PandoraPartyProject

SS詳細

そして奇跡は闇を包む

登場人物一覧

ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
月夜の魔法使い
ジョシュア・セス・セルウィンの関係者
→ イラスト
ジョシュア・セス・セルウィンの関係者
→ イラスト


――数日前。

『……リューンを喪った傷。癒やせなければ、貴方はまた友達を喪う事になるわ。
 貴方のその願いが絶望になるかどうか……きっとが見届けてあげる』

 息苦しさを覚える結界が解かれ、溶け行くキーラはジョシュアにそう言い残して消えていった。

 何も出来ないお人形。触れたもの全てを傷つける毒の精霊種――バグ・ホールと共に現れた彼女は、まるでジョシュアを試すようだった。
 心を抉る言葉を投げつけて、昔のように全てを諦め、みじめに膝を折るように。呪われた生を受けた者には、何処にも居場所など無いのだと。

 その真意を深く考えるよりも先に、カリメロとその警護団の仲間たちから拐われたゼノンとニナの居場所が判明したと情報がギルドへ届く。
 その場所こそ、ジョシュアとキーラ、そしてクロンデール。3人の運命が絡み合った思い出の場所――集落の跡地だった。

 やはり、とその話を聞いてクロンデールはジョシュアへ声をかける。

「キーラ様が俺達の集落跡自ら滅ぼした地にいるのは、やはり彼女の心がそこに囚われているからではないでしょうか」

 キーラの愛しい人――リュネール。その清らかな命は、身勝手な集落の住人達の策によって葬られた。
 彼女の根幹が闇の精霊種であっても、その性質が元より悪とは限らない。きっとあの悲しみを独り背負い続けているから、全てが歪んでしまったのだろう。

「行きましょう、クロンデール様。そして全てを終わらせましょう! ゼノン様とニナ様が心配です。
 何より、孤独に囚われ続けているキーラ様の心をお救いしなければ」
「でも、まだ傷が癒えていないんじゃ……」
「身体の痛みより、心の痛みのほうがずっと辛い。僕はそれを知っています」

 助けたかった。大事な友達だったから。ゼノンもニナも、敵対しているキーラさえも。
 重症の身体を引きずるジョシュアの熱意にうたれ、クロンデールも同行を決める。目指す場所は未だ、痛みの記憶が残る場所――
 幸いな事に、味方はクロンデール一人ではなかった。

「居場所を突き止めただけじゃ足りない。うちの副長を助けてやってくれ」

 道中、闇の獣の牽制をカリメロ警護団がかって出た。おかげで疲労はさほど無い。ほんの少し絶望の中に希望の光がさしてくる。

――が、しかし。光が強さを増すほどに闇もまた濃くなるものだ。

 村の跡地に展開された闇の帳。その中へ踏み込んだ瞬間、発砲音が響き渡る。咄嗟に上体を反らして急所を避けたジョシュア。その右頬に一筋の切り傷が滲む。

「外したか」

 聞こえた声は、身を案じていた筈の相手のものだ。

「ゼノン…様……?」

 幻ではない。偽物でもない。
 冷たい銃口が向けられ、スコープはジョシュアの頭を捉えている。魔術で操られている訳でもなく、ゼノンの目は真剣だ。

「僕には戦う理由がありません」
「そうだな。だが俺にはある」
「引くつもりは無いのですね」
「くどい」

 引き金に指がかかる。それと同時にジョシュアは地を蹴った。闇の帳が落ちた世界に神秘の光弾が乱れ飛ぶ。爆発と轟音の中、二人の激突を見上げるキーラは狼狽えている様だった。

(本当におせっかいな奴だわ。ゼノン…そんな事をしても、私がお人形さんジョセで遊ぶ事は変わらないのに!)

