確定世界の破滅的結末に関わるレポート完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別SS
- 納品日2025年01月28日
- ・シェアキム・ラルクローク(p3n000135)
・ナチュカ ラルクローク(p3p008356)
※ おまけSS『追加描写したい情報とかあったら勝手に盛り込んで構いません』付き
おまけSS『追加描写したい情報とかあったら勝手に盛り込んで構いません』
「……と、発注文章にあったので」
「会長と同じ位自由だね。翼を授かってるね!」
「いや、『ハッピー、バッド、メリバなど終わり方の指定はありません。妥当な流れだと思う形でお願いします。普通に捕まるエンドとかでも大丈夫です』とか言ってたじゃん」
「だって振られたら仕方ないじゃん……我慢してたし」
「そう。ただくっつく話を書いても面白くないので、変化球にしてみた訳です。
こういうのカットボールって呼んでてね。手元でクッと変化した感じがするでしょう?」
「会長、野球そんなに分かんないよ!」
「まあ、小説としての面白みを重視した構成ということ。
所謂どんでん返しを角度を付けて描くテックってやつ。ヴェルグリーズゼロとはまた別の変化パターン。
つまりSceneはシュペルの観測した並行世界の結末な訳だよ。ごめんなさいされた世界線の。
『不幸の手紙』が来て感傷ついでに見てしまったんだろうね、たぶん」
「ふんふん。それはそうと、でも会長分かっちゃったよ!」
「何が?」
「この90年代~00年代のラノベのあとがきみたいなこれ、書く事無かったから書いてるでしょ!」
「……………」
「会長知ってるよ、これくぅ疲って言うんだよね」
「……最後に遅れてごめんなさいでした」