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キラキラとワクワクの価値

登場人物一覧

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸

 自室で大きな図鑑を広げて、好きなページを何度も読む。何でもないような穏やかな時間が、ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は意外と好きであった。
 ほぼ片目の視力のみでページ内の画像や文字を読むので、少々姿勢は悪くなる。首も必然的に見える側のほうに傾けてしまうし、そうなると夢中になってしまった先で脳が欲してくるのは、糖分であった。

「……あれ。あれだけ買い溜めしてあったはずなのに……」
 
 ページに視線を置いたままで、自由が効く左手を動かし菓子を摘まもうとしていたランドウェラが、ぽそりとそんな独り言を漏らして表情を難しいものへと変化させた。
 眉根は寄り、むむ、と口をへの字に曲げて何とも悩ましげなそれである。
 彼が指先に求めていた菓子が――大切に大切に食べている『こんぺいとう』が残り少なくなり、そして瓶のストックも切れかかっていると判明したのだ。
 美しい瓶に詰め込まれた色とりどりの金平糖は、彼が『こちら側』へと来る時に手にしていたものだった。
 一粒一粒にわずかな違いがあり、モノに例えるならば曇りガラスのようだ。中には味が違う種類などもあり、尖った小さなビー玉とも言えるそれは、まるで宝箱を開けた時のような、『ワクワク』が詰まっているのだ。

 ランドウェラはその金平糖を、殊の外に大事にしていた。
 一番最初のモノは数年が経過しているためにさすがに食べきってしまったのだが、それでもこちらで売っている店を何とか探し出して、そこで買えるだけを買い込んだ。空いた瓶は棚の上に並んでいる。
 一瓶を必ず持ち歩いているので、行く先々で知り合った人や優しくしてくれた人に『こんぺいとう食べる?』と問いかけ、願った人にはおすそ分けなどもしていた。それを幾度か繰り返すうちに、たくさんあると思っていたストックが減ってしまっていたようだ。
 いつかの子供たちと交換した『琥珀糖』も甘くてもちろん好きだが、やはりランドウェラにとっての最高は『こんぺいとう』であるのだ。

「う~ん、次は思い切って箱買いでもしちゃおうか……あのお店、そんなに在庫あったかな……」

 そうは思いつつも、ストックは大事なのだ。
 店主に無理を言ってでも、たくさん用意してもらうしかない。

 ――甘いものは気持ちを楽にしてくれる。
 『幸せ』で『楽しい』と感じられるので、彼はその味も含めて金平糖を気に入っているのだ。
 腰に佩いた『刀』と、和菓子の『こんぺいとう』。どちらもランドウェラにとっては大切なものであり、それはある種の執着とも言えた。
 傍に置いておきたいからと常に一緒に居るし、傷つけられたり失ってしまうことなど考えられない。だから例え装いが変わってしまっても、『彼ら』とランドウェラとは一心同体のようなものでもあるのだ。

「よし、明日にでもさっそくお店に行こう……いや、今日中に連絡したほうがいいかな」

 右手のわずかな力を入れて押さえていた図鑑のページは、パラパラ……と音を立てた後に空気を押し出して閉じていった。
 その光景を紅い左目のみで捉えつつ、ランドウェラは決意の言葉を空気に乗せる。数秒後には溶けて消えていくだけの響きであったが、音にするのは大事なことだ。
 彼の執着は他の人にとっては些細なことなのかもしれない。菓子ごときで大袈裟だと思われることもあるかもしれない。

 ――それでも彼にとっては、大切なものであり何にも代えがたい『宝物』でもあるのだ。

 カランコロン、と、音が鳴った。
 残り数個となった金平糖たちが、瓶の中で転がった音である。それがまるで『さびしいよ』と訴えかけてきたように思えて、ランドウェラの表情はまたもや曇った。
 不思議なもので、そこから連なっていくものは『不安』であった。一瞬で広がる喜びとは違い、不安はじわじわと心を侵蝕していく。やはりそれはあまり気持ちの良いものではなく、この空間がもし戦いの場であれば、隙を生んでしまい不利に繋がっていただろう。
 その不安を解消するためにも、やはり金平糖は必要だと感じるのだ。
 
「……うん。大丈夫、さびしくないよ。すぐにまた賑やかになるはずだから」

 瓶を指で撫でつつ、ぽつり、と呟いた。
 残りの金平糖たちへの言葉であったのだが、もしかすると自身への言い聞かせであったのかもしれない。
 それを自覚してしまったランドウェラは、直後に小さく苦笑して、丸くなっていた背筋を思い切り伸ばしたのであった。

  • キラキラとワクワクの価値完了
  • NM名涼月青
  • 種別SS
  • 納品日2024年04月02日
  • ・ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788
    ※ おまけSS『価値の先は』付き

おまけSS『価値の先は』

「えぇ、金平糖の瓶を50個!? まさか商売でも始める気かい?」
「ううん、僕が食べるため」
「……はぁ。あんた、金平糖以外はちゃんと食べているのかい? まぁうちとしては売れてくれるのも再入荷を希望してくれるのもありがたいけどね……」

 ランドウェラが行きつけとしている雑貨屋の店主との会話であった。
 とりあえずはと店内に並んでいる『こんぺいとう』を全て買った後、またすぐに入れてほしいと頼んだのである。

「まぁいいさ。今度来るまでにめいっぱい入荷しておくよ。その代わり、ちゃんとウチで買っておくれね?」
「うん、ありがとう」

 ランドウェラはそう言いながら、こんぺいとうが詰め込まれた紙袋を手に店主へと頭を下げた。割と頻繁に通っているせいもあり、あんな会話をしつつも店主とは良好な中を保っているらしい。

「……ふふ、これでストック切れの心配はしばらく無い……かな。食べきらないように気を付けないと……」

 彼はそんな言葉を小さく漏らしつつ帰路へと足を向けた。
 その先で出会う人に『こんぺいとう食べる?』と声をかけてしまい、袋の中の瓶が一つ、二つと減っていくのはまた別の話である。

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