 込み上げる怒りの感情に身を任せ、キーラは影から闇の獣を引きずり出す。唸り声を上げる獣達がジョシュアへ横合いから迫り、邪悪なあぎとを見せつける様に大口を開けた。
――その瞬間、一陣の風が吹き抜ける。ジョシュアは咄嗟に獣の口めがけて雷撃を撃ち、その風に身を任せた。
 風はジョシュアを包み込み、ゼノンが放った銃弾を跳ね除ける。

「大丈夫ですか、ジョシュアさん!」
「はい、ありがとうございますクロンデール様。ただ、ちょっと……」

 首を傾げるクロンデールに、ジョシュアは少し照れ君に言う。

「降ろしてもらっても宜しいでしょうか」
「! すみません、咄嗟の事で!」

 そこでようやく、クロンデールはジョシュアをお姫様抱っこしたまま空を飛んでいる事に気づいた。
 すぐに着地し、互いに背中を庇い合うように得物を構える。その姿を視界に収めたまま、ゼノンは銃を構えてキーラに問うた。

「どうする。あのクロンデールとかいう精霊種、素早くて厄介だぞ」
「……」
「キーラ」
「気安く呼ばないで。私は貴方なんか仲間だと思ってないんだから」

 苛立ち混じりのキーラの声に、ゼノンはただ一言「そうか」と言って笑った。二人のやり取りを見てジョシュアは目を見開く。
 他人を欺くための偽物いつわりの自分ではなく、棘のある己の本性をさらけ出してゼノンにぶつけている。にも関わらず、彼は傷つく様子もない。

「ゼノン様、もしかして貴方は……」
「お前が教えてくれた事だ、ジョシュア」

 静かに告げるゼノンの瞳は澄んでいた。はっと息をのみ、ジョシュアは身構える。
 仲間の為に空気を読みすぎるゼノンは、合理的だからという理由で自己犠牲に走りがちだ。そんな彼へジョシュアは仲間の優しさと信頼を教え続けた。

――見ての通り。完調したっつってるのに、部下達がどうにも休ませたがりで
――それは皆様がゼノン様を大切にしているからですよ

(もしかして、ゼノン様はキーラ様が独りにならないように?)

「クロンデール様。ゼノン様は僕の癖を見抜いた上で立ち回っています。ですから」
「分かりました。俺がなんとかします」
「あら。名前すら不完全な精霊種が随分と威勢よく言いきるのね」
「……っ」

 キーラの言葉にクロンデールは俯いた。しかしすぐに剣の柄を握り直し、己のやるべき事を見据える。

「確かに今の俺にルシカはありません。キーラさんに奪われたきり不完全です。それでも……ジョシュア様と、約束しましたから!!」

――キーラ様、貴方には心を照らすものがありますか? もし無いのなら……いつか僕とクロンデール様が、照らしてみせます

 式場でジョシュアがキーラにかけた優しい言葉を、嘘にしたくはなかった。恐怖よりも信じる心を奮い立たせ、キーラを守るゼノンの方へ果敢に切りかかっていく。熱のこもった一撃をライフルの側面で受け止め、ゼノンが下がった。

「――ジョセの為だっていうの?」

 ぽつりと零したのはキーラだった。ジョシュアがここに来る数日前。人質ゼノンは、あまりにもだった。

「つまり俺は、ジョシュアを不幸にする為の人質か。操って手駒にでもする気か?」
「あら、察しのいい玩具は嫌いじゃないわ」
「やめておけ。今のジョシュアには洗脳された一般人じゃ太刀打ちできない。すぐ不殺されて終わりだ。
 洗脳そんなことせずとも俺はアンタの為に戦うし」
「何ですって?」

 ジョシュアとキーラのやり取りを見ていて、ゼノンは彼がキーラへ恐怖を感じてこそすれ、敵意がある様には見えなかった。
 余計なお世話と言われても、他人の為に心を痛めて寄り添おうとしてくれるジョシュアらしい。そう語るゼノンの目元が柔らかくなり、キーラの心を一層かき乱す。

