PandoraPartyProject

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ファイナル・オペレーション

登場人物一覧

マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め

 あの戦いからはや一年と少し――。
 あの、「本当にこれは練達のためなのか?」と本気で疑った戦いから、もうずいぶんとたったものだ。
 終わって振り返ってみれば、あれもいい思い出になる。
「わけがあるか」
 べち、と地面に転がった、無駄に白濁したスライムを踏み潰した。無駄に白濁しているので、無駄に白濁した液体がヒールにへばりつく。臭気に、心底いやそうな顔をする女=マニエラ・マギサ・メーヴィン。
 マニエラは、モダン和チャイナ服を着せられていた。もうわけがわからない。先日はアオザイを着せられていたような気がする。その前は黒ビキニだったので、これはまだマシなんじゃないか、という気持ちすらしてきた。もちろんマシではない。
「お前との付き合いも長いものだ」
 そう嘆息する。耳朶にはめ込まれたイヤホン・マイクをトントンと叩くと、スピーカーから男の声が漏れた。
『かれこれ数十件のミッションに参加いただいていますからね』
「ああ。報告書では見せられないようなあれやこれやをな。おかげさまで随分と羞恥耐性がついたような気がする」
『おや、恥ずかしがるあなたはとてもかわいらしいのに』
「言っていろ」
 ふん、と鼻を鳴らす。「それで」とマニエラは息を吸い込んで、スライムのえずくような臭気にうんざりして息を吐き出した。
「次は何だ」
『もう流石になれたようですね』
「どれだけの付き合いだと思っている。一年と少し。さっきも言ったが、あれやこれやとやったもんだ。ヨゴレ仕事をな!」
『まるで裏世界の住人のようですね』
「もっとかっこいい仕事で言いたいセリフだったよ」
 工場の跡地でのミッションだったから、捨てられていたウェスでヒールの白濁したスライムの破片を拭い去って、放り捨てる。今回のミッションは、モダン和チャイナ服じゃないと遭遇できない臭いスライムの退治だったわけで、今まさにそれを終えたところである。
「次は何だ? スクール水着か? いや、これは16番目の現場で着たな。
 新婚さんセット。これは37番目の現場だ。意外に幼稚園スモックは速めで、5番目の現場だった。あ~~そうそう、赤ちゃんコスプレもしたなぁ53番目の現場で! それから――」
『そんな性癖を次々暴露なさらなくても』
「性癖じゃねぇんだよ着せられたんだよ!!」
 がぁ、と吠える。この通話の相手――Aと名乗る男が持ってくる仕事は、どれも『コスプレ衣装を気ながら夜妖を倒す』という妙な仕事ばかりだ。その仕事遍歴は、先ほどのマニエラの発言からどんなものか想像がつくだろう。想像通りの仕事である。
『まぁ、ご安心ください。
 次が最後の現場です』
「最後だと?」
『ええ、そうです。
 お渡ししたトランクの中にも、最後の衣装が入っているはずです。
 それを着て、向かっていただきたいのです。最後の現場へ。そして』
 これで、貴方とお話しするのも最後になるでしょうね。
 そう、Aは言った。

 再現性東京に存在する、とある高層ビル。再現性東京でも、不夜城のごとき『大都会』を再現したこのエリアは、様々な人間の感情の渦巻く、カオスの入り混じったエリアでもある。必然、夜妖のような存在もまた引き寄せられるように集まり、日夜闇の始末人が跋扈する――。
「普通じゃない?」
 と、マニエラが言った。
 夜、ビルの屋上である。人工の夜風にあたりながら、人工のムーン・ライトを浴びて、マニエラはその裸体を惜しげもなくさらしていた。
 いや、裸体ではなかった。よく見てみると、なるほど、彼女の体の線をこれでもかと強調せんばかりの、非常に薄い素材でできた黒いボディ・スーツを着ている。暗がりでは裸に見えてしまうのも仕方あるまい。
「普通じゃない?」
 マニエラがそういった。はっきり言えば普通ではない。こんなもん、体の線がぴっちり出ているわけで、下手したら下着より恥ずかしい。だが、これまでのもっとやべー奴に慣れ切ったマニエラの感覚はマヒしていた。
「ほら……スパイっぽいし……」
『そうですか。
 こんな話があります。
 金魚を入れた水槽の温度を、少しずつ、金魚の体になれさせながら上げていくのです。
 そうすると、本来生息できない温度になっても金魚が生存するという』
「お前の言いたいことはよくわかったよ。お前が私をどう思っているのかもな」
 ぎり、と奥歯をかみしめた。
「さておき、今回のミッションは?」
『単純ですよ、ビルに現れた夜妖を倒すのです。触手の』
「普通だな」
 すっかりやべー奴に慣れ切ったマニエラには、これくらい普通に思えていた。もう、金魚の周辺の水温は極限まで上がっているのだ。

