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僕から見た三毒のこと
登場人物一覧
●まずは
――こっちだよ。
終焉の動きが活発になってきた頃。だが休息も必要だと雨泽が手招き案内するのは、練達かきごおり専門店。
他国にはない技術にあふれたこの国では、季節を気にすることなく温かな店内でかき氷が食べられるのだと若者たちに人気だ。
「豊穣だと削り氷は高いよね」
電気のない故郷では不純物のない氷は入手も保存も難しいのに、異国では発達した技術によってその全てが容易。山の麓の穴倉や洞窟の奥に作った氷室がなくったって、家庭に冷凍庫さえあれば一般家庭でも食べられる。しかも味も遥かに種類が多く、初めて訪った時は驚いたものだと雨泽は日向寺 三毒(p3p008777)に告げた。
「それで、今日はどうしたの?」
甘味でも食わねェか、なんて。
開いたメニューを見やすいように差し向けながら問えば静かな空気が流れ、雨泽は言葉を待った。
「……オレは神使として、何か成せたと思うか?」
「何当たり前なこと聞いてるの」
即答され、三毒は息を飲む。
「じゃあ今日は、僕の思う君のことを聞いてもらっちゃおうか」
●君のこと
三毒との出会いは……ああ、刑部卿の依頼の時だっけ。鬼人種の角から始まった事件で――僕はまだ鬼人種であることを隠していたんだ。だからね、君が来てくれた時は驚いたし、……嬉しかった。だってさ、どうにかしたいとは思うけど、僕たちは鬼人種で。もしかしたら自身の角が狙われる可能性だってあるのに、君は飛び込んできてくれた。差別を受けてきたのに
まあその後、焔心が鉄帝に行っちゃったから、鉄帝にも来てくれたよね。すごく心強かった。僕は君はあまり豊穣から出ないタイプなのかなって思ってたから、ね。僕はふらふらあちらこちらへ行ってしまうタイプだけれど、君はそう見えないからさ。そうでもない? ふふ、そうだね。天義にも来てくれたし。
色んな大変なことがいつも連続しているけど、君は国を出て頑張ってくれている。そんな君が『何も成せていない』ことは絶対にないよ。いつも誰かを救ってくれている。直接的でなくても、君が救おうと伸ばしてくれた手のその先で、名前も知らない誰かが救われているよ。僕だって……これはまた後でにしようか。あ、削り氷がきたね。溶けちゃう前に食べよ食べよ!
●君の強み
三毒はさ、ギフトがなんかすごいって報告書で見たよ。温度で知覚するって、高温の物体のすぐそばに隠れているとかじゃなければわかっちゃうんでしょ? でも結構大変? そうなんだ? でも僕のギフトなんてラサではスコールかオアシスがないと使えないから、いつでも自分の意思で知覚できるのってすごいと思うな。
君って、言葉は少ないほうだけどいつも真っ直ぐだよね。信念っていうのかな。こう、芯って言うのかな。そういうのが体のど真ん中に柱みたいにある感じ。だからなのかな、三毒の言葉って重みがあって強いんだ。……『小さくとも弱くとも、一歩ずつ前へ進もうとする者に寄り添って。一つ一つ、一人一人、積み上げてようやく変わり始めた豊穣を守るために』だっけ。ちゃんと一言一句覚えているよ。そうだなって思ったんだ。……僕は自分が鬼人種であることを知られたくなかった身だからさ、豊穣に居るよりもいつも他国に行ってしまって――でも気付くと戻ってきちゃうんだ。変わり始めた豊穣を目にして僅かな希望を抱き、変わらない部分に勝手に絶望する……そんな僕でも、『そうだな』って。三毒の言葉の重みはすごくて、それがとても良いことだと、僕は思っているよ。
後はー、あ、三毒は体がしっかりしてるのもいいよね。敵対してる相手への抑えとかしてくれるし、三毒がそうしてくれると回復してくれる子も安心できると思う。僕はそういうの苦手だから、いいなーって思う!
●君の弱み
うーん、寡黙なとこ……? ちょっと怖いかなーって印象抱かせがちなとこ……? 僕が幼女だったら泣いてたかも。……まあ幼女じゃないんですけど。
人付き合いは苦手な方なのかなー? ってちょっと思っていて、誘って良いのかなーって思う時があったりなかったりしてた、かな? いやぁ僕は割とふわふわウロウロしちゃうし、沢山おしゃべりしちゃうから……ああ、うん。今日みたいにさ、ふふ。うん、それで、僕がそう思うのだから、他の人もそう思うのかなーとかくらいは思うよ。何が言いたいかって、僕とお話してくれてありがとうと、今日もこの時間を設けてくれてありがとうに繋がるんだけれどね。
後はちょっと不幸体質っぽい感じだよね。……えっ、僕の事情ばかり知ってると据わりが悪いから教えてくれる!? いやいや、別にそれは……まあ本当に話したいなーって思ってくれた時でいいよ。三毒は口が硬いだろうから僕の事情なんて他の人に言わないだろうし……って、ああ、良いところをまた言っちゃった。僕は本当に、君のそういうところが好きなんだろうなあ。うん、気付きを得ちゃったね、あはは。
●君の食事
こういう削り氷とかもさ、僕等鬼人種は口にできないものだったけれど……世の中変わるもんだよね。差別を受けてると白米ですら贅沢品で、食べられれば――飢えをしのげればって感じだったけど、国が開かれて、外つ国を知って、色々と変わったよね。……空中神殿経由で食べに行けるっていうのも大きい。僕は外つ国に出て、最初に甘味の違いにびっくりしたんだよね。あ、三毒もそう? すごいよね、甘さが違う。豊穣では砂糖って贅沢品だったのに、外つ国ではふんだんに使った和菓子とは違う甘味がいっぱいあって、しかも値段も高いわけでもない。……そうそう。ローレットの依頼料で食べられちゃうもんね。
三毒は甘いの何が好き? まだコレって言えるものがわからない? 僕? 僕は色々好きだよ。アイスクリンも好きだし、生クリームとかも好きだし……最近はアップルパイをよく口にするかも。好きなものが多すぎて選びきれないや。甘いものが気になるのなら、色々と紹介できるよ。何食べたい? 何があるかわからない? それじゃあ今度纏めとく!
●おしまい
「僕が思う三毒のことはこんな感じかな」
そう告げてから、雨泽はアッと口を開いた。
「そういえば前、シレンツィオのジェラートフェスティバルにいったよね」
あの時はお騒がせしましたと頭を下げながら、雨泽は夏の青空のようなかき氷をしゃくりとやった。ジェラートフェスティバルだけじゃない。その後も三毒が動いてくれていたことを雨泽は報告書で知っていて、態度には出さないけれど深い感謝の念を抱いている。
「またああいうのも行こうよ。あ、練達にソフトクリームにリキュールをかけて食べる夜のアイスクリーム屋さんもあってね」
「りきゅーる、は酒精か?」
であれば苦手だと告げた三毒へ、雨泽が少しだけ意外そうな顔をした。けれどもすぐにその表情は笑みへと変わる。
「お酒、苦手なんだ? ふふ、三毒のことをまたひとつ知れた」
「……香りづけに使われてるモンでも弱くてな」
「三毒が弱みを教えてくれるの、珍しいね。少し嬉しい」
「案内してくれんだ。必要な情報だろ?」
「そうだねえ。リキュールがダメなら、夜パフェのお店に誘うよ」
餡で和花が作られているんだよと続く言葉に「ほう」と興味を惹かれ、三毒は深い緑色の氷を口へと運んだのだった。