「誰かが近寄ろうとしても、アンタきっと逃げるだろ? でも、人質であるうちは側に置き続けなけりゃいけない」
「その隙に友情ゴッコでもして私の気を引こうって訳?」
「ごっこじゃない。ジョシュアの友達は俺の友達だ」
「ッ……ふざけないで!」

 キーラの声が低くなる。向ける殺意の眼差しは氷の手で心臓を掴むような威圧感を孕んでいたが、ゼノンは一歩も退かないかった。
 どんなに嫌味を言おうと声をかけ、不快になる前に距離を置く。空気を読んで付き合うゼノンに、キーラは悪態をつきながらも何故か手出しはできずにいた。
 この優しい時間さえジョシュアから与えられた物だと想うと、掌の上で転がされているようで。それでも心は少しずつ絆されて――

「ジョセ。貴方がどんな魔法で周りの人を惑わせても、私は違うわ」
「いったい何の事で――っ!」

 黒き魔弾が乱れ飛び、ジョシュアへと降り注ぐ。息もつかせぬ散弾の雨を避けきる事は叶わず、急所を避けて前進するのが精一杯だ。
 聖弓の矢へ残忍なる楽団の旋律ジャミル・タクティールを纏い、対抗すべく撃ち放つ。牽制の隙に小さな身体の機動力を活かし、ジョシュアはキーラへ間合いを詰めた。肩を掴むと揺さぶり、泣きそうになるのを堪えて訴える。

「キーラ様! もう止めましょう、こんな事は…!」
「なぜ止めないか分からないの? ジョセがそうやって、真っ直ぐ私を見つめるからよ」

 パチン、とキーラが指を弾けば、闇の中から獣の呻き声が響く。彼女には未だ黒き獣やつらを呼び出す余力があるのだ。
 帳の中において、闇の精霊種たる彼女の力は文字通り底が知れない。ゾク――とジョシュアの背に怖気が走る。

――"これ"をまともに食らったら、死ぬ。

「そう、その顔よ。私のお人形さんジョセ
「ぅ、ぁ……」

 熱が奪われていくように身体が冷えはじめた。震えからガチガチと歯が鳴り、怯えに涙を滲ませるジョシュアの頬をキーラは撫でる。
 それは愛情を注ぐようにも、呪いを刻む様にも見えた。邪悪な微笑みはジョシュアの中の弱さを引きずり出そうと醜悪に蠢く。

「もっと苦しみなさい。そして絶望なさい。貴方の笑顔なんか見たくもない」
「……それがキーラ様の本心なんですね」

 絞り出すような声だった。目頭が熱くなり、ジョシュアの目元から大粒の涙が溢れる。

「確かに僕は毒の精霊種で……本来なら、人と触れ合っていい存在ではないのかもしれません。けれど、そんな僕にも仲間が出来ました。
 ローレットの皆様、ゼノン様やニーナ様…クロンデール様だって、僕の生い立ちに寄り添い、今は力を貸してくださっています。
 ですからキーラ様。僕は貴方とやり直したい」

 たとえお人形さんジョセと弄ばれる存在でしかなくても、キーラの心に寄り添いたい。恐怖をぐっとのみ込んで、ジョシュアはふわりと微笑んでみせた。
 それはまるで月明かりの様な優しさを帯びていて、キーラの心の奥底にあるリューンの笑顔たいせつなものと重なって――

「少しずつでいい。貴方の孤独を、その苦しみを、僕にも分けてください」
「ッ――で私に優しくしないで。私とリューンの間に入ってこないで!!」

 胸の痛みを吐き出す様に、キーラは吠えた。ジョシュアの髪をぐいと引っ張り上げ――その時の彼女は余裕を無くしを忘れていた。

「ぁッ、ぅ…!!」
「キーラ様!!」

 傷だらけのジョシュアと揉み合えば、彼が望まずとも毒を含んだ血液に触れる。焼け付くような痛みに獣のコントロールを失うキーラ。控えていた闇の獣達がジョシュアへ一斉に飛びかかる!

(このままじゃ、僕もキーラ様も……!)

