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神咒曙光喫茶小噺
登場人物一覧
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今日は何をしようかとログインしたR.O.O。
「…………さい」
「…………、……」
(ん?)
カフェーの多い大通り、そこで何やら少年と青年が会話を交わしていた。少年は嫌そうな表情を隠そうとせず、青年は頬当もあってか感情が見えない。
けれども。
(あの子は困っている、のかな)
ならば助けてあげようかな、なんて思ったのだ。……暇だし。
R.O.Oにおけるアバター制作の見た目年齢の下限は10歳だ。ロードもそうであるし、それよりもかなり低い見目ならば確認しなくとも解るのだが、眼前の相手も同じ年頃の見目で――下限の見目は
けれどロードには、それを見破る
かけているサングラスを、ちょいとずらす。
(――黒と白。
少年は黒で、青年は白。黒がPCで、白がNPCだ。ロードの
どうしようかと少しだけ考えたロードは
『ねえ、君。助けが必要?』
少年が周囲へ視線を向ける。
ひらりとロードが手を振って見せれば、瞳をぱちりと見開いた少年が大きく手を振り返してきた。
「あ! こっちこっち、こっちです!」
さもはじめから待ち合わせをしていたかのように声を張り上げて少年はロードを呼び、ロードは呼ばれるままに近寄っていく。
「ほら、待ち合わせの相手が来ました! 怪しいことなんてしていないですよね? おにいさんはとっとと仕事に戻って下さい。税金泥棒って言われますよ……っていうか僕が吹聴します!」
「どうしたの?」
ロードが近寄る間にも少年は青年へと眉を釣り上げている。まるで威嚇している子猫のようだと思いながらも、ロードは知人の素振りで少年へと声をかけた。
近くに寄ってみれば、一目で解る。少年は神光の
何でも無いですよとロードへと応じたスイは「では!」と白服の青年へ告げると、ロードの手を引いて近くの喫茶店へと入っていった。
「ロードくんって呼んでも良いですか?」
迷惑をかけたお礼に何でも奢るので好きなものを頼んでくださいとメニューを開いたスイが、喫茶店の奥の席でそう告げた。
「いいよ。俺はスイって呼ぶね」
「ふふ」
「どうしたの?」
「同じ年頃の子に会うことが少ないので、少し嬉しくて」
そうなんだと応じたロードの注文はスイと同じもの。この店の人気はと教えてくれたメニューがプリン・ア・ラ・モードとクリームソーダで、ロードも好きなものだったからだ。
暫く待って運ばれてきたプリンは、一本足の横長の硝子の器にふんわりとした生クリームと季節の果実たちとお洒落して。そして器とクリームを白鳥に見立ててシュー生地で作られたスワンの首と、銀色のアラザンで飾られていた。クリームソーダは濃い緑色の炭酸水の上に白いアイスクリンとさくらんぼがぷかり。どちらも美味しそうで、サングラス越しに見るには勿体無いとロードはサングラスをずらした。
「あ」
スイが唐突に声を上げ、店内を見る。
「どうしたの?」
「犯人がいます」
「犯人? ……何の? 追っている事件?」
「わかりません」
ロードは首を傾げるが、スイは至って真剣な表情だ。
「僕のアクセスファンタズムは『犯人が解る』だけなんです」
犯人が解る。故に名探偵と紙面を騒がせる。けれどもその犯人が何の犯人なのかは解らない。スイの視界には唐突に『コイツが犯人!』とか『コイツコイツ!』みたいな付箋が現れるだけなのだ。
「見えるだけって、本当に困ります」
「わかるよ……」
ロードも自身のアクセスファンタズムの話をした。
ふたりとも、『見える』アクセスファンタズムで、アバターの見目も近く、そして甘味好き。
「僕たち良いお友達になれそうですね!」
「もう友達じゃない?」
「ふふ、そうですね!」
笑い合い、ストローへと口を寄せる。
しゅわしゅわ弾ける炭酸は青春の味のようで。
こんなひとときも、悪くない。