「んっ……!」
 その数分後、マニエラはビルの一室で触手に絡まれていた。ぬるぬるとしたそれが、マニエラの体を這いまわる。ぴったりとしたボディスーツは、服の役目などは果たさず、ダイレクトにその肌に、触手の粘液と臭い、そそて生暖かさを感じさせるようであった。
『即落ち2コマですか』
「やめろやめろ!」
 マニエラが叫ぶのへ、触手がその口をふさごうと、悪臭の漂うそれを突っ込んだ。いや、つっこまれたらまずい。絵的に。これ以上が限界だろう。いろいろなものの。というわけで、突っ込まれてはいけない。
 とっさに小さな結界をはって、その触手を受け止めた。まともに臭いをかいでは頭がおかしくなりそうだったので、結界をもう一枚展開、スライドさせる要領で切断させた。
「まぁ、いいさ。これが最後なら、少しくらいのサービスシーンだったと思ってやる!」
 ぱちん、と指を鳴らすと、無数の板状の結界が展開される。これを応用すれば、すなわち刃物を用いるのと同じこと。展開した結界がスライドするや、マニエラの体を這いずり回っていた触手が、次々と切断された。
「まったく。全然普通ではない。数分前の私に言ってやりたい」
『油断はされませんように』
「言われないでもな!」
 ぱちん、と再び指を鳴らす。反応した魔道具が無数の結界を展開し、先ほどと同様に振動・スライド。触手を次々と切断。そのままマニエラが一歩一歩、進んでいく。
「貴様が本体か」
 醜悪な肉の塊のようなそれは、すでに多数の触手を失った肉片に過ぎない。マニエラはもう一度指を鳴らすと、複数の結界を突き刺すように、肉塊にたたきつけた。ぎゅう、と声を上げて、夜妖が絶命する。
「……最後に思った以上に、なんかそれっぽいのが出てきたな」
『ええ。
 それは『夜のビル街に忍び込んだぴっちりスーツの女スパイを触手で辱めたい夜妖』。
 それっぽいのも当然でしょう』
「……いや、もうツッコまないが」
 はぁ、とため息をつく。べたべたとしたボディスーツが気持ち悪い。
「いつも通り、ホテルは予約してあるんだろうな」
『いつもどおり。そこでお着替えもどうぞ。裏口から入れます。
 ……このやり取りも、最後ですが』
「そうなるな」
 そう考えてみれば、少しは名残惜しくはなるというものだ。うそだ。ならない。
「せいせいする」
『でしょうね。
 報酬は、ホテルのベッドのトランクの中に。
 これまでありがとうございました、マニエラ様』
 ぶつり、と音が途切れた。
 突然現れたAは、現れたときと同じように、突然に接触を断っていた。
「ふん――」
 マニエラが鼻を鳴らして見せた。この一年と少し、与えられたミッションは――。
「つまらなくは、なかったさ」
 そういって、少しだけ笑った。

  • ファイナル・オペレーション完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別SS
  • 納品日2024年04月15日
  • ・マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906
    ※ おまけSS『その後』付き

おまけSS『その後』

 裏口からホテルに入る。当然のように通された一室のベッドの上には、大きなトランクが置かれていた。
 ああ、これで終わりか、と思えば、何とも奇妙な感覚が胸に浮かぶ。
 好ましくはない。
 まぁ、つまらなくはなかった。
 そういうもの。
「さて、なにをくれるものやら」
 マニエラがトランクを開けると、そこには、



 たくさんのコスプレ衣装が!!!



 ぶつり、と、近くにあったスピーカーから男の声が聞こえた。
『すみません、マニエラ様。また新しい仕事が入りまして。
 セカンドシーズンと参りましょう』
 そう、当たり前のようにAが言うので、マニエラはトランクの中に入っていた逆バニースーツをベッドにたたきつけて、叫んだ。
「誰がやるか!!!!」

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