 とっさにキーラを庇う姿勢をとるジョシュア。しかし、その身へ獣の牙は届かない。代わりに穿たれたナニカはぐにゃりと大きく身体を歪ませ、獣達を包みこんだ。

『じょせ、いじめる ゆるさない!』
「……!?」

 よくよく見れば、それは帳の闇で変色してこそいるものの、ジョシュアのよく知る一匹だった。スライムのニナが獣達の動きを止めている。
――すかさずジョシュアは弓を構えた。大事な友達を傷つけぬ様に、寸分狂わず正確に。放った一矢は強き死神の気配ラフィング・ピリオドを纏い、獣をまとめて撃ち祓う!
 霧散していく闇。帳が解けていくと同時、ゼノンがどうと地面に転がる。

「うちのお嬢様キーラの負けだ。行けよ」

 突然の敗北宣言に驚いたクロンデールも、すぐに事態を確認するためジョシュアとキーラの方へ駆け出した。
 跡地の中でも一番開けた場所。かつて村の全てを愛し、儚く散ったリューネルの住処。その場所へ辿り着いた時、クロンデールは一瞬、我を忘れて息をのんだ。

「キーラ様……キーラ様ぁ…!」

 嗚咽が聞こえる。
 満月を背にして彼はただ泣いていた。髪を蠱惑的な紫色に染め上げたジョシュア。その膝の上には眠る様にキーラが力なく眠っている。
 その周囲には見た事のない花が咲いていた。まるで二人の悲劇を分かち合う様に寄り添う花は風に揺れ、月光を反射する様にきらきらと輝く。

(間に合わなかった……)

 クロンデールはその場に膝をつく。ジョシュアにどう声をかけるべきか悩み、唇を開く――
 ほぼ同時、月光の様な温かい光パンドラのキセキが集落へ降る。

――そう。ジョシュアはまだ、諦めていなかった。

おまけSS『月明かりと闇の果て』


――ねぇ、キーラ。聞いてる?

 懐かしい声に意識を揺り起こされ、キーラの意識は浮上した。
 きらきらと柔らかな月明かりが差し込む窓辺。テーブルを挟んでこちらへ微笑んで来るのは、片時も忘れたことのない愛しい人。
 リュネール・ナハト・プリエの姿がそこにあった。

「リューン……なの…?」

――そうだよ。他の人が来た方がよかった?

「いいえ、そんな事はないわ。リューンにずっと会いたかった!
 私の前からいなくなってから、もしかしたらまた何処かで会えるんじゃないかって……」

 泣き出すキーラを前にして、リューネルは少し困ったように笑って、彼女の目元へ指を伸ばした。優しく涙を掬い上げ、拭ってやる。
 声も仕草も偽りなく本物で、キーラはいっそう目頭が熱くなった。

「これから私達、ずっと一緒にいられるのよね? そうだと言ってよ。お願い……」

――ずるいぞ。私がそう言えないからって先回りする様な事を言って。

「…………。……じゃあ…」

――私は君を"見送り"に来たんだ。本当は分かってるんだろう?

 窓の外の景観が変わり、現世が映し出された。力無く倒れたキーラを抱き上げて泣き続けるジョシュアの姿は痛々しく、その周囲には奇跡いのちを願う者の力が満ちている。

「嫌よ、私戻りたくないわ。貴方のいない世界なんて、いらない。生き続ける意味なんて無いもの」

――じゃあ聞くけど、私が死んだと分かった後も生きていたのはどうして?

「……っ、それは…」

 キーラ自身も分かっていた事だった。愛しいリューネルが消えた後、拾ったジョシュアは間違いなく月光の祝福リューネルのちからを与えられていて。彼ならばこの孤独という苦しみから己を助け出してくれるかもしれない――そう期待する反面、なぜその祝福が己のものでは無かったのかと嫉妬し、憎悪を抱き続けた。

――キーラ。人は独りだけじゃ生きていけないんだよ。けれど私は思っていたより先に死んでしまったから。
――君が独りにならないように、ジョセかれが目覚める一雫に想いを託したんだ。

 闇の精霊種の一生は常に闇と共にある。その道行きで、君が迷ってしまわないように――月明かりが、旅路を照らし出す様に。

「……ぁ…」

――ねぇ、キーラ。君は「生き続ける意味なんてない」と言ったけど。私のぶんまで生きて欲しいな。
――闇はどこにでも降りていけるだろう? 私の代わりに、私の知らない世界を沢山みてきて欲しいんだ。

 一緒に眠るのは、それからでもきっと遅くはないから。
 申し訳なさそうに笑うリューネルの笑顔に、キーラはひとつ答えを見出した。

「ずるい。リューンっていつもそうよね。達観してて私を振り回して……」

――ごめんって。でもそれはキーラが可愛いからだよ?

「知ってるわよ、ばか」

 ずっと一緒にいたかった。この場所が永遠でない事も分かっていた。
 きっとこの夜は、パンドラの祝福がもたらした一欠片の奇跡。その幻を見せてくれたのは、他でもないジョシュアなのだとキーラは少し微笑んで――


「キーラ様…キーラ様ぁ……」
「うるさいわよ」

 返事は唐突に返ってきた。目を見開くジョシュアの視界はまだ涙で歪んでいたが、キーラがこちらを見て微笑んでいる様に見えて、ますます頭が混乱する。

「よかった、生きてらっしゃったのですね! 僕、キーラ様を毒で殺してしまったと……」
「貴方の事を誰よりも知ってる私が、初歩的な対策もしないで戦うと思う?」
「ごもっとも、です」

 へにゃりと笑うジョシュアから身を離し、キーラはすっと立ち上がる。気付けば己が負った傷は擦り傷ひとつ見当たらない。
 治っているのはまさに、ジョシュアの秘めたる力という訳か。
 己の手を見るキーラへ、足音がひとつ近づいてくる。

「よかった、ご無事だったんですね!」
「……」
「キーラ様。これからは俺が傍にいます。もう独りにしませんから」
「…………」
「あの……何か喋っていただけないと、俺としては不安なんですが」

 速攻で断られる事は覚悟していたが、だんまりになるのは予想外で、クロンデールはあわあわしながらキーラの様子を伺う。

「静かにして。今、思い出してるから」
「え? はい?」
「……そうだわ。貴方の名前、よね」

 キーラがその名を呼んだ瞬間、クロンデールの身体が淡く発光をはじめた。みるみるうちに力が漲り――失った名が戻ってきたと自覚する。

「ありがとうございます、キーラ様!」
「奪われてたのに礼を言うなんて、貴方ちょっと変ね」
「へん!?」
「せいぜいジョセに感謝しなさい。これは気まぐれ。……次は奪われないよう気をつける事ね」

 最後にキーラが向かったのは、大の字で寝転がっているゼノンの元だった。容赦なく横合いからブーツで蹴りを入れる。

「痛って!!」
「いつまで気絶したフリしてるのよ。バレバレ」
「アンタが負けた時点でこっちは勝ち目がなかっただろ」

 ゼノンが文句を言ってもキーラはそっぽを向いたきりだ。しかし憑き物が落ちたような接し方に、ゼノンの声も少し和らぐ。

「その様子だと、もう大丈夫そうだな」
「何のことかしら。あーあ、つまらないわ。ジョセはお人形遊びができないぐらい強くなってしまったし」
「す、すみません……」
「いちいち謝るのをやめなさい。私、そういうの嫌い」
「えぇぇ、す、すみま……えっと…!」

 あわあわするジョシュアを見て、キーラはクスリと口元に手を当て、花の様に笑った。
 命がけの戦いの後の和やかな一幕。それを見下ろす満月も、今宵はいっそう優しげで。

(ねぇ、リューン。これでよかったのかしら。私まだ分からないわ)

 見上げた月明かりへキーラは問う。

(だからほんの少しだけ待っていて。お土産話の準備をするから)

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